推理小説読書日記(2006/02)
2006年02月1日
おまかせハウスの人々<菅浩江>
近未来の技術進歩の背景での出来事を描いた軽いSFです。元々、幻想系・技術系共に書く作 者ですし、重厚なミステリや軽いミステリも書いていますので、テーマと内容のバランスは 非常によくできています。あえて分類すれば技術系でしょうが、ひとつの技術進歩から派生 する物語ですので、複数の技術進歩を検証している訳でなく、厳密さは求めていません。題 名も微妙でSFらしい物から予想させないもの迄あります。テーマは技術進歩と、日常の人間 の生活とその感情です。1面で便利になったと思っても、それ以前と異なる別の障害が心に 現れるという非常に納得のゆく内容です。
2006年02月1日
カリブ諸島の手がかり<ストリブリング>
ポジオリ教授(心理学)が主人公の、カリブ諸島を舞台にした連作集です。特に最終作品の 「ベナレスへの道」は有名ですが内容はミステリとしては繊細でふれにくいです。カリブ諸 島は色々な島・国が存在しており、登場人物の個性と共に舞台として大きな変化があり内容 がそれに伴って変わりますので、連作にありがりな類似性が緩和されています。主人公が同 じでなければ、連作と感じないかもしれません。読者が安定したシリーズを好むか、変化の ある連作を好むかは明確ではありませんが、本連作は後者として成功しています。
2006年02月6日
「黒猫」傑作選<>
ミステリー文学資料館の雑誌アンソロジーシリーズの12冊目です。収録雑誌は「黒猫」「 トップ」「ぷろふぃる(戦後)」「探偵よみもの」です。メインの黒猫は、ポーの作品から の名称で翻訳作品の紹介が多かったとのことです。日本作家もなかなかの顔ぶれです。戦後 の雑誌についてくるのが、紙不足からのページ数の少なさです。翻訳に抄訳が多いのも当時 は仕方がなかった様です。ぽろふぃるの戦後版では、角田・海野合同ペンネームの青鷺幽鬼 作品の収録でしょう。海野の死後に約束で、角田が公表したそうですが、似たケースは他に もあるのでは無いかと思います。
2006年02月6日
トフ氏と黒衣の女<ジョン・クリーシー>
有閑貴族のおとぼけ探偵談とも言うべき作品です。ミステリの世界では結構多いジャンルで す。この傾向の作品は量産がきくのか、膨大な作品を書いたそうです。しかし、レベルは保 っていた様です。全く作品は異なるが、日本では笹沢佐保が思いだします。多作できる人は それによって、質が落ちると言えないと言える様です。ただ作品数が多いと、同時に忘れら れる作品も多い事は仕方がありません。多作シリーズでは、シリーズキャラクターが重要で すが初期作品でまだ固定されていないとの事です。主人公は日本では考え難い設定です。
2006年02月11日
人間動物園<連城三紀彦>
ミステリ以外の分野でも一流の書き手の作者です。ミステリの比率は減少していますが、そ の質はいつも最高レベルを維持しています。特徴は逆転の発想・それを生かすストーリーと 言えますが、ともすれば破綻しやすいこれらをまとめあげる技術力が最大のものでしょう。 本作もその典型的な例です。技術力がなければ、理屈だけで終わってしまうおそれのある発 想を説得力のある謎・犯罪・解決へと仕上げています。複雑な構成・謎ですが、作者名から ある程度予想できますが、結果を読んでもやはり驚く作品です。
2006年02月11日
龍臥亭幻想<島田荘司>
良い面も悪い面も作者らしい作品と言えます。不満点は解消する事はありそうも有りません が、作品を書き続ける事にも意味があり、喜ぶべきです。やはり、前置きの長い作品です。 もっと短くといつも思いますし、前半は読みとばしたいですが、仕方がないので我慢しまし ょう。登場人物は、2シリーズのオールスター的です。逆に言えば役割分担的で魅力的とは いえません。トリックと謎は、いつもの通り大胆かつ強引です。納得するかどうかは個人差 があります。この作者だけ許す人も多いと思います。
2006年02月16日
ジョン・ブランンの死体<ロラック>
地味な事件の始まりから、次第に複雑な展開になります。探偵小説の魅力を「発端の意外性 にある」との考えとは異なりますが、謎の複雑性もさることながら、その解明のロジカルさ を重視する作品も多くあります。そして、私のように後者の作品を好む人も多いです。本作 の発端から謎が深まってゆくタイミングは、中間的ともいえますが、謎の種類から見てやは り後者の作品と感じます。後者の作品は苦手という人も本作はかなり早い展開をする事で、 巧みなプロットを見せますので入門にはお薦めです。
