推理小説読書日記(2006/11)
2006年11月01日
夜明けの・晩・に<斎籐澪>
第1回横溝正史賞受賞作家のサスペンスです。あるいは巻き込まれ型防諜小説と、題材から 見れば社会派とも言えます。ただ、文体やストーリーは横溝のイメージと重なる、家や血の 繋がりを感じさせる内容になっています。横溝自体が、本格のみならず色々なジャンルの作 品を残しているので、2回目以降で拡散した横溝賞の名前を意識される少ない作家といえま す。横溝生前の唯一の受賞者です。小説のジャンルからストーリーを書くこと自体が不適の 作品ですが題名から予想される唄がモチーフとなっています。
2006年11月01日
さくら草<永井するみ>
複数のミステリの賞絡みでデビューした、やや多作の作者です。本格ミステリと呼べる作品 が多いが、背景・テーマが多彩なので情報小説としてまたは社会派として捉える人もいるか も知れません。本作はアパレル業界、それも子ども服(少女)ブランドメーカー絡みの連続 殺人事件です。さくら草を意味する「プリティローズ」という高級ブランドとそれを望む少 女たちと親の複雑な感情、そして供給側のバラバラな感情と打算のなかでミシングリングテ −マを探す事になります。このテーマ特有のフェア・手がかりの微妙性はあります。
2006年11月01日
千一夜の館の殺人<芦辺拓>
探偵弁護士・森江春策のアシスタントの新島ともか自身の事件とも言える内容です。奇妙な 遺言と、存在自体が不明の千一夜の館の存在の有無が謎となって展開します。館ものには、 はじめから存在する館での事件と、幻の館が中心となって展開する事件がありますが、本作 は後者ですが、ラストに大きな展開として突如姿を現す幻の館は、本作者の念密な構成とい えます。当初から登場するものの展開中はあまり姿をあらわさず、解決時にあざやかに登場 する名探偵は長編構成の有力な手段としても興味があります。
2006年11月07日
花ほおずき、ひとつ<斎籐澪>
副題が「丹波篠山殺人事件」で、その地を訪れたカメラマンが事件に巻き込まれます。石仏 とその手の陶器のほおずき、その作者を追って姿を消した編集者の謎。そこに現れる昔の殺 人事件の謎が現れます。病気の子どもが気がかりながら、再度編集者を探しに当地を訪れた カメラマンが過去の事件にまつわる謎に入り込んでしまいます。全体の雰囲気はこの作者の 世界ながら、謎とサスペンスの比重が作品ごとに微妙にゆれ動きます。過去の事件と現在ま でひきずる因縁が動機となって現れる手法は安定しています。
2006年11月07日
シンデレラ・ティース<坂木司>
医者の不養生ならず、子どもの時から歯医者がきらいなトラウマを持つ主人公の女性が、夏 休みのアルバイトでなんと歯医者の受付をする事になります。そこには複数の人が、異なる 仕事をしています。そして、毎話登場する患者の色々な行動と言動からメンバーと主人公は なぜそのような行動をとるのかを考え、対応してゆきます。歯医者が嫌いな人は結構います が、その人の心はむしろ主人公のほうが分かる面もあります。そして、主人公のトラウマは 少しずつ・・・。
2006年11月07日
真実の問題<C.W.グラフトン>
日本ではほとんど知られていない作者です。法廷小説ともいえる本作は、裁判制度の異なる 日本ではかなり理解しにくい所もあります。小説全体の流れを見ると、必ずしも日本のみな らず本国でも異色作でもあると思います。ミステリならではの、作ったような話というべき 印象があります。むしろ、さらりと読みながせたら楽しめるとも思いますが、どうしても考 えながら読みますので、意外性が少し弱くなってしまい自ら楽しみを少なくしている気がし ます。いわゆる、内容を詳しく書けない作品です
2006年11月11日
京都ーみちのく小野小町殺人事件<金久保茂樹>
いわゆるトラベルミステリ、アリバイ崩しは今も新刊が続いていますが、津村秀介の死去・ 深谷忠記のジャンル離れ以降は、ライトノベル化して本格味の強いものは少なくなったと感 じます。西村京太郎作品と対抗しようとすると、本格味は必要と感じますがやや低迷です。 本作者はアリバイ崩しを多く書いていますが、もう少しの所で不満を残します。ただ注目で はあります。アリバイが崩れるものと読者は考える事をいかに理解して書くかがポイントと 感じます。ルートの分かりやすい空路の利用は現実味が少ないといえます。
2006年11月11日
いつ殺される<楠田匡介>
