推理小説読書日記(2006/05)
2006年05月01日
緋友禅<北森鴻>
今、短編ミステリ作家としてひときわ目立った活躍をしているのが、本作の作者です。勿論 優れた長編も多く発表していますが、短編集の比率の高さとレベルの高さはぬきんでていま す。いくつかシリーズがあり、その主人公がお互いに交叉している所にも特徴があります。 本集は無店舗の古物商の冬狐堂・宇佐見陶子が主人公の短編集です。骨董の目利きとの設定 ですので、題材も限られますし色々な知識や情報を必要としますが、本作者はこれらをクリ アさせています。次々出版される作品が待ち遠しい作者です。
2006年05月01日
死を招く航海<パトリック・クエンテイン>
「エラリー・クイーンのライバルたち3」の副題があります。従って、本格ミステリでかつ パズラーと言えます。舞台は全て船の上(閉鎖空間)で、日記風の書簡で全て構成されてい ます。手がかりのひとつが「コントラクト・ブリッジ」ですが、日本では普及しておらず、 意味を読み取る事が出来ず残念です。書簡で書かれているので、そのなかに手がかりとその 筆記者の思いこみを盛り込みやすい面があります。制約は多いが、パズル小説としてのメリ ットもある方法です。そしてその中に紛れこませた、微妙で巧妙な手がかりがポイントです。
2006年05月03日
氷菓<米澤穂信>
青春ミステリ=学園ミステリではないですが、多いことは事実でしょう。本作もこれに当た ります。ただし、どこにでもある日常ではなくやや特殊な設定になっています。その意味で は無理な設定をライトミステリとユーモアで包んで隠した小説です。読者層を、低い年代に 設定したような内容と短くまとめた内容は、読む方に気軽に入りこみやすくしています。こ れは間違いなく作者の計算でしょう。ただ、その割には過去の謎を取り扱うために登場人物 が多く、特定の登場人物が記憶に残りにくい弱点が生じました。
2006年05月03日
少年名探偵虹北恭助の新・新冒険<はやみねかおる>
1冊の本を無理に2冊に分けた?と述べている後半の本です。帰ってきた恭助と語り手の野 村響子がコンビ的に活躍します。形としては、典型的なワトソンものですが読者を低い年代 層に設定したので、ユーモアと説明無用の世界が次々登場します。特に、恒例の映画マニア グループの登場は決まったギャグを持つお笑いタレントの登場と似ています。ストーリーを 単純にした効果として、登場人物の個性が記憶に残りやすくなりました。この微妙な選択は 作者の悩む所と思います。
2006年05月06日
暗闇のセレナーデ<黒川博行>
作者初期の作品です。おなじみの刑事コンビではないがやはり、似た雰囲気の刑事は登場し ます。しかし、探偵役のメインは2人の美術大の女子大生です。背景が、美術界なのでこの ような配役にしたと思います。この世界は作者の経歴からも得意分野と思われますし、その 後も時々書かれています。むしろ、少ない方でしょう。当然ながら小道具を中心として専門 知識が登場します。さりげなく、これらを登場させるには背景と主人公がこの世界である必 要があります。そう、本作は本格ミステリだからです。
2006年05月06日
摩天楼の怪人<島田荘司>
長い作品が多い作者ですが、必ずしもその長さが生きているとも言えません。本作は短くも 出来ますが長いニューヨークの歴史と関連人物と事件を書き込む事で長くなっています。謎 は多く複雑ではありますが、キーになる事は大胆ですが一つと言っても良いでしょう。この バランスは読者で異なると思いますが、この作者の特徴が良く出た作品になり成功作と感じ ます。海外で「ミタライ」単独の登場ですが、ストーリーが捜査を描くのではなく謎と事件 の連鎖を追いますので語り手の石岡の必要性はないです。
2006年05月10日
ブラックキャット<新井素子>
シリーズ第1作です。段々長い話しになってゆくシリーズですが、はじめは中編です。どの 程度シリーズ化を意識していたのかは、後日短編集になった時の作者の後書きからでも、分 かりません。登場人物が、はじめから跳んでいるのでシリーズの予感はあります。しかしこ のテンポの速さは何なのでしょうか、ゆっくりした話しも書く作者ですが、本作は完全に読 者に一気に読ませてしまう事を念頭に書いたとしか思えません。他の作品は、色々で特にま とまるテーマはないようです。
