推理小説読書日記(2006/04)
2006年04月01日
「宝石」傑作選<>
探偵小説雑誌アンソロジーシリーズの最終20冊目です。戦後の中心で質・量ともに他を圧 倒しています。現在でも古書で入手は難しくはありませんが、数が非常に多いので全部揃え るのは流石に困難です。単独のアンソロジーも複数ありますし、色々なアンソロジーへの採 用率も非常に高いです。とすれば既読作品かといえば、選ぶ余地が多いので既読作品は意外 と少ないです。私も中途半端に保有しているので、資料はありがたいです。量が多いので、 作家別索引のみになっていますが作家別リストの作成にはかかせません。
2006年04月01日
ダーク<桐野夏生>
「OUT」「柔らかな頬」「玉蘭」「魂萌え」など幅広い小説を展開している作者です。作者が 「顔に降りかかる雨」でミステリデビューした時の主人公「村野ミロ」シリーズは有名です が作品数は多くはありません。本作はそのシリーズです。作者がこのシリーズにどの程度の 拘りがあるのか不明ですが、内容的にはハードボイルドミステリから犯罪小説に移行してい る印象が強いです。周囲の人物が死んでゆく状況は、大きな転換かシリーズの終末さえ予感 させます。ミロ・シリーズとして読む側に良くも悪くも予想を覆す作品です。
2006年04月03日
罠の怪<>
勉誠出版刊行の志村有弘編のテーマ別アンソロジー6冊の1冊です。アンソロジーはよく購 入するのですが未読になっている事が多いです。読むときはまとめて一気に全部通して読破 がよいと思っています。テーマ別アンソロジーは資料性はないので、作品の選び方が重要で す。このシリーズでは特にきっちりしたポイントはなく、選者のイメージによる様に感じま す。結果的に知らない作者・作品もおおいです。内容も玉石混在といえるでしょう。本集は 短編8作で既読はなかったですが、特に目玉の作品もなかった様に思います。収録作家は、 加納一郎・甲賀三郎・渡辺啓助・大下宇陀児・藤波浩・高梨久・奥田野月・鵠沼二郎です。
2006年04月03日
謀殺の火<S.H.コーテイア>
日本には初訳・紹介のオーストラリアの作家です。日本では考え難いオーストラリアらしい 背景で変則的な進行で本格推理が展開されます。渓谷全体が山火事で燃え尽き、そこにあっ た村が全滅し多くの死者がでる事件、その死者の一人の友人が手紙を詳しく調べた所疑問を 見つけて休暇をとり渓谷に来ます。そして、手紙の内容に登場する場所を訪れ、人物を調べ るうちに、隠された謎が姿を現します。日本を舞台にすると孤島か、小さな村止まりの舞台 しか無理でしょうが、人の少ない広大な土地が舞台ですのでスケールの大きい謎になっています。
2006年04月06日
魔の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの2冊目です。収録作家は、浜尾四郎・村山塊多・秦賢 助・夢座海二・夢野久作・小酒井不木です。作品はメジャーのものが多く、既読が4作でし た。よくあることですが、やや選出にも配慮が欠けている感もあります。夢座海二の「偽装 魔」が中編本格でかなり面白くできています。フィルムや映画の知識が、効率よく説明・利 用されています。解説の行数が、作者によってバラバラで編者の関心度が反映されていると 感じます。
2006年04月06日
赤の謎<>
これは現役の江戸川乱歩賞受賞作家のアンソロジーです。内容にテーマはありません。色別 に複数冊でている様ですが、読むのはこれが初めてです。収録作家は、長坂秀佳・真保裕一 ・川田弥一郎・新野剛志・高野和明です。ミステリから離れている人もおり、長編賞受賞者 が短編が得意とは限らない等、ばらつきは仕方がない所です。高野和明「二つの銃口」がペ ージ数が少ない割にはサスペンスとして面白いです。いわゆる神の目の視点でかかれており 、それ故のひねった終わり方といえるでしょう。
2006年04月11日
