推理小説読書日記(2004/07)
2004年7月2日
女たちの復讐<梶龍雄>
女たちと言っても姉妹ふたりです。意外な設定の安楽椅子探偵もどきが長く続きます。 後半は、激しく変わる展開で本格推理としての伏線ははられていますが、論証的なものが多い ですので、読み切る事はほとんど無理でしょう。結局はあの展開かとも言えますが、それも、 変則的展開のなかに上手に埋め込まれていると言ってもよいでしょう。
2004年7月4日
はじまりは青い月<新庄節美>
チビーシリーズで有名な、大人も読む児童向きミステリ作家です。本作は「スカーレット・パ ラソル」シリーズ(と言うほど多くはない)の1作です。最近では児童向けでも高い水準が要 求されますので、大人にもファンは多いです。登場人物や設定がすこし異なると言えるでしょ う。泥棒と探偵の2代目どおしの孫の活躍する本作も、盗みの手段や展開に面白さがあります。
2004年7月6日
アヒルと鴨のコインロッカー<伊坂幸太郎>
現在売り出し中の作者です。はじめて読むので、これが作風かどうかは判断できません。 構成は今はやりの物です、意欲作でしょうがやや飽きてきた感もかなり有ります。ただ昨年の 歌野「葉桜・・」と同様にミステリ中毒患者には内容が薄くて不満はありますが、中間小説を 主体に読んでいる人には歓迎されると思います。ミステリ人口増加貢献作でしょう。
2004年7月8日
架空硬貨<池井戸潤>
元題「M1」。すばらしい作品ですが、恐ろしい作品です。今日本が破産してお金が紙くずにな ったとしたらどうしますか?。その小規模のシュミレーションでもあります。不正に得たお金 を正規の物に変える方法はご存じですか?。いや恐ろしいです。金融情報小説ではない面白さ と謎と恐ろしさが本作にはあります。
2004年7月10日
名探偵木更津悠也<麻耶雄嵩>
寡作な作家の短編集です。意外な程にオーソドックスな本格推理の形式を持っています。そし て全体にレベルが高いです。名探偵と興信所は異なることも面白い。全編に白い幽霊が登場す るのもアクセントになっており、微妙に事件にかかわります。ただそれが何かは全く分かりま せん。本作者の短編集は2冊目ですが、長編と微妙に違う感じがします。
2004年7月12日
鬼頭家の惨劇<折原一>
ほとんどの作品が叙述トリックの作者です。カバーにまで書かれてしまう状態です。従って本 作もそうです。複数階層になっていますが、読み慣れてくると騙すとか騙されるとかを過ぎて しまいます。気持ちは、好きなように書いての感じです。本作は中編レベルの長さですが、こ の種の作品には丁度良い長さとかんじます。ネタが割れている長い作品を読む苦痛がないです。
2004年7月14日
語り女たち<北村薫>
ミステリーとは言わないと思います。謎と不思議な物語と言っても推理小説的なものではあり ません。本格原理主義とも言われる作者ですが、「時と人3部作」や「水に眠る」「詩歌の待 ち伏せ」などその扱う範囲は広いです。掌編で繋ぎ合わせてゆく本作も作者の、次の試みでし ょう。ただこのような話しも発展させると日常の謎が生まれるような気がします。
2004年7月17日
人魚とミノタウロス<氷川透>
「トリックよりロジック」というエラリー・クイーンの影響は推理小説から消えることはない でしょう。それを継ぐ人も、時代の変化による変化を積極的にとりいれていこうとする人もい ます。本作者は後者で、精神分析を出発点に理系の中に文系の考えを取り入れる試みがされて います」。顔の無い死体のDNA鑑定を無効とするロジック等は興味深いです。
2004年7月19日
C.H.E.<井上尚登>
広義のミステリーにも入るかどうかの感想です。いわゆるエンターメントです。南米のある架 空の国で、ゲバラと関係がありそうな設定の人物が登場します。物語としては別にして、推理 小説としては結局何もないように思います。あえて言えば、久生十蘭か生島治郎のスタイルを 感じますが、たぶん私だけでしょう。
2004年7月22日
カレイドスコープ島<霧舎巧>
あかずの扉研究会という変わった人間の集まりが探偵役で頭脳役も二人います。過去の名作の 設定に(本作は獄門島)に全く異なる新しさを加えた内容になっています。この部分が特徴で す。読む人にとって、長所とも短所とも言えると思います。もう少し長さがコンパクトにまと まっていたらとの思いはありますが、目が離せない作者でもあります。
2004年7月23日
仮題・中学殺人事件<辻真先>
本格の作風であるので言われる事はすくないが、奇想の持ち主です。経歴も推理小説をどの程 度の数を書いているかもなかなか掴みきれません。思いついたら直ぐに書いてしまうのは謎で す。本作は辻真先のペンネームを使いはじめた頃の作品ですが、既に特徴が出ています。有名 なポテト・スーパーのキャラクターが既に登場します。