2006年05月10日
ヴィンテージ・マーダー<ナイオ・マーシュ>
ニュージーランド生まれの作者が、故郷を舞台に書いた多くないとされている作品の一つで す。ある程度の町が少ないので、モデルにすると簡単に推察できるので架空の町を舞台にし たとの事です。列車移動風景やこれらから、人工密度の低い土地の雰囲気が伝わってきます。 事件は旅をする劇団と劇場で起こります。多いといわれていますが、日本に紹介されている 作品では殆どですので、もっと多く訳されないと本当の事は分かりません。しかしね、メイ ントリックがあまりにも見える所にあるので、かえって見落とします。
2006年05月13日
交換殺人には向かない夜<東川篤哉>
烏賊川市シリーズの1作です。隣の猪鹿村と、合併前の奥床市と好き勝手の名前ですが、地 理まで好き勝手に架空設定したのはやや食傷気味です。話しは、輪をかけて混乱させるよう に進みます。面白いと感じるか、作者の都合と感じるかは読者次第です。個人的には、やり すぎて面白みが、ほとんど消されてしまって残念と感じました。ユーモアのある文章ですの で、設定や謎までユーモアで染めてしまう必要はないと感じました。現在、試行錯誤中とい う所でしょう。
2006年05月13日
チーム・バチスタの栄光<海堂尊>
最近では「バチスタ」という言葉も時々聞く機会があります。心臓手術を中心にした医療ミ ステリです。専門知識も要求される内容ですが、必要な事は充分に書き込まれていますので 予備知識なしでも充分に楽しめます。大病院が舞台で多くの登場人物がいますが、主人公を 中心に描ききっていますので、複数の人物が読後も記憶に残ります。謎は専門知識絡みとい う事で深いとは言えませんが、ストーリー展開は申し分がなく意外性の連続で始めから最後 まで良い意味で作者に振り回されて、楽しみます。
2006年05月16日
北村薫の本格ミステリ・ライブラリー<>
本格と本人が思うならばなんでもありのアンソロジーです。懐かしの本格ミステリ・これは 知らないでしょう・西條八十の世界・本格について考える・ジェミークリケット事件(アメ リカ版)に小説は分かれています。ストレートな本格は最初だけで、2番目以降は本格ミス テリを読みあさっている読者に対して、これも本格でしょう・読んでいないでしょうの投げ かけです。名作選ではなく、文字通りライブラリーです。最後もイギリス版とアメリカ版の 読み比べを進めるためのものです。
2006年05月16日
抱き人形殺人事件<井口泰子>
コバルト文庫で、ジュブナイル小説です。内容は本格ミステリですが、高い難解度や新味を を求めたものでなく、手堅くミステリの面白さを伝える事を考えて書かれた感じがします。 FMカーで取材するキャスターが主人公ですが、この設定はまずまずよい所に目をつけたと思 います。事件との関わりはこれで自然に出来ましたが、以降の深い好奇心からは他の小説で も見られる、強引さがあります。慣れた読者ならば題名である予想が出来ると思います。そ う、自然に話しに入っていってよい作品です。
2006年05月19日
チベットから来た男<クライド・クレイソン>
はじめて読んだ作者です。舞台はチベット美術収集家の富豪の家、影の舞台はチベット、そ してチベット人・チベットに行ったという男・探偵役は考古学者といかにも雰囲気を感じさ せます。そこで起こる宗教書の真贋と密室殺人とくれば、カバーの「魔術の殺人」のイメー ジも充分です。もともと情報のすくないチベットですので、ストーリーも納得するしかない という所です。解決もあざやかなのか、都合よく運ぶのかわからないですが、全て特殊な背 景と絡み合ってまとっまったと感じます。
2006年05月19日
セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴<島田荘司>
