推理小説読書日記(2006/07)
2006年07月02日
オタカラウォーズ<はやみねかおる>
作者のデビュー当時の作品です。もちもん、少年少女向けです。ミステリという枠にとらわ れずにSFとも伝奇的とも言える発想に、なじみやすい特徴的なキャラクターでなおかつ謎に 中心になる子供をはいした作品です。奇想天外な内容は、もし通常の作品ならばバカミス等 と呼ばれかねませんが、これが対象を子供向けとすると夢と創造力を与える楽しい作品と思 えます。文体・ユーモアなど作者の持っている資質にあうジャンルであれば、マイナスがプ ラスに変わる事がよく分かります。
2006年07月02日
愚者のエンドロール<米澤穂信>
こちらも若年層向けの作品ですが、年齢層は高くなります。一時、通常の大人向けミステリ の舞台を学校・学生にした作品が多発して、かなり悪評が流れた事があります。本作の様に 対象読者年代と登場人物の年代が同じ場合は、純粋の青春ミステリとして読むことが出来ま す。古典部が何故か映画制作の謎に取り組みますが、謎の設定自体はかなり高度とも言えま す。重要人物の性格が書き込まれているかどうかは微妙ですが、半メタ的な内容は短い目の 長編とバランスは良いと思います。
2006年07月05日
レストア<太田忠司>
多数の魅力的なシリーズ・キャラクターを持つ作者ですが、本作品集は新しいキャラクター ・オルゴール修復師・雪永鋼 が登場します。ただ完結的に終わっているので、1冊のみの 主人公の可能性が高いです。オルゴールに入れられている曲を題名にした作品ですが、オル ゴールと人間の係わり、人間嫌い?と他人との係わりが描かれています。人間の本来の内面 は必ずしも表面にでていない事がしだいに分かってきます。人間の謎・過去の謎が語られて ゆくとともに現実の謎も解明されてゆきます。
2006年07月05日
ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎<アントニイ・バークリー>
原題の直訳ですが、それ自体に複数の意味があると良い訳がなく、仕方がないので直訳のよ うです。中途半端な解釈よりも良いと思います。題名同様に、内容も読めば読むほど複雑で す。むしろシンプルに楽しく読んで、深く考えないほうが無難かもしれません。主人公=探 偵でも、名探偵にあらずいや名探偵になったり迷探偵になったり得体がしれません。あわれ 読者は、主人公も作者も信じる事ができずに、事件の進行に身をまかす事になります。現在 では「メタ・ミステリ」とか言いますがはるか昔はどのように言われたのでしょうか。
2006年07月08日
花あらし<阿刀田高>
この作者の他の多くの著書と同様に、多くの(この本は12作)短編からなる作品集です。 シリーズでもない純粋の短編集です。ノン・シリーズ短編は単行本になりにくいと言われま すがこの作者には無縁のようです。同じ年に異なる短編で「直木賞」と「日本推理作家協会 賞」を受賞したように安定したレベルの作品が多数ある作者です。謎のある話しも含まれて いますが、トリックという程の独創性や複雑さはなく、ストーリー上の添え物と考えた方が 良いでしょう。謎の深さや作品の長さは、多くは無縁な作者です。
2006年07月08日
螺旋(スパイラル)<山田正紀>
SF界の著名作家が何時の頃からか、ミステリ界の中心に位置していました。次々発表される 作品群と、狭いジャンルにとらわれないどこか掴み所がない作品群は色々なジャンルの人か ら一斉に注目をあつめました。本作もその過程の1冊です。長い長編ですが、この前後にも たてつずけに大作を発表しているので驚きます。分かりやすい機械的トリックを説明する紹 介文は単に書きやすいだけで、本作の内容は多岐多様であり、どこに注目するかは全て読者 にゆだねられます。幻想・SF的なものを見つける人もいるでしょう。
2006年07月14日
一角ナマズの謎<新庄節美>
ねずみ探偵チビーと助手の猫のニヤットのシリーズです。動物の世界とはいえ、ネズミにい つもバカにされながら使われている猫(私)はいつもぼやいています。いわゆる、ジュブナ イルですが、「読者への挑戦」もある本格ミステリです。童謡の見立て殺人も、いわゆる本 格の定番です。そして底なし沼の登場となれば、何かのパロデイーかとも思いかねませんが 内容はユーモアを含むコンパクトにまとまったものです。複数の作品が書かれていますが、 現在は入手困難なのが残念です。
2006年07月14日
アルファベット・ヒックス<レックス・スタウト>
