推理小説読書日記(2005/12)
2005年12月2日
そして今はだれも<青井夏海>
共学になった元女学校で起きた事件を新任教師と生徒が解決してゆく話しです。背景や登場 人物は今風で、「日常の謎派」と思いがちですが、構成は全くの本格推理物です。本作者は 短編集3冊と長編が2冊(含む本作)を刊行しています。どれも、凝った設定で日常とは言 えないですし、事件は残虐なものではないもののロジックで解明する作風です。素直に読め ば純本格と言えます。個人的には「仁木悦子」の再来とも思えます。今年読んだ作品では一 番楽しめました。私が仁木悦子ファンだからでしょうか。
2005年12月2日
猫の手<ロジャー・スカーレット>
実はこの作者(二人の合作)の作品は初めて読みました。普通は、エンジェル家の殺人くら いは読んでいそうですが、初めてです。内容は私好みの、じっくりした内容の本格物でした。 事件が派手で、多数の連続殺人でトリックも目立つ作品に目が行きがちですが、個人的には じっくり書かれた作品を好みます。ただやや長い前半部が気になりますが、後半と無関係で はなく、作者を信用して読んでゆけば楽しみな後半にたどりつけます。この作者の作品が5 冊限りというのは残念な限りです。
2005年12月7日
黄泉路の犬<近藤史恵>
南方署強力犯係の會川・黒岩シリーズの第2作です。登場人物の人間像がじわじわと明らか になってゆきます。事件は複数が絡みあった形で始まり、次第にまとまって行きます。キー ワードは「動物」「愛好家」「虐殺」です。愛好家と虐殺者は、実は紙一重の所にあるとい う、微妙なバランスが次第に現れてきます。それゆえ結末が、救われない悲しいものか、あ るいは、救いがあるものなのかは読者個人にゆだねられます。一見妙な組み合わせの捜査コ ンビ、実はかなりよい組み合わせにも思えます。
2005年12月7日
笛吹き男とサクセス塾の秘密<はやみねかおる>
夢水清志郎シリーズです。三つ子もとうとう受験を前にするまで成長しました。そして、非 常に合格率の良いと言われる塾が登場します。難関ゆえに短期集中講座に3人の内の一人が 抽選で当たりました。3日をそれぞれ一人が交代で受けることにしましたが、妙な事件がお きます。そして、成績が良くなる塾の正体は何か?。パターン的にはよくあるトリックです が、それなりに合理的にまとめています。夢水探偵?は例のごとくですが、まともに活躍し た方ではないかとおもいます。
2005年12月15日
グレイヴデイッガー<高野和明>
題名は「墓堀人」の意味です。追跡とタイム制限を絡ませたサスペンスです。しかし、複数 の追跡と目的が重なっており、真相を見極めるのは非常に厄介です。このサスペンスの中に 非常に沢山の要素を入れる事に成功しています。少しもったいないとも感じます。政治と警 察・闇の組織と位置確認システム・骨髄移植ドナー・主人公の元?悪党と腐れ縁の刑事、普 通かどうか仲介人と医師など実に多様です。ただ風化する要素も含むのが仕方ない所です。 決めてになる科学技術も将来はどうなるでしょう。
2005年12月15日
死の会計<エマ・レイサン>
論創社海外ミステリーの1冊です。第1期が30冊で終わり、第2期との事ですが、月3冊 ペースですので1期30冊が1年かかりません。レイサンは女性2人の共同ペンネームとの 事です。会計学ミステリーですが、特別な知識は要求されません。日本の作家では、初期の 和久峻三作品に近い感じです。一般人の盲点を狙い、犯人を圏外にさせようとする構成が命 といえます。経済界は一般ミステリ愛好家にとって盲点の集まりかもしれません。専門知識 を出来るだけはいして書けるかがポイントと思います。
2005年12月21日
追いし者追われし者<氷川透>
サスペンスか本格か?と言うより、メタミステリというべきでしょう。何故か、この所はや りです。細部はいくらでも変えられるので、まだまだ書けるでしょうが、既に基本パターン は出尽くした感じで、慣れた読者ならばおおよその予想は出来てしまいます。本作は作者に は珍しい非シリーズですが、いつものロジックがメタ部のために非論理に見えてしまうので 共感を呼ぶまでには至りません。内容とジャンルを期待される作者の宿命ともいえるでしょ う。ただ平均して、短くまとめている所は共感します。