1長編なのか、2短編なのか分かりにくい構成になっています。ただ大作の多いこの作者で は短い作品です。小品ながら、細部に色々な雑学がちりばめられています。石岡が御手洗に 翻弄されて、謎が読者に隠される展開はこのコンビでは普通です。作者のロマン・都市学・ 歴史学などが応用されており、単なるご都合主義とは感じられなく構成されます。御手洗の 人間性からして石岡自身に「自信過剰で強引」といわせてしまうので、読者はそれ以上はい う必要もありません。
2006年05月22日
蒲公英草紙<恩田陸>
本作がミステリかといわれると違うと感じます。多彩なエンターテイメントの分野を書く作 者の「常野物語」の1編です。これがどのような方向に進み、収束するかを知らずに何も結 論つける事は無謀と思います。現在のところでは、謎がつかみ所が無くどのような進展があ るのかは分かりませんので、単純に1冊のみで言うしかありません。その状態では、表面的 な物は浮かんでいません。主人公の少女の「です・でございます」の混ざった文章が違和感 を感じさせ、少女に見えないものが読者にも見えないもどかしさがあります。
2006年05月22日
アリア系銀河鉄道<柄刀一>
周囲にいわすと、私はこの作者との相性が良くないらしいです。やや、分かりにくい本やど の程度の本気で書いているのか分からない本ばかり読んでしまっているらしい。この本も、 理系にはパロデイかいわゆるバカミス系統にしか、感じません。やけに解説が目立つ短編集 ですが、この本自体とまともに取り組んでいる解説者は少ないと思います。説明しないと理 解できないらしいが、説明しきれていないと思います。別の作品を読んだらという意見が正 しいのでしょう。
2006年05月25日
永久の別れのために<エドモンド・クリスピン>
欧米の作品には「中傷の手紙」テーマなるものが存在するそうです。今の日本も似ています が動機の強さがかなり異なるようのも思います。また本作もモチーフにシェークスピアの作 品を使用しているのも欧米作品ではよくある事です。そして、探偵役については書いてはい けないのでしょう。登場人物表にもはっきり書いていないのですから。数々の小道具と捜査 を絡めて話しは、この作者らしく落ち着いて進みますが、最後はやや活劇風に収束します。 もちろん謎の解明のおまけとして。
2006年05月25日
間違いの悲劇<エラリー・クイーン>
クイーンの未訳も少ないですが、本作品集は未紹介の短編・中編・未完成長編の梗概を集め たものです。ある意味では、クイーンのファンの必読本とも言えます。梗概と言っても後は 実際に長編を書く段階になっているので、これを誰も完成させなかったのは、何か権利上の 問題でもあったのでしょうか。他の作品は、多くはクイーン得意の「ダイイング・メッセー ジ」物です。言葉が絡むものは、訳すと意味が通じなくなりますので紹介が遅れた事も当然 と思います。現実に推理はできないものが多いです。
2006年05月28日
紙魚家崩壊<北村薫>
連作でも、短編が並んでいて最後に長編的にまとまる話しでもない、純粋の短編集です。連 作作品集の多い作者ですが、逆に珍しいです。それもあって、収録作品の発表期間が1990- 2005と広くなっています。9作中で8作は1998以前ですので、今まで単行本にならなかった 作品を集めてという事です。結果的に、個々の作品の内容はバラバラで多彩とも不統一とも いえますが、この作者の作品を読み慣れていると、それなりに納得する作品です。既読作も 含む事も原因かも知れません。しかし作品が少なすぎです>>作者へ。
2006年05月28日
「日本海4号」11分の壁<池田雄一>
1989年の作品です。アリバイ崩しのトラベルミステリーです。これ以前も現在も書かれてい ますが、作品数・作者数のわりには長く読まれている作品は少ないと感じます。本作者も今 はあまり見かけません。謎の複雑さやトリックの質に差は感じないですが、事件の構成、特 に捜査と解決の過程は、個々の作者で全く異なります。この部分が読者にどのような印象を 与えるかが問題でしょう。本作は、犯人当ての要素をも盛り込んだと言えますが、アリバイ 崩しの部分が逆に弱くなるので、良し悪しは微妙です。
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緋友禅<北森鴻>
