推理小説読書日記(2006/01)
2006年01月2日
砂楼に登りし者たち<獅子宮敏彦>
現在の進歩した科学捜査を描くにはかなりの知識を必要とします。意外と知られていない事 もあり逆にテーマとしてなりえます。また、現代でも状況設定では科学捜査を排除した作品 を書く余地もあります。そして、科学捜査能力のない人物を主人公にする設定も可能です。 最近特に目立つのが、時代を遡った設定にしたものです。本作は戦国時代を旅する医師が犯 罪を解決します。歴史的にメジャーな人物とマイナー(創作?)な人物が登場します。そし 事件は不可能犯罪です。ただ、複数犯の犯罪のため不満もあります。歴史小説と伝奇小説と をミステリに持ち込んだ不思議な味はあります。
2006年01月2日
臨場<横山秀夫>
本作は現代の科学捜査を描いた作品です。「終身検死官」と呼ばれる倉石が科学知識と経験 を駆使して自殺か事故か犯罪か分からない事件を解決してゆきます。短編連作集ですが、1 作が1つの事件に限らず、次々事件が舞い込んでくる所はいかにも警察小説の感があります。 犯人が必ずしも存在するとは限らず、必ずしもトリックを仕掛けて来ないですが、主人公の 推理はかなりの本格味を感じます。毎作ごとに視点をかえる構成も巧妙です。視点を持つ人 物の心の奥に入る事で、本格でも警察小説でもない雰囲気を出せるからです。
2006年01月6日
触身仏<北森鴻>
女性民族学者の蓮丈那智シーズの2冊目です。基本的に短編のシリーズです。フィールド・ ワークと副題があるように、地方に調査に出かけて事件に遭遇するのが1集の設定でした。 今回も前提はそれを元にしているものの、大学内で起きた事件を解決しながら、民族学の問 題を解決する作品が目立ちます。民族学の謎がある限り本シリーズの魅力が変わる事は有り ません。しかし、スタイルとして多様化しないと連作は難しい事が容易に想像できます。 シリーズに新たにレギュラーが登場します。これは、まだまだ書き継がれてゆく事と理解し て益々期待したいと思います。
2006年01月6日
アプルビズ・エンド<マイケル・イネス>
なかなか訳が少ない作者の本が連続して出版されました。読むのはやや厄介な作者ですが、 本作は少し手を抜けば、悪戦苦闘しなくても読めます。意外な事件との出会い、特に中々発 生しないのでかなり疲れるうえに事件もどちらかと言えば地味と言えるでしょう。ただ、こ れがイネスの小説として受け入れるべきかと思います。作者の作風を色々な表現で述べた本 がありますが、既存のジャンルで説明するのが難しいので混在した分かり難い言い方になる と思います。とにかく、この作者を理解するのには時間と冊数が必要でしょう。
2006年01月10日
オリエント急行とパンドラの匣<はやみねかおる>
迷探偵・夢水清志郎と、怪盗クイーンの共演です。そして舞台はトルコからパリのオリエン ト急行です。ダブルキャストでサービス満点のようですが、逆に岩崎3姉妹はほとんど登場 しないので、夢水ひとりのゲスト出演の形です。トルコの盗賊組織とそれを追う探偵卿、そ してその子供と母親が絡み複数の謎を演出します。青い鳥文庫ですので、複雑なものはあり ませんが無難なまとまりでしょう。クイーンとジョーカーとRDとの掛け合いがいつもながら 面白いです。人工頭脳RDが特に私のお気に入りです。RDをウイルス感染させるクイーンもす ごいですね。
2006年01月10日
「新趣味」傑作選<>
「ミステリー文学資料館」発行の1・2期20冊のシリーズ・アンソロジーの7冊目です。 大正に発行されたミステリ専門誌のアンソロジーと資料です。古い作品は読まない人も、資 料だけでも貴重なので全巻保有をお薦めします。収録作家の半数は少なくても現在でも名前 はよく知られている作家です。特に国枝史郎の長編「沙漠の古都」長編の収録は、うれしい です。伝奇小説という分野の特殊性からか、戦中の国策物以外は現在でも結構楽しめると思 います。
2006年01月14日
修羅の夏<新庄節美>
現在のように日常の技術進歩が激しくなると、小道具がすぐに古くなってしまいます。また 科学捜査が進歩すると、書きにくい事も多いようです。一時、時代的に少し前に設定した作 品が多く見られるようになりました。そして、たぶん同様の理由で江戸時代の捕物帳が多く かかれる様になったと推察します。捕物帳=ミステリでは有りませんが、上記理由で時代設 定したものはミステリです。本連作集も、江戸時代後期を舞台に捜査する岡っ引きの富蔵と 盲目の頭脳役の冴のコンビが活躍します。ミステリとしては水準作ですが、江戸の勉強をか なりしたようで、地名等が書きすぎで違和感があります。
