推理小説読書日記(2007/10)
2007年10月05日
死の舞踏<ヘレン・マクロイ>
この作者の処女作という事です、そして初期は本格味が強いといわれています。いかにも本格らしい謎の設定から 始まりますが、そこには化学的・医学的な知識が大きく関連する謎が大きな位置を占めています。さて、発表年代を 考慮しても妥当なものでしょうか?。これが大きな問題と感じます。ところが、この作者の他の作品にも見られる この問題について、解説者は全く無視で通り過ぎる様です。何も知らないのか、色々と調べた結果で時代的にやむを えないと判断して触れないのか(まさか)、代表作との一部の評判に流されているのか?。初訳作品とはいえ、問題点 はチェックしてその内容と感想を述べるべきと思います。
2007年10月05日
雲の上の青い空<青井夏海>
題して「ハートウォーミング・ミステリ」の日常の謎と帯にあります。日常の謎派とよばれるグループが存在する ので実にややこしい表現です。「日常の謎派」は小説に占める謎の部分が少ない特徴がありますが、この作者は背景 を日常的な設定が多いですが謎の比率は軽いか重いかの差はあっても、全体に拡がっていますので謎が軽い本格派と 見るべきでしょう。宅配便の配達担当者の寺坂脩二、元探偵・・が主人公です。この設定は、事件が発生しやすいと いえます。シリーズ化も可能でしょう。しかし、現代社会は世代の違う私にも既に謎になっているようです。事件の 世代を拡げる事で異なる見方・人物を登場させる事で世代ギャップの謎が読者に発生するようです。
2007年10月05日
江戸川乱歩と13の宝石<>
江戸川乱歩は評論家・雑誌「宝石」の編集者としても有名です。そして、その知名度の高さは乱歩の推薦文の有無 が作品に大きな影響を与えるまでになったとされています。特に編集者として、紹介文(ルービック)を書く機会が 多くありました。一部は、何かの形で読めますが大部分は雑誌を読むしかない状態です。ほんアンソロジーでは、作品 と共に、乱歩の推薦文も大きな要素になっています。同時に、作者・作品の評価に乱歩の推薦が影響しているのでは ないかと思える部分もあります。なかなか面白いアンソロジーです。
2007年10月11日
赤い夢の迷宮<勇嶺薫>
ジュブナイル・ミステリ作家「はやみね かおる」の大人の為のミステリとなっています。ペンネームも同じ読みを 漢字に変えています(難読ですが・・)。所が話は子供の学校生活から始まります。いつものパターンと思ってしまうと その後の展開は驚きます。あまりにもあまりな、大がかりなトリックが次第に現れて来ます。伏線と細部の書き込みは 読者層の違いを反映させたものと思います。背景の設定に現実はなれを感じる部分は、子供向けの残渣をみつけたような 気もします。そして、エンディングは・・・題名は・・・・。元元は子供向けでも、本格構成ですので違和感はなく次作 の予告はないが期待しましょう。
2007年10月11日
クイーン警部自身の事件<エラリー・クイーン>
小説家で名探偵のエラリー・クイーンが登場しない、退職した父親のリチャード・クイーンが主人公をつとめる 話です。冒険小説でいえば外伝にあたるイメージです。名探偵がいないと、捜査も警察小説風になりますが、退職後 と言うことで個人捜査になります。そこに登場する、老看護婦ジェシイ・シャーウッド、リチャード以上の行動派 です。推理が精密さにかけるのでかなりあやうい展開と解決になります。そしてエラリーが旅行中でひとりで寂しい 筈のリチャードが最後に・・・。倒叙風の部分も取り入れた、シリーズ作品とは異なるやや異色作品といえるで しょう。
2007年10月11日
不祥事<池井戸潤>
色々な視点から、金融・銀行ミステリを描く作者です。短編集も多いですが、同じ主人公の連作も多いです。背景が 類似しているので、主人公まで同じにして沢山書くとマンネリになりやすいと考えているのか、連作集1冊で、主人公 は変わります。本作では、臨店指導係のコンビ特に狂咲こと花咲舞が活躍します。奥に銀行内の権力者争いを持たせながら 指導に訪れた支店内部やその周辺の事件・事故・腐敗構造と主人公の争いが描かれます。銀行員にも色々な人物が存在し 、対立の中にも腐敗を嫌う人物もいます。色々な人物の中で、色々な内容で展開します。ミステリ的には、個々の短編で 濃さが異なりますが、それは背景を描く事にも重点を置いた結果でしょう。
2007年10月17日
幽霊人命救助隊<高野和明>
時間制限のあるアクション・サスペンスの作品を発表してきた作者です。本作はやや趣が異なります。天国にゆけない 幽霊たちが制限時間内に100名の、人名を救助すれば天国にゆけると神様と約束して地上に降りてきて自殺しそうな 人を見つける装置で捜して、ひたすら助ける話です。広く見れば、前作と同じ設定とも言えますが、扱うのが自殺、救助が 幽霊、方法が架空となるとサスペンス性は希薄です。色々な自殺前の人が登場しますが、いわゆる予想内のストーリー展開 と言えます。結局は自殺願望者の心境をどれだけ描いているかですが、ひたすら人数をこなす設定のために薄味になって しまった感があります。
2007年10月17日
仮面劇場の殺人<ディクスン・カー>
ディクスン・カー的作品といえば、雰囲気は伝わるのではないでしょうか。本格ミステリに必要な要素を全てちりばめた 作品と言えるでしょう。イギリスの作品の背景が演劇、特にシェークスピアの多さはなかなか日本人には理解を 越えています。本作は「ロミオとジュリエット」です。その会場の特別室での不可能犯罪の謎を追いかけます。 ひとつの勘違いが、次々と連鎖して証拠の解釈が違った方向にゆくのは、如何にも本格のテクニックに慣れた作者の 得意の手法と言えるでしょう。類似したジャンルを追求した作品の多い作者ですが、定期的に読むとその本格構成が 丁度良く受け止められる気がします。
