推理小説読書日記(2005/07)
2005年7月4日
首のない女<クレイトン・ロースン>
不可能事件ものの大家といわれながら、作品数が非常に少ない作者です。数年前に「天井の 足跡」が訳されて漸く4長編が揃いました。本作は、第3長編に当たります。主人公は、奇 術師のマーリニ、題名からバラバラ殺人ものと勝手に思いこむと、奇術道具が販売されてお り、舞台となるサーカスの出し物にもなっています。やや、意表の展開です。サーカスと言 っても見せ物的要素があった模様です。本作は、内容的には奇術を紹介する小説のイメージ が残ります。奇術で何でも可能な錯覚に陥ります。
2005年7月4日
水無川<小杉健治>
一度はミステリ界を染め上げた「社会派」という言葉が、あまり聞かれなくなっています。 その中で、その分野を中心に書いているのが、本書の作者です。勿論、守備範囲は広く全部 では有りません。本作のテーマは、虐待です。もう一部の社会問題というよりも、ゼロから やり直すしかない状況です。そして、その悲惨さを分かっているのは当事者のみです。本作 の登場人物は、どちらもこの問題で挫折した者どうしです。所が、脇役的な人物が進行の中 心になり、予想外の展開になります。当然それは、主人公達にも影響を与えます。
2005年7月12日
てるてるあした<加納朋子>
不思議な町「佐々良」を舞台にした2冊目です。全作品の主人公たちが、脇役をつとめ主人 公の雨宮照代が突然にこの町にやってきます。とにかく幽霊が登場するシリーズですから、 日常の謎ともいってられません。しかし謎が収斂してゆくとともに、突然孤独に追いやられ た主人公が周囲の人に助けられて新しい人生に歩み始めます。作者が作品に強いテーマ性を もたせ始めたように感じます。そしてそれにふさわしい町、まだまだこの町の話しを書いて 欲しいと思います。
2005年7月12日
雪煙<加藤薫>
「アルプスに死す」でオール読み物推理新人賞を受賞した事くらいしか知らない作者です。 長編を書いている事もしりませんでした。ミステリー作家には、山とかスキーが好きな人が 多いようですが、それをテーマにする事は難しい様に思います。長井彬・梓林太郎等の登場 でひとつのジャンルになった様におもいます。本作は、「スキー・ジャーナル」に連載され た事もあり、やや専門的な部分もあるように思います。登場人物もその分野の人ですので、 門外漢の私には考え方が理解しにくい事もあります。
2005年7月19日
文福茶釜<黒川博行>
骨董品・美術品の真贋と詐欺を描いた連作です。この世界は、仕掛ける者と迷う人が存在す る事から、犯罪者と被害者ばあいによっては謎を解く役も登場します。しかし、一般には詐 欺(コンゲーム)と見た方が自然です。ただし、書く方にはかなりの知識が要求されます。 芸大出身という経歴が存分に生かされています。本格から、ライトミステリー・ハードボイ ルドなど次々に守備範囲を拡げてゆく作者が、まだまだ拡げてゆく事を示した連作集です。 量産できない分野ですが、時々は書いて欲しいものです。
2005年7月19日
蜻蛉始末<北森鴻>
短編の名手であり、長編もトリッキーな工夫を凝らした作品を発表する作者です。この本は 珍しい明治を舞台にした歴史小説です。もともと、豊富な資料を駆使する作者が、資料中に 歴史的に興味のあるものを見つけてもおかしくはありません。本作者も骨董や美術品の真贋 をテーマにした小説が多いです。本作も、模写が得意で、果ては偽札まで作り上げる名人級 の人物の影にかくれた人生を描きます。従って、単に資料に歴史的興味のみでなく、贋作と しての興味をも含めて書いたと考えるべきでしょう。
2005年7月27日
第四の扉<ポール・アルテ>
フランス現代本格派の日本初紹介作です。カーとの比較などを言われていますが、本作はや やトリック的・謎的には単純で雰囲気がカーの世界と言う感じです。なぜか現在の日本の新 本格の旧本格よりの一部の作家と類似点があるように思います。 いずれにしても、今後紹介されてゆくであろう、フランスの本格作家の登場は期待がもてま す。トリックを薄く表す題名は、ある日本作家のデビュー作と同じですし、類例は沢山ある ように思います。
2005年7月27日
僧正の積木唄<山田正紀>
時は戦前、場所はアメリカ西海岸。登場人物は、題名とおりにヴァン・ダインと横溝正史の 作品に登場する人たちです。「僧正殺人事件」の続編としての趣向と合わせて、内容は充分 にけれん味があります。残念ながら、推理小説としては趣向の制約分、色々と問題が有りま すが、読者がどちらを主に読むかの問題と言えるでしょう。 ただこの作者には、制約などない状態でのびのびした推理小説を期待したいと思います。本 作は作者の意気込みほどには成功していないように思います。
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首のない女<クレイトン・ロースン>
