推理小説読書日記(2005/03)
2005年3月3日
完全犯罪に猫は何匹必要か<東川篤哉>
かなり、無理な題名ですが、内容は手堅い本格推理小説です。トリックとロジックがうまく 混ざっておりよく出来ていると思いました。もう少し題名がよければと思います。動機に疑 問か強引さを感じる人もいると思いますが、海外の黄金時代以降のロジック本格ミステリで は、普通の事で違和感を感じる事はありません。昨今のミステリの定番の地図がないので、 かなり位置関係やトリックに初めはなじめにくい部分はあります。やや、文章での説明に不 足があるのかも知れませんが、安易に文章以外で説明しないのも小説作法のひとつの行き方 と思います。
2005年3月7日
絵が殺した<黒川博行>
本格警察小説とも言えるシリーズの1冊です。警察小説というのは、主人公が複数の組織が シリーズになっていると解釈しています。大阪府警深町班の誰かが、主人公になりそこを中 心に事件を追います。美術と贋作事件を中心に、多数の謎と絡みをはいした本作は、非常に 本格味が濃い作品になっています。大阪府警ということで、大阪弁のユーモアな掛け合いと 文体で引っ張りながら、ミステリとしての完成度も高いシリーズです。本作は謎の面で、特 に本格味が濃い作品です。色々な好みのミステリファンにお勧めの内容です。
2005年3月17日
鬼に捧げる夜想曲<神津慶次朗>
第14回鮎川賞の1作です。現代に蘇る横溝正史の世界が展開します。時代は戦後直ぐ、獄 門島とも思う満月島で、本陣殺人事件をより悲惨にした密室殺人が発生します。背景には、 蝶々殺人事件・犬神家の一族・悪魔の手鞠唄の世界が流れます。そして、密室の謎が解かれ ようとするときに一転して、新本格の世界に呼び戻されます。選考委員も悩まされた19歳 の荒削りで強引ながら、全編に今にも破壊しそうなロジックとトリックとが展開します。 好き嫌いが分かれるでしょうが、無難な作品に飽きた人にはお薦めです。
2005年3月17日
月読(つくよみ)<太田忠司>
人は死ぬと「月導(つくしるべ)」という物体・現象を残します。死ぬ直前に死者が思った 事を「月読」という特殊な能力を持った人物のみが読む事ができます。しかし、どうでも良 い事を考えている事が多く、ダイイングメッセージで事件解決とは行きません。パラレルワ ールドとも言えますし、レンテン・ローズシリーズのような幻想と本格推理の融合とも取れ ます。作者最長の作品との事ですが、本線はきっちり解決しますが、周辺にも多くの謎があ りこの部分はやや説明不足かもしれません。作者のイメージを幻想の世界に展開したヒュー マン本格推理小説の力作です。
2005年3月24日
外地探偵小説集・満州篇<藤田知浩>
現在を「内地」、戦時中に拡大させたその他の地域を「外地」と呼びます。勿論「外地」は 戦時中の事になります。この「外地」を舞台にしたアンソロジーです。今回は「満州篇」で す。ただし、まだ1冊しか刊行されていません。編者は続編を出したいとしていますが・。 戦時中を主体にした内容ですので、珍しい作品も多く入っています。広義の探偵小説ではあ りますが、推理味が薄いほど外地の舞台が生きているように感じるのはなぜでしょうか。ア ンソロジーブームでも異色であり、続編を期待したいものです。
2005年3月24日
Twelve.Y.O.<福井晴敏>
今注目の作者です。今頃デビュー作(江戸川乱歩賞)を読むのは、私が本格推理中心だから です。読み出したらやめられないと言われる作者ですが、舞台と話しの展開は流石に面白い とか言えません。誰が見方で敵かわからまい状況で、一体何が起こっているのかもはっきり しない中に入り込んだ主人公のタフさは結果的に全体の流れをかえて行きます。分かってし まえばあっけない謎も、それだけが主題ではありませんので全く気になりません。長い作品 の多い作者ですので一気に読む事は難しいでしょうが。
2005年3月30日
滅びのモノクローム<三浦昭博>
第48回江戸川乱歩賞受賞作です。現代のミステリーの傾向から言うとかなり異質な感じが あります。細部は別にして、西東登の受賞作を思い出します。日本にとって戦争はいつまで も重要な出来事ですが、必要以上にバックボーンに使った作品が多いのも事実です。作者の 思いは分かりませんが、読者にとっては必要性を感じる作品は多くはありません。推理小説 が割り切れる小説という考えは今では一部の本格のみですが、ただ割り切れない部分を無理 に残す手法は個人的には好きになれません。
2005年3月30日
れんげ野原のまんなかで<森谷明子>
第13回鮎川賞受賞作家の、受賞後の第1作です。秋庭市の外れにある秋葉図書館(誤植に あらず)での「日常の謎派」的な四季の出来事を描いた連作です。当然ながら、本に関する 知識の量と関心度で連作への愛着もかわるのではないかと思います。受賞作が源氏物語でし たので歴史物は得意でしょうが、そこにとどまらずに、図書一般への関心と豊富な知識が、 全部の作品に感じます。また、新人図書館員の主人公の1年間の成長記でもあります。
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完全犯罪に猫は何匹必要か<東川篤哉>