2007年10月17日
首鳴き鬼の島<石崎幸二>
表向きの背景は、孤島での嵐の館、そして見立て殺人らしき連続殺人が起きます。話の構成も記述者や捜査する人物 がどこか謎を持つ工夫があります。後者は最近の作品に多い趣向です。現実にこの構成も生かされています。 作品は科学捜査のはいらない状況で起こり、進みますが、時間経過後は警察捜査と科学捜査が取り入れられています。 初動捜査では科学捜査をのぞき、最終の捜査段階では科学捜査が大きな部分を占めます。これを、都合主義とみるか 事件の構成として新しく巧妙に書かれているか、どちらと感じるかで評価が分かれるでしょう。個人的には、細部にこだわら なく作者の大がかりな仕掛けをプラスにとらえたいと思います。
2007年10月23日
ハムレット復讐せよ<マイクル・イネス>
この作者は、昔に読んだ作品集と長編のイメージが全く異なるので驚きます。詳しい人に聞くと、初期の作品はその ようなものらしい。中期ぐらいからは、読みやすくなったらしいが、なぜか日本での紹介は初期作品が多かったです。 たぶん昭和中期の評価の影響らしく思いますが、解説なのでいまだに昔の紹介を引きずっているのを見かけます。はっきり 本作は読むのが非常に疲れます。そしてその割にはミステリ部は、少ないです。日本人にはシェークスピアはあまり縁が なく、その蘊蓄を並べても読むのが疲れるだけです。ただこの作者は多作で、まだ日本未紹介の中期以降の作品が多くあり そちらは期待が大きいです。
2007年10月23日
凶鳥の如き忌むもの<三津田信三>
変格探偵小説・怪奇小説作家の東城雅也が興味のあるところを訪ねて事件にあうシリーズです。探偵役の性格的に 怪奇色が強いですが、本格ミステリの形をとっています。ただ、背景や動機・その他に怪奇色の強いトリックが使用 されています。本作は構成的に特徴があり、閉ざされた部落での異常な死?人間消失?の謎を主人公中心に検討する 場面が非常に長いです。いかにも論理的に進みそうですが、なかなかそうともいえません。トリックを思いもしなかった 場合と、私のように最初に思いついたがまさかそれが真相ではないだろうと思った人では、かなり印象は異なるでしょう。 特に本作の読後感はかなり分かれると思います。うっかりほかの人に勧めにくいともいえます。
2007年10月23日
灼熱のテロリズム<ヒュー・ペンテコースト>
かなり前に雑誌で短編を多く読んだ作者です。色々の作品を書いているとのことですが、本作はテロを主題にした サスペンス色の強い作品です。テロを扱うと犯人を追いかける展開になりますが、論理ではなく行動が主体になります。 背後の黒人問題や麻薬組織が絡むのは定番ではあっても、日本人はややハンデがあります。動機は何か、爆発技術はなぜ あるか、なぜ身代金が中途半端なのか。謎はありますが、推理より行動で解決してゆくのは、そのような作品なのでしょう。
2007年10月30日
中村美与子探偵小説選2<中村美与子>
戦前から戦後にかけての作家を中心にした作者別短編集のシリーズの1冊です。はっきり言って、作品のレベルとしては 劣る場合が多いです。これは或る程度予想できることですが、この種の本ではその資料性も問題になります。資料性には、 テキストとしての作品の網羅性と、解説・外題・書誌等があります。シリーズとして沢山出版されていますが、この点では レベルは統一されていないようです。本作品集は、代表作の「聖汗山の悲歌」しか読んでいなかった作者の多面性を知ること が出来てかなり収穫はありました。本作者の位置つけは大きく変わるでしょう。一方、解説的な資料面では非常にものたりない です。新しい情報も、類似名の同一性の確認もなく期待はずれでした。
2007年10月30日
無法地帯<大倉嵩裕>
解説で書かれなくても、題名やらカバー絵やらからは作品内容を予想しにくい作品です。いわく「オタク&ミステリの 決定版」だそうです。世の中には「オタク」と呼ばれるまでのマニアは存在するようです。その人物の職業と対象物とは 関係ないところにこの作品は成立します。この作品でのマニアの対象は、「おまけ」「怪獣グッズ」関連です。テレビで 「XX鑑定団」なるものが登場して、通常はおもちゃで終わるものが、マニアの対象になっていることが知られました。しかし それがどの程度かは普通は想像をこえません。この作品もどこまでが想像かは分かりません。おそるべきはマニア、そして レアアイテムを探すことをはじめると奇妙な話がはじまり、その中にミステリ要素を埋め込むことができます。
2007年10月30日
捕虜収容所の死<マイケル・ギルバート>
初読の作者ですが、映画「大脱走」に不可能犯罪と時間制限サスペンスとスパイ小説要素を加えた珍しい作品になっています。 謎の形は色々ですが沢山含まれています。本格ミステリの愛読者にも十分に楽しめる謎になっています。特に密室状態で 見つかる死体の謎が中心でしょう。伏線が十分にはられていて論理的に推理できるので、真相を聞いてがっかりということは 無いでしょう。
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2007/10に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。