2006年01月14日
魔性の馬<ジョセフィン・テイ>
原題は主人公の少年の名前です。英語では、複数の意味があるそうですが訳すとわからなく なるので変えたと思います。行方不明で死んだと思われた長男と瓜ふたつの主人公が、旧家 に舞い戻るところから始まります。当然ながら、遺産相続問題が起きます。そして、事件が 発生し、過去の問題も追及されます。そんなに都合のよい似た人がいるかとかは・・・・。 伏線が貼りめぐらされた代表作と紹介されていますが、古典的なサスペンス風の作品に近い と感じました。
2006年01月18日
「探偵」傑作選<>
「ミステリー文学資料館」発行の1・2期20冊のシリーズ・アンソロジーの9冊目です。 収録雑誌は、「探偵」「月刊探偵」「探偵」映画」です。総目次は「探偵小説」が加わりま す。全て名前通りの専門誌で、同時に非常に短命だった様です。短命ゆえにレアな雑誌ばか りで、資料性は非常に高いです。作品は、短いものばかりですが、作家名は今も知られてい る人が多く、専門誌の言葉がマッチします。同時に評論も採録されています。なかなか読む 機会がないので、時々は良いのではないでしょうか。
2006年01月18日
幻影のペルセポネ<黒田研二>
コンピュータの仮想の世界と現実の世界が、入り交じる話しです。謎はいくらでも作れます が反面、謎というイメージがなくミステリとしての面白みは疑問です。情報小説としては、 直ぐに古くなり、本格小説としては読者共通の事項があいまいです。最新分野という事で、 作者の意欲をかき立てると思いますが、それを読者に伝えるのは非常に難しいと思います。 題名は、ネットゲームの名前で太陽系の第10惑星の設定です。ID登録でログインしますが 当然、なりすましが容易に発生し・・・・。
2006年01月23日
紀淡海峡の謎<高橋泰邦>
翻訳家でもあり、海洋小説を中心にミステリを書く作者です。実際の事件からの取材作があ りますし、ドキュメンタリー風に描く事もあります。本作は、原因不明とされた「南海丸沈 没事件」の謎の証拠類から、作者が推理した作者の原因の解答を小説化したものです。従っ て通常のミステリのようには読む事ができません。作者の解釈の妥当性の評価や、自分はど のように判断するかが読書のポイントになります。偶然か、多原因因果関係か、どのように 推理すべきでしょうか。ミステリの出発に、ポーの「マリー・ロジェ」が有ります。その例 からは本作もミステリの一つの姿と言えるでしょう。
2006年01月23日
「新青年」傑作選<>
発行数的に戦前から戦後にかけて続いた「新青年」は、度々アンソロジーが組まれています。 今回のシリーズでは特別扱いはなく、1冊にまとめられています。そのためと、専門誌では なかった事もあり、ほかの珍しい雑誌よりは資料は、最小限に抑えられています。まあ、1 冊全体が資料になり兼ねないので妥当でしょう。なにしろ作品数が多いので、まだ他のアン ソロジー未収録作品も多いと思われ、未読作品も多くあります。編者の言葉通り、幻の雑誌 では無いが省けない雑誌でしょう。
2006年01月28日
「ロック」傑作選<>
戦後すぐに発行され、4年という専門誌では長めに寿命だった「ロック」は掲載作品も、そ の後のアンソロジーに多く取られています。私自身も雑誌を1/3程度持っているので、未 読作品は多くありませんが資料など参考になります。特徴は、長編の連載と新人募集でしょ う。始めてではなく、現在では普通ですが、当時の紙数制限などでは後の雑誌への影響は大 きいと思います。
2006年01月28日
白い果実<ジェフリー・フォード>
世界幻想文学大賞受賞、翻訳文を山尾悠子が幻想文学の書体にリライトと贅沢な内容です。 3部作の第1作という事であとが楽しみです。幻想文学という事で、内容は掴みどころがな い所も有ります。魔術が法律の変わりをするミステリがありますが、本作は観相学という人 の顔や体を調べる事が法律になる設定です。主人公はその権威ですが、突然その能力が無く なり、追放されて数奇な運命をたどる展開です。内容は全く異なり増すが新井素子の半島3 部作を何故か思い出してしまいました。
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砂楼に登りし者たち<獅子宮敏彦>
