推理小説読書日記(2007/05)
2007年5月03日
桃源郷の惨劇<鳥飼否宇>
幻の生物を取材する為に、秘境を訪れたテレビ取材班が出会う謎の生物とは何か。現地人がいう 神・神の領域を侵してはならないは何を示すのか。まるで雪男が現れたような状況での殺人事件 の真相は何か?。生物と自然の観察者・鳶山がたどりついたものと、謎の解明は何か。400円 文庫の中編ですがかなり読み応えがあります。そして最後に、文庫書きおろしでのXXの登場です。 こういう事をする作家はひとりだけと思っていたが、どこかに逆説的な雰囲気が感じる気がします。
2007年5月03日
上高地の切り裂きジャック<島田荘司>
「上高地の切り裂きジャック」「山手の幽霊」の2中編の作品集です。設定時期はかなり異なり ます。どちらも御手洗もので、かつこの作者らしい強引なトリックが駆使されます。この作者には 偶然が重なってある事が起こったように見える確率の計算は無関係らしいです。そこが、魅力でも あるし、時には絶えられない不満が残る事もあります。作家生活も長くなりましたが、玉石混在 でもよしとする程の旺盛な執筆力は、是非他の作者も見習って欲しいと思います。論理的のようで 実は直感的な御手洗の推理方法が多作を可能にしている気もします。
2007年5月03日
会津・下北、郷愁の殺人ルート<金久保茂樹>
秋月・美代川シリーズの1作です。設定は広域のトラベルミステリーですが、ミステリの謎 的には、全く異なる内容とは意外といおうか、肩すかしといおうか題名に偽りありと感じます。 特にある地域限定のアリバイトリックは、一般には予想もできないので謎として見る事は無理が あります。もう一方のレコードも、専門的な内容で知らないものには解けない内容です。結局 謎解きにはなっていないように感じます。
2007年5月08日
プレード街の殺人<ジョン・ロード>
森下雨村訳という古い出版の再版品です。本国では有名だが日本では・・・とは最近よく聞く フレーズですがこの作者もこれに含まれるようです。作品が多数あるにも関わらず、翻訳がまだ 少ないというのは、紹介者や解説者が何を言っても信用度が非常に低いです。ミステリは自分で 読んではじめて、個人の評価が出来るジャンルです。ブリーストレイ博士とは何者とも思います。 ソーンダイクとは異なり、科学的捜査のイメージは本作では感じなませんでした。
2007年5月08日
落下する花<太田忠司>
長編「月読」の設定と登場人物を継続した連作集です。中編的な長さが合っているように感じ ます。ダイイング・メッセージはクィーンをはじめ多くの作者で工夫されて作品化されてきました。 しかし、小説の中でさえ不自然な面を隠す事は困難になって来ています。そこに作者の力量が見られる とも言えますが、本作の架空の設定を持ち込む事で全く新しいダイイング・メッセージの世界が始まる ならば、本作(含む長編「月読」)は時代を変える、分岐点になる作品となるでしょう。「死者は、 死に場所の5M以内に形・現象(重要)で死ぬ間際に思っていた事を「月導」として残す。それを 読むのは「月読」のみで本当を語るか何も語らない。内容は手がかりになるものとは限らない。同時に 法的には全く認められない。」実に小説の展開にとって都合の良い設定です。このような新しい一歩 を見て、他の作者は何か行動を起こすのでしょうか。歴史的に大きな取り組みと思います。
2007年5月08日
ブレイディング・コレクション<パトリシア・ウエントワース>
またもや日本へは初訳です。ただ登場する名探偵・ミス・シルバーの名前のみ知られていた様 です。私は知らなかったですが、イメージはミス・マープルです。事件は探偵の性格に合わせた 内容ですが、欧米のミステリは何故、遺産問題が中心になる事がおおいのだろうかと思います。 謎に対して、ややストーリーが長いと感じますがまずまず安定した作風とおもいました。
2007年5月13日
風果つる館の殺人<加賀美雅之>
ベルトラン・シリーズ第3作ですが、いつものようにページ数が多いです。典型的な本格構成 ですが、忠実に書かれているために概略の構成を予測する事は逆に易しいともいえます。フェアに 書こうとすると当然の結果でしょう。それに最近、類似構成の作品に複数であった事も原因でしょう。 これは偶然ですが・・。ただし細部まで読み尽くすのはよほどのマニアで、謎と事件が多すぎて 部分部分の巧妙さ、又はミスは読みとばす事は仕方ないでしょう。発表順に読む必要があるかどうか は意見が分かれるところでしょう。微妙に影響する筈ですが。
2007年5月13日
日本海・豪雪列車殺人号<辻真先>
トラベルミステリー風の出発から、実際は豪雪に綴じ込まれたトンネル内の駅に止まった列車を 舞台の事件が連続発生します。その事件もどんどん加速的に大きくなってゆくのには、やや驚きます。 巧妙な設定と、大がかりな事件背景の設定と、細やかなトリックとが不思議にかみ合って一風変わった 作品になっています。イベント・シリーズの中の1冊と思っていたら異なる展開ですが、自然災害も 人口のイベントと同様に扱える事にあらためて気づく作品です。
2007年5月13日
久山秀子探偵小説選3<久山秀子>
シリーズの1・2の刊行後に、未発表の原稿が見つかり、3・4が刊行されました。従ってほとんど が初出作品になります。その中の多くを占める、梅由兵衛・梅吉シリーズ作品で現在でいうと 短いコント風の作品群です。ペンネームの由来の隼お秀は、無いようです。発表を前提にしない、 のんびりした随筆か日記的な書き方に感じます。あるいは、これがこの作者の持ち味とも思えます。
2007年5月18日
