推理小説読書日記(2006/06)
2006年06月01日
白紙の殺人予告状<由良三郎>
狭い意味の本格ではありませんが、サスペンス小説に謎を絡ませた作品です。本来、本格作 品を多く書いている作者のため主人公が遊びからしだいに謎の事件に絡んでしまう過程から 犯人を推察する事は逆に容易と思います。その意味からは、ストーリー展開で読ませるタイ プのサスペンスではなく、あらかじめ作品に盛り込まれたサスペンスといえます。その面か らは、易しい本格との見方もできます。暇をもてあました主人公が、ちょっとした危険な遊 びに入り事件に巻き込まれる過程はユーモア小説的な味もあります。
2006年06月01日
薮に棲む悪魔<マシュー・ヘッド>
日本初登場の作家で、舞台がアフリカでコンゴという珍しい設定です。しかも内容は本格で す。異なる文化のなかに出来た白人文化地域が舞台ですが、この設定はクローズドサークル とも考える事が出来るし、周囲と関係を持つとオープンサークルに変わります。どうしても 片方に決めつけて読んでしまいますが、じっくり考えると実に微妙で面白い設定である事を 感じます。その意味では、戦争中だが戦争の話しでないとの主人公の繰り返しも面白いとい うか、疑ってしまいます。なかなか素直に謎に取り組みにくい異色作です。
2006年06月04日
ナイト・フォーク<新井素子>
ブラック・キャットシリーズの第2作目でここから長編になります。ナイト・フォークとは 作戦名ですが、元の意味はチェスでナイトで離れた位置から両取りをかける事を意味します。 将棋でいえば桂馬の両取りでしょうか。とにかく、盗む物が狙われている側で分からないと う値打ちの不明なもの?です。そして狙うグループ構成が、アンバランスで統率の取れない 集まりで行動が予想できないとくれば、ストーリー展開も予想できません。究極のご都合主 義もゆきすぎれば波乱万丈の面白さに変わります。
2006年06月04日
悪魔を呼び起こせ<デレック・スミス>
初読の作者です。不可能犯罪研究者の作者の密室事件とくれば、その方面から拍手が来そう です。密室物の長編では、1アイデアもの(含む複数事件)と「困難は分割せよ」の不可能 犯罪の鉄則に従い複雑なテクニックの組み合わせを駆使したものが有ります。本作は、典型 的な後者で、なかなか一言では説明しにくくかつ完全な理解もしにくい微妙な論理で構成さ れています。読んで面白く、しばらく経つと詳細は忘れている作品と言えるでしょう。カー 「三つの棺」、ローソンの「帽子から飛び出した死」なみの密室談義も読み所です。
2006年06月07日
九杯目には早すぎる<蒼井上鷹>
短編及び掌編の作品集です。掌編という短さを「ショートショート」と呼ぶのは星新一以降 はあまり見かけません。参考文献にミステリ関係を上げているのは、単なる応用かヒントか、 あるいはパロデイか迷う所です。落ちのある短編はどうとも考える事ができる分野です。表 題作は典型的な短く落ちのある話しです。題名に必然性がないが、読者の目を引くという意 味では意外と選択肢はないかも知れません。参考文献にもあげられている、都筑道夫に近い 作風かと思います。
2006年06月07日
七姫(ななひめ)幻想<森谷明子>
王朝ミステリ連作ですが、話しに弱い繋がりが微妙に時々は強くあるので長編的にも読めま す。登場人物よりも、短歌とその読み人が主人公になり終わり無く次に繋がってゆく印象を 途中は感じます。それだけでも充分に面白いが、それぞれの話にミステリ的な仕掛けがあり ます。単独でも面白い仕掛けもありますが、時代背景と幻想的な話しのなかで生きる物も、 あります。従って、幻想小説とも伝奇小説とも読めます。勿論、時代本格ミステリでもあり ます。よくばっているのでなく、どれかが欠ける事が出来ないと感じます。
2006年06月10日
K・Nの悲劇<高野和明>
広義のミステリの定番の「憑依」です。多いのは、表面的に一要素として取り上げている作 品です。本作は、これを現代医学とよもに真っ向から取り上げ挑戦しています。当然ながら 本格ではなく、ホラーかサスペンスといえます。同時に、妊娠・堕胎問題も重要な要素です。 あまりにも簡単に、親(含む片方)の都合で堕胎をしようとする行為がもたらす問題点を顕 在化させ、子供を守ろうとする人格との二重人格?か別の人格の憑依か、複雑化した問題が 全編に強力なサスペンスとなっています。
