推理小説読書日記(2005/06)
2005年6月3日
真夏の夜の黄金殺人<梶龍雄>
1988年の作品です。時代は昭和40年、舞台は千葉小湊です。成金の家で発生した殺人 を早稲田と慶応の学生が推理競争する話しです。小説の語り手も双方が交互に行います。作 者名がないと、新本格と思いそうな設定です。実際は、梶作品らしく設定以上には奇をてら っておらず、無難の本格推理小説になっています。そして、青春小説とも恋愛小説ともいえ る内容が含まれるのも梶作品らしい所です。書かれた時代も、内容も古くはありませんが、 作者の死とともに忘れられた作品になりつつあるようです。
2005年6月3日
四枚の壁<楠田匡介>
一部のマニア以外は忘れているが、多くの著書は入手難で古書オークションでは高価で取引 されている作者です。色々な分野に手をそめています。現在では、古さを感じさせる作品も 多いですが、時代を考慮して読むべき作者のようです。サスペンスタッチの展開は、最近急 速に進歩しています。そして昭和30年代はまだ試行錯誤の模索時代です。現在と比較する のが無理なのでしょう。なにやら社会派的なテーマなのも、当時の作品では多くみられます。 長編の復刊は難しいでしょう。
2005年6月9日
Jの神話<乾くるみ>
ミステリはもともと、結末を述べるのはタブーでした。そして現在では、筋書きやジャンル 分けを述べる事もネタばれに繋がるようになってきました。ミステリに詳しくない解説者や 商売上のやむをえない事情から、「驚愕の結末」「最後にあるどんでんがえし」などの表現 で内容をイメージしてしまう愛好者が増えています。読者を増やすための言葉が、従来の愛 好者の興味を少なくしてしまうのは残念な面もあります。この本も、これが該当します。そ してカバーにもしっかり書いてあります。
2005年6月9日
切断都市<芦辺拓>
本作者の主として大阪に関する研究は深いものがあります。この地方の事情に詳しくない人 はこれだけでも、読む値打ちがあるかもしれません。これをミステリと如何に、繋ぐかが作 者の腕の見せ所です。本作は、良くあるテーマを巧妙に複数組み合わせたと言えるでしょう。 結果的に「摂津国の悲劇」もいかす事ができたと言えるでしょう。本作者のお抱えの探偵は 複数ありますが、中心は「森江春策」です。本作では梧桐渉警部が登場します。再登板の活躍 はあるのでしょうか。
2005年6月17日
超惑星の使命<ハル・クレメント>
SFが文字通りサイエンスがテーマだった時代の小説は、現在では「技術系」とも呼ばれてい ます。とりわけ、特殊な設定での思考実験的な要素が強い小説を「ハードSF」とも呼びます。 クレメントはこの分野での代表作家のひとりです。本作は「重力の使命」の続編にあたり、 原題とは異なりますが似た題名に翻訳しています。意味が分かり難いのはそのせいです。高 重力でも生活できるメスクリン人が探検を行います。温度が高くなったのに液体が凍ったり ・洪水が発生したり不思議な現象が発生します。
2005年6月17日
孔雀狂想曲<北森鴻>
色々な作品中で登場人物が交叉する作者です。本作は下北沢の骨董商の越名集治が活躍しま す。押しかけアルバイトに悩ませられながら、大小様々な事件に関与します。勿論、骨董類 に関係するものです。偽作を含めて、コン・ゲーム的要素やこの世界ならではの企ても多く 読者は飽きることがありません。短編を繋げて、最後で長編にまとめる手腕も実証すみです が、本書のようにオーソドックスな短編集でもその巧妙な手腕はさえます。複数のシリーズ を持つ作者は、どれでも内容は保証付きになってきています。
2005年6月23日
試験に出るパズル<高田崇史>
カバーには論理パズルと書いてあるが、内容はパズラーでも、本格推理でもない不思議な作 です。登場人物がパズルを出すのだが、必然性はなくおまけに当たります。読む人によれば 雑音とも言えます。内容は本格のスタイルを取っていますが、誰が探偵役かはっきりせず、 まじめともギャグとも取れる展開です。著者には新しい分野への展開が有ると思います。 しかし、如何にも売らんかなのカバー文は誤った先入観を与えるので、著者も読者も迷惑と いうべきでしょう。
