推理小説読書日記(2006/10)
2006年10月01日
自殺じゃない!<シリル・ヘアー>
解説・カバー等に色々の肩書きがある作者です。個人的には、当たり外れの少ない安定した 作品を読める作者との印象です。本作はいわゆる仕掛けのあるミステリとみる事も出来ます が、小説全体が繋がりをもった重厚な作品とも言えます。読者により印象が異なっても、特 に問題はありません。どれだけ多くの人に満足してもらえるかだけです。遺産相続問題があ るだけでリーガルという気はありませんが、捜査と謎の解明が変則的であっても本格といっ て良いと思います。謎と解明は重厚に、終わりは変則に。でも嫌味はありません。
2006年10月01日
橋本五郎探偵小説選(2)<橋本五郎>
名前は知られているが、アンソロジーで取られる作品が限られているため全貌が隠されてい る作者の、あまり知られていない部分まで見せようとする作品集の第2集です。「はとの」 (漢字が難しい)探偵物の本格から、時代物・おなじみの奇妙な味・軽妙作まで作者の守備 範囲は確実に拡がりました。よくをいえば「評論・随筆」の変わりにもう1作をと思います。 作品集が組まれなかった作者の全てに通じますが、従来の解説等にはかなり不十分な物が多 いと言えます。それらが作品を読む事の難しさ故、とするのが本集の目的と思います。
2006年10月01日
熱海ハイウエイ殺人事件<川辺豊三>
1972年発行作です。横溝ブームの直前ですが、この時代の作者は刊行面では不遇で、か ならずしも作者の意向に添わない刊行が行われているので、細部の問題点をいう事が妥当か どうか自体がいいのか分かりません。あえていうと、題名が分かりにくい・社会派的要素を 無理に加えたストーリーが無理がある・解決があまりにも急ぎ足です。このうち作者も同様 に感じている事があるかどうか興味があります。地方を舞台にし、それを生かしたミステリ は雰囲気は出ているものの十分に書き切れなかったと思います。
2006年10月07日
少年は探偵を夢見る<芦辺拓>
弁護士探偵・森江春策を駆使する作者が、森江の少年時代から弁護士時代までを年齢を追っ て描いた連作です。巻末には、著作リストと、森江の登場する作品の登場年代別リスト付き> という徹底ぶりです。勿論、事件発生年代の初期は多くは本作品集収録作品となっています。 元々がアクロバチックなストーリー展開が特徴ですが、設定が従来の作品と重複しない時代 は特に作者の好みが強く出ています。そして、妙な経歴から弁護士になる過程も無理はある が繋げています。
2006年10月07日
子どもの王様<殊能将之>
少年少女も読めるミステリ・ミステリーランドの1冊です。対象読者向けかどうか悩む作品 も多いシリーズですが、本作はほぼ狙った範囲に収まった作品と言えるでしょう。背景が団 地、そして片親家族とくればいかにも現代風です。増設を重ねたために奇妙な順に番号がつ いたアパートが並ぶ団地は、そこに何かが存在する事を予想されます。主人公の少年に取っ て「子どもの王様」と見えた人物は何者だったのか。謎としては堅実でそれを構成する背景 は現代的という、まさに現代の少年少女向けのミステリと言えます。
2006年10月07日
けものの眠り<菊村到>
作者の後書きによれば、推理小説風長編としては最初の作品との事です。自ら本格は無理と 述べているようにサスペンスか犯罪小説かハードボイルド風の作品です。雰囲気としては、 事件記者ものに近い展開を示します。複数人による捜査と複数の謎のありそうな登場人物は 謎をあらかじめ解くには不十分な手がかりというべきですが、サスペンスとしては展開しな がら最後に収斂する基本スタイルをもっています。このような中間的な作品を読むと、作者 の執筆過程はどれがきっかけか興味があります。
2006年10月12日
支那そば館の謎<北森鴻>
解説・大悲閣千光寺住職となっているだけで一瞬引いてしまいますが、あくまでのフィクシ ョンながら登場します。主役は不思議な経歴と能力?の持ち主のアルマジロこと有馬次朗。 事件への関与は、必殺かスパイ大作戦ほどではないがいかにも面白い展開が期待できるもの です。あとは作者得意の凝ったストーリー展開が楽しませてくれます。すでに多くのシリー ズがある作者のまたまた新しく面白いシリーズですが、拘りの作者は狭い範囲では量産がで きにくいにで、複数シリーズを持つのは有効と思います。
2006年10月12日
歌うダイアモンド<ヘレン・マクロイ>