2006年06月10日
ぶたぶたの食卓<矢崎存美>
本シリーズはSF・幻想・ユーモア等のジャンルに含まれると思いますが、異色の設定といっ てよいでしょう。ぶたのぬいぐるみの「ぶたぶた」が普通の人格?として、普通の社会の中 にぞんざいする。簡単にいえばそれだけとも言えます。これだけで面白い話しが続きます。 作者はあえてこの設定に深く考察を行っていませんが、読むほうとしては深い意味を読み取 ろうと努力しても不思議はない状況です。単純に楽しむのも良し、なにかを背後に見つけ出 そうとするのもよしでしょう。
2006年06月13日
魔の淵<ヘイク・タルボット>
幻の不可能犯罪のミステリといわれた作品です。雪の山荘・降霊会・憑依・密室・雪上の足 跡と一式全て揃っています。サービス満点か、演出過剰かは微妙です。ただ書かれた1944年 を考慮するべきと思います。現代で見ると、余計で煩わしく感じる部分もあります。複雑化 したトリックが、ややぼやけて分かりにくく見える面もあるからです。カー・ローソン等と 類似した作風で色々な設定も似ています。無理に合わせる必要があるとは思えませんので、 この辺の事情は不明です。
2006年06月13日
弘前・桜狩り列車殺人号<辻真先>
トラベルライターの瓜生慎シリーズです。本作は妻の真由子と息子の竜も全編に登場します。 このシリーズは、各地のイベントとイベントトレインを慎が取材する事で多くが始まります。 しかし本編は「竜の合格祝い」の旅行先で真由子の昔の知り合いを見かける事から事件に絡 みます。個人的には、話しの前半に登場する「蜃気楼列車」をミステリにしたかったのでは ないかとも思います。他にも使えそうな逸話が登場します。主題に拘らずに柔軟に書き上げ る所に、ベテランのしたたかさを感じます。
2006年06月16日
熱砂の渇き<西東登>
社会派ミステリの全盛期のなかでの作家活動には、かなり制約があったと思うが無理にあが くと返って良くない結果になるようです。この作者は、動物を登場させ背景に戦争や企業活 動を置くことで社会派との接点を求めているように見えます。しかし、ストーリーは虚構の トリックやサスペンスです。そのために、なかなか着地が難しく完成度の点で現在の観点か らは不満です。しかし、過渡期の作品として見ればそれぞれのジャンルの習作的な面があり 興味があります。ダチョウがキーワードの本作も同様でしょう。
2006年06月13日
キングとジョーカー<ピーター・デイキンソン>
どの作品も異色と言われる作者ですが、王家を背景とする設定はその中に、幻想とホラー的 要素があり、他の作品と同様に異色作といえます。(作者の異色作ではなく、他の作家から 見てです)書かれたのが1976年でリアルタイム的な内容ですが、読む方からすれば何か 王家の歴史ミステリのように錯覚しそうです。いきなりの系図は脅かしすぎの感があります。 王女ルイーズの視点から書かれた本作は、王家で育った王女の世間はなれした感覚とすなお な恐怖は設定が生きている様に感じます。
2006年06月20日
列のなかの男<ジョセフィン・テイ>
作品数も多くはないが、日本への紹介はもっと少なかった作者ですが、最近ようやく多く紹 介されるようになりました。ただ、発表順と異なるのはいつもとはいえややこしいです。本 作は「グラント警部」初登場作品ですが、紹介は最後とのことです。後半近くまで、オーソ ドックスな展開でその気で読んでいたら、最後でずっこける感じもあります。しかし、1作 のみが有名で、他が読めない作者が多く読めるようになったので、まともな評価が出来る様 になりました。これは非常に喜ばしいと思います。
2006年06月20日
ウサギの乱<霞流一>
