推理小説読書日記(2005/04)
2005年4月6日
黒祠の島<小野不由美>
孤島は閉鎖空間であると共に、風習・風土・文化等も閉鎖的であることを設定してもなんと なく納得させる舞台です。一種のパラレルワールドを作り上げる事ができます。本作は典型 的なそのような作品です。既製の概念が通じない世界です。ただし、外には通常の世界があ り、結果として3種類の人間が存在します。通常の世界の人間・閉鎖空間の人間・閉鎖空間 の世界を知っている通常世界の人間です。これが絡みあうときに新しい世界が生まれます。 3種類の人物にとっては、謎も解釈も対応も全て異なります。読者は簡単には全てを理解で きないため、謎が深まります。
2005年4月6日
出雲3号0713の殺意<池田雄一>
本格トリックを使用したトラベルミステリー風の作品です。実際は時刻表アリバイはサブで す。メインは別ですが、本格とすれば非常にまずいトリックになってしまって残念です。 小さいトリックの組み合わせで長編を支えるのは否定はしないものの、ほとんど同じトリッ クで解決に向かうのは避けるべきでしょう。この点は作者も理解しているようで、そこにも サブトリックを入れていますが、慣れた読者には無視される可能性が大で期待出来にくいと 感じます。本作に限らず、登場人物があまりにも気軽に旅行する構成はこの種の作品では、 一考を期待したいです。トリックを生かせればの期待は有ります。
2005年4月14日
紅楼夢の殺人<芦辺拓>
不思議な作品です。そして非常に理解の難しい作品でもあります。謎は別にして、最後の終 わり方のみは予想が出来ます。古典文学を舞台にした作品は前例があります。しかしそれが 中国文学となると私も含め知らない・読んでいない人が多いと思います。そこを舞台に事件 が起きますので完全に混乱に陥ります。しかも登場人物が多く、名前が憶えられないとくれ ばとても作者にたちうちできそうも有りません。元の作品を知らないので本作の真価は述べ る事さえできません。
2005年4月14日
蒼煌<黒川博行>
美術界の裏側と芸術院会員選挙の抗争を描いた作品です。コンゲームとも、倒叙推理ともい えると思います。次々と繰り出される裏取引と投票の行方、その結果は・・。サスペンス味 は充分です。そして当選、しかし裏工作が重大なひとつのミスから明らかにされて行きます。 そのミスとは?。倒叙推理ともいえるとする理由です。巧妙にかつ自然に埋めこまれていま す。サスペンスの中にもユーモアがあるのはこの作者の持ち味です。一応フィクションです が、現実は?と誰しも思う内容です。ますます作品の幅を拡げる作者の力作といえるでしょ う。
2005年4月21日
モロッコ水晶の謎<有栖川有栖>
国名シリーズの表題作を含む短編集です。ショートショートも1作含みます。表題作は、不 思議なロジックが展開されます。真の狙いは概略でも書くと、メタばらしになります。最近 特殊な状況での事件を扱う作品が多いですが、本作はその境界に位置するのではないかと思 います。短編は玉石混在とよく言われますが、むしろ贅肉を落としたシンプルな構成が読者 の好みを分けると言えると思います。それゆえに難しさも有ると感じますが、次の作品を期 待させるのはレベルが期待値を維持していると思います。
2005年4月21日
双月城の惨劇<加賀美雅之>
カーのバンコランの偽作として書かれた作品を基に書き直したと述べています。全編に渡る 不可能犯罪とそのトリック、特に密室トリックの連続が見物です。当然ながら、大技の連続 についてまわる、成立の可否ぎりぎりのあやういバランスも持ち合わせています。これを問 題にするのならば、初めから読まない方が良いでしょう。本作は逆に、これを楽しむ人を対 象に書かれています。仕掛けの大きさが納得できるだけのトリックが含まれている事は誰も 否定出来ない作品です。
2005年4月28日
BT`63<池井戸潤>
この作者としては珍しく「金融」がテーマでない作品です。主人公の空白の過去と、父親の 足跡を捜しながら、併行して父親の苦闘の過去が描かれます。キーワードはボンネット・ト ラック(BT)、その思い出・既視感?をたどりながら、両者が少しづつ明らかになってゆき ます。作者の異色作となるのか、作風を拡げるきっかけの作品となるのかは、今後の結果次 第です。
2005年4月28日
貸本小説<末永昭二>
この本は小説ではありません。昭和30年代に書かれた貸本小説とその作家と、その後を書 いています。ミステリは多くなく、時代物が主流です、しかもミステリも本格物はほとんど なかった様です。大量生産で奇妙な内容や妖しげな内容があふれる小説は、独自の世界を作 ったとも言えるようです。登場作家名には、無名から別名まで色々あります。この時代の作 品は入手困難です、そして貸本小説はより困難です。資料価値は高いと思います。
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黒祠の島<小野不由美>
