推理小説読書日記(2006/03)
2006年03月1日
内宇宙への旅<倉阪鬼一郎>
広義のエンターテイメントですが、ジャンルがなにかは分かりかねます。メタもの・アンチ ものと呼ばれる作品に入ると思いますが、やや趣が異なります。ホラーか、SFかあるいはど れにも属さないのか?。私小説風ホラーという新ジャンルでしょうか。他の多数の作品と同 様に、作中作を含む作品はどうしても変則的な違和感があります。それが作者の狙いとも思 いますが、私自身が作者の思惑に気づいたかどうかさえ不明です。広義に見るといつか見た 狙いとも取れますが、狭く見るとかなりの意欲作ともとれます。
2006年03月1日
「密室」傑作選<>
戦前・戦後の雑誌のアンソロジーシリーズの15冊目です。収録雑誌は「密室」のみです。 ただ内容は、かなり贅沢といえるでしょう。山沢晴雄・狩久・豊田寿秋・鮎川哲也・天城一 です。アンソロジーは2回目ですが、鮎川哲也の「呪縛再現」は一時は幻の作品と呼ばれま した。そして、最近、初めての短編集出版で話題の天城一の長編「圷家殺人事件」です。短 くかつ密度の濃い短編の切れ味は、長編では難しいですが長編らしく戦争というキーワード を追加する事で成立させています。解決編は短編的に簡素に感じます。
2006年03月3日
予告探偵 西郷家の謎<太田忠司>
幅広いジャンルの作品を書く作者は、読む方にも予備知識が分散されていますのできめ読み が出来ませんので、XX派と呼ばれる人の作品とは異なった期待と不安が読む前に有ります。 「難攻不落のトリック」の帯文や、館の図面が載っており、かつ予告殺人から始まる本作は 読者にある種のジャンル・作品群を予想させます。最近はこの類の作品数も増えはたしてど の方向へ進むのか??。その結果は、ミステリの鉄則として書く事は出来ません。読後は、 かなりの人がある有名な作品を思い出すと思います。ただし最初は予想していなかった。
2006年03月3日
死を呼ぶスカーフ<ミニオン・エバハート>
「HIBK派(had-I-but-known)と呼ぶと解説されています。あのとき、この事を知っていたら の略だそうですがミステリを含めて小説は殆どが該当するでしょう。ただ、それがヒロイン でサスペンス・ミステリのスタイルのひとつと言うならば、かなり狭くなります。現代では ロマンチック・ミステリの要素が大きいようにも思います。本作は戦前の作品ですが、その 後に「悪女もの」が多くかかれて、最近はまた回帰的にロマンス的な作品も書かれているよ うです。従って、パターン化はあまり気にならず素直にサスペンスを楽しめます。
2006年03月7日
「探偵実話」傑作選<>
雑誌のアンソロジーシリーズの16冊目です。完全な専門誌ではなかった模様ですが、発行 期間的には大関クラスの物量を誇ります。まだ発表の場がすくなかった時期ですので、発表 の場の提供という意味で、貴重な存在だったようです。特に新進作家にはその影響も大きく 作品的にもかなり高いレベルの作品が集まります。この雑誌独自の作家はあまりいないもの も、デビューしたものの作品発表の少ない新進作家が多く、今になれば貴重な作家の作品が 多く見られます。資料が厚くなり、これだけでもまた貴重です。
2006年03月7日
シリウスの道<藤原伊織>
乱歩賞と直木賞のダブル受賞で話題になりましたが、作品の発表はゆっくりです。しかし、 内容が充実しているのでのんびり待ちましょう。本作は、かって作者の本業であった広告業 界が舞台です。ある会社の新事業の広告案のプレゼンテーションの複数社の競合をメインに 個性的な登場人物のプライベートの事件と謎の複雑な絡みを組み合わせて、これに社内・社 外のトラブルや罠や利権をも絡ませます。登場人物のかなりが単独で主人公に出来る個性を もち、ハッピーエンドでないだけに分かれるのが惜しい読後になります。
2006年03月11日
虹北恭助の新冒険<はやみねかおる>
本来は1冊になる予定の本を2冊に分けたとする片割れです。最近では珍しい薄い本になっ ています。連作集ですが、実際は本編1作・外伝1作の2作のもの収録です。旅にでている 主人公の恭助が、ふらっと帰ってきて事件を解決してまた旅に出て行きます。直ぐに謎を解 く探偵と、あるていど事件や周囲の事を書きたい小説の要求を合わせると、あるていど謎と 情報があつまった頃に探偵が登場する設定がひとつの理想です。これもそのパターンです。 本作と外伝共に、作中自主制作映画が大きな楽しみとなっています。
2006年03月11日
夢を喰う女<シャーロット・アームストロング>
