推理小説読書日記(2006/09)
2006年09月01日
カーの復讐<二階堂黎人>
少年少女にも読めるミステリ・シリーズのミステリーランドの1作です。作者名と題名から 密室でおなじみのデイクスン・カーを思い浮かべる人もいるかと思いますが、カーは古代の 呪いの象徴で関係ありません。主人公はルパンで、新しく見つかった話しを翻訳したという 内容設定です。ちなみにこのシリーズでは英語名もついていますが、本作は上記からフラン ス語名です。呪いと不可能犯罪が少年少女向けかどうかは分かりませんが、ルパンを登場さ せて取っつきやすくする狙いは成功でしょう。
2006年09月01日
黒の烙印<鷲尾三郎>
昭和35年の本でかなり痛みがひどい時期です。主人公のカメラマンをはじめ複数の新聞記 者や警察官が登場して、誰が探偵役かぼけて感じるのは残念です。かなり大胆なトリックを 仕掛けてあるものの、登場人物や伏線・証拠が後半に増えてゆく構成で、本格味よりサスペ ンス小説に近いと感じます。勿論、捜査陣や主人公が名探偵だと作品が成り立たない弱みが あるので、作者の技巧との言えます。現在の小説でも言われますが主人公が度々地方に出か けるのはいかにも小説的な都合と感じます。
2006年09月06日
震度0(ゼロ)<横山秀夫>
時は阪神大震災の時、地方の警察署で救助派遣の準備を行っている時に、要職の警官が行方 不明になります。本来ならば、外部の災害救助に力を注ぐか、公に行方捜査をするべきでし ょうが、なんとその警察署の上層部では権力争いや過去の自身の問題を表面化させない事で ほとんどの人間があくせくします。横山秀夫の小説は「警察小説」というよりは、警察を舞 台にした汚職や腐敗を描く、全く異なるものでしょう。警察小説が進化したのか、他のジャ ンル(社会派?)が舞台を警察にしたものか、独自の世界です。
2006年09月06日
世紀末大(グラン)バザール六月の雪<日向旦>
第15回鮎川哲也賞佳作、理由は鮎川賞として扱う作品か判断がつかなかったから。そんな ・・・。世紀末が来ると信じている主人公がたどりついたのは、泉州のあるモール?、そこ は周囲から特別扱いされる不思議な所です。ヴァンダインやモーセもびっくりの十戒があり 何故かみんな信じている。そして色々と事件が起きて、主人公は妙な助手とともに探偵を始 めますが・・。個々の事件は簡単に解決するように見えますが、一体この不思議な世界と小 説は一体どのような結末を迎えるやら。確かに面白い。鮎川賞としては???。わからない。
2006年09月06日
救いの死<ミルワード・ケネデイ>
高校の時に英語の副読本で「台所の死」を読んだ記憶があるがそれ以来です。長編ですし、 初読といえるでしょう。前書きや、手記形式を見ると何かを予想させます。解説が丁寧で分 かりやすいが、勿論先に読む訳にはゆきません。しかし、これが1931年とすると、日本 での試みの時期が複雑に感じます。また、驚かすより論理展開のミステリを好む私にはまず この作品が紹介される事が複雑です。バークリーのように結果的にほとんどの作品が訳され るならば別ですが、それも無いでしょうから。
2006年09月12日
九連宝燈殺人事件<藤村正太>
作者に「麻雀推理」シリーズがあるのはよく知られていますが、殆どが短編です。本連作集 も表題作を含む短編集です。ただし前作が麻雀をテーマにしています。戦後直ぐからのミス テリ作者ですが、作風はかなり広いです。それゆえ、特定のテーマを多数書く事も可能だっ たと思います。しかし、テーマが同じでミステリ味を持たせてとなると、構成が類似化する 事は避けられません。愛すべきマンネリか、退屈なマンネリかは読者により異なるでしょう。 私は麻雀は点数も数えられない程度ですのでよき読者にはなれません。
2006年09月12日
落陽曠野に燃ゆ<伴野朗>
新聞社の支局勤務を生かした、東北・海外(中国・東アジア)を舞台にした作品が多いです。 本作は日中戦争(満州)を舞台にした冒険小説です。実在の人物や歴史事実?を元に、その 廻りにたむろする多数の裏の登場人物の出会いと運命を描いています。この分野では、歴史 を動かすいくつかのグループや国の謀略戦と、その影で生まれる人物の出会いと別れ・死等 のほとんどが悲劇的に終わるストーリーが併行して描かれています。本作も同様ですが、慣 れた職人芸を見事に見せてくれます。このジャンル好きの人は見逃せません。