現在の進歩した科学捜査を描くにはかなりの知識を必要とします。意外と知られていない事 もあり逆にテーマとしてなりえます。また、現代でも状況設定では科学捜査を排除した作品 を書く余地もあります。そして、科学捜査能力のない人物を主人公にする設定も可能です。 最近特に目立つのが、時代を遡った設定にしたものです。本作は戦国時代を旅する医師が犯 罪を解決します。歴史的にメジャーな人物とマイナー(創作?)な人物が登場します。そし 事件は不可能犯罪です。ただ、複数犯の犯罪のため不満もあります。歴史小説と伝奇小説と をミステリに持ち込んだ不思議な味はあります。
2006年01月2日
臨場<横山秀夫>
本作は現代の科学捜査を描いた作品です。「終身検死官」と呼ばれる倉石が科学知識と経験 を駆使して自殺か事故か犯罪か分からない事件を解決してゆきます。短編連作集ですが、1 作が1つの事件に限らず、次々事件が舞い込んでくる所はいかにも警察小説の感があります。 犯人が必ずしも存在するとは限らず、必ずしもトリックを仕掛けて来ないですが、主人公の 推理はかなりの本格味を感じます。毎作ごとに視点をかえる構成も巧妙です。視点を持つ人 物の心の奥に入る事で、本格でも警察小説でもない雰囲気を出せるからです。
2006年01月6日
触身仏<北森鴻>
女性民族学者の蓮丈那智シーズの2冊目です。基本的に短編のシリーズです。フィールド・ ワークと副題があるように、地方に調査に出かけて事件に遭遇するのが1集の設定でした。 今回も前提はそれを元にしているものの、大学内で起きた事件を解決しながら、民族学の問 題を解決する作品が目立ちます。民族学の謎がある限り本シリーズの魅力が変わる事は有り ません。しかし、スタイルとして多様化しないと連作は難しい事が容易に想像できます。 シリーズに新たにレギュラーが登場します。これは、まだまだ書き継がれてゆく事と理解し て益々期待したいと思います。
2006年01月6日
アプルビズ・エンド<マイケル・イネス>
なかなか訳が少ない作者の本が連続して出版されました。読むのはやや厄介な作者ですが、 本作は少し手を抜けば、悪戦苦闘しなくても読めます。意外な事件との出会い、特に中々発 生しないのでかなり疲れるうえに事件もどちらかと言えば地味と言えるでしょう。ただ、こ れがイネスの小説として受け入れるべきかと思います。作者の作風を色々な表現で述べた本 がありますが、既存のジャンルで説明するのが難しいので混在した分かり難い言い方になる と思います。とにかく、この作者を理解するのには時間と冊数が必要でしょう。
2006年01月10日
オリエント急行とパンドラの匣<はやみねかおる>
迷探偵・夢水清志郎と、怪盗クイーンの共演です。そして舞台はトルコからパリのオリエン ト急行です。ダブルキャストでサービス満点のようですが、逆に岩崎3姉妹はほとんど登場 しないので、夢水ひとりのゲスト出演の形です。トルコの盗賊組織とそれを追う探偵卿、そ してその子供と母親が絡み複数の謎を演出します。青い鳥文庫ですので、複雑なものはあり ませんが無難なまとまりでしょう。クイーンとジョーカーとRDとの掛け合いがいつもながら 面白いです。人工頭脳RDが特に私のお気に入りです。RDをウイルス感染させるクイーンもす ごいですね。
2006年01月10日
「新趣味」傑作選<>
「ミステリー文学資料館」発行の1・2期20冊のシリーズ・アンソロジーの7冊目です。 大正に発行されたミステリ専門誌のアンソロジーと資料です。古い作品は読まない人も、資 料だけでも貴重なので全巻保有をお薦めします。収録作家の半数は少なくても現在でも名前 はよく知られている作家です。特に国枝史郎の長編「沙漠の古都」長編の収録は、うれしい です。伝奇小説という分野の特殊性からか、戦中の国策物以外は現在でも結構楽しめると思 います。
2006年01月14日
修羅の夏<新庄節美>
現在のように日常の技術進歩が激しくなると、小道具がすぐに古くなってしまいます。また 科学捜査が進歩すると、書きにくい事も多いようです。一時、時代的に少し前に設定した作 品が多く見られるようになりました。そして、たぶん同様の理由で江戸時代の捕物帳が多く かかれる様になったと推察します。捕物帳=ミステリでは有りませんが、上記理由で時代設 定したものはミステリです。本連作集も、江戸時代後期を舞台に捜査する岡っ引きの富蔵と 盲目の頭脳役の冴のコンビが活躍します。ミステリとしては水準作ですが、江戸の勉強をか なりしたようで、地名等が書きすぎで違和感があります。