ほとんど再刊されないが、本は入手困難でかつ古書価が高い作者がかなり存在します。この 作者もそのひとりです。読めさえすれば、美本の必要はないと思っても手にはいりにくいで す。作風的に古風ですので、ボロボロの本で読むのも雰囲気があり合っているともいえます。 本作は、主人公・探偵役をはっきりさせないで話をすすめてゆく、妙な構成に特徴がありま す。捜査側がこの様では、まさしく題名通りの状態になります。その面では本格よりサスペ ンス・スリラーの味が濃い作品といえるでしょう。
2006年11月11日
看護婦高山瑠美子の事件簿<由良三郎>
たぶんこの作者の最後の本ではないかと思います。探偵の兄と、看護婦の妹コンビのミステ リとしては2冊目でしょうか。ただし本著はこのシリーズ作4編と、それ以外の作品4編か らなる短編集です。題名からは分からないですが・・・。専門の医学を強調していないが、 深く立ち入らない程度に利用しており、読者は勝手に信用してしまう仕組みのようです。他 の作品は短編ゆえにコント風・犯罪小説風など色々な要素が入っています。純本格風に書く には字数的に無理があったのでしょう。
2006年11月15日
小説 佐武と市捕物控<辻真先>
石森章太郎原作をもとに、書き下ろしたジュブナイル向けミステリです。辻作品特有の趣向 が散りばめられていますが、基本構成は本格ミステリ連作集です。実在の登場人物あり、不 可能犯罪あり、派手な捕り物あり、佐武・市・お絹の微妙な人情ありでまさしく何でも有り の作品です。どれが一番印象的かは個人で異なるでしょうが、読者を楽しませる点は変わら ないと思います。捕物帳に西洋医学等を入れた所は久生十蘭・光瀬龍などの作品を思いうか べます。ノベライズの成功例と思います。
2006年11月15日
これが密室だ!<>
ロバート・エイディーと森英俊共編のオリジナルアンソロジーです。テーマは密室・不可能 犯罪です。オリジナルと言っても書きおろしではなく、海外作品の日本初訳です。傑作とし て紹介されている作品ではなく、まだこんな作品がある・作者がいる。この作者にこんな作 品も残っているというアンソロジーです。収録作や巻末の、選者の選んだベスト密室作品を 読み、読者がさらなる作品・未訳長編を読みたくなる事を狙ったアンソロジーと言えます。 この後、一部の作家の長編が訳されている事から成功でしょう。
2006年11月15日
樹霊<鳥飼否宇>
本作者を読むのは始めてですが、神野・高階・鳶田・猫田の登場作品はこの作者のシリーズ の様です。観察者の名探偵の登場までに、不思議な事件が起きる構成で長編と直ぐに謎を解 く探偵役の両立をうまくまとめています。動く木の謎も、組み合わせの解決で解決していま す。動機や社会問題まで持ち込んだ不可能犯罪ミステリは、いかにも現代風ですが、謎を弱 くする事なくまとまっています。いわゆるメタものでなく、本格ミステリの成功作として楽 しめます。個人的にはメタでない、このような作品が増えて欲しいです。
2006年11月20日
ママ、死体を発見す<クレイグ・ライス>
ジプシー・ローズ・リー作の2作目です。完全にライスの作品と確定はしていないようです が内容的には、ライス作品そのものです。訳がライスを意識している可能性までは分かりま せん。とぼけた登場人物達と、文体とストーリーは先入観もありますがライス作品そのもの を感じます。真実は闇の中もまた、ミステリらしいと言えます。どたばた騒ぎで謎解きは、 中心にはなっていませんが、ライスの他の作品もおおかれすくなかれ似た傾向にあります。 独特の世界と雰囲気が私を含め、多くの人が引き込まれています。
2006年11月20日
ナイチンゲールの沈黙<海堂尊>
「チーム・バチスタの栄光」でかなり衝撃的なデビューした作者の第2作で、舞台が同じの やはり医学ミステリです。最先端技術が登場するので、架空性については検証が難しいが本 作の内容にはSF的な部分があると思いますがどうでしょうか。しかしそれは謎の明確な理解 には必要ですが、概略の謎解きにはかならずしも必要ではないと思いました。謎のみではな く病・命・子どもと失う感覚器官の内面的な感情と、治療に当たる人の色々な対応が本作の より大きなテーマとなっています。
2006年11月20日
キャスリング(前編)<新井素子>
ブラックキャット・シリーズの第3作はついに1冊に入らなくなりました。ただし1.5冊 が正しいです。特殊能力と、大きな欠点をもつ3人組が取り組むのはキャット自身がなにや ら関係する気配です。しかし、長くだが退屈はしない事件前の助走です。これが前編だから さぞや複雑な事件部分があるかと言うと、そうではないらしい。盗む側・逮捕しようとする 側・盗まれる(??疑問あり)側全ての表面的な事情が述べられて、いよいよ事件が始まり ます。チェス用語のキャスリングがワープロで変換できなくてややびっくりです。