2006年02月16日
「X」傑作選<>
旧雑誌アンソロジーの13冊目です。収録雑誌は「Gメン」「X」「新探偵小説」「真珠」「 フーダニット」です。現在では、入手困難な雑誌も多く貴重なアンソロジーと言えます。作 品・資料共に貴重です。小説的には多くはないとはいえ、もっと多くの作品の収録を期待し たい雑誌です。作品の選出は著名作家と、作品数の少ないレアの作家を同時に選んでいる様 です。初めて読む作者が多いのもこのアンソロジーの特徴とも言えます。随筆・評論も多い ですが時代背景の知識が要求されます。
2006年02月22日
ほうかご探偵隊<倉知淳>
大人も読める少年少女向けの「ミステリーランド」の1冊です。具体的な定義がない事もあ り、必ずしも少年少女向けとは思えない作品もあるように感じます。その中で本作は、登場 人物・謎・解明ともに、少年少女向けと感じます。それでも、大人にも楽しめる内容にもな っています。元々が日常の軽い謎の作品を特徴とする作者には、本作のジャンルも得意なの だと感じます。連続殺人ではなく、連続不用物紛失事件の設定自体が、設定に合った内容に なっています。ミッシングリンクの謎は成立するのです
2006年02月22日
「妖奇」傑作選<>
旧雑誌アンソロジーの14冊目です。これも発行数のわりには入手しにくい雑誌です。本ア ンソロジーの特徴は、長編「生首殺人事件」尾久木弾歩の収録でしょう。連載長編の単行本 未発行作は、複数の雑誌が揃わないと読めないので貴重です。内容は題名通り首の切断殺人 事件で、展開も典型的な「首のない死体」といってよいでしょう。古きよき時代の作品とい えるでしょう。江良利久一というどこかで聞いた名前の探偵が活躍します。作中にも「災厄 の町」への感想等が登場します。
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おまかせハウスの人々<菅浩江>
近未来の技術進歩の背景での出来事を描いた軽いSFです。元々、幻想系・技術系共に書く作 者ですし、重厚なミステリや軽いミステリも書いていますので、テーマと内容のバランスは 非常によくできています。あえて分類すれば技術系でしょうが、ひとつの技術進歩から派生 する物語ですので、複数の技術進歩を検証している訳でなく、厳密さは求めていません。題 名も微妙でSFらしい物から予想させないもの迄あります。テーマは技術進歩と、日常の人間 の生活とその感情です。1面で便利になったと思っても、それ以前と異なる別の障害が心に 現れるという非常に納得のゆく内容です。
2006年02月1日
カリブ諸島の手がかり<ストリブリング>
ポジオリ教授(心理学)が主人公の、カリブ諸島を舞台にした連作集です。特に最終作品の 「ベナレスへの道」は有名ですが内容はミステリとしては繊細でふれにくいです。カリブ諸 島は色々な島・国が存在しており、登場人物の個性と共に舞台として大きな変化があり内容 がそれに伴って変わりますので、連作にありがりな類似性が緩和されています。主人公が同 じでなければ、連作と感じないかもしれません。読者が安定したシリーズを好むか、変化の ある連作を好むかは明確ではありませんが、本連作は後者として成功しています。
2006年02月6日
「黒猫」傑作選<>
ミステリー文学資料館の雑誌アンソロジーシリーズの12冊目です。収録雑誌は「黒猫」「 トップ」「ぷろふぃる(戦後)」「探偵よみもの」です。メインの黒猫は、ポーの作品から の名称で翻訳作品の紹介が多かったとのことです。日本作家もなかなかの顔ぶれです。戦後 の雑誌についてくるのが、紙不足からのページ数の少なさです。翻訳に抄訳が多いのも当時 は仕方がなかった様です。ぽろふぃるの戦後版では、角田・海野合同ペンネームの青鷺幽鬼 作品の収録でしょう。海野の死後に約束で、角田が公表したそうですが、似たケースは他に もあるのでは無いかと思います。
2006年02月6日
トフ氏と黒衣の女<ジョン・クリーシー>