魔法人形<マックス・アフォード>
オーストラリアの作家のミステリも最近紹介されはじめました。国土が変わればスケールも変わります。 しかし本作の舞台はイギリスです。ただ、オーストラリアにいる筈の人物が重要な位置つけになります。 不気味な雰囲気と不可解な謎の組み合わせは、如何にも好みらしく密室に関する話題が一杯の作品です。 しかし謎の解決の積み重ねの最後は、それとは異なる大胆で微妙な手がかりから導き出します。 本格ミステリマニアは読み逃せない作品といえるでしょう。
2007年5月18日
死の相続<セオドア・ロスコー>
怪作と始めにかかれては、ちょっと引いてしまいます。舞台はハイチ、まるで殺し合いをさせたい様な 遺言と相続条件・そして次々に殺されてゆく相続可能性者たち。あまりに無茶な設定に、驚くよりあきれます 。捜査側は大騒ぎといいたいが、舞台がハイチで他の事件とからまりあまり集中して捜査できないようです。 密室の謎は、最近古今東西を含めて類似を複数呼んだ気がしますが、本作は雰囲気は一番あっている気がします。 感想としては、よく終われたと思います、ゾンビが登場した時はどうなる事になるか心配でした。
2007年5月18日
龍の館の秘密<谷原秋桜子>
激アルバイター倉西美波が始めた、振興宗教かはたまた・・・のアルバイト。気がつけば、第1作の メンバーが京都に集まって不思議な館の不思議な殺人の謎と取り組んでいます。何か強引なストーリー ですが、それにもまして警察の捜査の雑なこと、なる名探偵の登場を待つかのようです。未発表短編が 併録されています。今度は病院の薬のモニターのアルバイト、年齢を偽って始めたは良いけれど結局は 騒ぎに巻き込まれて、私は誰の状態になってしまします。
2007年5月23日
白戸修の事件簿<大倉崇裕>
連作ですが、作者がシリーズキャラクターとして登場させなかった事から、位置つけが不統一になり ました。これが微妙に変化球になり、逆に連作として面白みが出ています。タイプとしては、巻き込まれ タイプの主人公で場所と事件は色々な所で発生します。そして、主人公の白戸の役目も一定していません。 平均的には、探偵役を行いますが全部でないのが、結構面白い。ストーリーとしては、やや逆説的な解釈と 設定と解決を行うものが多く、巻き込まれ型の特徴を生かしています。
2007年5月23日
ハンプティ・ダンプティは塀の中<蒼井上鷹>
場所は、留置所の中、そこでばらばらの相部屋の人間の謎を解き明かしてゆきます。謎のレベルは日常の 謎派だが、場所が変わったところに特定されており人物もみんな謎を持つものの集まりとあっては、どかか 風変わりな雰囲気で進みます。留置所は、起訴前に入る所で立場としては不安定ですが、同じ部屋には同じ レベルの容疑者が集まります。従って謎のレベルも揃うとも言えますが、始めて入った人物にとっては 場所も人物も生活も謎だらけで、何がどうしたと説明しにくい妙なストーリーになります。
2007年5月23日
ドアをあける女<メイベル・シーリー>
謎はあるが、それに拘らないストーリー展開でサスペンス色が濃い作風が存在するらしいが、その一人 がこの作者と説明されています。はじめて読む作者なので、しかも解決がわからない段階では何が主体かは 分からない所があり、サスペンスよりも本格的謎のイメージを持って読みました。謎も適度に存在するので 軽い本格派のイメージがあります。謎が解決に向かう過程は、サスペンス的であるのでそれが特徴かどうかは 個人・初読かどうかで変わると思います。
2007年5月28日
県立S高校事件<左右田謙>
1961年の作品です。当時は学校を舞台にした作品は少なかったらしい、現在と全く違います。登場 人物が学歴詐称とくれば、今では旬の話題となりますが当時は少なかったのでしょう。探偵役というか、主人 公が話の進行にともない変わってゆく構成もやや変則的です。それも意識してか、個人的興味ないしは個人的 利益目的ともいえる内容です。事件があるから捜査するのではなく、必要があるから調べるとの現実的な内容 です。動機が、不正と恋愛がからみこちらも個人ごとに現実的に当てはまります。
2007年5月28日
玻璃の天<北村薫>
令嬢:花村英子とその運転手の別宮ことベッキーさんのコンビのシリーズの2冊目の連作集です。3作が 収録です。ミステリーとして小説をとらえるのは難しいです。情報小説ではないのに、異常に多い参考文献 は作者が、昭和初期を出来るだけ正確に描きたかったからでしょう。なぜならば、主人公の2人がその時代に 何を考え、如何に生きようとしたかを描く事に大きな比重があると思うからです。特に女性が抑えられていた 時代ならばそれに対する、主人公たちを描く事は意味があります。そして、外見でいばっている男性との比較 で、内容によっては推理をも含めた女性の知識や意識が描かれます。
2007年5月28日
箱ちがい<スティーヴンスン&オズボーン>
喜劇的探偵小説の肩書きですが、それをどうこういうよりも、「宝島」や「ジキルとハイド」の作者の 多彩な作品のひとつが紹介されたとした方が良いでしょう。ストーリーが風変わりな年金の取り合いで、そこに 死体や事故とのミステリー的な要素が加わっているだけで、無理に探偵小説とする必要はありません。ただ この作品の現在までの来歴がミステリ的らしいです。今の時代に偶然に読んだスティーヴンスンの作品を 楽しむ事にしましょう。
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2007/05に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。