サスペンスとテンポの良いユーモアが特徴のイメージのある作者です。原作自体は作者にと って初期ともいえないですが、翻訳自体は初期の紹介になります。そのせいか、あるいは原 作自体がそのようになっているのか分かりませんが、この作者のイメージとはやや異質に感 じました。話しとしては、テンポよくではなくややじっくりと、特にユーモアも感じなく進 みます。シリアスではなく、幻想的なテーマですがそれなりに重々しく感じます。こちらの 方が普通で違和感は無い筈ですが、先入観のためかやや意外でした。
2006年03月16日
「探偵倶楽部」傑作選<>
実に25%が資料というアンソロジーです。なんと言ってもこれが貴重です。創作・翻訳・ 実話の比率を変えながら、長く続いたようです。時期によって創作の内容も変わっていると いえます。作家は、戦前からの作家に他誌出身作家を加えてなかなかの顔ぶれですが、独自 の作家は少ないように思います。従って、アンソロジーの顔ぶれとしては、名前を聞いた事 のある作家がならび或る意味では豪華です。(他アンソロジーでは、マイナーな独自作家を 多く取り上げているため)。
2006年03月16日
模像殺人事件<佐々木俊介>
長編第2作目です。内容はがらりと代わり、背景や内容は古風で形式は最近多いものと言え ると思います。謎自身ではなく、その表現を複雑化したためかなり内容が分かり難くなって います。そうでは無いという人もいると思いますが、私はかなり混乱してしまいました。何 か重要なものを読み落としているのではないかとの危惧もあります。ただ読んで疲れる内容 ですので、再度確かめる気にはなりません。ピント外れの感想であればお詫びしたいが、謎 の難しさと、読みにくさは別のものと個人的には思います。
2006年03月18日
ゆきの山荘の惨劇<柴田よしき>
副題が「猫探偵正太郎登場」です。人間世界の事件を、猫の正太郎の1人称で描き複数の猫 が登場します。そして本当に探偵役を行います。しかも本格ミステリーです。動物の世界を 描いたものではなく、視点が動物だけでもありません。しかもなかには文字を読んだり、ワ ープロを打ったりする猫が登場するのでややこしいです。猫探偵の必然性は感じませんが、 本格推理に猫探偵が登場する違和感も感じません。そもそも存在が??の名探偵がたまたま 猫だったという話しと思うだけです。
2006年03月18日
ペンギンは知っていた<スチュアート・パーマー>
「エラリー・クイーンのライバルたち」とめいうったシリーズの1冊です。探偵役の教師の ヒルデガード・ウイザーズの名前は短編では読んだ事はありますが、長編では初めてです。 内容が古くてもあたりまえでしょうが、それほどは感じさせません。時代に左右されにくい 背景・題材を使っているからでしょう。結果的に地味でオーソドックスですが、派手な内容 を期待している人以外には充分に受け入れられる内容と思います。エピローグ的には、短編 のイメージと異なるかなと思いました。
2006年03月21日
「エロテイック・ミステリ」傑作選<>
雑誌アンソロジーシリーズの18冊目です。戦後最大のミステリ雑誌「宝石」は増刊からは じまり、「エロテイック・ミステリ」「別冊宝石」と姉妹誌を増やしてゆきました。どれも が量と発行冊数でかなりの規模を残しています。はじまりは古いものの独立がはっきりした のは昭和30年台です。内容的には全てがミステリ専門ではなかった様ですが、それはいつ の時代も同じです。懐かしい名前・知らない名前が並ぶ作品は、やはりミステリからみての 重要性を感じさせます。
2006年03月21日
三百年の謎匣<芦辺拓>
森江春策シリーズですが、いつもの通りけれんに満ちた構成です。森江に持ち込まれた謎の 本、そしてそこには謎をのこした話しが複数の別の短編となって入っています。作者は既に 中国歴史・ロストワールド・中国古小説・中世ヨーロッパの城等をその小説に組み込んでい ます。そのひとつと考えれば、最も得意とする分野と言えるでしょう。形式的には最後に、 長編になる連作に分類できると思いますが特に隠す事もなく、はじめと終わりに森江を登場 させ、直球勝負で謎に取り組みます。
2006年03月23日
「別冊宝石」傑作選<>
雑誌アンソロジーシリーズの19冊目です。戦後最大のミステリ雑誌「宝石」の特集的な内 容でスタートし、次第に色々な内容に変化していった雑誌と理解しています。古い雑誌は、 現在ではほとんどが入手は困難ですが、「宝石」関係3誌は号数が多いので揃えるのは大変 ですが、あるていどは入手可能です。創作・再刊が混ざっていることや雑誌のみの翻訳作品 など目的なしには探し難いです。この面では、いつもながら索引リストは非常に役にたちま す。量的には1冊にはまとめきれない作品群です。