今、短編ミステリ作家としてひときわ目立った活躍をしているのが、本作の作者です。勿論 優れた長編も多く発表していますが、短編集の比率の高さとレベルの高さはぬきんでていま す。いくつかシリーズがあり、その主人公がお互いに交叉している所にも特徴があります。 本集は無店舗の古物商の冬狐堂・宇佐見陶子が主人公の短編集です。骨董の目利きとの設定 ですので、題材も限られますし色々な知識や情報を必要としますが、本作者はこれらをクリ アさせています。次々出版される作品が待ち遠しい作者です。
2006年05月01日
死を招く航海<パトリック・クエンテイン>
「エラリー・クイーンのライバルたち3」の副題があります。従って、本格ミステリでかつ パズラーと言えます。舞台は全て船の上(閉鎖空間)で、日記風の書簡で全て構成されてい ます。手がかりのひとつが「コントラクト・ブリッジ」ですが、日本では普及しておらず、 意味を読み取る事が出来ず残念です。書簡で書かれているので、そのなかに手がかりとその 筆記者の思いこみを盛り込みやすい面があります。制約は多いが、パズル小説としてのメリ ットもある方法です。そしてその中に紛れこませた、微妙で巧妙な手がかりがポイントです。
2006年05月03日
氷菓<米澤穂信>
青春ミステリ=学園ミステリではないですが、多いことは事実でしょう。本作もこれに当た ります。ただし、どこにでもある日常ではなくやや特殊な設定になっています。その意味で は無理な設定をライトミステリとユーモアで包んで隠した小説です。読者層を、低い年代に 設定したような内容と短くまとめた内容は、読む方に気軽に入りこみやすくしています。こ れは間違いなく作者の計算でしょう。ただ、その割には過去の謎を取り扱うために登場人物 が多く、特定の登場人物が記憶に残りにくい弱点が生じました。
2006年05月03日
少年名探偵虹北恭助の新・新冒険<はやみねかおる>
1冊の本を無理に2冊に分けた?と述べている後半の本です。帰ってきた恭助と語り手の野 村響子がコンビ的に活躍します。形としては、典型的なワトソンものですが読者を低い年代 層に設定したので、ユーモアと説明無用の世界が次々登場します。特に、恒例の映画マニア グループの登場は決まったギャグを持つお笑いタレントの登場と似ています。ストーリーを 単純にした効果として、登場人物の個性が記憶に残りやすくなりました。この微妙な選択は 作者の悩む所と思います。
2006年05月06日
暗闇のセレナーデ<黒川博行>
作者初期の作品です。おなじみの刑事コンビではないがやはり、似た雰囲気の刑事は登場し ます。しかし、探偵役のメインは2人の美術大の女子大生です。背景が、美術界なのでこの ような配役にしたと思います。この世界は作者の経歴からも得意分野と思われますし、その 後も時々書かれています。むしろ、少ない方でしょう。当然ながら小道具を中心として専門 知識が登場します。さりげなく、これらを登場させるには背景と主人公がこの世界である必 要があります。そう、本作は本格ミステリだからです。
2006年05月06日
摩天楼の怪人<島田荘司>
長い作品が多い作者ですが、必ずしもその長さが生きているとも言えません。本作は短くも 出来ますが長いニューヨークの歴史と関連人物と事件を書き込む事で長くなっています。謎 は多く複雑ではありますが、キーになる事は大胆ですが一つと言っても良いでしょう。この バランスは読者で異なると思いますが、この作者の特徴が良く出た作品になり成功作と感じ ます。海外で「ミタライ」単独の登場ですが、ストーリーが捜査を描くのではなく謎と事件 の連鎖を追いますので語り手の石岡の必要性はないです。
2006年05月10日
ブラックキャット<新井素子>
シリーズ第1作です。段々長い話しになってゆくシリーズですが、はじめは中編です。どの 程度シリーズ化を意識していたのかは、後日短編集になった時の作者の後書きからでも、分 かりません。登場人物が、はじめから跳んでいるのでシリーズの予感はあります。しかしこ のテンポの速さは何なのでしょうか、ゆっくりした話しも書く作者ですが、本作は完全に読 者に一気に読ませてしまう事を念頭に書いたとしか思えません。他の作品は、色々で特にま とまるテーマはないようです。
