推理小説読書日記(2004/10)
2004年10月3日
ラグナロク洞<霧舎巧>
嵐の中の山荘テーマ・地下の鍾乳洞・ダイイングメッセージ論・ミッシングリンクとくれば 古典ミステリそのものとも見えますが、近作です。複数の主人公を駆使して、古い題材を現 代にも語ろうとの意志が感じられます。伏線は多く、シンプルで効果的なメイントリックも 生きていますが、無理に複雑化したような印象も残ります。読者を選ぶ作品の様に思います。 作中に冗談で出てくる「一人死んだら、一人登場人物が増える」事が必然の作品があれば、 是非読みたいと思います。
2004年10月6日
狩野俊介の記念日<太田忠司>
4編からなる連作集です。重なる登場人物もいますが、テーマの統一性が連作と呼ばせます。 事件自体は大きなものではありませんが、テーマは人間に取って非常に大きなものです。そ の解決により依頼者に何を及ぼすかは書かれていませんが、かえって余韻を残す効果を出し ています。最近は社会全体の影響もあり、異常性格な人物の登場する作品が増えています。 この連作集に登場する人物は結果として見ると、欠点はあってもまとも(?)な人間性を持 った人たちです。それゆえにカバーの「ヒューマンミステリー」の言葉も納得ゆきます。
2004年10月9日
上州・湯煙殺人号<辻真先>
探偵役がトラベルライターですので、トラベルミステリーと言って良いでしょう。いくつも 顔を持つ作者ですので、仕掛けものもありますが瓜生慎シリーズは、無難な作が主体です。 舞台は吾妻線を走るイベントトレインで、怪しげな人物の中に不可能犯罪が埋め込まれてい ます。解決は無難というか、やや物足りないとも言えます。トラベルミステリーとしては、 そのテーマとミステリ要素を、適度に調合する事で退屈させない作品と言えます。なぜなら トリック自体は、違う使い方もあり得るからです。
2004年10月13日
蹴りたい田中<田中啓文>
分野が不明確なものを全て入れられている感のあるSFですが、パロデイ・ギャグ・駄洒落・ ??もその一つです。本作は、バラバラに発表された上記作品群に書きおろしの表題作を加 えた連作とも、長編ともいえる定義不明の本です。本来はこの分野は、元ネタがわからなけ れば読む方も意味が分からないのですが、本作者の様にあまりにマニアックだと、どの部分 が何が元ネタか考えさせられてしまいます。見逃している部分もかなりありそうです。その 面では読者のマニアック知識度を調べる本ともいえます。
2004年10月18日
松本城殺人事件<沼五月>
実は全く知らない作者です。題名が平凡で昭和60年代の作品ですので、先入観もありまし た。しかし20年代のテーマを60年代の探偵役が追いかける展開は意外とも、違和感とも 言えるものをかんじました。あまり真面目に「怨霊」を押しだしすぎと思います。結果とし ミステリとしては、誰が犯人でも可能な状態になり極端にいえば、推理の余地がなくなった かのように感じます。新しい試みとの好意的な見方もできますが、やはりミステリは推理の 要素を期待します。
2004年10月23日
脱サラリーマン殺人事件<藤村正太>
長編推理小説に向いたトリックと短編向きとがあると思います。後者を長編に使う時は、複 数を組み合わす必要があります。実はこれが非常に難しいのです。本作は典型的な後者の作 品です。オリジナルではなく改良型のトリックが沢山使われています。方法は、単純連続式 です。このような作品も多いですし、悪い訳ではありません。しかし種類が異なるトリック を複数組み合わせると、流石に違和感を感じます。作品の構成上難しいのかと思いますが、 入れ子の部分もあると良かったと思います。
2004年10月27日
13階段<高野和明>
江戸川乱歩賞といえば、むかしは本格推理で特に密室物が多かったです。いつごろか本格は 姿を消し、色々なジャンルになりました。本作は最近では珍しい、本格推理です。受賞時の キャッチフレーズが、「時間制限」ミステリです。確かに内容を紹介しにくい小説です。 うっかり書くとネタばれになります。それほど内容が豊富で複雑な構成の作品です。題名が 平凡そうで実は重いです。推理小説を読み慣れた人は最初の設定の部分を読むと違和感があ るでしょう。それが伏線とは・・・。(多少ネタばれ)
2004年10月31日
ドアの向こうに<黒川博行>
本格推理小説ですが、警察署全体で事件に当たるので警察小説と分類する人もいます。時代 は丁度、現在新本格と言われる人が登場したとき重なるので、他の本格作家と同様に割をく った感もあります。この時代の後で、ややソフトな本格時代が若干あり、その時に推理作家 協会賞を受賞しています。この作者の研究家を悩まします。その後直ぐにハードボイルド的 な作品に移行して行きます。そして今度は度々の直木賞候補。ジャンルは変わってもどれも 面白い作品ばかりです。本格好きの人には初期の本作の時期がお勧めです。
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ラグナロク洞<霧舎巧>
