推理小説読書日記(2007/06)
2007年6月02日
密林<鳥飼否宇>
沖縄の森がどの程度の密林か、行った事がなくイメージができません。ただ、この小説の舞台に なる、日本では少ない地域とは感じます。かなり、異様な状況での不思議な話ですがある程度受け入れて しまう魅力はあります。お馴染みの鳶山久志登場であるが、1場面で電話で話する猫田夏海は登場と いえるかどうか。特殊な状況が強調されている訳でないですが、沖縄の持つ問題点に関わっていることも 伝わってきます。ただし本格ミステリであり、環境や色々の問題は全て隠し味となっています。
2007年6月02日
びっこのカナリア<スタンリー・ガードナー>
本国での作品数も、日本への紹介もトップクラスのガードナーです。特に、ペリー・メイスン物は 定番のシリーズです。ただ私個人は、読書数が少なくまだ1桁という寂しさです。マンネリもパターン 化もうらを返せば、安定した内容とレベルの維持ともいえます。それに、むやみに肥大化しない 小説スタイルも個人的には印象が良いです。ある程度の数だけ購入・未読のポケットミステリを読み 始めると、ガードナーとの出会いも増えるでしょう。なにしろ読書数がすくないので、弁護士事務所の イメージがあってが、秘書と二人の活躍も新鮮ともいえます。
2007年6月02日
淀君の謎<戸板康二>
中村雅楽シリーズが復刊されています。1冊だけ残していた未読本を読みました。このシリーズは 本格ミステリとの印象を持たれていますが、初期はそうでも途中からは雅楽が登場する逸話談という べき内容に変わってゆきます。「団十郎切腹事件」は少ない本格ミステリの直木賞受賞作として有名 です。雅楽が歴史の謎を推理するという面では表題の「淀君の謎」も同じです。そして全体的にミステリ 色が弱い作品集では、少ない本格ミステリ的作品です。
2007年6月08日
六つの奇妙なもの<クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ>
日本ではほとんど知られていない作者です。若くして戦死したために作品数も少ないらしいです。 細部に分割すれば、あれかと思う事が多いがストーリーが工夫されており読者に展開も謎も予想も解明 も容易に近づかせないといえます。あえていえば、帯やカバーでの紹介がよけいといえます。知られて いない作者なので仕方はないとは思いますがあらかじめ、道筋を示しています。題名は手がかりを示して いますが、オカルト的な導入・サスペンス的な展開・複数探偵的な進行など本格ミステリを示すものが 隠されています。最後の展開は時々使用されますが、最終の1行はハードボイルドの雰囲気があります
2007年6月08日
少年検閲官<北山猛邦>
人工の建造物の館もののイメージの強い作者ですが、本作は人工の世界といっても架空のパラレルワールド です。ただし、それが主人公の妄想かもしれないというひっかかりを感じさせる書き方になっています。 言葉とは不思議なもので『探偵』という存在が登場しますが、ある存在を示す記号ですがなぜか勝手に 違和感を持って読んでしまいます。色々工夫のある作品ですが、この工夫が欠点にもなっています。何故 この設定にする必要があるのかの必然性が感じられないからです。それが必要かどうかも不明ですが、読み ずらくしているだけに感じてしまう面もあり作中の謎よりも、解けない謎として残ります。
2007年6月08日
魔界病院の怪物<新庄節美>
表紙を開くと、奇妙な名称のあふれている街の地図があります。「ホラータウン」という街は既に 読者をまたしても人工の世界に誘い込みます。不思議な世界での不思議な登場人物(?)が続くと、もう 展開に混乱が起きます。謎は存在しますがその解明よりも、それの恐ろしさ・問題を若年層向けに小説で 訴える作品とのイメージを持ちました。現在はホラーが多く書かれていますが、それが読む人にダイレクト に伝える事はあまり余韻がないとも言えます。意見ユーモアな進行に埋め込まれた本作の方が、むしろ 印象的とも感じます
2007年6月14日
僕と先輩のマジカル・ライフ<はやみねかおる>
青春ミステリというか、子供や学生が主人公の作品を得意としている作者です。あるいは、奇想な展開 の話が得意とも言えます。このような話には、変人か超人か子供が向いているでしょう。本作も舞台は 異常?(幽霊アパート)に住んでいる主人公と、超能力をもつ?友人と謎だらけの先輩という何があっても 不思議がない状況です。最後に謎以外のおちがあるスタイルも、定番です。期待は全く裏切られません。 いかにも幽霊らしきタイトルがついた話の連作ですが、登場人物の成長?が組こまれているのは全体をまとめる 伏線である事は最後に分かります。別に推理する事ではありませんが。
2007年6月14日
死が二人をわかつまで<ディクスン・カー>
昔「毒殺魔」という題で、旧訳があったそうですが勿論はじめて読みます。無理なストーリーではなく この作者としては、ゆったりした地味な展開の話です。しかしそれが逆に、謎を拡げる働きをしており バランスが良い優れた内容と感じます。不可能犯罪に付きものの無理な展開や設定を、ほとんど感じさせません。 作者の長い作家生活に伴う作風の変化とされていますが、そうすると私が今まで読んだ作品の発表時期が かなり偏っていた事になります。若干、引いてしまいがちな作品が多かったですが、本作を読むともっと 多くの作品を読みたくなります。発表時期をチェックした方が良いでしょうか。