2006年05月10日
ヴィンテージ・マーダー<ナイオ・マーシュ>
ニュージーランド生まれの作者が、故郷を舞台に書いた多くないとされている作品の一つで す。ある程度の町が少ないので、モデルにすると簡単に推察できるので架空の町を舞台にし たとの事です。列車移動風景やこれらから、人工密度の低い土地の雰囲気が伝わってきます。 事件は旅をする劇団と劇場で起こります。多いといわれていますが、日本に紹介されている 作品では殆どですので、もっと多く訳されないと本当の事は分かりません。しかしね、メイ ントリックがあまりにも見える所にあるので、かえって見落とします。
2006年05月13日
交換殺人には向かない夜<東川篤哉>
烏賊川市シリーズの1作です。隣の猪鹿村と、合併前の奥床市と好き勝手の名前ですが、地 理まで好き勝手に架空設定したのはやや食傷気味です。話しは、輪をかけて混乱させるよう に進みます。面白いと感じるか、作者の都合と感じるかは読者次第です。個人的には、やり すぎて面白みが、ほとんど消されてしまって残念と感じました。ユーモアのある文章ですの で、設定や謎までユーモアで染めてしまう必要はないと感じました。現在、試行錯誤中とい う所でしょう。
2006年05月13日
チーム・バチスタの栄光<海堂尊>
最近では「バチスタ」という言葉も時々聞く機会があります。心臓手術を中心にした医療ミ ステリです。専門知識も要求される内容ですが、必要な事は充分に書き込まれていますので 予備知識なしでも充分に楽しめます。大病院が舞台で多くの登場人物がいますが、主人公を 中心に描ききっていますので、複数の人物が読後も記憶に残ります。謎は専門知識絡みとい う事で深いとは言えませんが、ストーリー展開は申し分がなく意外性の連続で始めから最後 まで良い意味で作者に振り回されて、楽しみます。
2006年05月16日
北村薫の本格ミステリ・ライブラリー<>
本格と本人が思うならばなんでもありのアンソロジーです。懐かしの本格ミステリ・これは 知らないでしょう・西條八十の世界・本格について考える・ジェミークリケット事件(アメ リカ版)に小説は分かれています。ストレートな本格は最初だけで、2番目以降は本格ミス テリを読みあさっている読者に対して、これも本格でしょう・読んでいないでしょうの投げ かけです。名作選ではなく、文字通りライブラリーです。最後もイギリス版とアメリカ版の 読み比べを進めるためのものです。
2006年05月16日
抱き人形殺人事件<井口泰子>
コバルト文庫で、ジュブナイル小説です。内容は本格ミステリですが、高い難解度や新味を を求めたものでなく、手堅くミステリの面白さを伝える事を考えて書かれた感じがします。 FMカーで取材するキャスターが主人公ですが、この設定はまずまずよい所に目をつけたと思 います。事件との関わりはこれで自然に出来ましたが、以降の深い好奇心からは他の小説で も見られる、強引さがあります。慣れた読者ならば題名である予想が出来ると思います。そ う、自然に話しに入っていってよい作品です。
2006年05月19日
チベットから来た男<クライド・クレイソン>
はじめて読んだ作者です。舞台はチベット美術収集家の富豪の家、影の舞台はチベット、そ してチベット人・チベットに行ったという男・探偵役は考古学者といかにも雰囲気を感じさ せます。そこで起こる宗教書の真贋と密室殺人とくれば、カバーの「魔術の殺人」のイメー ジも充分です。もともと情報のすくないチベットですので、ストーリーも納得するしかない という所です。解決もあざやかなのか、都合よく運ぶのかわからないですが、全て特殊な背 景と絡み合ってまとっまったと感じます。
2006年05月19日
セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴<島田荘司>
1長編なのか、2短編なのか分かりにくい構成になっています。ただ大作の多いこの作者で は短い作品です。小品ながら、細部に色々な雑学がちりばめられています。石岡が御手洗に 翻弄されて、謎が読者に隠される展開はこのコンビでは普通です。作者のロマン・都市学・ 歴史学などが応用されており、単なるご都合主義とは感じられなく構成されます。御手洗の 人間性からして石岡自身に「自信過剰で強引」といわせてしまうので、読者はそれ以上はい う必要もありません。