有閑貴族のおとぼけ探偵談とも言うべき作品です。ミステリの世界では結構多いジャンルで す。この傾向の作品は量産がきくのか、膨大な作品を書いたそうです。しかし、レベルは保 っていた様です。全く作品は異なるが、日本では笹沢佐保が思いだします。多作できる人は それによって、質が落ちると言えないと言える様です。ただ作品数が多いと、同時に忘れら れる作品も多い事は仕方がありません。多作シリーズでは、シリーズキャラクターが重要で すが初期作品でまだ固定されていないとの事です。主人公は日本では考え難い設定です。
2006年02月11日
人間動物園<連城三紀彦>
ミステリ以外の分野でも一流の書き手の作者です。ミステリの比率は減少していますが、そ の質はいつも最高レベルを維持しています。特徴は逆転の発想・それを生かすストーリーと 言えますが、ともすれば破綻しやすいこれらをまとめあげる技術力が最大のものでしょう。 本作もその典型的な例です。技術力がなければ、理屈だけで終わってしまうおそれのある発 想を説得力のある謎・犯罪・解決へと仕上げています。複雑な構成・謎ですが、作者名から ある程度予想できますが、結果を読んでもやはり驚く作品です。
2006年02月11日
龍臥亭幻想<島田荘司>
良い面も悪い面も作者らしい作品と言えます。不満点は解消する事はありそうも有りません が、作品を書き続ける事にも意味があり、喜ぶべきです。やはり、前置きの長い作品です。 もっと短くといつも思いますし、前半は読みとばしたいですが、仕方がないので我慢しまし ょう。登場人物は、2シリーズのオールスター的です。逆に言えば役割分担的で魅力的とは いえません。トリックと謎は、いつもの通り大胆かつ強引です。納得するかどうかは個人差 があります。この作者だけ許す人も多いと思います。
2006年02月16日
ジョン・ブランンの死体<ロラック>
地味な事件の始まりから、次第に複雑な展開になります。探偵小説の魅力を「発端の意外性 にある」との考えとは異なりますが、謎の複雑性もさることながら、その解明のロジカルさ を重視する作品も多くあります。そして、私のように後者の作品を好む人も多いです。本作 の発端から謎が深まってゆくタイミングは、中間的ともいえますが、謎の種類から見てやは り後者の作品と感じます。後者の作品は苦手という人も本作はかなり早い展開をする事で、 巧みなプロットを見せますので入門にはお薦めです。
2006年02月16日
「X」傑作選<>
旧雑誌アンソロジーの13冊目です。収録雑誌は「Gメン」「X」「新探偵小説」「真珠」「 フーダニット」です。現在では、入手困難な雑誌も多く貴重なアンソロジーと言えます。作 品・資料共に貴重です。小説的には多くはないとはいえ、もっと多くの作品の収録を期待し たい雑誌です。作品の選出は著名作家と、作品数の少ないレアの作家を同時に選んでいる様 です。初めて読む作者が多いのもこのアンソロジーの特徴とも言えます。随筆・評論も多い ですが時代背景の知識が要求されます。
2006年02月22日
ほうかご探偵隊<倉知淳>
大人も読める少年少女向けの「ミステリーランド」の1冊です。具体的な定義がない事もあ り、必ずしも少年少女向けとは思えない作品もあるように感じます。その中で本作は、登場 人物・謎・解明ともに、少年少女向けと感じます。それでも、大人にも楽しめる内容にもな っています。元々が日常の軽い謎の作品を特徴とする作者には、本作のジャンルも得意なの だと感じます。連続殺人ではなく、連続不用物紛失事件の設定自体が、設定に合った内容に なっています。ミッシングリンクの謎は成立するのです
2006年02月22日
「妖奇」傑作選<>
旧雑誌アンソロジーの14冊目です。これも発行数のわりには入手しにくい雑誌です。本ア ンソロジーの特徴は、長編「生首殺人事件」尾久木弾歩の収録でしょう。連載長編の単行本 未発行作は、複数の雑誌が揃わないと読めないので貴重です。内容は題名通り首の切断殺人 事件で、展開も典型的な「首のない死体」といってよいでしょう。古きよき時代の作品とい えるでしょう。江良利久一というどこかで聞いた名前の探偵が活躍します。作中にも「災厄 の町」への感想等が登場します。
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2006/02に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。