2006年01月14日
魔性の馬<ジョセフィン・テイ>
原題は主人公の少年の名前です。英語では、複数の意味があるそうですが訳すとわからなく なるので変えたと思います。行方不明で死んだと思われた長男と瓜ふたつの主人公が、旧家 に舞い戻るところから始まります。当然ながら、遺産相続問題が起きます。そして、事件が 発生し、過去の問題も追及されます。そんなに都合のよい似た人がいるかとかは・・・・。 伏線が貼りめぐらされた代表作と紹介されていますが、古典的なサスペンス風の作品に近い と感じました。
2006年01月18日
「探偵」傑作選<>
「ミステリー文学資料館」発行の1・2期20冊のシリーズ・アンソロジーの9冊目です。 収録雑誌は、「探偵」「月刊探偵」「探偵」映画」です。総目次は「探偵小説」が加わりま す。全て名前通りの専門誌で、同時に非常に短命だった様です。短命ゆえにレアな雑誌ばか りで、資料性は非常に高いです。作品は、短いものばかりですが、作家名は今も知られてい る人が多く、専門誌の言葉がマッチします。同時に評論も採録されています。なかなか読む 機会がないので、時々は良いのではないでしょうか。
2006年01月18日
幻影のペルセポネ<黒田研二>
コンピュータの仮想の世界と現実の世界が、入り交じる話しです。謎はいくらでも作れます が反面、謎というイメージがなくミステリとしての面白みは疑問です。情報小説としては、 直ぐに古くなり、本格小説としては読者共通の事項があいまいです。最新分野という事で、 作者の意欲をかき立てると思いますが、それを読者に伝えるのは非常に難しいと思います。 題名は、ネットゲームの名前で太陽系の第10惑星の設定です。ID登録でログインしますが 当然、なりすましが容易に発生し・・・・。
2006年01月23日
紀淡海峡の謎<高橋泰邦>
翻訳家でもあり、海洋小説を中心にミステリを書く作者です。実際の事件からの取材作があ りますし、ドキュメンタリー風に描く事もあります。本作は、原因不明とされた「南海丸沈 没事件」の謎の証拠類から、作者が推理した作者の原因の解答を小説化したものです。従っ て通常のミステリのようには読む事ができません。作者の解釈の妥当性の評価や、自分はど のように判断するかが読書のポイントになります。偶然か、多原因因果関係か、どのように 推理すべきでしょうか。ミステリの出発に、ポーの「マリー・ロジェ」が有ります。その例 からは本作もミステリの一つの姿と言えるでしょう。
2006年01月23日
「新青年」傑作選<>
発行数的に戦前から戦後にかけて続いた「新青年」は、度々アンソロジーが組まれています。 今回のシリーズでは特別扱いはなく、1冊にまとめられています。そのためと、専門誌では なかった事もあり、ほかの珍しい雑誌よりは資料は、最小限に抑えられています。まあ、1 冊全体が資料になり兼ねないので妥当でしょう。なにしろ作品数が多いので、まだ他のアン ソロジー未収録作品も多いと思われ、未読作品も多くあります。編者の言葉通り、幻の雑誌 では無いが省けない雑誌でしょう。
2006年01月28日
「ロック」傑作選<>
戦後すぐに発行され、4年という専門誌では長めに寿命だった「ロック」は掲載作品も、そ の後のアンソロジーに多く取られています。私自身も雑誌を1/3程度持っているので、未 読作品は多くありませんが資料など参考になります。特徴は、長編の連載と新人募集でしょ う。始めてではなく、現在では普通ですが、当時の紙数制限などでは後の雑誌への影響は大 きいと思います。
2006年01月28日
白い果実<ジェフリー・フォード>
世界幻想文学大賞受賞、翻訳文を山尾悠子が幻想文学の書体にリライトと贅沢な内容です。 3部作の第1作という事であとが楽しみです。幻想文学という事で、内容は掴みどころがな い所も有ります。魔術が法律の変わりをするミステリがありますが、本作は観相学という人 の顔や体を調べる事が法律になる設定です。主人公はその権威ですが、突然その能力が無く なり、追放されて数奇な運命をたどる展開です。内容は全く異なり増すが新井素子の半島3 部作を何故か思い出してしまいました。
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2006/01に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。