2006年09月12日
ひとがた流し<北村薫>
作家には執筆する中心分野がありますが、守備範囲を広く持つ場合も多くあります。本作者 は本格原理主義と言われる事もありますが、あくまでも中心であって守備範囲は広いと言え ます。本作は、ミステリではありません。本作者のミステリ作品の中には登場人物に心が、 同期して激しく感情移入する場合がしばしばあると言われます。それがひとたびミステリか ら離れると隠す事は無くなるので、登場人物が作者の思いのままに動く事になります。石川 千波のみならず、他の登場人物の誰かにきっとあなたも感情移入するでしょう。
2006年09月15日
出口のない部屋<岸田るり子>
2005年度鮎川哲也賞受賞作家の第2作目です。題名と帯からなにやら密室不可能犯罪を 思わせます、しかし・・・・。閉じこめられた3人は偶然か必然か?、これはミッシングリ ンク問題だ、しかし・・・・。そして結末は実は、XXXXテーマとなります。もっと目次を慎 重に理解しようとしておれば・・・。本格ミステリ故に詳しく書けませんが変化球か魔球か と思いがちですが、じっくり振り返れば、勝手に思いこまされているだけで結構直球とも言 えます。受賞作と異なるアプローチは、次作を期待させます
2006年09月15日
死が招く<ポール・アルテ>
「第四の扉」で紹介された、「フランスのカー」の2番目の訳書です。現存の作者で発表数 を考えると年1作の訳の出版ペースは少ないでしょう。今までの訳を見る限り、短くコンパ クトにまとまった作品が多い様なので、読むのも楽であるし既に固定ファンがついていると 思います。苦労は分散させると言う鉄則に基づく最後の密室の謎の説明は、このジャンルの 作品の常套でありかつ見せ所です。あくまでも、オーソドックスに書かれた作品は妙に贅肉 をつけた作品が多い最近では逆に新鮮とも感じます。
2006年09月15日
凍るタナトス<柄刀一>
近未来を、想定した死体の冷凍保存団体を舞台にした小説です。SF的設定のミステリも小説 も読者に舞台を説明するのに、かなりのページ数と工夫を行います。本作は残念ながらそれ がかなり不足しています。いわゆる前提知識をあいまいにしたまま進める小説で、アンフェ アと言われても仕方がないでしょう。全部を広く説明すると退屈ですし、キーとなる部分を 強調して説明すれば謎が浅くなるでしょう。非常に難しいジャンルにしては、扱いがいい加 加減でまだこの背景を書くのは力不足と感じます。
2006年09月18日
覆面の花<大倉てる子>
名前は「火」へんに「華」ですが、機種依存文字です。戦前・戦後にわたって活躍した作家 ですがあえて言えば「犯罪小説」でしょうか。今の目でみてあまり特徴は感じません。ただ し作品自体が入手困難で、ほとんど読んでいないのでたたまかも知れません。覆面の花は、 5作からなる作品集です。テーマも舞台も異なります。警部が登場する作品も、謎の解明と いうよりストーリー展開を読ませるイメージです。落ちのある話し、ユーモア落ちなどは当 時の主流だったと思います。従って戦前の本格派は少ないと言われる所以です。
2006年09月18日
透明人間の納屋<島田荘司>
ミステリーランド(少年少女向けで大人も対象)の第1回配本です。ミステリーのシリーズ が企画されると第1回に起用され作品を提供できる創作力には感心します。小説家は作品を 発表し続ける事は大きな事と感じます。作品は、作者がしばしば書く不可能犯罪ものと歴史 の経過を背景にし、社会的な問題をも取り入れています。これは普段と変わりません。ただ 背景が現在での生々しい問題ですので、少年少女向けとして適切な難度かどうかは微妙でし ょう。
2006年09月18日
魔夢十夜<小森健太朗>