元弁護士の運転手が探偵を務めます。アルファベットを並べた肩書きの名刺を複数持ってい て適当に、何の略号かをこじつける事から題名のニックネームがあります。主人公は違って も、ユーモアとテンポの良いストーリー展開は変わりません。いまは古い人間しか分からな いかも知れない物がトリックの中心の小物として登場します。そして、昔から今まで形を変 えて使われ続けている有名なトリックが登場します。書かれた時代も考慮して読む必要があ るといえるでしょう。
2006年07月17日
魔女殺人<藤村正太>
ほとんど知れていない短編集です。1975年発行です。「異色推理」の肩書き通り、複数 のジャンルの組み合わさった作品群です。本格的な味もあれば、犯罪小説ともいえます、落 ちのあるコントとも見られますし、題材的には風俗・異常性愛物とも言えます。社会派要素 を上げるのはやや無理かとは思います。今となれば、これらが書かれた背景は当時を知る人 しか分からないと思います。元々、本格の作者ですので、まさしく異色推理(広義の推理) と呼ぶしかないのでしょう。
2006年07月17日
最後の願い<光原百合>
この作者の初長編です。ただし、連作が繋がり最後で1つの長編になる形を取っていますの で連作集とする人もいるでしょう。劇団を作ろうと考えた男が仲間を捜す過程で出会う個人 に関する事件や謎を解決し仲間が増えてゆくのが全体の流れです。劇団には、キャスト・ス タッフとして色々な担当者が必要です。従って色々な出会いがあります、そこには大きな謎 は無くても色々な種類のドラマ・キャラクター・謎が存在できます。そしてそれぞれが劇団 に参加する事になる何かがあります。
2006年07月20日
殺人・津軽艶笑譚<加藤公彦>
たぶん絶版本です。作者は雑誌・幻影城の新人コンクールで第二回佳作に「殺人・弥三郎節 」でなりました。本書は、この作品を含む、中編−短編3作からなります。全て青森を舞台 にしたミステリです。著書は本書と長編「新撰組殺人事件」の2冊のみです。作品は地味な 本格と言ってといと思います。青森が舞台の作品は、会話に方言が使われていますが、全体 として読みやすく、飛躍もないが退屈することもない手堅い作風と感じます。当時すでに病 気療養中だったという事でわずかな作品を残すのみとなった様です。
2006年07月20日
ソルトマーシュの殺人<グラディス・ミッチャル>
日本ではトラベルミステリを代表として、実在・架空の地名が題名につく作品は非常に多い です。そして、それが全く違和感がありません。海外の作品でも同様に地名がつく作品が、 ある筈ですが残念ながら日本人にはよほど有名な名称でなければ、地名か人名か他のなにか さえ分かりません。本書のように村の名前では、読まなければ分かりません。やや風変わり な女性が探偵役を行います。文章は読みやすいと思いますが、内容は結果的には分かり難い と感じます。読んでいる時はすらすら進むので、何という感じです。
2006年07月23日
月の扉<石持浅海>
本格ミステリにサスペンスの要素を加える試みの歴史は古い。一番多いのが、探偵側が時間 ・場所・心理的等の制約の中にある状況です。本作もそのひとつですが、書かれたのは最近 です。目的が不明のハイジャック中に起きた殺人事件、殺人事件の解明にはハイジャック犯 や航空機内の人間には大きな制約があります。外部から接する警察等には、ハイジャック自 体が謎に包まれています。複数犯のハイジャック犯の中にも、他のメンバーに対する不透明 部分が存在します。古いミステリを現代のハイジャックと警察組織で再構成した作品です。
2006年07月23日
バイアグラ殺人事件<由良三郎>
医学者の作家にその時の話題のテーマミステリを書いてもらおうとの、出版社の意向の様で すが、たぶん予想と異なる内容になったと推測します。バイアグラをテーマにすると、単純 な医学ミステリではなく、毒にも薬にもなる曖昧さ・関係する人間のコンプレックスなどの 精神的な問題がついてまわります。そして、稀少品時代の密輸入等の入手の問題もあります ので、ミステリにする要素が揃っていると言えます。そして作者も医学ミステリよりも他の 部分に眼をつけました。先端題材の持つ時間的な問題は当然あります。
2006年07月26日>
偽装報告<高任和夫>
経済・金融・外交等の小説は、書き方によりサスペンスを中心にしたミステリの要素を持た す事が出来ます。本書もそれにあたります。自動車業界を中心にした、異常報告隠し>リコ −ルのがれの偽装報告が崩壊してゆく過程をサスペンスタッチで描いています。時々、誰が 如何にという謎を挟む事でミステリ要素も含む事になります。ただ、同じ分野でも、ミステ リを全面に押し出している作品と比べると、作品の読み方を変える必要があります。勿論、 ミステリとしての評価も同様です。