動物・ナンセンス・本格・ミステリとはなんぞや?。この作者の作品のキャッチフレーズは なかなか近づき難い面があります。読んでみて、事前に近よりにくいと思っていて良かった と思います。偶然や遊び、ナンセンスな設定が多く、しかもトリックが無茶なほど強引とく れば、事前にそのつもりで読み始める必要があります。他の作者と比較できない作風ですの で、一度は読むべき作者ですが、内容は上記である事を理解しておく必要があります。後で 怒らないようにしましょう。
2006年06月23日
びっくり館の殺人<綾辻行人>
ミステリーランド(かって少年少女だったあなたと、少年少女のために)の一冊です。内容 的に、後者(少年少女)向きかといえば疑問符を感じます。文章はともかく、内容は理解の 範囲を超えていると思います。従って、漢字の苦手なおとな向けと言えます。中村青司の設 計した変わった館シリーズの1冊です。シリーズの他の作品と同様に構成的に凝っているた め、面白いですが少年少女が理解できるとは思えないです。なかには、おとなでも理解出来 ない場合もありうるかも・・・。子供向けと思って読み逃さないように。
2006年06月23日
神狩り<山田正紀>
現在はミステリ(本格?)を中心に活動している作者です。元々の出発はSFです。テーマと しては現在の多くの作品に共通する所が残っています。欧米では「神」に対しては色々と、 取り扱いに問題があるらしいですが、日本の特権で作者の自由なイメージでこの言葉を使う 事が可能です。ただ、大きすぎるテーマと展開とに関わらず、短い長編でまとめた所に、若 さと才能を感じさせます。余分な部分を削ぎおとしてもなお深い作品です。これが長い小説 ならば読む事すら無理かも知れません。
2006年06月27日
影なき魔術師<梶龍雄>
梶龍雄は江戸川乱歩賞受賞以前、戦後から作品を発表しています。そして、受賞前に雑誌編 集やジュニア雑誌にジュニア・ミステリを多く書いています。ジュニア小説は全貌を知る事 も入手する事も困難です。本作品集は2作収録のジュニア・ミステリの短編集です。本格の 作家ですが、ジュニア作品では難度の低い本格にサスペンスと冒険的な要素を加えた内容に なっています。ジュニア・ミステリの典型と言ってよいでしょう。重厚な本格作品を望む人 には向きませんが作者の1面を見るのもよいと思います。
2006年06月27日
サイロの死体<ロナルド・ノックス>
日本では「ノックスの十戒」と「陸橋殺人事件」でのみしばらくは有名な作者でした。ただ どちらも誤解を含めて紹介されていたようで、最近に複数作品が紹介されて、虚像から実像 が見えてきた感じがします。本作はオーソドックスな純度の高い本格ミステリです。いや、 むしろかなり複雑で緻密といえます。わずか数作しかない作品のなかで、変則的な非本格あ るいは弱い本格で別の狙いで書かれた作品が代表作といわれていたのは、作者にとっても、 日本の読者にとっても不幸だったと感じます。
2006年06月30日
白菊<藤岡真>
創元推理文庫は、日本の作品でも英語名を載せる習慣があります。本作はどうかと言えば、 なんとロシア語のタイトルになっています。そしていきなりのロシア人の登場になります。 そして主題にはいります。「白菊」という絵を探す依頼から始まりサスペンス・アクション タッチの展開になります。作者は本格といっていますが、題材がいきなり登場してなおかつ 妖しげとあっては読む方も素直な謎とは受け取り難いです。歴史小説でもなく、分類困難な 本作は読んだ者の感想は大きく分かれる気がします。
2006年06月30日
愚か者死すべし<原りょう>
久しぶりとしか言えない新作です。長編4作目ですが、作者は主人公の沢崎の新シリーズと いいます。時間があいただけで、変わったところは感じませんが??。チャンドラーを意識 した文体と話しの展開は継続と感じます。あえていえば、この種のシリーズでは避けにくい のですが、主人公が最初は非常に孤独な風に描かれていますが、作品が増えると知人・理解 者が増えて孤独のイメージから離れてゆくように感じます。ハードボイルドとは、主人公が 孤独である必要がなく、冷静または冷酷な観察力がある事だが・・・。
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白紙の殺人予告状<由良三郎>