不可能事件ものの大家といわれながら、作品数が非常に少ない作者です。数年前に「天井の 足跡」が訳されて漸く4長編が揃いました。本作は、第3長編に当たります。主人公は、奇 術師のマーリニ、題名からバラバラ殺人ものと勝手に思いこむと、奇術道具が販売されてお り、舞台となるサーカスの出し物にもなっています。やや、意表の展開です。サーカスと言 っても見せ物的要素があった模様です。本作は、内容的には奇術を紹介する小説のイメージ が残ります。奇術で何でも可能な錯覚に陥ります。
2005年7月4日
水無川<小杉健治>
一度はミステリ界を染め上げた「社会派」という言葉が、あまり聞かれなくなっています。 その中で、その分野を中心に書いているのが、本書の作者です。勿論、守備範囲は広く全部 では有りません。本作のテーマは、虐待です。もう一部の社会問題というよりも、ゼロから やり直すしかない状況です。そして、その悲惨さを分かっているのは当事者のみです。本作 の登場人物は、どちらもこの問題で挫折した者どうしです。所が、脇役的な人物が進行の中 心になり、予想外の展開になります。当然それは、主人公達にも影響を与えます。
2005年7月12日
てるてるあした<加納朋子>
不思議な町「佐々良」を舞台にした2冊目です。全作品の主人公たちが、脇役をつとめ主人 公の雨宮照代が突然にこの町にやってきます。とにかく幽霊が登場するシリーズですから、 日常の謎ともいってられません。しかし謎が収斂してゆくとともに、突然孤独に追いやられ た主人公が周囲の人に助けられて新しい人生に歩み始めます。作者が作品に強いテーマ性を もたせ始めたように感じます。そしてそれにふさわしい町、まだまだこの町の話しを書いて 欲しいと思います。
2005年7月12日
雪煙<加藤薫>
「アルプスに死す」でオール読み物推理新人賞を受賞した事くらいしか知らない作者です。 長編を書いている事もしりませんでした。ミステリー作家には、山とかスキーが好きな人が 多いようですが、それをテーマにする事は難しい様に思います。長井彬・梓林太郎等の登場 でひとつのジャンルになった様におもいます。本作は、「スキー・ジャーナル」に連載され た事もあり、やや専門的な部分もあるように思います。登場人物もその分野の人ですので、 門外漢の私には考え方が理解しにくい事もあります。
2005年7月19日
文福茶釜<黒川博行>
骨董品・美術品の真贋と詐欺を描いた連作です。この世界は、仕掛ける者と迷う人が存在す る事から、犯罪者と被害者ばあいによっては謎を解く役も登場します。しかし、一般には詐 欺(コンゲーム)と見た方が自然です。ただし、書く方にはかなりの知識が要求されます。 芸大出身という経歴が存分に生かされています。本格から、ライトミステリー・ハードボイ ルドなど次々に守備範囲を拡げてゆく作者が、まだまだ拡げてゆく事を示した連作集です。 量産できない分野ですが、時々は書いて欲しいものです。
2005年7月19日
蜻蛉始末<北森鴻>
短編の名手であり、長編もトリッキーな工夫を凝らした作品を発表する作者です。この本は 珍しい明治を舞台にした歴史小説です。もともと、豊富な資料を駆使する作者が、資料中に 歴史的に興味のあるものを見つけてもおかしくはありません。本作者も骨董や美術品の真贋 をテーマにした小説が多いです。本作も、模写が得意で、果ては偽札まで作り上げる名人級 の人物の影にかくれた人生を描きます。従って、単に資料に歴史的興味のみでなく、贋作と しての興味をも含めて書いたと考えるべきでしょう。
2005年7月27日
第四の扉<ポール・アルテ>
フランス現代本格派の日本初紹介作です。カーとの比較などを言われていますが、本作はや やトリック的・謎的には単純で雰囲気がカーの世界と言う感じです。なぜか現在の日本の新 本格の旧本格よりの一部の作家と類似点があるように思います。 いずれにしても、今後紹介されてゆくであろう、フランスの本格作家の登場は期待がもてま す。トリックを薄く表す題名は、ある日本作家のデビュー作と同じですし、類例は沢山ある ように思います。
2005年7月27日
僧正の積木唄<山田正紀>
時は戦前、場所はアメリカ西海岸。登場人物は、題名とおりにヴァン・ダインと横溝正史の 作品に登場する人たちです。「僧正殺人事件」の続編としての趣向と合わせて、内容は充分 にけれん味があります。残念ながら、推理小説としては趣向の制約分、色々と問題が有りま すが、読者がどちらを主に読むかの問題と言えるでしょう。 ただこの作者には、制約などない状態でのびのびした推理小説を期待したいと思います。本 作は作者の意気込みほどには成功していないように思います。
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2005/07に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。