2006年07月26日
配達あかずきん<大崎梢>
日常の謎派と呼ばれる本格ミステリの1分野です。論理は存在しますが、謎を解いて見ろと いうような挑戦的な面はありません。当然ながら、替わるプラスアルファが要求されます。 書物・書店ミステリといえば紀田順一郎をはじめ前例はありますが、普通の書店の店員が、 シリーズで謎を解いてゆくのはあるいは初めてでしょうか。謎は、たわいのない暗号もどき から、恋愛もの、隠された大小の犯罪をあばくものまで多彩です。実際の本の題名が登場す るので、新刊を含めてどの程度出版本の知識があるかで楽しみ方も変わるでしょう。
2006年07月29日
アイスワールド<ハル・クレメント>
クレメントのSFは、地球外生物との遭遇がテーマになる場合がほとんどです。宇宙SFは大抵 は同様です。この場合、地球人から見た小説と、宇宙人から見た小説があります。クレメン トは初期は、後者(地球人以外から見た小説)が多いです。本書もそれにあたります。主人 公が地球人に似ているのはあるていど仕方がないと思います。さて、アイスワールドとは何 か、主人公と地球人との遭遇で何が起きるのか、それが本書の楽しみです。書かれた時代で の知識と未来予想に基づいているので、今でも??部分があるのは探す楽しみと思います。
2006年07月29日
怪盗グリフィン、絶体絶命<法月綸太郎>
本格ロジックミステリの作者が書いた、少年少女向けの怪盗談です。全体のストーリーは冒 険ですが、細部はどんでんかえしのロジックと伏線とが積み重なっています。ストーリーの 必然性よりは冒険談を優先させています。この点が普段の作者の作品と異なる所です。敵と 味方と第3勢力が、混ざってあるいは異なる振りをして登場するので、騙されないように推 理して読むのも、流れに乗って騙されながら読むのも楽しいと思います。でも、このたぐい の話しは再度あるいは続けて書かれるのか、1回だけかが一番気になります。
←日記一覧へ戻る
オタカラウォーズ<はやみねかおる>
作者のデビュー当時の作品です。もちもん、少年少女向けです。ミステリという枠にとらわ れずにSFとも伝奇的とも言える発想に、なじみやすい特徴的なキャラクターでなおかつ謎に 中心になる子供をはいした作品です。奇想天外な内容は、もし通常の作品ならばバカミス等 と呼ばれかねませんが、これが対象を子供向けとすると夢と創造力を与える楽しい作品と思 えます。文体・ユーモアなど作者の持っている資質にあうジャンルであれば、マイナスがプ ラスに変わる事がよく分かります。
2006年07月02日
愚者のエンドロール<米澤穂信>
こちらも若年層向けの作品ですが、年齢層は高くなります。一時、通常の大人向けミステリ の舞台を学校・学生にした作品が多発して、かなり悪評が流れた事があります。本作の様に 対象読者年代と登場人物の年代が同じ場合は、純粋の青春ミステリとして読むことが出来ま す。古典部が何故か映画制作の謎に取り組みますが、謎の設定自体はかなり高度とも言えま す。重要人物の性格が書き込まれているかどうかは微妙ですが、半メタ的な内容は短い目の 長編とバランスは良いと思います。
2006年07月05日
レストア<太田忠司>
多数の魅力的なシリーズ・キャラクターを持つ作者ですが、本作品集は新しいキャラクター ・オルゴール修復師・雪永鋼 が登場します。ただ完結的に終わっているので、1冊のみの 主人公の可能性が高いです。オルゴールに入れられている曲を題名にした作品ですが、オル ゴールと人間の係わり、人間嫌い?と他人との係わりが描かれています。人間の本来の内面 は必ずしも表面にでていない事がしだいに分かってきます。人間の謎・過去の謎が語られて ゆくとともに現実の謎も解明されてゆきます。
2006年07月05日
ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎<アントニイ・バークリー>
原題の直訳ですが、それ自体に複数の意味があると良い訳がなく、仕方がないので直訳のよ うです。中途半端な解釈よりも良いと思います。題名同様に、内容も読めば読むほど複雑で す。むしろシンプルに楽しく読んで、深く考えないほうが無難かもしれません。主人公=探 偵でも、名探偵にあらずいや名探偵になったり迷探偵になったり得体がしれません。あわれ 読者は、主人公も作者も信じる事ができずに、事件の進行に身をまかす事になります。現在 では「メタ・ミステリ」とか言いますがはるか昔はどのように言われたのでしょうか。