黒の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの3冊目です。収録作家は、藤雪夫・渡辺啓助・新久保 賞治・小鹿進です。藤「黒水仙」が中編のため作品数は少ないです。解説も最初の2作は普 通ですが、後の2作はつけたしの感があります。藤雪夫は後年に娘の藤桂子との合作で「獅 子座」「黒水仙」を発表しているが、その後書きはいささか混乱している様に思います。藤 雪夫の死と記憶が混乱の元のように思います。
2006年04月11日
ウイッチフォード毒殺事件<アントニー・バークリー>
近年立て続けに翻訳されたバークリーの2作目に当たります。すでにこの頃から、ユーモア と諧謔がそこはかとなく感じます。ロジャーの探偵像は当時は特異だったと思います。現在 でもそう感じますので。詳しくは書けませんが、題名は翻訳ミスと感じます。誰も原題を注 意しなかったのでしょうか。誤訳で読者を間違った方向に誘導する異図があったと思われて 仕方がないでしょう(原題はそのような事はない)。作者の書いた順に読める事は、非常に 喜ばしい事です。
2006年04月13日
白の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの4冊目です。収録作家は、牧逸馬・早川四郎・古銭信 二・鷺六平・中村豊秀・葉糸修祐・田中貢太郎です。ややマイナーで未読作が多いです。選 題的には作品名のごろ合わせ的な感じもします。ジャンルは多彩とも言えますが・・。田中 貢太郎は2作収録ですがどちらも短い作品です。怪談の名手だけあって、印象的な作品です。 アンソロジーで短い作品のほうが印象的な事はしばしばあります。
2006年04月13日
鏡陥穽<飛鳥部勝則>
一応は本格ミステリに分類されている作者ですが、多かれ少なかれ別の要素が入っています。 しかし本作は、ホラーです。幻想とか本格とかは無理に探しても見つかるかどうかです。例 によって絵画も挿入されていますが本人のではないです。異例ずくめですので、なかなか適 当な感想も見つかりません。読む準備が出来ていなかった作品を読んでしまったというのが 正直な所です。本作は、作者の分岐点でしょうか、単なる行動範囲の1末端でしょうか?。 本格好きの私には、いささか気になります。
2006年04月16日
水の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの5冊目です。収録作家は倉田映郎・木野工・武蔵野次 郎・鷲尾三郎です。中編の鷲尾三郎「雪崩」が半分のページを占めているので4作です。水 の怪となっていますが、最初の2作は「流氷」で3作目は「海」で4作目は井戸も出てきま すがどちらかと言えば題名で取った感があります。あまり「水」のテーマがピンと来ません。 「雪崩」は有名な作品で既読ですので、ややものたりなかったです。
2006年04月16日
醜聞の館<リン・ブロック>
副題が「ゴア大佐第3の事件」です。乱歩も名作とした幻の本格の初訳となっていますが、 訳者の後書きを読んでびっくり、正式な役職は大佐ではなく中佐だとの事です。何故間違い が起こったのかの説明もあります。日本での紹介の歴史からあえて大佐としたとの事です。 内容はのんびりした英国風の事件展開です。しばしば見られるジャンルで嫌いではありませ んが、最後に無理にひねろうとした所があり、それまでの雰囲気とやや合わない気がしまし た。とにかく実作が訳されて読む事で始めて評価できる訳でその面で貴重です。
2006年04月19日
人間心理の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの6冊目で最後です。収録作家は大下宇陀児・甲賀三郎 ・小酒井不木・猪又聖吾・大岡昇平です。最後を飾る顔ぶれです。テーマの人間心理は漠然 としています。編者は人間の心がきっかけで起きた事件としていますが、むしろそうでない 作品のほうが少ないと思います。流石に、サスペンスや犯罪小説が中心である事はテーマ上 当然とも言えます。テーマ別アンソロジーは多いですが、選ぶ難しさを感じました。
2006年04月19日
くらのかみ<小野不由美>
