推理小説読書日記(2007/01)
2007年1月01日
日本大使館殺人事件簿<高柳芳夫>
「禿鷹城の惨劇」「ラインの舞姫」などの密室本格からミステリに入り、外交官の経験を生 かしたサスペンス・スパイ小説の「プラハからの道化たち」で江戸川乱歩賞を取った作者で す。本短編集は外交官の草場宗平を主人公とする連作で、丁度上記2ジャンルの中間的作品 に感じます。ドイツ外交官が主人公では事件は政治・外交絡みになりますが内容的には短編 にも関わらず本格味が強いです。巻き込まれ型探偵で舞台設定を除いては個性はない主人公 ですが、背景等で作者の個性は出ています。
2007年1月01日
涙流れるままに(上)<島田荘司>
帯に「人の業を描ききった島田文学の集大成!」となっています。ミステリの集大成ではな く文学の集大成との表現は、本作の性格をよく表していると感じます。主人公の吉敷竹史が 巡りあった冤罪を叫ぶ女性、一方では吉敷の元妻の加納通子の少女時代から「北の夕鶴2/ 3の殺人」「羽衣伝説の記憶」に描かれていない過去が記憶と追い求める行動で描かれます。 どちらの女性も妄想か、現実か明らかにならないままに話はすすみます。冤罪を主張する恩 田とあったは吉敷は事件にのめりこみ、同時に上記の2冊の事件との関係にも気づきます。
2007年1月01日
涙流れるままに(下)<島田荘司>
芥川龍之介の「藪の中」は客観的事項がないので真実が分からない構成になっています。ミ ステリに関わらず現実の事件でも容疑者の自白のみに基づくものは全て同じ状況です。客観 的証拠がない事件、自白のみで有罪になった事件は冤罪の発生がつきまといます。島田は早 くからこれに関心が深く、複数のドキュメンタリーノベルを書いています。ミステリの世界 でも客観的証拠がなく自白のみで結末に結びつける作品が多く見られます。これらは謎が解 けたのではなく、小説が終わっただけです。論理と証拠の両立が謎を解き明かします
2007年1月01日
証拠は眠る<オースチン・フリーマン>
科学者探偵と言えば「ソーンダイク」、その魅力が発揮された長編です。科学捜査はミステ リを書きにくくしているとの意見もあります。それは探偵役の捜査・推理方法で異なります。 謎は深く、その解明には深い論理が必要です。そしてそこから、具体的な証拠を見つけ出す 必要があります。科学的捜査それも意表をつく観点での証拠の発見は、謎の解明を二重に深 くします。証拠の発見方法は科学的捜査の必要は全くありませんが、証拠があって初めて納 得のゆく解明になる事をあらためて感じました。
2007年1月07日
福家警部補の挨拶<大倉崇裕>
刑事コロンボが好きで読みあさり、脚本を小説化している作者が、同様に同人誌を発行して いるファンと意見を交換しながら、原作に出来るだけ近くなおかつ日本風の味をつけ加える ことを目標にして書かれた作品です。構成やスタイルはコロンボのスタイルを踏襲していま す。作品のそこかしこに、コロンボの面白さを別の形で出してくるのか楽しみがあります。 福家警部補は背の低い地味な服をきた、目立たない女性です。それが直ぐに事件性を見つけ て、堅実で意外性のある捜査と証拠集めで犯人を追い詰めます。続編に期待大です
2007年1月07日
銃とチョコレート<乙一>
子供向けのミステリーランドの1冊です。子供向けのミステリからの発想が似るのか、この シリーズでは幾たびか見かけたパターンの怪盗ものです。ルパンや二十面相など、子供のこ ろの体験が影響していると思います。現在でも、上記作品が読みつがれている理由が分かり ます。これらの作品には、ミステリのロジックより、サスペンス・冒険・サプライズ・人物 のキャラクター性が強くでています。それが子供むけに書きやすいし、面白いのでしょう。 今後もなくなる事のない分野です。
2007年1月07日
幽霊列車で来た女<中野圭一郎>