2006年11月27日
警察官よ汝を守れ<ヘンリー・ウエイド>
ミステリにおいて探偵とくに職業探偵である警察官が登場するのは、必然的です。しかし、 警察制度は国によって異なります。日本国内でも知らない事が多くある状態で、外国の警察 を舞台にしたミステリを読む事は理解は難しい筈です。必要な事は事は書かれていると思っ て読めばある程度理解したつもりになります。中央と管轄との食い違いは、どこでもあると 思いますが、そこを徹底的に利用するとなかなか微妙な作品になります。今ではこれで意外 性を求めるのは難しいですが、堅実な捜査を描く事は可能です。
2006年11月27日
凍える牙<乃南アサ>
日本の警察小説です。管轄のベテランと本部の女刑事のコンビでの捜査が始まります。それ ぞれプライベートの話題を避ける食い違いのなかで、少しずつ理解が進みますがその時は、 事件が終わり別れています。果てしなく狼に近い犬「ウルフドッグ」を使った??犯罪を、 追求していくと利用された犬と利用した側の悩み、捜査側のなぜか生じる親しみが浮かびあ がります。堅実に描いている為にサプライズはありませんが、ストーリーとしては複雑な謎 の構成に成功しています。
2006年11月27日
赤々煉恋<朱川湊人>
5作からなるホラー短編集です。奇妙な味とホラーの区別はよく分かりませんが、幻想が実 現する話はホラーと感じます。個人的には苦手な分野です。人間の持つ、好みが切望になり しだいに欲望にまで発展すると奇妙な事件になります。犯罪には、加害者と被害者とが存在 します。しかし、両者が区別できない時にその話をどのようにとらえるかは難しいです。そ もそもミステリでしょうか、多くは作られた世界であるという点では共通です。人間自体の 謎とは言えます。しかし論理的に理解は無理です。
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夜明けの・晩・に<斎籐澪>
第1回横溝正史賞受賞作家のサスペンスです。あるいは巻き込まれ型防諜小説と、題材から 見れば社会派とも言えます。ただ、文体やストーリーは横溝のイメージと重なる、家や血の 繋がりを感じさせる内容になっています。横溝自体が、本格のみならず色々なジャンルの作 品を残しているので、2回目以降で拡散した横溝賞の名前を意識される少ない作家といえま す。横溝生前の唯一の受賞者です。小説のジャンルからストーリーを書くこと自体が不適の 作品ですが題名から予想される唄がモチーフとなっています。
2006年11月01日
さくら草<永井するみ>
複数のミステリの賞絡みでデビューした、やや多作の作者です。本格ミステリと呼べる作品 が多いが、背景・テーマが多彩なので情報小説としてまたは社会派として捉える人もいるか も知れません。本作はアパレル業界、それも子ども服(少女)ブランドメーカー絡みの連続 殺人事件です。さくら草を意味する「プリティローズ」という高級ブランドとそれを望む少 女たちと親の複雑な感情、そして供給側のバラバラな感情と打算のなかでミシングリングテ −マを探す事になります。このテーマ特有のフェア・手がかりの微妙性はあります。
2006年11月01日
千一夜の館の殺人<芦辺拓>
探偵弁護士・森江春策のアシスタントの新島ともか自身の事件とも言える内容です。奇妙な 遺言と、存在自体が不明の千一夜の館の存在の有無が謎となって展開します。館ものには、 はじめから存在する館での事件と、幻の館が中心となって展開する事件がありますが、本作 は後者ですが、ラストに大きな展開として突如姿を現す幻の館は、本作者の念密な構成とい えます。当初から登場するものの展開中はあまり姿をあらわさず、解決時にあざやかに登場 する名探偵は長編構成の有力な手段としても興味があります。
2006年11月07日
花ほおずき、ひとつ<斎籐澪>
副題が「丹波篠山殺人事件」で、その地を訪れたカメラマンが事件に巻き込まれます。石仏 とその手の陶器のほおずき、その作者を追って姿を消した編集者の謎。そこに現れる昔の殺 人事件の謎が現れます。病気の子どもが気がかりながら、再度編集者を探しに当地を訪れた カメラマンが過去の事件にまつわる謎に入り込んでしまいます。全体の雰囲気はこの作者の 世界ながら、謎とサスペンスの比重が作品ごとに微妙にゆれ動きます。過去の事件と現在ま でひきずる因縁が動機となって現れる手法は安定しています。