2006年03月23日
首なし雪だるまの謎<新庄節美>
一応子供向けと言うことで、謎は簡単ですがネズミの探偵と猫のワトソン役が事件を解決す る設定とともに全体に漂うユーモアは読んで楽しい作品です。動物の世界を人間的に描き、 易しいがまともな本格ミステリの構成は、ばりばりの本格指向の読者でも読んでおきたい本 と思います。複数作品のシリーズですが、90年代の作品ですが現在は入手がやや困難にな っています。児童書は比較的安定した出版物ですので、再刊を期待したいです。
2006年03月27日
甘い毒<ルーパート・ペニー>
幻の本格と帯に書かれています。海外はあまり詳しくはないので、当然ながら初めて読みま す。同時にパズル小説との記述もあります。作風がそうだとしても、本作ではそうだとも、 違うとも受け取れる内容になっています。事件>捜査>推理>謎解きの過程が、やや変則的 に配置されているとの印象です。1作のみでは、分からない部分もあります。ただ、地味で 堅実な捜査と謎解きは強く感じられ個人的には好みの作風です。近年、あまり紹介されなか った作家が紹介されそのなかのかなりの部分が同じ印象を受けます。日本の本格が戦後にカ −の影響を受けた為に地味な作者の紹介がなされなかったように思います。多くの作家が紹 介される事は新しい発見があり期待します。
2006年03月27日
密室の鍵貸します<東川篤哉>
烏賊川市という偶然できたという架空の都市を舞台に個性の強い登場人物が主人公で、展開 します。本格推理であっても、ユーモアというか読者をよろけさせる様ないかがわしさが、 そこはかとなく存在します。一応は不可能犯罪ですが、作中であまり騒がないので意外と地 味な印象があります。舞台設定や作風を殺さない程度にたんたんと展開してゆくようで、読 者を自分の世界に取り込んでゆくように思います。飽きが来にくい作風で期待できます。
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内宇宙への旅<倉阪鬼一郎>
広義のエンターテイメントですが、ジャンルがなにかは分かりかねます。メタもの・アンチ ものと呼ばれる作品に入ると思いますが、やや趣が異なります。ホラーか、SFかあるいはど れにも属さないのか?。私小説風ホラーという新ジャンルでしょうか。他の多数の作品と同 様に、作中作を含む作品はどうしても変則的な違和感があります。それが作者の狙いとも思 いますが、私自身が作者の思惑に気づいたかどうかさえ不明です。広義に見るといつか見た 狙いとも取れますが、狭く見るとかなりの意欲作ともとれます。
2006年03月1日
「密室」傑作選<>
戦前・戦後の雑誌のアンソロジーシリーズの15冊目です。収録雑誌は「密室」のみです。 ただ内容は、かなり贅沢といえるでしょう。山沢晴雄・狩久・豊田寿秋・鮎川哲也・天城一 です。アンソロジーは2回目ですが、鮎川哲也の「呪縛再現」は一時は幻の作品と呼ばれま した。そして、最近、初めての短編集出版で話題の天城一の長編「圷家殺人事件」です。短 くかつ密度の濃い短編の切れ味は、長編では難しいですが長編らしく戦争というキーワード を追加する事で成立させています。解決編は短編的に簡素に感じます。
2006年03月3日
予告探偵 西郷家の謎<太田忠司>
幅広いジャンルの作品を書く作者は、読む方にも予備知識が分散されていますのできめ読み が出来ませんので、XX派と呼ばれる人の作品とは異なった期待と不安が読む前に有ります。 「難攻不落のトリック」の帯文や、館の図面が載っており、かつ予告殺人から始まる本作は 読者にある種のジャンル・作品群を予想させます。最近はこの類の作品数も増えはたしてど の方向へ進むのか??。その結果は、ミステリの鉄則として書く事は出来ません。読後は、 かなりの人がある有名な作品を思い出すと思います。ただし最初は予想していなかった。
2006年03月3日
死を呼ぶスカーフ<ミニオン・エバハート>
「HIBK派(had-I-but-known)と呼ぶと解説されています。あのとき、この事を知っていたら の略だそうですがミステリを含めて小説は殆どが該当するでしょう。ただ、それがヒロイン でサスペンス・ミステリのスタイルのひとつと言うならば、かなり狭くなります。現代では ロマンチック・ミステリの要素が大きいようにも思います。本作は戦前の作品ですが、その 後に「悪女もの」が多くかかれて、最近はまた回帰的にロマンス的な作品も書かれているよ うです。従って、パターン化はあまり気にならず素直にサスペンスを楽しめます。