本国の出版短編集に、中編を加えた短編集です。分野は多彩としか言えないでしょう。長編 のイメージでは、本格とサスペンスですがこの短編集を読むと非常に幅広いジャンルを書い ている事が分かります。特に書かれた時代性が大きい作品が多いですが、解説では「らしい」 程度でつきはなしているので、読者自らが時代性は考慮して読まなければならない。結構難 しいと思います。たぶん、本書の内容を正確に読み取る事は非常に困難と思います。私も同 じで、単純に読めば期待はずれです。ただ何故そうなのかまで分かれば変わるでしょうが。
2006年10月12日
幻の獣事件<西東登>
動物推理シリーズといわれても、ジャンル的にピンときません。よく言えば、内容が豊富・ 逆に言えば未処理品の集まりでしょう。いつもながらの戦時中の発端は気にせずに読むと、 大きくは2つの異なる事件(謎)が併行して進みます。1つは、登山での遭難でひとりが死 ぬ謎、もうひとつは動物園の飼育員がある?動物を助けるためにした行動とその後の結果で す。前者はミステリ的にはよくある話しですが、読者には2つめの話しが提示されるので謝 った方向に誘導されやすい工夫があります。2つ目は謎のまま残ります。
2006年10月20日
星降る楽園でおやすみ<青井夏海>
舞台は保育園、夕方から夜の短い時間が舞台となります。主人公が園長をつとめる保育園は 時間制で子どもをあずかる変則的なものです。一体どのような人が利用するのか?。そこに 押し入った誘拐犯、夜までの身代金要求に事情のある親たちは異なる対応をします。ATMで は大金は引き出せないなく困り果てる。主人には内緒で困りはてる母親。しかし、内部事情 に詳しい犯行は次第に犯人を特定させます。そこそこの登場人物が、描ききられて決して深 くはない謎も充分に生かされています。
2006年10月20日
最終退行<池井戸潤>
破綻しかけの銀行の融資係の主人公、まわりには銀行の実態よりも自身の保身にばかり気を 取られる人物と現場をしらない本部の人間ばかり。そして、平気で貸し剥がしをする上司、 問題が起きれば責任を押しつけられる。ついに組織にも、自身の将来にも望みを失った主人 公が立ち上がった。沢山ある裏帳簿・スキャンダル、そして内部抗争。その中で一部の告発 に成功するがたぶん一部しかないであろう。表に流れる金塊探しが大きな謎として全体を引 っ張るが小説の展開を予測させない謎として、利いています。
2006年10月20日
判事とペテン師<ヘンリー・セシル>
「メルトン先生の犯罪学演習」以来だから実に久しぶりに読みました。ユーモア小説と呼ぶ のでしょう。謎を解くタイプでも犯罪小説でもない、まさしく異色作です。これもミステリ かと思いますが、話しとしては結構面白いです。当然に荒唐無稽むけいである事は避けられ ません。裁判で競馬の予想などする訳がないと誰しも思います。設定の面白さをストーリー に反映する事で成り立つ作品です。時々は読みたいが、このような作品ばかりになると完全 に飽きてしまうと思います。
2006年10月26日
緑一色は殺しのサイン<藤村正太>
麻雀推理と称するシリーズの1冊です。麻雀士の江守史郎と愛人?の八巻聡子が主人公の、 連作集です。1作ごとに、異なる女雀士が江守に近づいてきて事件?に巻き込まれます。は たしてその狙いは何かがストーリーとなります。江守は主人公ですが、探偵役とは言い切れ ないです。犯罪小説に近いと感じます。麻雀のいかさまもいくつか登場しますが、それが謎 の中心となっている訳ではありません。欲と女に弱い主人公が、事件の中でうろうろする作 も多くあります。
2006年10月26日
城崎・松山剣魂の殺人<大野優凛子>
警官が探偵役でトラベルミステリ風のアリバイミステリです。アリバイ崩しの本格かという とアリバイの謎が弱く、ストーリーに読者が参加しにくいので探偵と犯人の剣道家の魂の慟 哭(ネタばらしだが帯文通りです)が主体と感じます。従って、犯罪小説に近いとの印象が あります。アリバイ崩しの部分は捜査側のつめと改め(確認)が弱く、読んでいる方は確認 が出来ないので不満です。アリバイがないのと、実際に経路を使用した事の実証は別との認 識が欠けているのが残念です。従って現代風でない妙な解決しかない事になっています。
2006年10月26日
青葉城、殺人恋唄<辻真先>
可能克郎シリーズというか、イベントプロジューサー大塔寺燃・倫(関係不明??)のシリ −ズというか。そして謎も発生しますが、なぜか始まるどたばた騒ぎも中心的です。一体、 ミステリのどのジャンルになるのか、考えさせられます。謎のほうは、スーパーこと妹の、 キリコが電話で解決してくれるがこれは安楽椅子探偵か?。とにかく、イベントがある所に 取材にゆくとイベントプロジューサーがいるという展開で、全国各地が舞台になれるシリー ズです。
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自殺じゃない!<シリル・ヘアー>