小学校高学年から読めるミステリーランドの1冊です。英語名がついていて「ざしきわらじ 」となっています。話しは、いきなりの人間がひとり増える謎から始まり次々と色々な事件 が起こり退屈はさせません。ただ、本格の作者でないので全ての謎が分かりやすく解決する 訳ではありません。どれが謎が解け、どれが残るのかがなかなか分からないので、謎解きと 共にホラーやサスペンス的な雰囲気が全体を覆っています。子ども向きかどうかは分かりま せんが大人が読んでも結末が容易に予想できない作品です。
2006年04月22日
エンジェル家の殺人<ロジャー・スカーレット>
最近、未訳作品が2冊出版されたのではるか昔に読んだ作品を読み返しました。ほとんど、 憶えていなかったですので・・。古い訳で、今読んでも内容が理解しにくいです。昔は読ん だが分からなく記憶に残っていないようです。今回はポイントを戻って読み直したので、あ る程度理解できたが、特徴である細部の伏線などは読み落としているように感じます。とい う訳で乱歩推薦の名作とまでは感じなかったです。訳のせいかな・・?。
2006年04月22日
危険な夏<北方謙三>
初期のハードボイルド要素の強い時期の作品です。一人称の文章ではありませんが、それは 拘る問題ではありません。初期は一人称でしたが、ロールプレイング型からモジュラー型に 替わっていく過程で、複数の事件・人物を描き分ける必要性から中心人物の視点の無人称に なってきています。話しは大きく2つに分かれ、犯罪・冒険小説的要素の部分もあります。 小道具を上手に使用して、あきない内容になっています。ミステリですので、ジャンルは色 々でも謎が組み込まれている作品は面白いです。
2006年04月26日
MIST<池井戸潤>
金融関係を舞台にした作品で楽しませてくれる作者ですが、本作は駐在所のある小さな地域 で発生した事件が中心となって展開してゆきます。巡査が主人公というと比較的に少ないと いえます。狭い集落を舞台にしたときは、情報量の多さはかなり魅力的です。名探偵的な設 定は不自然なので、複数の捜査役を配置しています。長編ですので、色々な脇役的な話しも 多く登場します。なかには金融関係も登場して、本命かと勝手に思いますがなかなか簡単で ではありません。作者にとって、小説の舞台を拡げる作品で成功していると思います。
2006年04月26日
有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー<>
現在3冊出ている、本格のアンソロジーです。選者が秘密の珍しい作品を自慢げに選んでい る感があります。作品は国内・海外合わせて、10作です。既読は10作中2作のみです。 実はこの作品が最初で、類似作が次々書かれましたという作品も含まれていますので、内容 も珍しいとはいえないかも知れませんが、資料的価値は逆に発生します。わずかではあって も「これは知らないでしょう」の作品群に既読作品を見つけた時は何故かうれしくなります。 自分でも選んでみたい気になります。
2006年04月28日
薪小屋の秘密<アントニイ・ギルバート>
しばらく翻訳物を読んでいなかったので、二人のギルバートが混乱しています。ましてや片 方が女流作家とは知りませんでした。作風も分からず読んだので、プロットを進行を見誤っ てしまいました。もし、予想していても微妙な表現を読み取る必要があり、巧妙とも言えま す。探偵役が地味な設定になっているので、ストーリーと合わせるとやや変則的な本格とサ スペンスの混ざった雰囲気になっています。かなり多作の作者のようですが、日本への紹介 はまだ僅かです。
2006年04月28日
蛍<摩耶雄嵩>
謎の解明を書くのは勿論不可ですが、ストーリーや作品の売りをも書きにくい作品が時々あ ります。摩耶雄嵩の作品にはそれに該当する作品が多いです。本作は、本格マニアにお勧め ですがその理由は、書かないほうがよいのでしょう。実際に、充分に読みなおした訳でない 不十分な事も理由です。そう再読が必要な作品とぐらいは言ってよいでしょう。嵐の山荘で での殺人鬼とその共犯者の謎、秘密の部屋・過去の事件とくれば、またかと思ってしまうか も知れません。しかしそれ自体が狙いとも言えます。
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「宝石」傑作選<>