2005年6月23日
アレン警部登場<ナイオ・マーシュ>
ここにまた、デビュー作が70年以上かかって日本に紹介された大家がいます。英国女流4 人集といわれながら、なぜか翻訳数が極端に少ない作者です。ニュージーランド出身で、演 劇に詳しく、それをテーマにした作品も多いです。とにかく、今からでも多数翻訳して欲し い作者です。本作は、やや事件を複雑にしようとした部分が余分と感じますが、本格の本道 を行く内容は益々期待が大きくなります。風格を感じさせるアレン警部は登場しました。次 は画家で妻になるトロイの登場も期待されます。
2005年6月29日
死者の殺人<城昌幸>
昭和35年の作品です。作者は、詩人でもあり(城左門)、捕物帳でも有名です。作品は、 短編・掌編が主体で長編は非常に少ないです。幻想小説、奇妙な味の小説がほとんどです。 従って、本作も本格とは期待していませんでした。だがかなりの部分までは「そして誰も いなくなった」を思わせる本格かとも思わせる内容です。しかし最後は、そこから外れた意 外な展開になります。(作者名から予想できますが)。しかしこの展開は最近の作家の作品 でかなり見られます。昔に既に書かれていた事に驚いています。
2005年6月29日
金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲<アンソロジー>
横溝正史生誕百年記念アンソロジーで、作者は赤川次郎・有栖川有栖・小川勝巳・北森鴻・ 京極夏彦・栗本薫・柴田よしき・菅浩江・服部まゆみです。金田一耕助という名前を如何に 登場させるかにそれぞれ異なるアプローチがあるのが見物です。結果的には、完全なパロデ イの北森作と、正面から書いた服部作がかえって目立って印象に残ります。テーマがそこそ こ競作は作者の個性と力量が比較できて面白い面もあります。
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真夏の夜の黄金殺人<梶龍雄>
1988年の作品です。時代は昭和40年、舞台は千葉小湊です。成金の家で発生した殺人 を早稲田と慶応の学生が推理競争する話しです。小説の語り手も双方が交互に行います。作 者名がないと、新本格と思いそうな設定です。実際は、梶作品らしく設定以上には奇をてら っておらず、無難の本格推理小説になっています。そして、青春小説とも恋愛小説ともいえ る内容が含まれるのも梶作品らしい所です。書かれた時代も、内容も古くはありませんが、 作者の死とともに忘れられた作品になりつつあるようです。
2005年6月3日
四枚の壁<楠田匡介>
一部のマニア以外は忘れているが、多くの著書は入手難で古書オークションでは高価で取引 されている作者です。色々な分野に手をそめています。現在では、古さを感じさせる作品も 多いですが、時代を考慮して読むべき作者のようです。サスペンスタッチの展開は、最近急 速に進歩しています。そして昭和30年代はまだ試行錯誤の模索時代です。現在と比較する のが無理なのでしょう。なにやら社会派的なテーマなのも、当時の作品では多くみられます。 長編の復刊は難しいでしょう。
2005年6月9日
Jの神話<乾くるみ>
ミステリはもともと、結末を述べるのはタブーでした。そして現在では、筋書きやジャンル 分けを述べる事もネタばれに繋がるようになってきました。ミステリに詳しくない解説者や 商売上のやむをえない事情から、「驚愕の結末」「最後にあるどんでんがえし」などの表現 で内容をイメージしてしまう愛好者が増えています。読者を増やすための言葉が、従来の愛 好者の興味を少なくしてしまうのは残念な面もあります。この本も、これが該当します。そ してカバーにもしっかり書いてあります。
2005年6月9日
切断都市<芦辺拓>
本作者の主として大阪に関する研究は深いものがあります。この地方の事情に詳しくない人 はこれだけでも、読む値打ちがあるかもしれません。これをミステリと如何に、繋ぐかが作 者の腕の見せ所です。本作は、良くあるテーマを巧妙に複数組み合わせたと言えるでしょう。 結果的に「摂津国の悲劇」もいかす事ができたと言えるでしょう。本作者のお抱えの探偵は 複数ありますが、中心は「森江春策」です。本作では梧桐渉警部が登場します。再登板の活躍 はあるのでしょうか。