2005年12月21日
ハッピー・バースデイ<新井素子>
無理にジャンル分けすれば、ホラーになるのでしょうか。日常のささいな話しで構成されて いますがじわと来る恐ろしさが含まれています。所が表立った殺人も大きな犯罪もありませ ん。小さな犯罪から始まる恐ろしい展開です。途中は、題名から離れた展開ですが「ハッピ ー・バースデイ・プロジェクト」が登場してから、これほどぴったりの題名はないと思いま す。まさしく、新井素子の世界です。例によって「後書き」が楽しい、機械が苦手でも携帯 電話も駄目とは徹底しています。
2005年12月25日
毒の神託<ピーター・デイキンソン>
大方は「異色作家」とよびますが、それだけに読んだ本の数が少ないうちに、あまり評価を したくない作者です。とにかく、舞台背景や設定が豊富というか、異色というか、凝ってい るというか変わっています。本作も舞台も、登場人物??も気候や風習も変わっています。 このようなタイプの作品は、説明にページをとり意外と内容がないものも有りますが、本作 は読者に親切に説明しない代わりに事件も豊富に発生します。むしろ、謎が設定されている のかどうか曖昧なままで終わる部分もあるようです。
2005年12月25日
密室犯罪学教程<天城一>
本格マニアには広く知られていますが、出版業界的には幻の作家ともいえるベテランの、流 通レベルでの単独でははじめての出版です。多数の短編小説と、評論からなります。「密室 犯罪学教程」はその特徴が、1:自身の実作短編を同時に載せてネタばれを少なくしている 上に執筆経験を含めた評論になっていること、2:過去のトリック例の分析ではなくむしろ 演繹的な方法で理論展開を行っていることがあります。本著はこの「密室犯罪学教程」に、 より分析的ロジックを展開する摩耶正シリーズを収録しています。
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そして今はだれも<青井夏海>
共学になった元女学校で起きた事件を新任教師と生徒が解決してゆく話しです。背景や登場 人物は今風で、「日常の謎派」と思いがちですが、構成は全くの本格推理物です。本作者は 短編集3冊と長編が2冊(含む本作)を刊行しています。どれも、凝った設定で日常とは言 えないですし、事件は残虐なものではないもののロジックで解明する作風です。素直に読め ば純本格と言えます。個人的には「仁木悦子」の再来とも思えます。今年読んだ作品では一 番楽しめました。私が仁木悦子ファンだからでしょうか。
2005年12月2日
猫の手<ロジャー・スカーレット>
実はこの作者(二人の合作)の作品は初めて読みました。普通は、エンジェル家の殺人くら いは読んでいそうですが、初めてです。内容は私好みの、じっくりした内容の本格物でした。 事件が派手で、多数の連続殺人でトリックも目立つ作品に目が行きがちですが、個人的には じっくり書かれた作品を好みます。ただやや長い前半部が気になりますが、後半と無関係で はなく、作者を信用して読んでゆけば楽しみな後半にたどりつけます。この作者の作品が5 冊限りというのは残念な限りです。
2005年12月7日
黄泉路の犬<近藤史恵>
南方署強力犯係の會川・黒岩シリーズの第2作です。登場人物の人間像がじわじわと明らか になってゆきます。事件は複数が絡みあった形で始まり、次第にまとまって行きます。キー ワードは「動物」「愛好家」「虐殺」です。愛好家と虐殺者は、実は紙一重の所にあるとい う、微妙なバランスが次第に現れてきます。それゆえ結末が、救われない悲しいものか、あ るいは、救いがあるものなのかは読者個人にゆだねられます。一見妙な組み合わせの捜査コ ンビ、実はかなりよい組み合わせにも思えます。
2005年12月7日
笛吹き男とサクセス塾の秘密<はやみねかおる>
夢水清志郎シリーズです。三つ子もとうとう受験を前にするまで成長しました。そして、非 常に合格率の良いと言われる塾が登場します。難関ゆえに短期集中講座に3人の内の一人が 抽選で当たりました。3日をそれぞれ一人が交代で受けることにしましたが、妙な事件がお きます。そして、成績が良くなる塾の正体は何か?。パターン的にはよくあるトリックです が、それなりに合理的にまとめています。夢水探偵?は例のごとくですが、まともに活躍し た方ではないかとおもいます。