探偵小説雑誌アンソロジーシリーズの最終20冊目です。戦後の中心で質・量ともに他を圧 倒しています。現在でも古書で入手は難しくはありませんが、数が非常に多いので全部揃え るのは流石に困難です。単独のアンソロジーも複数ありますし、色々なアンソロジーへの採 用率も非常に高いです。とすれば既読作品かといえば、選ぶ余地が多いので既読作品は意外 と少ないです。私も中途半端に保有しているので、資料はありがたいです。量が多いので、 作家別索引のみになっていますが作家別リストの作成にはかかせません。
2006年04月01日
ダーク<桐野夏生>
「OUT」「柔らかな頬」「玉蘭」「魂萌え」など幅広い小説を展開している作者です。作者が 「顔に降りかかる雨」でミステリデビューした時の主人公「村野ミロ」シリーズは有名です が作品数は多くはありません。本作はそのシリーズです。作者がこのシリーズにどの程度の 拘りがあるのか不明ですが、内容的にはハードボイルドミステリから犯罪小説に移行してい る印象が強いです。周囲の人物が死んでゆく状況は、大きな転換かシリーズの終末さえ予感 させます。ミロ・シリーズとして読む側に良くも悪くも予想を覆す作品です。
2006年04月03日
罠の怪<>
勉誠出版刊行の志村有弘編のテーマ別アンソロジー6冊の1冊です。アンソロジーはよく購 入するのですが未読になっている事が多いです。読むときはまとめて一気に全部通して読破 がよいと思っています。テーマ別アンソロジーは資料性はないので、作品の選び方が重要で す。このシリーズでは特にきっちりしたポイントはなく、選者のイメージによる様に感じま す。結果的に知らない作者・作品もおおいです。内容も玉石混在といえるでしょう。本集は 短編8作で既読はなかったですが、特に目玉の作品もなかった様に思います。収録作家は、 加納一郎・甲賀三郎・渡辺啓助・大下宇陀児・藤波浩・高梨久・奥田野月・鵠沼二郎です。
2006年04月03日
謀殺の火<S.H.コーテイア>
日本には初訳・紹介のオーストラリアの作家です。日本では考え難いオーストラリアらしい 背景で変則的な進行で本格推理が展開されます。渓谷全体が山火事で燃え尽き、そこにあっ た村が全滅し多くの死者がでる事件、その死者の一人の友人が手紙を詳しく調べた所疑問を 見つけて休暇をとり渓谷に来ます。そして、手紙の内容に登場する場所を訪れ、人物を調べ るうちに、隠された謎が姿を現します。日本を舞台にすると孤島か、小さな村止まりの舞台 しか無理でしょうが、人の少ない広大な土地が舞台ですのでスケールの大きい謎になっています。
2006年04月06日
魔の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの2冊目です。収録作家は、浜尾四郎・村山塊多・秦賢 助・夢座海二・夢野久作・小酒井不木です。作品はメジャーのものが多く、既読が4作でし た。よくあることですが、やや選出にも配慮が欠けている感もあります。夢座海二の「偽装 魔」が中編本格でかなり面白くできています。フィルムや映画の知識が、効率よく説明・利 用されています。解説の行数が、作者によってバラバラで編者の関心度が反映されていると 感じます。
2006年04月06日
赤の謎<>
これは現役の江戸川乱歩賞受賞作家のアンソロジーです。内容にテーマはありません。色別 に複数冊でている様ですが、読むのはこれが初めてです。収録作家は、長坂秀佳・真保裕一 ・川田弥一郎・新野剛志・高野和明です。ミステリから離れている人もおり、長編賞受賞者 が短編が得意とは限らない等、ばらつきは仕方がない所です。高野和明「二つの銃口」がペ ージ数が少ない割にはサスペンスとして面白いです。いわゆる神の目の視点でかかれており 、それ故のひねった終わり方といえるでしょう。
2006年04月11日
黒の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの3冊目です。収録作家は、藤雪夫・渡辺啓助・新久保 賞治・小鹿進です。藤「黒水仙」が中編のため作品数は少ないです。解説も最初の2作は普 通ですが、後の2作はつけたしの感があります。藤雪夫は後年に娘の藤桂子との合作で「獅 子座」「黒水仙」を発表しているが、その後書きはいささか混乱している様に思います。藤 雪夫の死と記憶が混乱の元のように思います。
