推理小説読書日記(2005/01)
2005年1月1日
オンラインの微笑<鳥井加南子>
昭和63年の作品です。パソコン通信をテーマにしています。当時はまだ技術の変化がゆっ くりでしたので、かなり情報小説風に書いていますが現在では執筆中に変わる変化の速さで すから誰も取り組まないでしょう。コンピュータや通信をテーマにした作品はかなりありま すが、情報小説風に書いたものは残念ながら風化しています。推理小説の部分を中心にした ものは、時代を考慮すると問題なく読めます。昔は予測出来なかったとは思いますが・・。 本作は残念ながら前者の典型的例と感じます。
2005年1月5日
レデイー・ジョーカー<高村薫>
1977年に出版・購入した本を今読むのも遅いです。しかし、内容が全く昔に感じない作 品です。量的にかなり多く、入り組んだ内容と何とも言い難い終わり方が理解を困難にして いるのでしょう。しかし、単にストーリーを楽しむのみでも充分に満足の行く作品です。登 場人物が非常に多いですが、整理されており混乱しません。これが複雑な読み方でなくても 楽しめる理由です。しかしせっかく読むならば、数えきれないくらいのメッセージのいくつ かを捉まえればと思います。数年後の現在を予期したような部分も感じます。
2005年1月8日
狼の寓話<近藤史恵>
趣向としては土屋隆夫「危険な童話」の近藤版です。警察官たちが主人公の本格推理です。 しかし、内容はいつもの近藤史恵の世界です。ただ、テーマは最近しばしばみられますが、 内容が良い程、読後は何とも言えぬ後味になります。本作もこれにあたります。主人公を取 りまく捜査班になかなか良いバイキャラが存在しますので、続編が期待されます。本著者の 悲しく切ない幕切れには慣れているかもしれません。しかし、それでもやはり切ない。これ が新米刑事の主人公を変えてゆくと考えると益々続編が期待されます。
2005年1月13日
久山秀子探偵小説選2<久山秀子>
戦前の作家の選集の1つです。久山秀子は作品集が少ないので、2冊になった結果として全 集の形になりました。シリーズの目玉的です。「1」は改造社版の作品集と重なる作品が多 く、アンソロジーを含めて単行本初収録の作品が集まったこの「2」が貴重です。隼お秀以 外にも作品がある事も始めて知りましたし、戦後も昭和34年まで作品を発表していた事を 知り驚きました。ユーモアと風刺を交えた作品は、探偵小説味が少ないものを含めると、単 に「地下鉄サム」の日本版ではない事を示しています。
2005年1月16日
アイルランドの薔薇<石持浅海>
一見、本格推理ですが、その設定を見ると最近の新本格でしばしば見られる、トリックを成 立させる為の作品群と同様と分かります。西澤保彦をはじめとして、特殊な設定でのトリッ クがはやっています。本作は、架空ではありませんが、場所・登場人物・価値観等のどれも が私たち日本人には理解しにくい事で、背景としてはトリックの成立の為の設定である事が 分かります。すでに市民権を得た手法ですが、ただその説明が重要な部分を隠しているとも とれ、アンフェアかどうかの境目の作品と感じました。
2005年1月20日
「アリス・ミラー城」殺人事件<北山猛邦>
背景に、「そして誰もいなくなった」「鏡の国のアリス」などがありますが、極めて人工的 なトリック作品です。それ故にあまり、ロジックや動機などを考えると途中で投げ出したく なります。ここは素直に作者の設定にのり、トリックのためのトリックを楽しむのが良いで しょう。トリックと言っても、密室の理由や機械トリックの是非などを考えるのも、同様に 本作では余計でしょう。探偵が集まり、殺されてゆくという皮肉な設定も含めて、非現実性 に作者の個性があり楽しみたいと思います。
2005年1月23日
ふくろう警視<志茂田景樹>
「書下し長編ユーモア・ミステリー」とうたっています。ただミステリーとは言いにくい作 品です。ユーモアには、感じる個人差があるので難しい分野です。本作は人物紹介的で、内 容のユーモアまでは感じにくいです。ミステリーとして見るとサスペンス分野ですが、個性 を出そうとするため、充分ではありません。まだ実験作と感じます。幅広い分野を書く作者 ですので、内容の組み合わせに誤算があったと思います。
2005年1月28日
逆さに咲いた薔薇<氷川透>
作家名=小説中名探偵名=小説家 という、エラリー・クイーンや法月綸太郎と同じ設定の ロジック推理小説を書いて来た作者です。今回は「最後から二番めの真実」で登場した祐天 寺美帆と椎名梨枝刑事コンビの登場です。多くのキャラクターが登場しますので、シリーズ になると予想します。形は安楽椅子探偵風ですが、印象はロジックよりもトリックがメイン になったと感じます。現在の本格推理の新本格の構成に近くなりました。個人的にはロジッ クの方が好きですが、まずまず面白い内容に出来ています。
2005年1月31日
魔神の遊戯<島田荘司>
どこから見ても、島田作品という気がします。長所と欠点が同居しているので、この作者の 作品は再読や時間がたつと、自分でも評価が変わります。自然でない文章で、特異な状況を やや古めかしく強引なトリックで書いています。個性は非常に強いです。ただトリックの再 利用はもうすこし、応用的に工夫して使用してもらいたいと感じます。ミステリ入門者むけ には好ましいが、代表作を捜すとトリックの少ない作品になってしまいます。ただ、長く新 作を発表し続けるのは他の作家の模範とも言えます。
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オンラインの微笑<鳥井加南子>