2006年07月08日
花あらし<阿刀田高>
この作者の他の多くの著書と同様に、多くの(この本は12作)短編からなる作品集です。 シリーズでもない純粋の短編集です。ノン・シリーズ短編は単行本になりにくいと言われま すがこの作者には無縁のようです。同じ年に異なる短編で「直木賞」と「日本推理作家協会 賞」を受賞したように安定したレベルの作品が多数ある作者です。謎のある話しも含まれて いますが、トリックという程の独創性や複雑さはなく、ストーリー上の添え物と考えた方が 良いでしょう。謎の深さや作品の長さは、多くは無縁な作者です。
2006年07月08日
螺旋(スパイラル)<山田正紀>
SF界の著名作家が何時の頃からか、ミステリ界の中心に位置していました。次々発表される 作品群と、狭いジャンルにとらわれないどこか掴み所がない作品群は色々なジャンルの人か ら一斉に注目をあつめました。本作もその過程の1冊です。長い長編ですが、この前後にも たてつずけに大作を発表しているので驚きます。分かりやすい機械的トリックを説明する紹 介文は単に書きやすいだけで、本作の内容は多岐多様であり、どこに注目するかは全て読者 にゆだねられます。幻想・SF的なものを見つける人もいるでしょう。
2006年07月14日
一角ナマズの謎<新庄節美>
ねずみ探偵チビーと助手の猫のニヤットのシリーズです。動物の世界とはいえ、ネズミにい つもバカにされながら使われている猫(私)はいつもぼやいています。いわゆる、ジュブナ イルですが、「読者への挑戦」もある本格ミステリです。童謡の見立て殺人も、いわゆる本 格の定番です。そして底なし沼の登場となれば、何かのパロデイーかとも思いかねませんが 内容はユーモアを含むコンパクトにまとまったものです。複数の作品が書かれていますが、 現在は入手困難なのが残念です。
2006年07月14日
アルファベット・ヒックス<レックス・スタウト>
元弁護士の運転手が探偵を務めます。アルファベットを並べた肩書きの名刺を複数持ってい て適当に、何の略号かをこじつける事から題名のニックネームがあります。主人公は違って も、ユーモアとテンポの良いストーリー展開は変わりません。いまは古い人間しか分からな いかも知れない物がトリックの中心の小物として登場します。そして、昔から今まで形を変 えて使われ続けている有名なトリックが登場します。書かれた時代も考慮して読む必要があ るといえるでしょう。
2006年07月17日
魔女殺人<藤村正太>
ほとんど知れていない短編集です。1975年発行です。「異色推理」の肩書き通り、複数 のジャンルの組み合わさった作品群です。本格的な味もあれば、犯罪小説ともいえます、落 ちのあるコントとも見られますし、題材的には風俗・異常性愛物とも言えます。社会派要素 を上げるのはやや無理かとは思います。今となれば、これらが書かれた背景は当時を知る人 しか分からないと思います。元々、本格の作者ですので、まさしく異色推理(広義の推理) と呼ぶしかないのでしょう。
2006年07月17日
最後の願い<光原百合>
この作者の初長編です。ただし、連作が繋がり最後で1つの長編になる形を取っていますの で連作集とする人もいるでしょう。劇団を作ろうと考えた男が仲間を捜す過程で出会う個人 に関する事件や謎を解決し仲間が増えてゆくのが全体の流れです。劇団には、キャスト・ス タッフとして色々な担当者が必要です。従って色々な出会いがあります、そこには大きな謎 は無くても色々な種類のドラマ・キャラクター・謎が存在できます。そしてそれぞれが劇団 に参加する事になる何かがあります。
2006年07月20日
殺人・津軽艶笑譚<加藤公彦>
たぶん絶版本です。作者は雑誌・幻影城の新人コンクールで第二回佳作に「殺人・弥三郎節 」でなりました。本書は、この作品を含む、中編−短編3作からなります。全て青森を舞台 にしたミステリです。著書は本書と長編「新撰組殺人事件」の2冊のみです。作品は地味な 本格と言ってといと思います。青森が舞台の作品は、会話に方言が使われていますが、全体 として読みやすく、飛躍もないが退屈することもない手堅い作風と感じます。当時すでに病 気療養中だったという事でわずかな作品を残すのみとなった様です。
2006年07月20日
ソルトマーシュの殺人<グラディス・ミッチャル>