嵐の中の山荘テーマ・地下の鍾乳洞・ダイイングメッセージ論・ミッシングリンクとくれば 古典ミステリそのものとも見えますが、近作です。複数の主人公を駆使して、古い題材を現 代にも語ろうとの意志が感じられます。伏線は多く、シンプルで効果的なメイントリックも 生きていますが、無理に複雑化したような印象も残ります。読者を選ぶ作品の様に思います。 作中に冗談で出てくる「一人死んだら、一人登場人物が増える」事が必然の作品があれば、 是非読みたいと思います。
2004年10月6日
狩野俊介の記念日<太田忠司>
4編からなる連作集です。重なる登場人物もいますが、テーマの統一性が連作と呼ばせます。 事件自体は大きなものではありませんが、テーマは人間に取って非常に大きなものです。そ の解決により依頼者に何を及ぼすかは書かれていませんが、かえって余韻を残す効果を出し ています。最近は社会全体の影響もあり、異常性格な人物の登場する作品が増えています。 この連作集に登場する人物は結果として見ると、欠点はあってもまとも(?)な人間性を持 った人たちです。それゆえにカバーの「ヒューマンミステリー」の言葉も納得ゆきます。
2004年10月9日
上州・湯煙殺人号<辻真先>
探偵役がトラベルライターですので、トラベルミステリーと言って良いでしょう。いくつも 顔を持つ作者ですので、仕掛けものもありますが瓜生慎シリーズは、無難な作が主体です。 舞台は吾妻線を走るイベントトレインで、怪しげな人物の中に不可能犯罪が埋め込まれてい ます。解決は無難というか、やや物足りないとも言えます。トラベルミステリーとしては、 そのテーマとミステリ要素を、適度に調合する事で退屈させない作品と言えます。なぜなら トリック自体は、違う使い方もあり得るからです。
2004年10月13日
蹴りたい田中<田中啓文>
分野が不明確なものを全て入れられている感のあるSFですが、パロデイ・ギャグ・駄洒落・ ??もその一つです。本作は、バラバラに発表された上記作品群に書きおろしの表題作を加 えた連作とも、長編ともいえる定義不明の本です。本来はこの分野は、元ネタがわからなけ れば読む方も意味が分からないのですが、本作者の様にあまりにマニアックだと、どの部分 が何が元ネタか考えさせられてしまいます。見逃している部分もかなりありそうです。その 面では読者のマニアック知識度を調べる本ともいえます。
2004年10月18日
松本城殺人事件<沼五月>
実は全く知らない作者です。題名が平凡で昭和60年代の作品ですので、先入観もありまし た。しかし20年代のテーマを60年代の探偵役が追いかける展開は意外とも、違和感とも 言えるものをかんじました。あまり真面目に「怨霊」を押しだしすぎと思います。結果とし ミステリとしては、誰が犯人でも可能な状態になり極端にいえば、推理の余地がなくなった かのように感じます。新しい試みとの好意的な見方もできますが、やはりミステリは推理の 要素を期待します。
2004年10月23日
脱サラリーマン殺人事件<藤村正太>
長編推理小説に向いたトリックと短編向きとがあると思います。後者を長編に使う時は、複 数を組み合わす必要があります。実はこれが非常に難しいのです。本作は典型的な後者の作 品です。オリジナルではなく改良型のトリックが沢山使われています。方法は、単純連続式 です。このような作品も多いですし、悪い訳ではありません。しかし種類が異なるトリック を複数組み合わせると、流石に違和感を感じます。作品の構成上難しいのかと思いますが、 入れ子の部分もあると良かったと思います。
2004年10月27日
13階段<高野和明>
江戸川乱歩賞といえば、むかしは本格推理で特に密室物が多かったです。いつごろか本格は 姿を消し、色々なジャンルになりました。本作は最近では珍しい、本格推理です。受賞時の キャッチフレーズが、「時間制限」ミステリです。確かに内容を紹介しにくい小説です。 うっかり書くとネタばれになります。それほど内容が豊富で複雑な構成の作品です。題名が 平凡そうで実は重いです。推理小説を読み慣れた人は最初の設定の部分を読むと違和感があ るでしょう。それが伏線とは・・・。(多少ネタばれ)
2004年10月31日
ドアの向こうに<黒川博行>
本格推理小説ですが、警察署全体で事件に当たるので警察小説と分類する人もいます。時代 は丁度、現在新本格と言われる人が登場したとき重なるので、他の本格作家と同様に割をく った感もあります。この時代の後で、ややソフトな本格時代が若干あり、その時に推理作家 協会賞を受賞しています。この作者の研究家を悩まします。その後直ぐにハードボイルド的 な作品に移行して行きます。そして今度は度々の直木賞候補。ジャンルは変わってもどれも 面白い作品ばかりです。本格好きの人には初期の本作の時期がお勧めです。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。