狭い意味の本格ではありませんが、サスペンス小説に謎を絡ませた作品です。本来、本格作 品を多く書いている作者のため主人公が遊びからしだいに謎の事件に絡んでしまう過程から 犯人を推察する事は逆に容易と思います。その意味からは、ストーリー展開で読ませるタイ プのサスペンスではなく、あらかじめ作品に盛り込まれたサスペンスといえます。その面か らは、易しい本格との見方もできます。暇をもてあました主人公が、ちょっとした危険な遊 びに入り事件に巻き込まれる過程はユーモア小説的な味もあります。
2006年06月01日
薮に棲む悪魔<マシュー・ヘッド>
日本初登場の作家で、舞台がアフリカでコンゴという珍しい設定です。しかも内容は本格で す。異なる文化のなかに出来た白人文化地域が舞台ですが、この設定はクローズドサークル とも考える事が出来るし、周囲と関係を持つとオープンサークルに変わります。どうしても 片方に決めつけて読んでしまいますが、じっくり考えると実に微妙で面白い設定である事を 感じます。その意味では、戦争中だが戦争の話しでないとの主人公の繰り返しも面白いとい うか、疑ってしまいます。なかなか素直に謎に取り組みにくい異色作です。
2006年06月04日
ナイト・フォーク<新井素子>
ブラック・キャットシリーズの第2作目でここから長編になります。ナイト・フォークとは 作戦名ですが、元の意味はチェスでナイトで離れた位置から両取りをかける事を意味します。 将棋でいえば桂馬の両取りでしょうか。とにかく、盗む物が狙われている側で分からないと う値打ちの不明なもの?です。そして狙うグループ構成が、アンバランスで統率の取れない 集まりで行動が予想できないとくれば、ストーリー展開も予想できません。究極のご都合主 義もゆきすぎれば波乱万丈の面白さに変わります。
2006年06月04日
悪魔を呼び起こせ<デレック・スミス>
初読の作者です。不可能犯罪研究者の作者の密室事件とくれば、その方面から拍手が来そう です。密室物の長編では、1アイデアもの(含む複数事件)と「困難は分割せよ」の不可能 犯罪の鉄則に従い複雑なテクニックの組み合わせを駆使したものが有ります。本作は、典型 的な後者で、なかなか一言では説明しにくくかつ完全な理解もしにくい微妙な論理で構成さ れています。読んで面白く、しばらく経つと詳細は忘れている作品と言えるでしょう。カー 「三つの棺」、ローソンの「帽子から飛び出した死」なみの密室談義も読み所です。
2006年06月07日
九杯目には早すぎる<蒼井上鷹>
短編及び掌編の作品集です。掌編という短さを「ショートショート」と呼ぶのは星新一以降 はあまり見かけません。参考文献にミステリ関係を上げているのは、単なる応用かヒントか、 あるいはパロデイか迷う所です。落ちのある短編はどうとも考える事ができる分野です。表 題作は典型的な短く落ちのある話しです。題名に必然性がないが、読者の目を引くという意 味では意外と選択肢はないかも知れません。参考文献にもあげられている、都筑道夫に近い 作風かと思います。
2006年06月07日
七姫(ななひめ)幻想<森谷明子>
王朝ミステリ連作ですが、話しに弱い繋がりが微妙に時々は強くあるので長編的にも読めま す。登場人物よりも、短歌とその読み人が主人公になり終わり無く次に繋がってゆく印象を 途中は感じます。それだけでも充分に面白いが、それぞれの話にミステリ的な仕掛けがあり ます。単独でも面白い仕掛けもありますが、時代背景と幻想的な話しのなかで生きる物も、 あります。従って、幻想小説とも伝奇小説とも読めます。勿論、時代本格ミステリでもあり ます。よくばっているのでなく、どれかが欠ける事が出来ないと感じます。
2006年06月10日
K・Nの悲劇<高野和明>
広義のミステリの定番の「憑依」です。多いのは、表面的に一要素として取り上げている作 品です。本作は、これを現代医学とよもに真っ向から取り上げ挑戦しています。当然ながら 本格ではなく、ホラーかサスペンスといえます。同時に、妊娠・堕胎問題も重要な要素です。 あまりにも簡単に、親(含む片方)の都合で堕胎をしようとする行為がもたらす問題点を顕 在化させ、子供を守ろうとする人格との二重人格?か別の人格の憑依か、複雑化した問題が 全編に強力なサスペンスとなっています。