日本ではトラベルミステリを代表として、実在・架空の地名が題名につく作品は非常に多い です。そして、それが全く違和感がありません。海外の作品でも同様に地名がつく作品が、 ある筈ですが残念ながら日本人にはよほど有名な名称でなければ、地名か人名か他のなにか さえ分かりません。本書のように村の名前では、読まなければ分かりません。やや風変わり な女性が探偵役を行います。文章は読みやすいと思いますが、内容は結果的には分かり難い と感じます。読んでいる時はすらすら進むので、何という感じです。
2006年07月23日
月の扉<石持浅海>
本格ミステリにサスペンスの要素を加える試みの歴史は古い。一番多いのが、探偵側が時間 ・場所・心理的等の制約の中にある状況です。本作もそのひとつですが、書かれたのは最近 です。目的が不明のハイジャック中に起きた殺人事件、殺人事件の解明にはハイジャック犯 や航空機内の人間には大きな制約があります。外部から接する警察等には、ハイジャック自 体が謎に包まれています。複数犯のハイジャック犯の中にも、他のメンバーに対する不透明 部分が存在します。古いミステリを現代のハイジャックと警察組織で再構成した作品です。
2006年07月23日
バイアグラ殺人事件<由良三郎>
医学者の作家にその時の話題のテーマミステリを書いてもらおうとの、出版社の意向の様で すが、たぶん予想と異なる内容になったと推測します。バイアグラをテーマにすると、単純 な医学ミステリではなく、毒にも薬にもなる曖昧さ・関係する人間のコンプレックスなどの 精神的な問題がついてまわります。そして、稀少品時代の密輸入等の入手の問題もあります ので、ミステリにする要素が揃っていると言えます。そして作者も医学ミステリよりも他の 部分に眼をつけました。先端題材の持つ時間的な問題は当然あります。
2006年07月26日>
偽装報告<高任和夫>
経済・金融・外交等の小説は、書き方によりサスペンスを中心にしたミステリの要素を持た す事が出来ます。本書もそれにあたります。自動車業界を中心にした、異常報告隠し>リコ −ルのがれの偽装報告が崩壊してゆく過程をサスペンスタッチで描いています。時々、誰が 如何にという謎を挟む事でミステリ要素も含む事になります。ただ、同じ分野でも、ミステ リを全面に押し出している作品と比べると、作品の読み方を変える必要があります。勿論、 ミステリとしての評価も同様です。
2006年07月26日
配達あかずきん<大崎梢>
日常の謎派と呼ばれる本格ミステリの1分野です。論理は存在しますが、謎を解いて見ろと いうような挑戦的な面はありません。当然ながら、替わるプラスアルファが要求されます。 書物・書店ミステリといえば紀田順一郎をはじめ前例はありますが、普通の書店の店員が、 シリーズで謎を解いてゆくのはあるいは初めてでしょうか。謎は、たわいのない暗号もどき から、恋愛もの、隠された大小の犯罪をあばくものまで多彩です。実際の本の題名が登場す るので、新刊を含めてどの程度出版本の知識があるかで楽しみ方も変わるでしょう。
2006年07月29日
アイスワールド<ハル・クレメント>
クレメントのSFは、地球外生物との遭遇がテーマになる場合がほとんどです。宇宙SFは大抵 は同様です。この場合、地球人から見た小説と、宇宙人から見た小説があります。クレメン トは初期は、後者(地球人以外から見た小説)が多いです。本書もそれにあたります。主人 公が地球人に似ているのはあるていど仕方がないと思います。さて、アイスワールドとは何 か、主人公と地球人との遭遇で何が起きるのか、それが本書の楽しみです。書かれた時代で の知識と未来予想に基づいているので、今でも??部分があるのは探す楽しみと思います。
2006年07月29日
怪盗グリフィン、絶体絶命<法月綸太郎>
本格ロジックミステリの作者が書いた、少年少女向けの怪盗談です。全体のストーリーは冒 険ですが、細部はどんでんかえしのロジックと伏線とが積み重なっています。ストーリーの 必然性よりは冒険談を優先させています。この点が普段の作者の作品と異なる所です。敵と 味方と第3勢力が、混ざってあるいは異なる振りをして登場するので、騙されないように推 理して読むのも、流れに乗って騙されながら読むのも楽しいと思います。でも、このたぐい の話しは再度あるいは続けて書かれるのか、1回だけかが一番気になります。
←日記一覧へ戻る
2006/07に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。