2005年12月15日
グレイヴデイッガー<高野和明>
題名は「墓堀人」の意味です。追跡とタイム制限を絡ませたサスペンスです。しかし、複数 の追跡と目的が重なっており、真相を見極めるのは非常に厄介です。このサスペンスの中に 非常に沢山の要素を入れる事に成功しています。少しもったいないとも感じます。政治と警 察・闇の組織と位置確認システム・骨髄移植ドナー・主人公の元?悪党と腐れ縁の刑事、普 通かどうか仲介人と医師など実に多様です。ただ風化する要素も含むのが仕方ない所です。 決めてになる科学技術も将来はどうなるでしょう。
2005年12月15日
死の会計<エマ・レイサン>
論創社海外ミステリーの1冊です。第1期が30冊で終わり、第2期との事ですが、月3冊 ペースですので1期30冊が1年かかりません。レイサンは女性2人の共同ペンネームとの 事です。会計学ミステリーですが、特別な知識は要求されません。日本の作家では、初期の 和久峻三作品に近い感じです。一般人の盲点を狙い、犯人を圏外にさせようとする構成が命 といえます。経済界は一般ミステリ愛好家にとって盲点の集まりかもしれません。専門知識 を出来るだけはいして書けるかがポイントと思います。
2005年12月21日
追いし者追われし者<氷川透>
サスペンスか本格か?と言うより、メタミステリというべきでしょう。何故か、この所はや りです。細部はいくらでも変えられるので、まだまだ書けるでしょうが、既に基本パターン は出尽くした感じで、慣れた読者ならばおおよその予想は出来てしまいます。本作は作者に は珍しい非シリーズですが、いつものロジックがメタ部のために非論理に見えてしまうので 共感を呼ぶまでには至りません。内容とジャンルを期待される作者の宿命ともいえるでしょ う。ただ平均して、短くまとめている所は共感します。
2005年12月21日
ハッピー・バースデイ<新井素子>
無理にジャンル分けすれば、ホラーになるのでしょうか。日常のささいな話しで構成されて いますがじわと来る恐ろしさが含まれています。所が表立った殺人も大きな犯罪もありませ ん。小さな犯罪から始まる恐ろしい展開です。途中は、題名から離れた展開ですが「ハッピ ー・バースデイ・プロジェクト」が登場してから、これほどぴったりの題名はないと思いま す。まさしく、新井素子の世界です。例によって「後書き」が楽しい、機械が苦手でも携帯 電話も駄目とは徹底しています。
2005年12月25日
毒の神託<ピーター・デイキンソン>
大方は「異色作家」とよびますが、それだけに読んだ本の数が少ないうちに、あまり評価を したくない作者です。とにかく、舞台背景や設定が豊富というか、異色というか、凝ってい るというか変わっています。本作も舞台も、登場人物??も気候や風習も変わっています。 このようなタイプの作品は、説明にページをとり意外と内容がないものも有りますが、本作 は読者に親切に説明しない代わりに事件も豊富に発生します。むしろ、謎が設定されている のかどうか曖昧なままで終わる部分もあるようです。
2005年12月25日
密室犯罪学教程<天城一>
本格マニアには広く知られていますが、出版業界的には幻の作家ともいえるベテランの、流 通レベルでの単独でははじめての出版です。多数の短編小説と、評論からなります。「密室 犯罪学教程」はその特徴が、1:自身の実作短編を同時に載せてネタばれを少なくしている 上に執筆経験を含めた評論になっていること、2:過去のトリック例の分析ではなくむしろ 演繹的な方法で理論展開を行っていることがあります。本著はこの「密室犯罪学教程」に、 より分析的ロジックを展開する摩耶正シリーズを収録しています。
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2005/12に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。