島田:綾辻からはじまる、いわゆる新本格の初期にそれを否定する意見に「舞台が学園もの ばかり」「素人探偵の推理ゲームもどきばかり」があります。登場した作家の経験・背景・ 知識から派生した得意分野が重なったものです。最近でも類似作品は多くありますが時間と 共に内容も変わっています。本作は、舞台はいわゆる学園ものですし、主人公の記述者も学 生です。ただ、異なるのは本格的な謎解きであり、探偵役自体も最後まで分からない設定で す。背景にある大人の世界との化学反応は深く、動機のひとつはまさに本格の世界です。
2006年09月24日
咸臨丸風雲録<海渡英祐>
本格ミステリに歴史上の実在人物を登場させるのは現在では、一種のはやりともいえます。 長編本格ミステリでこの設定を最大限に生かした作品のひとつが、この作者の「伯林188 8年」です。この作品での設定上の最大の売りはねたばれの為にかけませんが、その後の作 品に少なからぬ影響を与えたと思います。作者自身はこの設定方法を「ペテルスブルグ19 00年」や本作で使用しています。本作は幕末に通商交渉のためアメリカへ航海した咸臨丸 の船上を中心に進みます。設定に若干のフェイントを加えています。
2006年09月24日
新釈 寛永御前試合<沙羅双樹>
伝奇的時代小説でミステリにはいるかどうかは疑問ですが取り上げます。御前試合を設定し て、そこに実在・架空・有名・無名の剣客が次々と登場して試合をします。その合間に併行 して、個々の登場人物の逸話が書かれます。複数の女流剣士の登場は、如何にも伝奇的な色 あいがあります。実際は同じ時代に多数の有名剣客の登場はありえないですが、そこは深く 追求しないのが、このての小説の読み方です。中心は柳生対由比正雪ですが、両者をしたう 女性の登場も定番です。
2006年09月24日
レディ・モリーの事件簿<バロネス・オルツイ>
ミステリ歴史上の最初の職業女性探偵(警察官)の登場作です。複数の短編からなる連作で 最後に長編的(実際はつながりは弱いですが)まとまりをもつタイプの作品集です。現在で も非常にはやっていますが、1909年という書かれた年はいかにも昔と感じます。実際は 複数の短編どうしで繋がりを持たせるのはミステリでは最も早くから行われていました。主 人公は意味正体不明で登場しますが、筆記者とふたりで色々な事件特にスコットランドヤー ドでも解決が難しい物が廻ってきます。直感的な推理方法ですが是非読んでおきたい1冊です。
2006年09月27日
多摩湖・洞爺湖殺人ライン<深谷忠記>
おなじみの黒江荘・笹谷美緒シリーズの1作です。最近はトリックが小型で、荘が「考える 人」にならなくても謎が解けそうです。難解な謎だけが良い事はありませんが、それを支え る小説自体が長くなっているので全体にどうしても薄みに感じます。多摩はこの作者の作品 に度々登場しますし、洞爺湖はアリバイ崩しのミステリの定番です。千歳空港を起点とした 場合と青森から札幌着の鉄道を利用したときの丁度トリック向きの場所になっています。た だ本作の題名は都筑道夫などはアンフェアだといいかねない所があります。
2006年09月27日
アルファベット・パズラーズ<大山誠一郎>
短編2作と中編1作の連作集です。まっこう勝負の本格ですので、内容に少しでもふれると 慣れた人はストーリーやトリックの種類を予想しかねないです。設定や進行が、色々な前例 がありますが、あるものは偽であるものは、一部は本当です。作者は微妙な所で、本格マニ アを相手にトリックを仕掛けています。逆に普段はミステリ特に本格を読まない人には、ど こもひっかかる事も仕掛けを読む事もないと思われます。従って、本作は読者の本格マニア 度を調べる作品といえるでしょう。
2006年09月27日
赤いランドセル<斎籐澪>
第1回横溝正史賞受賞作家で、実際に横溝自身の生前に受賞した唯一の作家です。本作も、 底辺に流れる物は横溝と同じ部分がある。横溝自身が執筆を励ました事が解説で述べられて いるが、横溝賞の第1回受賞者として満足し期待していたと思う。血のつながり、過去の事 件ないしは記憶が、作品の底にながれ続け収束への重要な手がかりとなる。過去の事件は多 くの作品で多くの作者で書かれているが、これが明らかにされる解決編を書きたいために小 説全体が構成されている本作ほどの拘りは多くない。
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カーの復讐<二階堂黎人>