2006年06月10日
ぶたぶたの食卓<矢崎存美>
本シリーズはSF・幻想・ユーモア等のジャンルに含まれると思いますが、異色の設定といっ てよいでしょう。ぶたのぬいぐるみの「ぶたぶた」が普通の人格?として、普通の社会の中 にぞんざいする。簡単にいえばそれだけとも言えます。これだけで面白い話しが続きます。 作者はあえてこの設定に深く考察を行っていませんが、読むほうとしては深い意味を読み取 ろうと努力しても不思議はない状況です。単純に楽しむのも良し、なにかを背後に見つけ出 そうとするのもよしでしょう。
2006年06月13日
魔の淵<ヘイク・タルボット>
幻の不可能犯罪のミステリといわれた作品です。雪の山荘・降霊会・憑依・密室・雪上の足 跡と一式全て揃っています。サービス満点か、演出過剰かは微妙です。ただ書かれた1944年 を考慮するべきと思います。現代で見ると、余計で煩わしく感じる部分もあります。複雑化 したトリックが、ややぼやけて分かりにくく見える面もあるからです。カー・ローソン等と 類似した作風で色々な設定も似ています。無理に合わせる必要があるとは思えませんので、 この辺の事情は不明です。
2006年06月13日
弘前・桜狩り列車殺人号<辻真先>
トラベルライターの瓜生慎シリーズです。本作は妻の真由子と息子の竜も全編に登場します。 このシリーズは、各地のイベントとイベントトレインを慎が取材する事で多くが始まります。 しかし本編は「竜の合格祝い」の旅行先で真由子の昔の知り合いを見かける事から事件に絡 みます。個人的には、話しの前半に登場する「蜃気楼列車」をミステリにしたかったのでは ないかとも思います。他にも使えそうな逸話が登場します。主題に拘らずに柔軟に書き上げ る所に、ベテランのしたたかさを感じます。
2006年06月16日
熱砂の渇き<西東登>
社会派ミステリの全盛期のなかでの作家活動には、かなり制約があったと思うが無理にあが くと返って良くない結果になるようです。この作者は、動物を登場させ背景に戦争や企業活 動を置くことで社会派との接点を求めているように見えます。しかし、ストーリーは虚構の トリックやサスペンスです。そのために、なかなか着地が難しく完成度の点で現在の観点か らは不満です。しかし、過渡期の作品として見ればそれぞれのジャンルの習作的な面があり 興味があります。ダチョウがキーワードの本作も同様でしょう。
2006年06月13日
キングとジョーカー<ピーター・デイキンソン>
どの作品も異色と言われる作者ですが、王家を背景とする設定はその中に、幻想とホラー的 要素があり、他の作品と同様に異色作といえます。(作者の異色作ではなく、他の作家から 見てです)書かれたのが1976年でリアルタイム的な内容ですが、読む方からすれば何か 王家の歴史ミステリのように錯覚しそうです。いきなりの系図は脅かしすぎの感があります。 王女ルイーズの視点から書かれた本作は、王家で育った王女の世間はなれした感覚とすなお な恐怖は設定が生きている様に感じます。
2006年06月20日
列のなかの男<ジョセフィン・テイ>
作品数も多くはないが、日本への紹介はもっと少なかった作者ですが、最近ようやく多く紹 介されるようになりました。ただ、発表順と異なるのはいつもとはいえややこしいです。本 作は「グラント警部」初登場作品ですが、紹介は最後とのことです。後半近くまで、オーソ ドックスな展開でその気で読んでいたら、最後でずっこける感じもあります。しかし、1作 のみが有名で、他が読めない作者が多く読めるようになったので、まともな評価が出来る様 になりました。これは非常に喜ばしいと思います。
2006年06月20日
ウサギの乱<霞流一>
動物・ナンセンス・本格・ミステリとはなんぞや?。この作者の作品のキャッチフレーズは なかなか近づき難い面があります。読んでみて、事前に近よりにくいと思っていて良かった と思います。偶然や遊び、ナンセンスな設定が多く、しかもトリックが無茶なほど強引とく れば、事前にそのつもりで読み始める必要があります。他の作者と比較できない作風ですの で、一度は読むべき作者ですが、内容は上記である事を理解しておく必要があります。後で 怒らないようにしましょう。