2006年03月7日
「探偵実話」傑作選<>
雑誌のアンソロジーシリーズの16冊目です。完全な専門誌ではなかった模様ですが、発行 期間的には大関クラスの物量を誇ります。まだ発表の場がすくなかった時期ですので、発表 の場の提供という意味で、貴重な存在だったようです。特に新進作家にはその影響も大きく 作品的にもかなり高いレベルの作品が集まります。この雑誌独自の作家はあまりいないもの も、デビューしたものの作品発表の少ない新進作家が多く、今になれば貴重な作家の作品が 多く見られます。資料が厚くなり、これだけでもまた貴重です。
2006年03月7日
シリウスの道<藤原伊織>
乱歩賞と直木賞のダブル受賞で話題になりましたが、作品の発表はゆっくりです。しかし、 内容が充実しているのでのんびり待ちましょう。本作は、かって作者の本業であった広告業 界が舞台です。ある会社の新事業の広告案のプレゼンテーションの複数社の競合をメインに 個性的な登場人物のプライベートの事件と謎の複雑な絡みを組み合わせて、これに社内・社 外のトラブルや罠や利権をも絡ませます。登場人物のかなりが単独で主人公に出来る個性を もち、ハッピーエンドでないだけに分かれるのが惜しい読後になります。
2006年03月11日
虹北恭助の新冒険<はやみねかおる>
本来は1冊になる予定の本を2冊に分けたとする片割れです。最近では珍しい薄い本になっ ています。連作集ですが、実際は本編1作・外伝1作の2作のもの収録です。旅にでている 主人公の恭助が、ふらっと帰ってきて事件を解決してまた旅に出て行きます。直ぐに謎を解 く探偵と、あるていど事件や周囲の事を書きたい小説の要求を合わせると、あるていど謎と 情報があつまった頃に探偵が登場する設定がひとつの理想です。これもそのパターンです。 本作と外伝共に、作中自主制作映画が大きな楽しみとなっています。
2006年03月11日
夢を喰う女<シャーロット・アームストロング>
サスペンスとテンポの良いユーモアが特徴のイメージのある作者です。原作自体は作者にと って初期ともいえないですが、翻訳自体は初期の紹介になります。そのせいか、あるいは原 作自体がそのようになっているのか分かりませんが、この作者のイメージとはやや異質に感 じました。話しとしては、テンポよくではなくややじっくりと、特にユーモアも感じなく進 みます。シリアスではなく、幻想的なテーマですがそれなりに重々しく感じます。こちらの 方が普通で違和感は無い筈ですが、先入観のためかやや意外でした。
2006年03月16日
「探偵倶楽部」傑作選<>
実に25%が資料というアンソロジーです。なんと言ってもこれが貴重です。創作・翻訳・ 実話の比率を変えながら、長く続いたようです。時期によって創作の内容も変わっていると いえます。作家は、戦前からの作家に他誌出身作家を加えてなかなかの顔ぶれですが、独自 の作家は少ないように思います。従って、アンソロジーの顔ぶれとしては、名前を聞いた事 のある作家がならび或る意味では豪華です。(他アンソロジーでは、マイナーな独自作家を 多く取り上げているため)。
2006年03月16日
模像殺人事件<佐々木俊介>
長編第2作目です。内容はがらりと代わり、背景や内容は古風で形式は最近多いものと言え ると思います。謎自身ではなく、その表現を複雑化したためかなり内容が分かり難くなって います。そうでは無いという人もいると思いますが、私はかなり混乱してしまいました。何 か重要なものを読み落としているのではないかとの危惧もあります。ただ読んで疲れる内容 ですので、再度確かめる気にはなりません。ピント外れの感想であればお詫びしたいが、謎 の難しさと、読みにくさは別のものと個人的には思います。
2006年03月18日
ゆきの山荘の惨劇<柴田よしき>
副題が「猫探偵正太郎登場」です。人間世界の事件を、猫の正太郎の1人称で描き複数の猫 が登場します。そして本当に探偵役を行います。しかも本格ミステリーです。動物の世界を 描いたものではなく、視点が動物だけでもありません。しかもなかには文字を読んだり、ワ ープロを打ったりする猫が登場するのでややこしいです。猫探偵の必然性は感じませんが、 本格推理に猫探偵が登場する違和感も感じません。そもそも存在が??の名探偵がたまたま 猫だったという話しと思うだけです。