少年少女にも読めるミステリ・シリーズのミステリーランドの1作です。作者名と題名から 密室でおなじみのデイクスン・カーを思い浮かべる人もいるかと思いますが、カーは古代の 呪いの象徴で関係ありません。主人公はルパンで、新しく見つかった話しを翻訳したという 内容設定です。ちなみにこのシリーズでは英語名もついていますが、本作は上記からフラン ス語名です。呪いと不可能犯罪が少年少女向けかどうかは分かりませんが、ルパンを登場さ せて取っつきやすくする狙いは成功でしょう。
2006年09月01日
黒の烙印<鷲尾三郎>
昭和35年の本でかなり痛みがひどい時期です。主人公のカメラマンをはじめ複数の新聞記 者や警察官が登場して、誰が探偵役かぼけて感じるのは残念です。かなり大胆なトリックを 仕掛けてあるものの、登場人物や伏線・証拠が後半に増えてゆく構成で、本格味よりサスペ ンス小説に近いと感じます。勿論、捜査陣や主人公が名探偵だと作品が成り立たない弱みが あるので、作者の技巧との言えます。現在の小説でも言われますが主人公が度々地方に出か けるのはいかにも小説的な都合と感じます。
2006年09月06日
震度0(ゼロ)<横山秀夫>
時は阪神大震災の時、地方の警察署で救助派遣の準備を行っている時に、要職の警官が行方 不明になります。本来ならば、外部の災害救助に力を注ぐか、公に行方捜査をするべきでし ょうが、なんとその警察署の上層部では権力争いや過去の自身の問題を表面化させない事で ほとんどの人間があくせくします。横山秀夫の小説は「警察小説」というよりは、警察を舞 台にした汚職や腐敗を描く、全く異なるものでしょう。警察小説が進化したのか、他のジャ ンル(社会派?)が舞台を警察にしたものか、独自の世界です。
2006年09月06日
世紀末大(グラン)バザール六月の雪<日向旦>
第15回鮎川哲也賞佳作、理由は鮎川賞として扱う作品か判断がつかなかったから。そんな ・・・。世紀末が来ると信じている主人公がたどりついたのは、泉州のあるモール?、そこ は周囲から特別扱いされる不思議な所です。ヴァンダインやモーセもびっくりの十戒があり 何故かみんな信じている。そして色々と事件が起きて、主人公は妙な助手とともに探偵を始 めますが・・。個々の事件は簡単に解決するように見えますが、一体この不思議な世界と小 説は一体どのような結末を迎えるやら。確かに面白い。鮎川賞としては???。わからない。
2006年09月06日
救いの死<ミルワード・ケネデイ>
高校の時に英語の副読本で「台所の死」を読んだ記憶があるがそれ以来です。長編ですし、 初読といえるでしょう。前書きや、手記形式を見ると何かを予想させます。解説が丁寧で分 かりやすいが、勿論先に読む訳にはゆきません。しかし、これが1931年とすると、日本 での試みの時期が複雑に感じます。また、驚かすより論理展開のミステリを好む私にはまず この作品が紹介される事が複雑です。バークリーのように結果的にほとんどの作品が訳され るならば別ですが、それも無いでしょうから。
2006年09月12日
九連宝燈殺人事件<藤村正太>
作者に「麻雀推理」シリーズがあるのはよく知られていますが、殆どが短編です。本連作集 も表題作を含む短編集です。ただし前作が麻雀をテーマにしています。戦後直ぐからのミス テリ作者ですが、作風はかなり広いです。それゆえ、特定のテーマを多数書く事も可能だっ たと思います。しかし、テーマが同じでミステリ味を持たせてとなると、構成が類似化する 事は避けられません。愛すべきマンネリか、退屈なマンネリかは読者により異なるでしょう。 私は麻雀は点数も数えられない程度ですのでよき読者にはなれません。
2006年09月12日
落陽曠野に燃ゆ<伴野朗>
新聞社の支局勤務を生かした、東北・海外(中国・東アジア)を舞台にした作品が多いです。 本作は日中戦争(満州)を舞台にした冒険小説です。実在の人物や歴史事実?を元に、その 廻りにたむろする多数の裏の登場人物の出会いと運命を描いています。この分野では、歴史 を動かすいくつかのグループや国の謀略戦と、その影で生まれる人物の出会いと別れ・死等 のほとんどが悲劇的に終わるストーリーが併行して描かれています。本作も同様ですが、慣 れた職人芸を見事に見せてくれます。このジャンル好きの人は見逃せません。