個人的には、津村秀介の後のトラベルミステリ・アリバイ崩しものを探していますが、期待 通りの作品にはなかなか合いません。プロ的な技術の難しさがあるのでしょう。本作は、細 かく分解するとかなりの力作ですが、全体の構成に難がありメインのトリックが全く面白く ないのでトータルでは面白さが薄くなっていると思います。探偵役が謎を解くというより、 歩き回っていたら答えに当たったような構成は改良がきくと思います。たぶんアリバイルー トの精度は高くなさそうに見えてしまいます。
2007年1月13日
停まった足音<フィールディング>
名前だけ知られていて、翻訳がされなかった作品の代表との事です。鮎川哲也ファンだから 作品名は知っていましたが所読の作者です。小説のスタイルとしては、上記影響もあるのか 鮎川哲也・特に「黒いトランク」的な印象を受けました。気が短い人には向かないかも知れ ないがじっくり読む人には、手がかりが微妙に登場するので面白いでしょう。探偵役の警部 がどの程度優秀なのかが分かりにくいのが難点と感じます。地味な捜査のスタイルでも、探 偵は印象的に描いて欲しいと思います。沢山訳されている作者ならば他作・・ですが。
2007年1月13日
心霊探偵八雲(5)<神永学>
ミステリー界のインディーズ作家?的ですが作品は数を重ねています。作風的に掴みにくい 面があり避けていたと言えます。読んだ感想は、「よく分からない」です。SFなのかホラー なのか、本格指向なのか見極めがつきません。登場人物がやや薄いので、人物描写で読ませ るタイプでもなさそうです。それでいて、なんとなくミステリーしている感じは有ります。 愛読者とそれ以外に別れる作風かもしれません。あるいは、1作目から読まないとわからな いシリーズかもしれません。
2007年1月13日
必殺の大四喜<藤村正太>
麻雀ミステリーシリーズ第4作目?。本作は短編集で、シリーズキャラはなく主人公から見 て気になる女雀士がひとりずつ登場します。その正体は何か、主人公に絡んでくる狙いは何 かが謎になります。スタイルとしては、サスペンスか犯罪小説でしょう。いかさま手口も登 場しますが、現実的には思えません。なぜ狭い世界のシリーズが書かれたのかは不明です。 ただ小説的・映像的に多くの作品があるので、テーマ的に使い易いのかもしれません。日本 ではトランプやルーレットははやりませんので。
2007年1月20日
モノレールねこ<加納朋子>
「日常の謎派」の本格とも、「幻想」的ともいわれる作者です。本短編集の8作は本格味は ありません。幻想的な面はあります。ミステリーとしては読まない方がよいのかもしれませ ん。いわゆる落ちのある話でもありません。きっちりまとまった短編ですが、最後が狙いと いう感じではありません。日常的でも、アプローチの仕方が幻想的・SF的など工夫されてお り起伏のあるストーリー展開になります。色々なメデイアにある程度の期間書き分けた作品 をまとめた本で、事前に統一イメージがあったのかは不明です。
2007年1月20日
大聖堂は大騒ぎ<エドモンド・クリスピン>
安定した、しかし毎回異なる内容を読ませてくれる作者です。探偵役はおなじみのフェン教 授です。今回は密室的な不可能味の強い作品です。しかし、その内容はユーモアたっぷりの 文章で読む者を迷わせ笑わせます。作者が、本当に思っているのか、ちょっとした洒落なの 自分自身を他のミステリー作者と比較する下りは??です。作品の雰囲気は、カーでおなじ みの中世的・魔女的な話なのにユーモアが加わると迷わされているのかどうか、悩みます。 一筋縄では読めない作者です。
2007年1月20日
オランダ水牛の謎<松尾由美>
文字通りの「安楽椅子探偵」アーチーのシリーズです。アイデアは面白いのですが、シリー ズにすると設定の奇抜さが、ストーリーの制約としてかなり厳しくなります。やや苦しいと 感じます。設定にあう話は少ないでしょう。バランスを保つ設定が長いシリーズを続けるた めには必要と思います。国名をつけた作品集ですが、これも趣向のみで必然性には乏しいと いえます。
2007年1月24日