2006年03月18日
ペンギンは知っていた<スチュアート・パーマー>
「エラリー・クイーンのライバルたち」とめいうったシリーズの1冊です。探偵役の教師の ヒルデガード・ウイザーズの名前は短編では読んだ事はありますが、長編では初めてです。 内容が古くてもあたりまえでしょうが、それほどは感じさせません。時代に左右されにくい 背景・題材を使っているからでしょう。結果的に地味でオーソドックスですが、派手な内容 を期待している人以外には充分に受け入れられる内容と思います。エピローグ的には、短編 のイメージと異なるかなと思いました。
2006年03月21日
「エロテイック・ミステリ」傑作選<>
雑誌アンソロジーシリーズの18冊目です。戦後最大のミステリ雑誌「宝石」は増刊からは じまり、「エロテイック・ミステリ」「別冊宝石」と姉妹誌を増やしてゆきました。どれも が量と発行冊数でかなりの規模を残しています。はじまりは古いものの独立がはっきりした のは昭和30年台です。内容的には全てがミステリ専門ではなかった様ですが、それはいつ の時代も同じです。懐かしい名前・知らない名前が並ぶ作品は、やはりミステリからみての 重要性を感じさせます。
2006年03月21日
三百年の謎匣<芦辺拓>
森江春策シリーズですが、いつもの通りけれんに満ちた構成です。森江に持ち込まれた謎の 本、そしてそこには謎をのこした話しが複数の別の短編となって入っています。作者は既に 中国歴史・ロストワールド・中国古小説・中世ヨーロッパの城等をその小説に組み込んでい ます。そのひとつと考えれば、最も得意とする分野と言えるでしょう。形式的には最後に、 長編になる連作に分類できると思いますが特に隠す事もなく、はじめと終わりに森江を登場 させ、直球勝負で謎に取り組みます。
2006年03月23日
「別冊宝石」傑作選<>
雑誌アンソロジーシリーズの19冊目です。戦後最大のミステリ雑誌「宝石」の特集的な内 容でスタートし、次第に色々な内容に変化していった雑誌と理解しています。古い雑誌は、 現在ではほとんどが入手は困難ですが、「宝石」関係3誌は号数が多いので揃えるのは大変 ですが、あるていどは入手可能です。創作・再刊が混ざっていることや雑誌のみの翻訳作品 など目的なしには探し難いです。この面では、いつもながら索引リストは非常に役にたちま す。量的には1冊にはまとめきれない作品群です。
2006年03月23日
首なし雪だるまの謎<新庄節美>
一応子供向けと言うことで、謎は簡単ですがネズミの探偵と猫のワトソン役が事件を解決す る設定とともに全体に漂うユーモアは読んで楽しい作品です。動物の世界を人間的に描き、 易しいがまともな本格ミステリの構成は、ばりばりの本格指向の読者でも読んでおきたい本 と思います。複数作品のシリーズですが、90年代の作品ですが現在は入手がやや困難にな っています。児童書は比較的安定した出版物ですので、再刊を期待したいです。
2006年03月27日
甘い毒<ルーパート・ペニー>
幻の本格と帯に書かれています。海外はあまり詳しくはないので、当然ながら初めて読みま す。同時にパズル小説との記述もあります。作風がそうだとしても、本作ではそうだとも、 違うとも受け取れる内容になっています。事件>捜査>推理>謎解きの過程が、やや変則的 に配置されているとの印象です。1作のみでは、分からない部分もあります。ただ、地味で 堅実な捜査と謎解きは強く感じられ個人的には好みの作風です。近年、あまり紹介されなか った作家が紹介されそのなかのかなりの部分が同じ印象を受けます。日本の本格が戦後にカ −の影響を受けた為に地味な作者の紹介がなされなかったように思います。多くの作家が紹 介される事は新しい発見があり期待します。
2006年03月27日
密室の鍵貸します<東川篤哉>
烏賊川市という偶然できたという架空の都市を舞台に個性の強い登場人物が主人公で、展開 します。本格推理であっても、ユーモアというか読者をよろけさせる様ないかがわしさが、 そこはかとなく存在します。一応は不可能犯罪ですが、作中であまり騒がないので意外と地 味な印象があります。舞台設定や作風を殺さない程度にたんたんと展開してゆくようで、読 者を自分の世界に取り込んでゆくように思います。飽きが来にくい作風で期待できます。
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2006/03に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。