2005年6月17日
超惑星の使命<ハル・クレメント>
SFが文字通りサイエンスがテーマだった時代の小説は、現在では「技術系」とも呼ばれてい ます。とりわけ、特殊な設定での思考実験的な要素が強い小説を「ハードSF」とも呼びます。 クレメントはこの分野での代表作家のひとりです。本作は「重力の使命」の続編にあたり、 原題とは異なりますが似た題名に翻訳しています。意味が分かり難いのはそのせいです。高 重力でも生活できるメスクリン人が探検を行います。温度が高くなったのに液体が凍ったり ・洪水が発生したり不思議な現象が発生します。
2005年6月17日
孔雀狂想曲<北森鴻>
色々な作品中で登場人物が交叉する作者です。本作は下北沢の骨董商の越名集治が活躍しま す。押しかけアルバイトに悩ませられながら、大小様々な事件に関与します。勿論、骨董類 に関係するものです。偽作を含めて、コン・ゲーム的要素やこの世界ならではの企ても多く 読者は飽きることがありません。短編を繋げて、最後で長編にまとめる手腕も実証すみです が、本書のようにオーソドックスな短編集でもその巧妙な手腕はさえます。複数のシリーズ を持つ作者は、どれでも内容は保証付きになってきています。
2005年6月23日
試験に出るパズル<高田崇史>
カバーには論理パズルと書いてあるが、内容はパズラーでも、本格推理でもない不思議な作 です。登場人物がパズルを出すのだが、必然性はなくおまけに当たります。読む人によれば 雑音とも言えます。内容は本格のスタイルを取っていますが、誰が探偵役かはっきりせず、 まじめともギャグとも取れる展開です。著者には新しい分野への展開が有ると思います。 しかし、如何にも売らんかなのカバー文は誤った先入観を与えるので、著者も読者も迷惑と いうべきでしょう。
2005年6月23日
アレン警部登場<ナイオ・マーシュ>
ここにまた、デビュー作が70年以上かかって日本に紹介された大家がいます。英国女流4 人集といわれながら、なぜか翻訳数が極端に少ない作者です。ニュージーランド出身で、演 劇に詳しく、それをテーマにした作品も多いです。とにかく、今からでも多数翻訳して欲し い作者です。本作は、やや事件を複雑にしようとした部分が余分と感じますが、本格の本道 を行く内容は益々期待が大きくなります。風格を感じさせるアレン警部は登場しました。次 は画家で妻になるトロイの登場も期待されます。
2005年6月29日
死者の殺人<城昌幸>
昭和35年の作品です。作者は、詩人でもあり(城左門)、捕物帳でも有名です。作品は、 短編・掌編が主体で長編は非常に少ないです。幻想小説、奇妙な味の小説がほとんどです。 従って、本作も本格とは期待していませんでした。だがかなりの部分までは「そして誰も いなくなった」を思わせる本格かとも思わせる内容です。しかし最後は、そこから外れた意 外な展開になります。(作者名から予想できますが)。しかしこの展開は最近の作家の作品 でかなり見られます。昔に既に書かれていた事に驚いています。
2005年6月29日
金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲<アンソロジー>
横溝正史生誕百年記念アンソロジーで、作者は赤川次郎・有栖川有栖・小川勝巳・北森鴻・ 京極夏彦・栗本薫・柴田よしき・菅浩江・服部まゆみです。金田一耕助という名前を如何に 登場させるかにそれぞれ異なるアプローチがあるのが見物です。結果的には、完全なパロデ イの北森作と、正面から書いた服部作がかえって目立って印象に残ります。テーマがそこそ こ競作は作者の個性と力量が比較できて面白い面もあります。
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2005/06に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。