2006年04月11日
ウイッチフォード毒殺事件<アントニー・バークリー>
近年立て続けに翻訳されたバークリーの2作目に当たります。すでにこの頃から、ユーモア と諧謔がそこはかとなく感じます。ロジャーの探偵像は当時は特異だったと思います。現在 でもそう感じますので。詳しくは書けませんが、題名は翻訳ミスと感じます。誰も原題を注 意しなかったのでしょうか。誤訳で読者を間違った方向に誘導する異図があったと思われて 仕方がないでしょう(原題はそのような事はない)。作者の書いた順に読める事は、非常に 喜ばしい事です。
2006年04月13日
白の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの4冊目です。収録作家は、牧逸馬・早川四郎・古銭信 二・鷺六平・中村豊秀・葉糸修祐・田中貢太郎です。ややマイナーで未読作が多いです。選 題的には作品名のごろ合わせ的な感じもします。ジャンルは多彩とも言えますが・・。田中 貢太郎は2作収録ですがどちらも短い作品です。怪談の名手だけあって、印象的な作品です。 アンソロジーで短い作品のほうが印象的な事はしばしばあります。
2006年04月13日
鏡陥穽<飛鳥部勝則>
一応は本格ミステリに分類されている作者ですが、多かれ少なかれ別の要素が入っています。 しかし本作は、ホラーです。幻想とか本格とかは無理に探しても見つかるかどうかです。例 によって絵画も挿入されていますが本人のではないです。異例ずくめですので、なかなか適 当な感想も見つかりません。読む準備が出来ていなかった作品を読んでしまったというのが 正直な所です。本作は、作者の分岐点でしょうか、単なる行動範囲の1末端でしょうか?。 本格好きの私には、いささか気になります。
2006年04月16日
水の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの5冊目です。収録作家は倉田映郎・木野工・武蔵野次 郎・鷲尾三郎です。中編の鷲尾三郎「雪崩」が半分のページを占めているので4作です。水 の怪となっていますが、最初の2作は「流氷」で3作目は「海」で4作目は井戸も出てきま すがどちらかと言えば題名で取った感があります。あまり「水」のテーマがピンと来ません。 「雪崩」は有名な作品で既読ですので、ややものたりなかったです。
2006年04月16日
醜聞の館<リン・ブロック>
副題が「ゴア大佐第3の事件」です。乱歩も名作とした幻の本格の初訳となっていますが、 訳者の後書きを読んでびっくり、正式な役職は大佐ではなく中佐だとの事です。何故間違い が起こったのかの説明もあります。日本での紹介の歴史からあえて大佐としたとの事です。 内容はのんびりした英国風の事件展開です。しばしば見られるジャンルで嫌いではありませ んが、最後に無理にひねろうとした所があり、それまでの雰囲気とやや合わない気がしまし た。とにかく実作が訳されて読む事で始めて評価できる訳でその面で貴重です。
2006年04月19日
人間心理の怪<>
志村有弘編のテーマ別アンソロジーの6冊目で最後です。収録作家は大下宇陀児・甲賀三郎 ・小酒井不木・猪又聖吾・大岡昇平です。最後を飾る顔ぶれです。テーマの人間心理は漠然 としています。編者は人間の心がきっかけで起きた事件としていますが、むしろそうでない 作品のほうが少ないと思います。流石に、サスペンスや犯罪小説が中心である事はテーマ上 当然とも言えます。テーマ別アンソロジーは多いですが、選ぶ難しさを感じました。
2006年04月19日
くらのかみ<小野不由美>
小学校高学年から読めるミステリーランドの1冊です。英語名がついていて「ざしきわらじ 」となっています。話しは、いきなりの人間がひとり増える謎から始まり次々と色々な事件 が起こり退屈はさせません。ただ、本格の作者でないので全ての謎が分かりやすく解決する 訳ではありません。どれが謎が解け、どれが残るのかがなかなか分からないので、謎解きと 共にホラーやサスペンス的な雰囲気が全体を覆っています。子ども向きかどうかは分かりま せんが大人が読んでも結末が容易に予想できない作品です。