2006年09月12日
ひとがた流し<北村薫>
作家には執筆する中心分野がありますが、守備範囲を広く持つ場合も多くあります。本作者 は本格原理主義と言われる事もありますが、あくまでも中心であって守備範囲は広いと言え ます。本作は、ミステリではありません。本作者のミステリ作品の中には登場人物に心が、 同期して激しく感情移入する場合がしばしばあると言われます。それがひとたびミステリか ら離れると隠す事は無くなるので、登場人物が作者の思いのままに動く事になります。石川 千波のみならず、他の登場人物の誰かにきっとあなたも感情移入するでしょう。
2006年09月15日
出口のない部屋<岸田るり子>
2005年度鮎川哲也賞受賞作家の第2作目です。題名と帯からなにやら密室不可能犯罪を 思わせます、しかし・・・・。閉じこめられた3人は偶然か必然か?、これはミッシングリ ンク問題だ、しかし・・・・。そして結末は実は、XXXXテーマとなります。もっと目次を慎 重に理解しようとしておれば・・・。本格ミステリ故に詳しく書けませんが変化球か魔球か と思いがちですが、じっくり振り返れば、勝手に思いこまされているだけで結構直球とも言 えます。受賞作と異なるアプローチは、次作を期待させます
2006年09月15日
死が招く<ポール・アルテ>
「第四の扉」で紹介された、「フランスのカー」の2番目の訳書です。現存の作者で発表数 を考えると年1作の訳の出版ペースは少ないでしょう。今までの訳を見る限り、短くコンパ クトにまとまった作品が多い様なので、読むのも楽であるし既に固定ファンがついていると 思います。苦労は分散させると言う鉄則に基づく最後の密室の謎の説明は、このジャンルの 作品の常套でありかつ見せ所です。あくまでも、オーソドックスに書かれた作品は妙に贅肉 をつけた作品が多い最近では逆に新鮮とも感じます。
2006年09月15日
凍るタナトス<柄刀一>
近未来を、想定した死体の冷凍保存団体を舞台にした小説です。SF的設定のミステリも小説 も読者に舞台を説明するのに、かなりのページ数と工夫を行います。本作は残念ながらそれ がかなり不足しています。いわゆる前提知識をあいまいにしたまま進める小説で、アンフェ アと言われても仕方がないでしょう。全部を広く説明すると退屈ですし、キーとなる部分を 強調して説明すれば謎が浅くなるでしょう。非常に難しいジャンルにしては、扱いがいい加 加減でまだこの背景を書くのは力不足と感じます。
2006年09月18日
覆面の花<大倉てる子>
名前は「火」へんに「華」ですが、機種依存文字です。戦前・戦後にわたって活躍した作家 ですがあえて言えば「犯罪小説」でしょうか。今の目でみてあまり特徴は感じません。ただ し作品自体が入手困難で、ほとんど読んでいないのでたたまかも知れません。覆面の花は、 5作からなる作品集です。テーマも舞台も異なります。警部が登場する作品も、謎の解明と いうよりストーリー展開を読ませるイメージです。落ちのある話し、ユーモア落ちなどは当 時の主流だったと思います。従って戦前の本格派は少ないと言われる所以です。
2006年09月18日
透明人間の納屋<島田荘司>
ミステリーランド(少年少女向けで大人も対象)の第1回配本です。ミステリーのシリーズ が企画されると第1回に起用され作品を提供できる創作力には感心します。小説家は作品を 発表し続ける事は大きな事と感じます。作品は、作者がしばしば書く不可能犯罪ものと歴史 の経過を背景にし、社会的な問題をも取り入れています。これは普段と変わりません。ただ 背景が現在での生々しい問題ですので、少年少女向けとして適切な難度かどうかは微妙でし ょう。
2006年09月18日
魔夢十夜<小森健太朗>
島田:綾辻からはじまる、いわゆる新本格の初期にそれを否定する意見に「舞台が学園もの ばかり」「素人探偵の推理ゲームもどきばかり」があります。登場した作家の経験・背景・ 知識から派生した得意分野が重なったものです。最近でも類似作品は多くありますが時間と 共に内容も変わっています。本作は、舞台はいわゆる学園ものですし、主人公の記述者も学 生です。ただ、異なるのは本格的な謎解きであり、探偵役自体も最後まで分からない設定で す。背景にある大人の世界との化学反応は深く、動機のひとつはまさに本格の世界です。