神のロジック人間(ひと)のマジック<西澤保彦>
ミステリでは読者とフェアである事が出来れば、架空の世界を設定してその世界のルールに 従って謎とその解明をストーリーとする事が可能です。古くは、SFの世界と本格ミステリを 結びつける試みがありました。しかしもっと積極的に、幻想・ホラー・哲学・宗教等を組み 合わせて全く現実とは異なる世界を作る試みが最近は多く行われています。本作者はその代 表であり、独特の世界は注目されています。本作は、これに閉鎖空間が加えられて外の世界 との関係も謎となっています。個人的には小松左京の「お召し」のイメージがありました。
2007年1月24日
マッターホルンの殺人<グリン・カー>
ミステリの世界には何人の「カー」がいるのでしょうか。筆者は初読ですがイギリス本格派 で、舞台を山岳に設定すると説明されています。山岳ミステリは不思議なジャンルで、日本 でも専門作家が複数存在します。例えば、瓜生卓造・加藤薫・梓林太郎・太田蘭三などで長 井彬も含めて良いでしょう。なじみのない私には理解しにくいですが、ルートと移動時間が おおよそ決まっており、空間的には閉鎖されていないのに密室・アリバイミステリが成立す るらしいです。常識と無知の境目は狙い所ともいえるし、風景描写等の付加もいきます。
2007年1月24日
運命の鎖<北川歩実>
デビューして10年以上もたちますが、いまだに覆面作家です。男女も分からない筆名です が理系のテーマも多いです。本作は人工授精とそれに絡む遺伝子と、遺伝子に含まれる病気 がテーマで、謎が複雑に絡みます。しかし、系統的に探偵行動がないので奇妙な内容になっ ています。連作集ですが、いわゆる1冊で長編として読めるタイプです。知っている者と隠 している者と誤解している者が入り交じるので、サスペンス性は充分ですが、謎を追うのは 読者にはかなりつらいです。
2007年1月28日
断崖は見ていた<ジョセフィン・ベル>
日本にはまだ紹介作品の少ない作家です。イギリスではよくみかける、時間がゆっくり経過 する作品です。そして、謎の基は複雑な遺産相続に絡むものです。連続殺人が、登場人物の 複雑なおもわくで謎を深め、最後の意外性のある結果につながります。ストーリーとしては あまり起伏はありませんが、所どころに伏線らしきものが隠されているようです。本作者の 作品が初読でもあり、伏線のチェックがあまくなって中盤あたりが充分に楽しめなかった反 省は感じます。この系統の作品を好む読者もかなり存在すると思います。
2007年1月28日
ハワイ幽霊城の謎<はやみね かおる>
迷探偵・夢水清志郎登場です。話は、ふたつが併行します。ひとつは、昔夢水の祖先らしき 人物がハワイに迷いこんでそこで事件を解決する話です。その結果、伝説が残っています。 そして現在、レギュラー全員がなぜかハワイの富豪の依頼で幽霊城の謎に望みます。はやり の館もの風の大きな仕掛けがみれますが、ユーモアな設定上、不自然がどうこうという作品 では無くなっています。伝説は「なぜ夢水にたのまないのか」でこれが過去と現在を繋げま す。そういえば、金田なる誰かを連想させる人物も登場します。
2007年1月28日
青い遠景<南部樹未子>
この時の名義は「南部きみ子」です。「流氷の街」で女流新人賞後で東都ミステリに「乳色 の墓標」を書く前です。従って、通常はミステリとはされていない作品です。テーマは三角 関係の年月をかけた復讐劇です。その後のミステリとされている作品も人間心理の謎を追う いわゆる「心理サスペンス」ですので、本作との違いは明確ではありません。もともとこの 作者が描く世界はトリッキーな謎ではなく、中間領域のサスペンスですので無理にジャンル 分けできない事を改めて確認しました。私には、本作もその後の作品と同じ系統の心理サス ペンスの1冊としてよいと感じました。
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日本大使館殺人事件簿<高柳芳夫>