2006年04月22日
エンジェル家の殺人<ロジャー・スカーレット>
最近、未訳作品が2冊出版されたのではるか昔に読んだ作品を読み返しました。ほとんど、 憶えていなかったですので・・。古い訳で、今読んでも内容が理解しにくいです。昔は読ん だが分からなく記憶に残っていないようです。今回はポイントを戻って読み直したので、あ る程度理解できたが、特徴である細部の伏線などは読み落としているように感じます。とい う訳で乱歩推薦の名作とまでは感じなかったです。訳のせいかな・・?。
2006年04月22日
危険な夏<北方謙三>
初期のハードボイルド要素の強い時期の作品です。一人称の文章ではありませんが、それは 拘る問題ではありません。初期は一人称でしたが、ロールプレイング型からモジュラー型に 替わっていく過程で、複数の事件・人物を描き分ける必要性から中心人物の視点の無人称に なってきています。話しは大きく2つに分かれ、犯罪・冒険小説的要素の部分もあります。 小道具を上手に使用して、あきない内容になっています。ミステリですので、ジャンルは色 々でも謎が組み込まれている作品は面白いです。
2006年04月26日
MIST<池井戸潤>
金融関係を舞台にした作品で楽しませてくれる作者ですが、本作は駐在所のある小さな地域 で発生した事件が中心となって展開してゆきます。巡査が主人公というと比較的に少ないと いえます。狭い集落を舞台にしたときは、情報量の多さはかなり魅力的です。名探偵的な設 定は不自然なので、複数の捜査役を配置しています。長編ですので、色々な脇役的な話しも 多く登場します。なかには金融関係も登場して、本命かと勝手に思いますがなかなか簡単で ではありません。作者にとって、小説の舞台を拡げる作品で成功していると思います。
2006年04月26日
有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー<>
現在3冊出ている、本格のアンソロジーです。選者が秘密の珍しい作品を自慢げに選んでい る感があります。作品は国内・海外合わせて、10作です。既読は10作中2作のみです。 実はこの作品が最初で、類似作が次々書かれましたという作品も含まれていますので、内容 も珍しいとはいえないかも知れませんが、資料的価値は逆に発生します。わずかではあって も「これは知らないでしょう」の作品群に既読作品を見つけた時は何故かうれしくなります。 自分でも選んでみたい気になります。
2006年04月28日
薪小屋の秘密<アントニイ・ギルバート>
しばらく翻訳物を読んでいなかったので、二人のギルバートが混乱しています。ましてや片 方が女流作家とは知りませんでした。作風も分からず読んだので、プロットを進行を見誤っ てしまいました。もし、予想していても微妙な表現を読み取る必要があり、巧妙とも言えま す。探偵役が地味な設定になっているので、ストーリーと合わせるとやや変則的な本格とサ スペンスの混ざった雰囲気になっています。かなり多作の作者のようですが、日本への紹介 はまだ僅かです。
2006年04月28日
蛍<摩耶雄嵩>
謎の解明を書くのは勿論不可ですが、ストーリーや作品の売りをも書きにくい作品が時々あ ります。摩耶雄嵩の作品にはそれに該当する作品が多いです。本作は、本格マニアにお勧め ですがその理由は、書かないほうがよいのでしょう。実際に、充分に読みなおした訳でない 不十分な事も理由です。そう再読が必要な作品とぐらいは言ってよいでしょう。嵐の山荘で での殺人鬼とその共犯者の謎、秘密の部屋・過去の事件とくれば、またかと思ってしまうか も知れません。しかしそれ自体が狙いとも言えます。
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2006/04に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。