2006年09月24日
咸臨丸風雲録<海渡英祐>
本格ミステリに歴史上の実在人物を登場させるのは現在では、一種のはやりともいえます。 長編本格ミステリでこの設定を最大限に生かした作品のひとつが、この作者の「伯林188 8年」です。この作品での設定上の最大の売りはねたばれの為にかけませんが、その後の作 品に少なからぬ影響を与えたと思います。作者自身はこの設定方法を「ペテルスブルグ19 00年」や本作で使用しています。本作は幕末に通商交渉のためアメリカへ航海した咸臨丸 の船上を中心に進みます。設定に若干のフェイントを加えています。
2006年09月24日
新釈 寛永御前試合<沙羅双樹>
伝奇的時代小説でミステリにはいるかどうかは疑問ですが取り上げます。御前試合を設定し て、そこに実在・架空・有名・無名の剣客が次々と登場して試合をします。その合間に併行 して、個々の登場人物の逸話が書かれます。複数の女流剣士の登場は、如何にも伝奇的な色 あいがあります。実際は同じ時代に多数の有名剣客の登場はありえないですが、そこは深く 追求しないのが、このての小説の読み方です。中心は柳生対由比正雪ですが、両者をしたう 女性の登場も定番です。
2006年09月24日
レディ・モリーの事件簿<バロネス・オルツイ>
ミステリ歴史上の最初の職業女性探偵(警察官)の登場作です。複数の短編からなる連作で 最後に長編的(実際はつながりは弱いですが)まとまりをもつタイプの作品集です。現在で も非常にはやっていますが、1909年という書かれた年はいかにも昔と感じます。実際は 複数の短編どうしで繋がりを持たせるのはミステリでは最も早くから行われていました。主 人公は意味正体不明で登場しますが、筆記者とふたりで色々な事件特にスコットランドヤー ドでも解決が難しい物が廻ってきます。直感的な推理方法ですが是非読んでおきたい1冊です。
2006年09月27日
多摩湖・洞爺湖殺人ライン<深谷忠記>
おなじみの黒江荘・笹谷美緒シリーズの1作です。最近はトリックが小型で、荘が「考える 人」にならなくても謎が解けそうです。難解な謎だけが良い事はありませんが、それを支え る小説自体が長くなっているので全体にどうしても薄みに感じます。多摩はこの作者の作品 に度々登場しますし、洞爺湖はアリバイ崩しのミステリの定番です。千歳空港を起点とした 場合と青森から札幌着の鉄道を利用したときの丁度トリック向きの場所になっています。た だ本作の題名は都筑道夫などはアンフェアだといいかねない所があります。
2006年09月27日
アルファベット・パズラーズ<大山誠一郎>
短編2作と中編1作の連作集です。まっこう勝負の本格ですので、内容に少しでもふれると 慣れた人はストーリーやトリックの種類を予想しかねないです。設定や進行が、色々な前例 がありますが、あるものは偽であるものは、一部は本当です。作者は微妙な所で、本格マニ アを相手にトリックを仕掛けています。逆に普段はミステリ特に本格を読まない人には、ど こもひっかかる事も仕掛けを読む事もないと思われます。従って、本作は読者の本格マニア 度を調べる作品といえるでしょう。
2006年09月27日
赤いランドセル<斎籐澪>
第1回横溝正史賞受賞作家で、実際に横溝自身の生前に受賞した唯一の作家です。本作も、 底辺に流れる物は横溝と同じ部分がある。横溝自身が執筆を励ました事が解説で述べられて いるが、横溝賞の第1回受賞者として満足し期待していたと思う。血のつながり、過去の事 件ないしは記憶が、作品の底にながれ続け収束への重要な手がかりとなる。過去の事件は多 くの作品で多くの作者で書かれているが、これが明らかにされる解決編を書きたいために小 説全体が構成されている本作ほどの拘りは多くない。
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2006/09に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。