2006年05月22日
蒲公英草紙<恩田陸>
本作がミステリかといわれると違うと感じます。多彩なエンターテイメントの分野を書く作 者の「常野物語」の1編です。これがどのような方向に進み、収束するかを知らずに何も結 論つける事は無謀と思います。現在のところでは、謎がつかみ所が無くどのような進展があ るのかは分かりませんので、単純に1冊のみで言うしかありません。その状態では、表面的 な物は浮かんでいません。主人公の少女の「です・でございます」の混ざった文章が違和感 を感じさせ、少女に見えないものが読者にも見えないもどかしさがあります。
2006年05月22日
アリア系銀河鉄道<柄刀一>
周囲にいわすと、私はこの作者との相性が良くないらしいです。やや、分かりにくい本やど の程度の本気で書いているのか分からない本ばかり読んでしまっているらしい。この本も、 理系にはパロデイかいわゆるバカミス系統にしか、感じません。やけに解説が目立つ短編集 ですが、この本自体とまともに取り組んでいる解説者は少ないと思います。説明しないと理 解できないらしいが、説明しきれていないと思います。別の作品を読んだらという意見が正 しいのでしょう。
2006年05月25日
永久の別れのために<エドモンド・クリスピン>
欧米の作品には「中傷の手紙」テーマなるものが存在するそうです。今の日本も似ています が動機の強さがかなり異なるようのも思います。また本作もモチーフにシェークスピアの作 品を使用しているのも欧米作品ではよくある事です。そして、探偵役については書いてはい けないのでしょう。登場人物表にもはっきり書いていないのですから。数々の小道具と捜査 を絡めて話しは、この作者らしく落ち着いて進みますが、最後はやや活劇風に収束します。 もちろん謎の解明のおまけとして。
2006年05月25日
間違いの悲劇<エラリー・クイーン>
クイーンの未訳も少ないですが、本作品集は未紹介の短編・中編・未完成長編の梗概を集め たものです。ある意味では、クイーンのファンの必読本とも言えます。梗概と言っても後は 実際に長編を書く段階になっているので、これを誰も完成させなかったのは、何か権利上の 問題でもあったのでしょうか。他の作品は、多くはクイーン得意の「ダイイング・メッセー ジ」物です。言葉が絡むものは、訳すと意味が通じなくなりますので紹介が遅れた事も当然 と思います。現実に推理はできないものが多いです。
2006年05月28日
紙魚家崩壊<北村薫>
連作でも、短編が並んでいて最後に長編的にまとまる話しでもない、純粋の短編集です。連 作作品集の多い作者ですが、逆に珍しいです。それもあって、収録作品の発表期間が1990- 2005と広くなっています。9作中で8作は1998以前ですので、今まで単行本にならなかった 作品を集めてという事です。結果的に、個々の作品の内容はバラバラで多彩とも不統一とも いえますが、この作者の作品を読み慣れていると、それなりに納得する作品です。既読作も 含む事も原因かも知れません。しかし作品が少なすぎです>>作者へ。
2006年05月28日
「日本海4号」11分の壁<池田雄一>
1989年の作品です。アリバイ崩しのトラベルミステリーです。これ以前も現在も書かれてい ますが、作品数・作者数のわりには長く読まれている作品は少ないと感じます。本作者も今 はあまり見かけません。謎の複雑さやトリックの質に差は感じないですが、事件の構成、特 に捜査と解決の過程は、個々の作者で全く異なります。この部分が読者にどのような印象を 与えるかが問題でしょう。本作は、犯人当ての要素をも盛り込んだと言えますが、アリバイ 崩しの部分が逆に弱くなるので、良し悪しは微妙です。
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2006/05に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。