2007年6月14日
魔<笠井潔>
この作者の多彩な作品群のひとつに、私立探偵・飛鳥井ものがあります。とは言っても作品数はまだ少ない です。本著は、中編2作と、評論家でもある作者のエッセイが含まれます。エッセイで展開される、ハードボイルド・ 職業探偵(私立探偵)・本格推理小説・リアリズム等の内容は、すぐれたサンプル・実作と共に参考になると 思います。しかしは、セラピスト・トリックといった内容で展開されます。もし作者が、はっきりした意識がなければ 空中分解の可能性もあったかもしれませんが、きっちりまとまっています。スタイルやストーリーは違っても、 本格推理の構造はもてる事を示す連作です。
2007年6月20日
アララテのアプルビイ<マイクル・イネス>
イネスの作品も徐々に翻訳されています。数が多いので、完訳は難しいでしょうが、喜ばしいです。 翻訳が進むにつれて、その作品の多様性に驚きます。本作は、少ない既読作とは大幅に異なっています。 ありそうもない設定に、ありそうもないストーリー展開。ミステリではないと感じ始めた頃に突然起きる事件、 しかし事件があるからミステリとは言えないと思います。それならば、本作は何かと問われれば、よく分からない 冒険?コメディ?作者の書きたい事を理解できるとは思えません。これも、作者の書く範囲と認識するしか ないようです。説明不可の話です。
2007年6月20日
湖上の不死鳥<野口赫宙>
昭和37年刊行といえば、社会派を中心にいろいろなジャンルが試行錯誤していた時代です。ただ、どの ジャンルも社会派とスリラーの影響を受けてしまって、しかもそれが中途半端というやや不毛作品が多い時代 です。本作も典型的な、複数ジャンルの影響と融合を目指していると感じます。ただ、たいていはどれもが 生かしきれない難しさがあります。題名も清張登場時期の、清張と鮎川哲也の作品のモチーフのバッティング を思い出すし、事実類似性もあるのは少し配慮が必要だったように思います。
2007年6月20日
犠牲者は誰だ<ロス・マクドナルド>
現在は、ジョン・マクドナルドとロス・マクドナルドを間違う人は少ないと思いますが、本作が紹介された頃は 混乱気味だった様に解説されています。ジャンルも似ているので間違いやすいとは思います。紙のように存在が うすいとされる主人公のリュウ・アーチャーが、読者にあうかどうかで、本作者への好みがかわりそうです。 個人的には、あまりにも気取った主人公のハードボイルドスタイルよりも接しやすいと感じます。ただ、文学論 には興味がないので、ジャンルやスタイルは関係なく面白いかどうかが個人的な判断基準です。それからいえば ある程度面白いが、続けて読むほどではない程度です。
2007年6月26日
サイン会はいかが?<大崎梢>
副題が「成風堂書店事件メモ」でシリーズ3作目で、短編集は2作目です。書店限定の名探偵の登場ですが アルバイトの多絵は不器用だが何故か推理力があり探偵役を務めます。舞台が書店ですが、本筋以外にも本屋 ならではの色々な出来事(トラブル)が描かれており、単なる本屋小説としても面白いです。メインは表題作で 犯人と売れっ子著者の謎解きがサイン会を舞台に行われますが、著者が助っ人を捜した結果、成風堂でサイン 会を行う事になりました、暗号ミステリ要素が強いです。本著の投げ込み付録の「成風堂通信」はあるいは貴重な おまけかもしれません。
2007年6月26日
昆虫探偵<鳥飼否宇>
題名通り、登場するのが全て昆虫ばかりの小説です。自称名探偵も助手も、刑事も全て昆虫です。厳密には 蜘蛛も登場します。謎も昆虫独自というよりも、作者が昆虫の不思議な生態を書きたかったと思います。連作集 で有名作品のもじちの題名がついている7作(文庫で1作追加)です。最後に落ち?のある連作で、続編を書く とすればいくらかの工夫が必要です。昆虫の生態の説明が理解できる読者には、本格として読めるでしょう。 あるいはパラレルワールドのミステリと感じるかもしれません。
2007年6月26日
死の信託<エマ・レイサン>
経済本格ミステリシリーズを書いた作者(たち)のデビュー作です。探偵役は、銀行副頭取のサッチャーです。 情報が集まりやすい利点はありますが、副頭取が個別の事件を追いかける設定は国も時代も違いますが はたして現実的でしょうか。経済小説といっても、のんびりした落ち着いた幾分ユーモアも含んだ作品です。 結果として本格味はかならずしも、深くありません。メイントリックは日本でははたしてどうだったでしょうか。 しかし、広いジャンルの作品が紹介されてゆく意義は大きいとおもいます。続けて読みたい作者でもあります。
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2007/06に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。