孤島は閉鎖空間であると共に、風習・風土・文化等も閉鎖的であることを設定してもなんと なく納得させる舞台です。一種のパラレルワールドを作り上げる事ができます。本作は典型 的なそのような作品です。既製の概念が通じない世界です。ただし、外には通常の世界があ り、結果として3種類の人間が存在します。通常の世界の人間・閉鎖空間の人間・閉鎖空間 の世界を知っている通常世界の人間です。これが絡みあうときに新しい世界が生まれます。 3種類の人物にとっては、謎も解釈も対応も全て異なります。読者は簡単には全てを理解で きないため、謎が深まります。
2005年4月6日
出雲3号0713の殺意<池田雄一>
本格トリックを使用したトラベルミステリー風の作品です。実際は時刻表アリバイはサブで す。メインは別ですが、本格とすれば非常にまずいトリックになってしまって残念です。 小さいトリックの組み合わせで長編を支えるのは否定はしないものの、ほとんど同じトリッ クで解決に向かうのは避けるべきでしょう。この点は作者も理解しているようで、そこにも サブトリックを入れていますが、慣れた読者には無視される可能性が大で期待出来にくいと 感じます。本作に限らず、登場人物があまりにも気軽に旅行する構成はこの種の作品では、 一考を期待したいです。トリックを生かせればの期待は有ります。
2005年4月14日
紅楼夢の殺人<芦辺拓>
不思議な作品です。そして非常に理解の難しい作品でもあります。謎は別にして、最後の終 わり方のみは予想が出来ます。古典文学を舞台にした作品は前例があります。しかしそれが 中国文学となると私も含め知らない・読んでいない人が多いと思います。そこを舞台に事件 が起きますので完全に混乱に陥ります。しかも登場人物が多く、名前が憶えられないとくれ ばとても作者にたちうちできそうも有りません。元の作品を知らないので本作の真価は述べ る事さえできません。
2005年4月14日
蒼煌<黒川博行>
美術界の裏側と芸術院会員選挙の抗争を描いた作品です。コンゲームとも、倒叙推理ともい えると思います。次々と繰り出される裏取引と投票の行方、その結果は・・。サスペンス味 は充分です。そして当選、しかし裏工作が重大なひとつのミスから明らかにされて行きます。 そのミスとは?。倒叙推理ともいえるとする理由です。巧妙にかつ自然に埋めこまれていま す。サスペンスの中にもユーモアがあるのはこの作者の持ち味です。一応フィクションです が、現実は?と誰しも思う内容です。ますます作品の幅を拡げる作者の力作といえるでしょ う。
2005年4月21日
モロッコ水晶の謎<有栖川有栖>
国名シリーズの表題作を含む短編集です。ショートショートも1作含みます。表題作は、不 思議なロジックが展開されます。真の狙いは概略でも書くと、メタばらしになります。最近 特殊な状況での事件を扱う作品が多いですが、本作はその境界に位置するのではないかと思 います。短編は玉石混在とよく言われますが、むしろ贅肉を落としたシンプルな構成が読者 の好みを分けると言えると思います。それゆえに難しさも有ると感じますが、次の作品を期 待させるのはレベルが期待値を維持していると思います。
2005年4月21日
双月城の惨劇<加賀美雅之>
カーのバンコランの偽作として書かれた作品を基に書き直したと述べています。全編に渡る 不可能犯罪とそのトリック、特に密室トリックの連続が見物です。当然ながら、大技の連続 についてまわる、成立の可否ぎりぎりのあやういバランスも持ち合わせています。これを問 題にするのならば、初めから読まない方が良いでしょう。本作は逆に、これを楽しむ人を対 象に書かれています。仕掛けの大きさが納得できるだけのトリックが含まれている事は誰も 否定出来ない作品です。
2005年4月28日
BT`63<池井戸潤>
この作者としては珍しく「金融」がテーマでない作品です。主人公の空白の過去と、父親の 足跡を捜しながら、併行して父親の苦闘の過去が描かれます。キーワードはボンネット・ト ラック(BT)、その思い出・既視感?をたどりながら、両者が少しづつ明らかになってゆき ます。作者の異色作となるのか、作風を拡げるきっかけの作品となるのかは、今後の結果次 第です。
2005年4月28日
貸本小説<末永昭二>
この本は小説ではありません。昭和30年代に書かれた貸本小説とその作家と、その後を書 いています。ミステリは多くなく、時代物が主流です、しかもミステリも本格物はほとんど なかった様です。大量生産で奇妙な内容や妖しげな内容があふれる小説は、独自の世界を作 ったとも言えるようです。登場作家名には、無名から別名まで色々あります。この時代の作 品は入手困難です、そして貸本小説はより困難です。資料価値は高いと思います。
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2005/04に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。