2006年11月07日
シンデレラ・ティース<坂木司>
医者の不養生ならず、子どもの時から歯医者がきらいなトラウマを持つ主人公の女性が、夏 休みのアルバイトでなんと歯医者の受付をする事になります。そこには複数の人が、異なる 仕事をしています。そして、毎話登場する患者の色々な行動と言動からメンバーと主人公は なぜそのような行動をとるのかを考え、対応してゆきます。歯医者が嫌いな人は結構います が、その人の心はむしろ主人公のほうが分かる面もあります。そして、主人公のトラウマは 少しずつ・・・。
2006年11月07日
真実の問題<C.W.グラフトン>
日本ではほとんど知られていない作者です。法廷小説ともいえる本作は、裁判制度の異なる 日本ではかなり理解しにくい所もあります。小説全体の流れを見ると、必ずしも日本のみな らず本国でも異色作でもあると思います。ミステリならではの、作ったような話というべき 印象があります。むしろ、さらりと読みながせたら楽しめるとも思いますが、どうしても考 えながら読みますので、意外性が少し弱くなってしまい自ら楽しみを少なくしている気がし ます。いわゆる、内容を詳しく書けない作品です
2006年11月11日
京都ーみちのく小野小町殺人事件<金久保茂樹>
いわゆるトラベルミステリ、アリバイ崩しは今も新刊が続いていますが、津村秀介の死去・ 深谷忠記のジャンル離れ以降は、ライトノベル化して本格味の強いものは少なくなったと感 じます。西村京太郎作品と対抗しようとすると、本格味は必要と感じますがやや低迷です。 本作者はアリバイ崩しを多く書いていますが、もう少しの所で不満を残します。ただ注目で はあります。アリバイが崩れるものと読者は考える事をいかに理解して書くかがポイントと 感じます。ルートの分かりやすい空路の利用は現実味が少ないといえます。
2006年11月11日
いつ殺される<楠田匡介>
ほとんど再刊されないが、本は入手困難でかつ古書価が高い作者がかなり存在します。この 作者もそのひとりです。読めさえすれば、美本の必要はないと思っても手にはいりにくいで す。作風的に古風ですので、ボロボロの本で読むのも雰囲気があり合っているともいえます。 本作は、主人公・探偵役をはっきりさせないで話をすすめてゆく、妙な構成に特徴がありま す。捜査側がこの様では、まさしく題名通りの状態になります。その面では本格よりサスペ ンス・スリラーの味が濃い作品といえるでしょう。
2006年11月11日
看護婦高山瑠美子の事件簿<由良三郎>
たぶんこの作者の最後の本ではないかと思います。探偵の兄と、看護婦の妹コンビのミステ リとしては2冊目でしょうか。ただし本著はこのシリーズ作4編と、それ以外の作品4編か らなる短編集です。題名からは分からないですが・・・。専門の医学を強調していないが、 深く立ち入らない程度に利用しており、読者は勝手に信用してしまう仕組みのようです。他 の作品は短編ゆえにコント風・犯罪小説風など色々な要素が入っています。純本格風に書く には字数的に無理があったのでしょう。
2006年11月15日
小説 佐武と市捕物控<辻真先>
石森章太郎原作をもとに、書き下ろしたジュブナイル向けミステリです。辻作品特有の趣向 が散りばめられていますが、基本構成は本格ミステリ連作集です。実在の登場人物あり、不 可能犯罪あり、派手な捕り物あり、佐武・市・お絹の微妙な人情ありでまさしく何でも有り の作品です。どれが一番印象的かは個人で異なるでしょうが、読者を楽しませる点は変わら ないと思います。捕物帳に西洋医学等を入れた所は久生十蘭・光瀬龍などの作品を思いうか べます。ノベライズの成功例と思います。
2006年11月15日
これが密室だ!<>
ロバート・エイディーと森英俊共編のオリジナルアンソロジーです。テーマは密室・不可能 犯罪です。オリジナルと言っても書きおろしではなく、海外作品の日本初訳です。傑作とし て紹介されている作品ではなく、まだこんな作品がある・作者がいる。この作者にこんな作 品も残っているというアンソロジーです。収録作や巻末の、選者の選んだベスト密室作品を 読み、読者がさらなる作品・未訳長編を読みたくなる事を狙ったアンソロジーと言えます。 この後、一部の作家の長編が訳されている事から成功でしょう。
2006年11月15日
樹霊<鳥飼否宇>