解説・カバー等に色々の肩書きがある作者です。個人的には、当たり外れの少ない安定した 作品を読める作者との印象です。本作はいわゆる仕掛けのあるミステリとみる事も出来ます が、小説全体が繋がりをもった重厚な作品とも言えます。読者により印象が異なっても、特 に問題はありません。どれだけ多くの人に満足してもらえるかだけです。遺産相続問題があ るだけでリーガルという気はありませんが、捜査と謎の解明が変則的であっても本格といっ て良いと思います。謎と解明は重厚に、終わりは変則に。でも嫌味はありません。
2006年10月01日
橋本五郎探偵小説選(2)<橋本五郎>
名前は知られているが、アンソロジーで取られる作品が限られているため全貌が隠されてい る作者の、あまり知られていない部分まで見せようとする作品集の第2集です。「はとの」 (漢字が難しい)探偵物の本格から、時代物・おなじみの奇妙な味・軽妙作まで作者の守備 範囲は確実に拡がりました。よくをいえば「評論・随筆」の変わりにもう1作をと思います。 作品集が組まれなかった作者の全てに通じますが、従来の解説等にはかなり不十分な物が多 いと言えます。それらが作品を読む事の難しさ故、とするのが本集の目的と思います。
2006年10月01日
熱海ハイウエイ殺人事件<川辺豊三>
1972年発行作です。横溝ブームの直前ですが、この時代の作者は刊行面では不遇で、か ならずしも作者の意向に添わない刊行が行われているので、細部の問題点をいう事が妥当か どうか自体がいいのか分かりません。あえていうと、題名が分かりにくい・社会派的要素を 無理に加えたストーリーが無理がある・解決があまりにも急ぎ足です。このうち作者も同様 に感じている事があるかどうか興味があります。地方を舞台にし、それを生かしたミステリ は雰囲気は出ているものの十分に書き切れなかったと思います。
2006年10月07日
少年は探偵を夢見る<芦辺拓>
弁護士探偵・森江春策を駆使する作者が、森江の少年時代から弁護士時代までを年齢を追っ て描いた連作です。巻末には、著作リストと、森江の登場する作品の登場年代別リスト付き> という徹底ぶりです。勿論、事件発生年代の初期は多くは本作品集収録作品となっています。 元々がアクロバチックなストーリー展開が特徴ですが、設定が従来の作品と重複しない時代 は特に作者の好みが強く出ています。そして、妙な経歴から弁護士になる過程も無理はある が繋げています。
2006年10月07日
子どもの王様<殊能将之>
少年少女も読めるミステリ・ミステリーランドの1冊です。対象読者向けかどうか悩む作品 も多いシリーズですが、本作はほぼ狙った範囲に収まった作品と言えるでしょう。背景が団 地、そして片親家族とくればいかにも現代風です。増設を重ねたために奇妙な順に番号がつ いたアパートが並ぶ団地は、そこに何かが存在する事を予想されます。主人公の少年に取っ て「子どもの王様」と見えた人物は何者だったのか。謎としては堅実でそれを構成する背景 は現代的という、まさに現代の少年少女向けのミステリと言えます。
2006年10月07日
けものの眠り<菊村到>
作者の後書きによれば、推理小説風長編としては最初の作品との事です。自ら本格は無理と 述べているようにサスペンスか犯罪小説かハードボイルド風の作品です。雰囲気としては、 事件記者ものに近い展開を示します。複数人による捜査と複数の謎のありそうな登場人物は 謎をあらかじめ解くには不十分な手がかりというべきですが、サスペンスとしては展開しな がら最後に収斂する基本スタイルをもっています。このような中間的な作品を読むと、作者 の執筆過程はどれがきっかけか興味があります。
2006年10月12日
支那そば館の謎<北森鴻>
解説・大悲閣千光寺住職となっているだけで一瞬引いてしまいますが、あくまでのフィクシ ョンながら登場します。主役は不思議な経歴と能力?の持ち主のアルマジロこと有馬次朗。 事件への関与は、必殺かスパイ大作戦ほどではないがいかにも面白い展開が期待できるもの です。あとは作者得意の凝ったストーリー展開が楽しませてくれます。すでに多くのシリー ズがある作者のまたまた新しく面白いシリーズですが、拘りの作者は狭い範囲では量産がで きにくいにで、複数シリーズを持つのは有効と思います。
2006年10月12日
歌うダイアモンド<ヘレン・マクロイ>
本国の出版短編集に、中編を加えた短編集です。分野は多彩としか言えないでしょう。長編 のイメージでは、本格とサスペンスですがこの短編集を読むと非常に幅広いジャンルを書い ている事が分かります。特に書かれた時代性が大きい作品が多いですが、解説では「らしい」 程度でつきはなしているので、読者自らが時代性は考慮して読まなければならない。結構難 しいと思います。たぶん、本書の内容を正確に読み取る事は非常に困難と思います。私も同 じで、単純に読めば期待はずれです。ただ何故そうなのかまで分かれば変わるでしょうが。