2006年06月23日
びっくり館の殺人<綾辻行人>
ミステリーランド(かって少年少女だったあなたと、少年少女のために)の一冊です。内容 的に、後者(少年少女)向きかといえば疑問符を感じます。文章はともかく、内容は理解の 範囲を超えていると思います。従って、漢字の苦手なおとな向けと言えます。中村青司の設 計した変わった館シリーズの1冊です。シリーズの他の作品と同様に構成的に凝っているた め、面白いですが少年少女が理解できるとは思えないです。なかには、おとなでも理解出来 ない場合もありうるかも・・・。子供向けと思って読み逃さないように。
2006年06月23日
神狩り<山田正紀>
現在はミステリ(本格?)を中心に活動している作者です。元々の出発はSFです。テーマと しては現在の多くの作品に共通する所が残っています。欧米では「神」に対しては色々と、 取り扱いに問題があるらしいですが、日本の特権で作者の自由なイメージでこの言葉を使う 事が可能です。ただ、大きすぎるテーマと展開とに関わらず、短い長編でまとめた所に、若 さと才能を感じさせます。余分な部分を削ぎおとしてもなお深い作品です。これが長い小説 ならば読む事すら無理かも知れません。
2006年06月27日
影なき魔術師<梶龍雄>
梶龍雄は江戸川乱歩賞受賞以前、戦後から作品を発表しています。そして、受賞前に雑誌編 集やジュニア雑誌にジュニア・ミステリを多く書いています。ジュニア小説は全貌を知る事 も入手する事も困難です。本作品集は2作収録のジュニア・ミステリの短編集です。本格の 作家ですが、ジュニア作品では難度の低い本格にサスペンスと冒険的な要素を加えた内容に なっています。ジュニア・ミステリの典型と言ってよいでしょう。重厚な本格作品を望む人 には向きませんが作者の1面を見るのもよいと思います。
2006年06月27日
サイロの死体<ロナルド・ノックス>
日本では「ノックスの十戒」と「陸橋殺人事件」でのみしばらくは有名な作者でした。ただ どちらも誤解を含めて紹介されていたようで、最近に複数作品が紹介されて、虚像から実像 が見えてきた感じがします。本作はオーソドックスな純度の高い本格ミステリです。いや、 むしろかなり複雑で緻密といえます。わずか数作しかない作品のなかで、変則的な非本格あ るいは弱い本格で別の狙いで書かれた作品が代表作といわれていたのは、作者にとっても、 日本の読者にとっても不幸だったと感じます。
2006年06月30日
白菊<藤岡真>
創元推理文庫は、日本の作品でも英語名を載せる習慣があります。本作はどうかと言えば、 なんとロシア語のタイトルになっています。そしていきなりのロシア人の登場になります。 そして主題にはいります。「白菊」という絵を探す依頼から始まりサスペンス・アクション タッチの展開になります。作者は本格といっていますが、題材がいきなり登場してなおかつ 妖しげとあっては読む方も素直な謎とは受け取り難いです。歴史小説でもなく、分類困難な 本作は読んだ者の感想は大きく分かれる気がします。
2006年06月30日
愚か者死すべし<原りょう>
久しぶりとしか言えない新作です。長編4作目ですが、作者は主人公の沢崎の新シリーズと いいます。時間があいただけで、変わったところは感じませんが??。チャンドラーを意識 した文体と話しの展開は継続と感じます。あえていえば、この種のシリーズでは避けにくい のですが、主人公が最初は非常に孤独な風に描かれていますが、作品が増えると知人・理解 者が増えて孤独のイメージから離れてゆくように感じます。ハードボイルドとは、主人公が 孤独である必要がなく、冷静または冷酷な観察力がある事だが・・・。
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2006/06に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。