かなり、無理な題名ですが、内容は手堅い本格推理小説です。トリックとロジックがうまく 混ざっておりよく出来ていると思いました。もう少し題名がよければと思います。動機に疑 問か強引さを感じる人もいると思いますが、海外の黄金時代以降のロジック本格ミステリで は、普通の事で違和感を感じる事はありません。昨今のミステリの定番の地図がないので、 かなり位置関係やトリックに初めはなじめにくい部分はあります。やや、文章での説明に不 足があるのかも知れませんが、安易に文章以外で説明しないのも小説作法のひとつの行き方 と思います。
2005年3月7日
絵が殺した<黒川博行>
本格警察小説とも言えるシリーズの1冊です。警察小説というのは、主人公が複数の組織が シリーズになっていると解釈しています。大阪府警深町班の誰かが、主人公になりそこを中 心に事件を追います。美術と贋作事件を中心に、多数の謎と絡みをはいした本作は、非常に 本格味が濃い作品になっています。大阪府警ということで、大阪弁のユーモアな掛け合いと 文体で引っ張りながら、ミステリとしての完成度も高いシリーズです。本作は謎の面で、特 に本格味が濃い作品です。色々な好みのミステリファンにお勧めの内容です。
2005年3月17日
鬼に捧げる夜想曲<神津慶次朗>
第14回鮎川賞の1作です。現代に蘇る横溝正史の世界が展開します。時代は戦後直ぐ、獄 門島とも思う満月島で、本陣殺人事件をより悲惨にした密室殺人が発生します。背景には、 蝶々殺人事件・犬神家の一族・悪魔の手鞠唄の世界が流れます。そして、密室の謎が解かれ ようとするときに一転して、新本格の世界に呼び戻されます。選考委員も悩まされた19歳 の荒削りで強引ながら、全編に今にも破壊しそうなロジックとトリックとが展開します。 好き嫌いが分かれるでしょうが、無難な作品に飽きた人にはお薦めです。
2005年3月17日
月読(つくよみ)<太田忠司>
人は死ぬと「月導(つくしるべ)」という物体・現象を残します。死ぬ直前に死者が思った 事を「月読」という特殊な能力を持った人物のみが読む事ができます。しかし、どうでも良 い事を考えている事が多く、ダイイングメッセージで事件解決とは行きません。パラレルワ ールドとも言えますし、レンテン・ローズシリーズのような幻想と本格推理の融合とも取れ ます。作者最長の作品との事ですが、本線はきっちり解決しますが、周辺にも多くの謎があ りこの部分はやや説明不足かもしれません。作者のイメージを幻想の世界に展開したヒュー マン本格推理小説の力作です。
2005年3月24日
外地探偵小説集・満州篇<藤田知浩>
現在を「内地」、戦時中に拡大させたその他の地域を「外地」と呼びます。勿論「外地」は 戦時中の事になります。この「外地」を舞台にしたアンソロジーです。今回は「満州篇」で す。ただし、まだ1冊しか刊行されていません。編者は続編を出したいとしていますが・。 戦時中を主体にした内容ですので、珍しい作品も多く入っています。広義の探偵小説ではあ りますが、推理味が薄いほど外地の舞台が生きているように感じるのはなぜでしょうか。ア ンソロジーブームでも異色であり、続編を期待したいものです。
2005年3月24日
Twelve.Y.O.<福井晴敏>
今注目の作者です。今頃デビュー作(江戸川乱歩賞)を読むのは、私が本格推理中心だから です。読み出したらやめられないと言われる作者ですが、舞台と話しの展開は流石に面白い とか言えません。誰が見方で敵かわからまい状況で、一体何が起こっているのかもはっきり しない中に入り込んだ主人公のタフさは結果的に全体の流れをかえて行きます。分かってし まえばあっけない謎も、それだけが主題ではありませんので全く気になりません。長い作品 の多い作者ですので一気に読む事は難しいでしょうが。
2005年3月30日
滅びのモノクローム<三浦昭博>
第48回江戸川乱歩賞受賞作です。現代のミステリーの傾向から言うとかなり異質な感じが あります。細部は別にして、西東登の受賞作を思い出します。日本にとって戦争はいつまで も重要な出来事ですが、必要以上にバックボーンに使った作品が多いのも事実です。作者の 思いは分かりませんが、読者にとっては必要性を感じる作品は多くはありません。推理小説 が割り切れる小説という考えは今では一部の本格のみですが、ただ割り切れない部分を無理 に残す手法は個人的には好きになれません。
2005年3月30日
れんげ野原のまんなかで<森谷明子>
第13回鮎川賞受賞作家の、受賞後の第1作です。秋庭市の外れにある秋葉図書館(誤植に あらず)での「日常の謎派」的な四季の出来事を描いた連作です。当然ながら、本に関する 知識の量と関心度で連作への愛着もかわるのではないかと思います。受賞作が源氏物語でし たので歴史物は得意でしょうが、そこにとどまらずに、図書一般への関心と豊富な知識が、 全部の作品に感じます。また、新人図書館員の主人公の1年間の成長記でもあります。
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2005/03に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。