昭和63年の作品です。パソコン通信をテーマにしています。当時はまだ技術の変化がゆっ くりでしたので、かなり情報小説風に書いていますが現在では執筆中に変わる変化の速さで すから誰も取り組まないでしょう。コンピュータや通信をテーマにした作品はかなりありま すが、情報小説風に書いたものは残念ながら風化しています。推理小説の部分を中心にした ものは、時代を考慮すると問題なく読めます。昔は予測出来なかったとは思いますが・・。 本作は残念ながら前者の典型的例と感じます。
2005年1月5日
レデイー・ジョーカー<高村薫>
1977年に出版・購入した本を今読むのも遅いです。しかし、内容が全く昔に感じない作 品です。量的にかなり多く、入り組んだ内容と何とも言い難い終わり方が理解を困難にして いるのでしょう。しかし、単にストーリーを楽しむのみでも充分に満足の行く作品です。登 場人物が非常に多いですが、整理されており混乱しません。これが複雑な読み方でなくても 楽しめる理由です。しかしせっかく読むならば、数えきれないくらいのメッセージのいくつ かを捉まえればと思います。数年後の現在を予期したような部分も感じます。
2005年1月8日
狼の寓話<近藤史恵>
趣向としては土屋隆夫「危険な童話」の近藤版です。警察官たちが主人公の本格推理です。 しかし、内容はいつもの近藤史恵の世界です。ただ、テーマは最近しばしばみられますが、 内容が良い程、読後は何とも言えぬ後味になります。本作もこれにあたります。主人公を取 りまく捜査班になかなか良いバイキャラが存在しますので、続編が期待されます。本著者の 悲しく切ない幕切れには慣れているかもしれません。しかし、それでもやはり切ない。これ が新米刑事の主人公を変えてゆくと考えると益々続編が期待されます。
2005年1月13日
久山秀子探偵小説選2<久山秀子>
戦前の作家の選集の1つです。久山秀子は作品集が少ないので、2冊になった結果として全 集の形になりました。シリーズの目玉的です。「1」は改造社版の作品集と重なる作品が多 く、アンソロジーを含めて単行本初収録の作品が集まったこの「2」が貴重です。隼お秀以 外にも作品がある事も始めて知りましたし、戦後も昭和34年まで作品を発表していた事を 知り驚きました。ユーモアと風刺を交えた作品は、探偵小説味が少ないものを含めると、単 に「地下鉄サム」の日本版ではない事を示しています。
2005年1月16日
アイルランドの薔薇<石持浅海>
一見、本格推理ですが、その設定を見ると最近の新本格でしばしば見られる、トリックを成 立させる為の作品群と同様と分かります。西澤保彦をはじめとして、特殊な設定でのトリッ クがはやっています。本作は、架空ではありませんが、場所・登場人物・価値観等のどれも が私たち日本人には理解しにくい事で、背景としてはトリックの成立の為の設定である事が 分かります。すでに市民権を得た手法ですが、ただその説明が重要な部分を隠しているとも とれ、アンフェアかどうかの境目の作品と感じました。
2005年1月20日
「アリス・ミラー城」殺人事件<北山猛邦>
背景に、「そして誰もいなくなった」「鏡の国のアリス」などがありますが、極めて人工的 なトリック作品です。それ故にあまり、ロジックや動機などを考えると途中で投げ出したく なります。ここは素直に作者の設定にのり、トリックのためのトリックを楽しむのが良いで しょう。トリックと言っても、密室の理由や機械トリックの是非などを考えるのも、同様に 本作では余計でしょう。探偵が集まり、殺されてゆくという皮肉な設定も含めて、非現実性 に作者の個性があり楽しみたいと思います。
2005年1月23日
ふくろう警視<志茂田景樹>
「書下し長編ユーモア・ミステリー」とうたっています。ただミステリーとは言いにくい作 品です。ユーモアには、感じる個人差があるので難しい分野です。本作は人物紹介的で、内 容のユーモアまでは感じにくいです。ミステリーとして見るとサスペンス分野ですが、個性 を出そうとするため、充分ではありません。まだ実験作と感じます。幅広い分野を書く作者 ですので、内容の組み合わせに誤算があったと思います。
2005年1月28日
逆さに咲いた薔薇<氷川透>
作家名=小説中名探偵名=小説家 という、エラリー・クイーンや法月綸太郎と同じ設定の ロジック推理小説を書いて来た作者です。今回は「最後から二番めの真実」で登場した祐天 寺美帆と椎名梨枝刑事コンビの登場です。多くのキャラクターが登場しますので、シリーズ になると予想します。形は安楽椅子探偵風ですが、印象はロジックよりもトリックがメイン になったと感じます。現在の本格推理の新本格の構成に近くなりました。個人的にはロジッ クの方が好きですが、まずまず面白い内容に出来ています。
2005年1月31日
魔神の遊戯<島田荘司>
どこから見ても、島田作品という気がします。長所と欠点が同居しているので、この作者の 作品は再読や時間がたつと、自分でも評価が変わります。自然でない文章で、特異な状況を やや古めかしく強引なトリックで書いています。個性は非常に強いです。ただトリックの再 利用はもうすこし、応用的に工夫して使用してもらいたいと感じます。ミステリ入門者むけ には好ましいが、代表作を捜すとトリックの少ない作品になってしまいます。ただ、長く新 作を発表し続けるのは他の作家の模範とも言えます。
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2005/01に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。