「禿鷹城の惨劇」「ラインの舞姫」などの密室本格からミステリに入り、外交官の経験を生 かしたサスペンス・スパイ小説の「プラハからの道化たち」で江戸川乱歩賞を取った作者で す。本短編集は外交官の草場宗平を主人公とする連作で、丁度上記2ジャンルの中間的作品 に感じます。ドイツ外交官が主人公では事件は政治・外交絡みになりますが内容的には短編 にも関わらず本格味が強いです。巻き込まれ型探偵で舞台設定を除いては個性はない主人公 ですが、背景等で作者の個性は出ています。
2007年1月01日
涙流れるままに(上)<島田荘司>
帯に「人の業を描ききった島田文学の集大成!」となっています。ミステリの集大成ではな く文学の集大成との表現は、本作の性格をよく表していると感じます。主人公の吉敷竹史が 巡りあった冤罪を叫ぶ女性、一方では吉敷の元妻の加納通子の少女時代から「北の夕鶴2/ 3の殺人」「羽衣伝説の記憶」に描かれていない過去が記憶と追い求める行動で描かれます。 どちらの女性も妄想か、現実か明らかにならないままに話はすすみます。冤罪を主張する恩 田とあったは吉敷は事件にのめりこみ、同時に上記の2冊の事件との関係にも気づきます。
2007年1月01日
涙流れるままに(下)<島田荘司>
芥川龍之介の「藪の中」は客観的事項がないので真実が分からない構成になっています。ミ ステリに関わらず現実の事件でも容疑者の自白のみに基づくものは全て同じ状況です。客観 的証拠がない事件、自白のみで有罪になった事件は冤罪の発生がつきまといます。島田は早 くからこれに関心が深く、複数のドキュメンタリーノベルを書いています。ミステリの世界 でも客観的証拠がなく自白のみで結末に結びつける作品が多く見られます。これらは謎が解 けたのではなく、小説が終わっただけです。論理と証拠の両立が謎を解き明かします
2007年1月01日
証拠は眠る<オースチン・フリーマン>
科学者探偵と言えば「ソーンダイク」、その魅力が発揮された長編です。科学捜査はミステ リを書きにくくしているとの意見もあります。それは探偵役の捜査・推理方法で異なります。 謎は深く、その解明には深い論理が必要です。そしてそこから、具体的な証拠を見つけ出す 必要があります。科学的捜査それも意表をつく観点での証拠の発見は、謎の解明を二重に深 くします。証拠の発見方法は科学的捜査の必要は全くありませんが、証拠があって初めて納 得のゆく解明になる事をあらためて感じました。
2007年1月07日
福家警部補の挨拶<大倉崇裕>
刑事コロンボが好きで読みあさり、脚本を小説化している作者が、同様に同人誌を発行して いるファンと意見を交換しながら、原作に出来るだけ近くなおかつ日本風の味をつけ加える ことを目標にして書かれた作品です。構成やスタイルはコロンボのスタイルを踏襲していま す。作品のそこかしこに、コロンボの面白さを別の形で出してくるのか楽しみがあります。 福家警部補は背の低い地味な服をきた、目立たない女性です。それが直ぐに事件性を見つけ て、堅実で意外性のある捜査と証拠集めで犯人を追い詰めます。続編に期待大です
2007年1月07日
銃とチョコレート<乙一>
子供向けのミステリーランドの1冊です。子供向けのミステリからの発想が似るのか、この シリーズでは幾たびか見かけたパターンの怪盗ものです。ルパンや二十面相など、子供のこ ろの体験が影響していると思います。現在でも、上記作品が読みつがれている理由が分かり ます。これらの作品には、ミステリのロジックより、サスペンス・冒険・サプライズ・人物 のキャラクター性が強くでています。それが子供むけに書きやすいし、面白いのでしょう。 今後もなくなる事のない分野です。
2007年1月07日
幽霊列車で来た女<中野圭一郎>