2006年10月12日
幻の獣事件<西東登>
動物推理シリーズといわれても、ジャンル的にピンときません。よく言えば、内容が豊富・ 逆に言えば未処理品の集まりでしょう。いつもながらの戦時中の発端は気にせずに読むと、 大きくは2つの異なる事件(謎)が併行して進みます。1つは、登山での遭難でひとりが死 ぬ謎、もうひとつは動物園の飼育員がある?動物を助けるためにした行動とその後の結果で す。前者はミステリ的にはよくある話しですが、読者には2つめの話しが提示されるので謝 った方向に誘導されやすい工夫があります。2つ目は謎のまま残ります。
2006年10月20日
星降る楽園でおやすみ<青井夏海>
舞台は保育園、夕方から夜の短い時間が舞台となります。主人公が園長をつとめる保育園は 時間制で子どもをあずかる変則的なものです。一体どのような人が利用するのか?。そこに 押し入った誘拐犯、夜までの身代金要求に事情のある親たちは異なる対応をします。ATMで は大金は引き出せないなく困り果てる。主人には内緒で困りはてる母親。しかし、内部事情 に詳しい犯行は次第に犯人を特定させます。そこそこの登場人物が、描ききられて決して深 くはない謎も充分に生かされています。
2006年10月20日
最終退行<池井戸潤>
破綻しかけの銀行の融資係の主人公、まわりには銀行の実態よりも自身の保身にばかり気を 取られる人物と現場をしらない本部の人間ばかり。そして、平気で貸し剥がしをする上司、 問題が起きれば責任を押しつけられる。ついに組織にも、自身の将来にも望みを失った主人 公が立ち上がった。沢山ある裏帳簿・スキャンダル、そして内部抗争。その中で一部の告発 に成功するがたぶん一部しかないであろう。表に流れる金塊探しが大きな謎として全体を引 っ張るが小説の展開を予測させない謎として、利いています。
2006年10月20日
判事とペテン師<ヘンリー・セシル>
「メルトン先生の犯罪学演習」以来だから実に久しぶりに読みました。ユーモア小説と呼ぶ のでしょう。謎を解くタイプでも犯罪小説でもない、まさしく異色作です。これもミステリ かと思いますが、話しとしては結構面白いです。当然に荒唐無稽むけいである事は避けられ ません。裁判で競馬の予想などする訳がないと誰しも思います。設定の面白さをストーリー に反映する事で成り立つ作品です。時々は読みたいが、このような作品ばかりになると完全 に飽きてしまうと思います。
2006年10月26日
緑一色は殺しのサイン<藤村正太>
麻雀推理と称するシリーズの1冊です。麻雀士の江守史郎と愛人?の八巻聡子が主人公の、 連作集です。1作ごとに、異なる女雀士が江守に近づいてきて事件?に巻き込まれます。は たしてその狙いは何かがストーリーとなります。江守は主人公ですが、探偵役とは言い切れ ないです。犯罪小説に近いと感じます。麻雀のいかさまもいくつか登場しますが、それが謎 の中心となっている訳ではありません。欲と女に弱い主人公が、事件の中でうろうろする作 も多くあります。
2006年10月26日
城崎・松山剣魂の殺人<大野優凛子>
警官が探偵役でトラベルミステリ風のアリバイミステリです。アリバイ崩しの本格かという とアリバイの謎が弱く、ストーリーに読者が参加しにくいので探偵と犯人の剣道家の魂の慟 哭(ネタばらしだが帯文通りです)が主体と感じます。従って、犯罪小説に近いとの印象が あります。アリバイ崩しの部分は捜査側のつめと改め(確認)が弱く、読んでいる方は確認 が出来ないので不満です。アリバイがないのと、実際に経路を使用した事の実証は別との認 識が欠けているのが残念です。従って現代風でない妙な解決しかない事になっています。
2006年10月26日
青葉城、殺人恋唄<辻真先>
可能克郎シリーズというか、イベントプロジューサー大塔寺燃・倫(関係不明??)のシリ −ズというか。そして謎も発生しますが、なぜか始まるどたばた騒ぎも中心的です。一体、 ミステリのどのジャンルになるのか、考えさせられます。謎のほうは、スーパーこと妹の、 キリコが電話で解決してくれるがこれは安楽椅子探偵か?。とにかく、イベントがある所に 取材にゆくとイベントプロジューサーがいるという展開で、全国各地が舞台になれるシリー ズです。
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2006/10に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。