本作者を読むのは始めてですが、神野・高階・鳶田・猫田の登場作品はこの作者のシリーズ の様です。観察者の名探偵の登場までに、不思議な事件が起きる構成で長編と直ぐに謎を解 く探偵役の両立をうまくまとめています。動く木の謎も、組み合わせの解決で解決していま す。動機や社会問題まで持ち込んだ不可能犯罪ミステリは、いかにも現代風ですが、謎を弱 くする事なくまとまっています。いわゆるメタものでなく、本格ミステリの成功作として楽 しめます。個人的にはメタでない、このような作品が増えて欲しいです。
2006年11月20日
ママ、死体を発見す<クレイグ・ライス>
ジプシー・ローズ・リー作の2作目です。完全にライスの作品と確定はしていないようです が内容的には、ライス作品そのものです。訳がライスを意識している可能性までは分かりま せん。とぼけた登場人物達と、文体とストーリーは先入観もありますがライス作品そのもの を感じます。真実は闇の中もまた、ミステリらしいと言えます。どたばた騒ぎで謎解きは、 中心にはなっていませんが、ライスの他の作品もおおかれすくなかれ似た傾向にあります。 独特の世界と雰囲気が私を含め、多くの人が引き込まれています。
2006年11月20日
ナイチンゲールの沈黙<海堂尊>
「チーム・バチスタの栄光」でかなり衝撃的なデビューした作者の第2作で、舞台が同じの やはり医学ミステリです。最先端技術が登場するので、架空性については検証が難しいが本 作の内容にはSF的な部分があると思いますがどうでしょうか。しかしそれは謎の明確な理解 には必要ですが、概略の謎解きにはかならずしも必要ではないと思いました。謎のみではな く病・命・子どもと失う感覚器官の内面的な感情と、治療に当たる人の色々な対応が本作の より大きなテーマとなっています。
2006年11月20日
キャスリング(前編)<新井素子>
ブラックキャット・シリーズの第3作はついに1冊に入らなくなりました。ただし1.5冊 が正しいです。特殊能力と、大きな欠点をもつ3人組が取り組むのはキャット自身がなにや ら関係する気配です。しかし、長くだが退屈はしない事件前の助走です。これが前編だから さぞや複雑な事件部分があるかと言うと、そうではないらしい。盗む側・逮捕しようとする 側・盗まれる(??疑問あり)側全ての表面的な事情が述べられて、いよいよ事件が始まり ます。チェス用語のキャスリングがワープロで変換できなくてややびっくりです。
2006年11月27日
警察官よ汝を守れ<ヘンリー・ウエイド>
ミステリにおいて探偵とくに職業探偵である警察官が登場するのは、必然的です。しかし、 警察制度は国によって異なります。日本国内でも知らない事が多くある状態で、外国の警察 を舞台にしたミステリを読む事は理解は難しい筈です。必要な事は事は書かれていると思っ て読めばある程度理解したつもりになります。中央と管轄との食い違いは、どこでもあると 思いますが、そこを徹底的に利用するとなかなか微妙な作品になります。今ではこれで意外 性を求めるのは難しいですが、堅実な捜査を描く事は可能です。
2006年11月27日
凍える牙<乃南アサ>
日本の警察小説です。管轄のベテランと本部の女刑事のコンビでの捜査が始まります。それ ぞれプライベートの話題を避ける食い違いのなかで、少しずつ理解が進みますがその時は、 事件が終わり別れています。果てしなく狼に近い犬「ウルフドッグ」を使った??犯罪を、 追求していくと利用された犬と利用した側の悩み、捜査側のなぜか生じる親しみが浮かびあ がります。堅実に描いている為にサプライズはありませんが、ストーリーとしては複雑な謎 の構成に成功しています。
2006年11月27日
赤々煉恋<朱川湊人>
5作からなるホラー短編集です。奇妙な味とホラーの区別はよく分かりませんが、幻想が実 現する話はホラーと感じます。個人的には苦手な分野です。人間の持つ、好みが切望になり しだいに欲望にまで発展すると奇妙な事件になります。犯罪には、加害者と被害者とが存在 します。しかし、両者が区別できない時にその話をどのようにとらえるかは難しいです。そ もそもミステリでしょうか、多くは作られた世界であるという点では共通です。人間自体の 謎とは言えます。しかし論理的に理解は無理です。
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2006/11に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。