個人的には、津村秀介の後のトラベルミステリ・アリバイ崩しものを探していますが、期待 通りの作品にはなかなか合いません。プロ的な技術の難しさがあるのでしょう。本作は、細 かく分解するとかなりの力作ですが、全体の構成に難がありメインのトリックが全く面白く ないのでトータルでは面白さが薄くなっていると思います。探偵役が謎を解くというより、 歩き回っていたら答えに当たったような構成は改良がきくと思います。たぶんアリバイルー トの精度は高くなさそうに見えてしまいます。
2007年1月13日
停まった足音<フィールディング>
名前だけ知られていて、翻訳がされなかった作品の代表との事です。鮎川哲也ファンだから 作品名は知っていましたが所読の作者です。小説のスタイルとしては、上記影響もあるのか 鮎川哲也・特に「黒いトランク」的な印象を受けました。気が短い人には向かないかも知れ ないがじっくり読む人には、手がかりが微妙に登場するので面白いでしょう。探偵役の警部 がどの程度優秀なのかが分かりにくいのが難点と感じます。地味な捜査のスタイルでも、探 偵は印象的に描いて欲しいと思います。沢山訳されている作者ならば他作・・ですが。
2007年1月13日
心霊探偵八雲(5)<神永学>
ミステリー界のインディーズ作家?的ですが作品は数を重ねています。作風的に掴みにくい 面があり避けていたと言えます。読んだ感想は、「よく分からない」です。SFなのかホラー なのか、本格指向なのか見極めがつきません。登場人物がやや薄いので、人物描写で読ませ るタイプでもなさそうです。それでいて、なんとなくミステリーしている感じは有ります。 愛読者とそれ以外に別れる作風かもしれません。あるいは、1作目から読まないとわからな いシリーズかもしれません。
2007年1月13日
必殺の大四喜<藤村正太>
麻雀ミステリーシリーズ第4作目?。本作は短編集で、シリーズキャラはなく主人公から見 て気になる女雀士がひとりずつ登場します。その正体は何か、主人公に絡んでくる狙いは何 かが謎になります。スタイルとしては、サスペンスか犯罪小説でしょう。いかさま手口も登 場しますが、現実的には思えません。なぜ狭い世界のシリーズが書かれたのかは不明です。 ただ小説的・映像的に多くの作品があるので、テーマ的に使い易いのかもしれません。日本 ではトランプやルーレットははやりませんので。
2007年1月20日
モノレールねこ<加納朋子>
「日常の謎派」の本格とも、「幻想」的ともいわれる作者です。本短編集の8作は本格味は ありません。幻想的な面はあります。ミステリーとしては読まない方がよいのかもしれませ ん。いわゆる落ちのある話でもありません。きっちりまとまった短編ですが、最後が狙いと いう感じではありません。日常的でも、アプローチの仕方が幻想的・SF的など工夫されてお り起伏のあるストーリー展開になります。色々なメデイアにある程度の期間書き分けた作品 をまとめた本で、事前に統一イメージがあったのかは不明です。
2007年1月20日
大聖堂は大騒ぎ<エドモンド・クリスピン>
安定した、しかし毎回異なる内容を読ませてくれる作者です。探偵役はおなじみのフェン教 授です。今回は密室的な不可能味の強い作品です。しかし、その内容はユーモアたっぷりの 文章で読む者を迷わせ笑わせます。作者が、本当に思っているのか、ちょっとした洒落なの 自分自身を他のミステリー作者と比較する下りは??です。作品の雰囲気は、カーでおなじ みの中世的・魔女的な話なのにユーモアが加わると迷わされているのかどうか、悩みます。 一筋縄では読めない作者です。
2007年1月20日
オランダ水牛の謎<松尾由美>
文字通りの「安楽椅子探偵」アーチーのシリーズです。アイデアは面白いのですが、シリー ズにすると設定の奇抜さが、ストーリーの制約としてかなり厳しくなります。やや苦しいと 感じます。設定にあう話は少ないでしょう。バランスを保つ設定が長いシリーズを続けるた めには必要と思います。国名をつけた作品集ですが、これも趣向のみで必然性には乏しいと いえます。
2007年1月24日
神のロジック人間(ひと)のマジック<西澤保彦>
ミステリでは読者とフェアである事が出来れば、架空の世界を設定してその世界のルールに 従って謎とその解明をストーリーとする事が可能です。古くは、SFの世界と本格ミステリを 結びつける試みがありました。しかしもっと積極的に、幻想・ホラー・哲学・宗教等を組み 合わせて全く現実とは異なる世界を作る試みが最近は多く行われています。本作者はその代 表であり、独特の世界は注目されています。本作は、これに閉鎖空間が加えられて外の世界 との関係も謎となっています。個人的には小松左京の「お召し」のイメージがありました。
2007年1月24日
マッターホルンの殺人<グリン・カー>
ミステリの世界には何人の「カー」がいるのでしょうか。筆者は初読ですがイギリス本格派 で、舞台を山岳に設定すると説明されています。山岳ミステリは不思議なジャンルで、日本 でも専門作家が複数存在します。例えば、瓜生卓造・加藤薫・梓林太郎・太田蘭三などで長 井彬も含めて良いでしょう。なじみのない私には理解しにくいですが、ルートと移動時間が おおよそ決まっており、空間的には閉鎖されていないのに密室・アリバイミステリが成立す るらしいです。常識と無知の境目は狙い所ともいえるし、風景描写等の付加もいきます。
2007年1月24日
運命の鎖<北川歩実>
デビューして10年以上もたちますが、いまだに覆面作家です。男女も分からない筆名です が理系のテーマも多いです。本作は人工授精とそれに絡む遺伝子と、遺伝子に含まれる病気 がテーマで、謎が複雑に絡みます。しかし、系統的に探偵行動がないので奇妙な内容になっ ています。連作集ですが、いわゆる1冊で長編として読めるタイプです。知っている者と隠 している者と誤解している者が入り交じるので、サスペンス性は充分ですが、謎を追うのは 読者にはかなりつらいです。
2007年1月28日
断崖は見ていた<ジョセフィン・ベル>
日本にはまだ紹介作品の少ない作家です。イギリスではよくみかける、時間がゆっくり経過 する作品です。そして、謎の基は複雑な遺産相続に絡むものです。連続殺人が、登場人物の 複雑なおもわくで謎を深め、最後の意外性のある結果につながります。ストーリーとしては あまり起伏はありませんが、所どころに伏線らしきものが隠されているようです。本作者の 作品が初読でもあり、伏線のチェックがあまくなって中盤あたりが充分に楽しめなかった反 省は感じます。この系統の作品を好む読者もかなり存在すると思います。
2007年1月28日
ハワイ幽霊城の謎<はやみね かおる>
迷探偵・夢水清志郎登場です。話は、ふたつが併行します。ひとつは、昔夢水の祖先らしき 人物がハワイに迷いこんでそこで事件を解決する話です。その結果、伝説が残っています。 そして現在、レギュラー全員がなぜかハワイの富豪の依頼で幽霊城の謎に望みます。はやり の館もの風の大きな仕掛けがみれますが、ユーモアな設定上、不自然がどうこうという作品 では無くなっています。伝説は「なぜ夢水にたのまないのか」でこれが過去と現在を繋げま す。そういえば、金田なる誰かを連想させる人物も登場します。
2007年1月28日
青い遠景<南部樹未子>
この時の名義は「南部きみ子」です。「流氷の街」で女流新人賞後で東都ミステリに「乳色 の墓標」を書く前です。従って、通常はミステリとはされていない作品です。テーマは三角 関係の年月をかけた復讐劇です。その後のミステリとされている作品も人間心理の謎を追う いわゆる「心理サスペンス」ですので、本作との違いは明確ではありません。もともとこの 作者が描く世界はトリッキーな謎ではなく、中間領域のサスペンスですので無理にジャンル 分けできない事を改めて確認しました。私には、本作もその後の作品と同じ系統の心理サス ペンスの1冊としてよいと感じました。
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2007/01に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。