2004年7月26日
こまち田沢湖殺人事件<中津文彦>
一見してトラベルミステリ風の題名に、歴史ミステリの作者名がアンバランスにも感じます。 内容は普通の本格風ミステリですが、事件や手がかりの出方がやや純本格よりは遅く感じます。 また、話しのそこかしこに秋田地方の歴史研究家の名前が出てくるのも、必然と言えるでしょ う。人が少ない地域での目撃の必然か偶然かの感じ方が微妙です。
2004年7月29日
「クロック城」殺人事件<北山猛邦>
作品は新しいですが、雰囲気は古風な感じがします。背景に流れる血や遺伝の問題も懐かしい です。トリックも機械的ですが、一度廃れたものが復活してきたのは興味があります。後半が 袋とじになっていますが、機械的解明の絵を隠す以外はあまり意味はありません。歴史は繰り 返すといいますが、この傾向の作品が今回はどの程度の期間書かれるのか興味があります。
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女たちの復讐<梶龍雄>
女たちと言っても姉妹ふたりです。意外な設定の安楽椅子探偵もどきが長く続きます。 後半は、激しく変わる展開で本格推理としての伏線ははられていますが、論証的なものが多い ですので、読み切る事はほとんど無理でしょう。結局はあの展開かとも言えますが、それも、 変則的展開のなかに上手に埋め込まれていると言ってもよいでしょう。
2004年7月4日
はじまりは青い月<新庄節美>
チビーシリーズで有名な、大人も読む児童向きミステリ作家です。本作は「スカーレット・パ ラソル」シリーズ(と言うほど多くはない)の1作です。最近では児童向けでも高い水準が要 求されますので、大人にもファンは多いです。登場人物や設定がすこし異なると言えるでしょ う。泥棒と探偵の2代目どおしの孫の活躍する本作も、盗みの手段や展開に面白さがあります。
2004年7月6日
アヒルと鴨のコインロッカー<伊坂幸太郎>
現在売り出し中の作者です。はじめて読むので、これが作風かどうかは判断できません。 構成は今はやりの物です、意欲作でしょうがやや飽きてきた感もかなり有ります。ただ昨年の 歌野「葉桜・・」と同様にミステリ中毒患者には内容が薄くて不満はありますが、中間小説を 主体に読んでいる人には歓迎されると思います。ミステリ人口増加貢献作でしょう。
2004年7月8日
架空硬貨<池井戸潤>
元題「M1」。すばらしい作品ですが、恐ろしい作品です。今日本が破産してお金が紙くずにな ったとしたらどうしますか?。その小規模のシュミレーションでもあります。不正に得たお金 を正規の物に変える方法はご存じですか?。いや恐ろしいです。金融情報小説ではない面白さ と謎と恐ろしさが本作にはあります。
2004年7月10日
名探偵木更津悠也<麻耶雄嵩>
寡作な作家の短編集です。意外な程にオーソドックスな本格推理の形式を持っています。そし て全体にレベルが高いです。名探偵と興信所は異なることも面白い。全編に白い幽霊が登場す るのもアクセントになっており、微妙に事件にかかわります。ただそれが何かは全く分かりま せん。本作者の短編集は2冊目ですが、長編と微妙に違う感じがします。
2004年7月12日
鬼頭家の惨劇<折原一>
ほとんどの作品が叙述トリックの作者です。カバーにまで書かれてしまう状態です。従って本 作もそうです。複数階層になっていますが、読み慣れてくると騙すとか騙されるとかを過ぎて しまいます。気持ちは、好きなように書いての感じです。本作は中編レベルの長さですが、こ の種の作品には丁度良い長さとかんじます。ネタが割れている長い作品を読む苦痛がないです。
2004年7月14日
語り女たち<北村薫>
ミステリーとは言わないと思います。謎と不思議な物語と言っても推理小説的なものではあり ません。本格原理主義とも言われる作者ですが、「時と人3部作」や「水に眠る」「詩歌の待 ち伏せ」などその扱う範囲は広いです。掌編で繋ぎ合わせてゆく本作も作者の、次の試みでし ょう。ただこのような話しも発展させると日常の謎が生まれるような気がします。
2004年7月17日
人魚とミノタウロス<氷川透>
「トリックよりロジック」というエラリー・クイーンの影響は推理小説から消えることはない でしょう。それを継ぐ人も、時代の変化による変化を積極的にとりいれていこうとする人もい ます。本作者は後者で、精神分析を出発点に理系の中に文系の考えを取り入れる試みがされて います」。顔の無い死体のDNA鑑定を無効とするロジック等は興味深いです。
2004年7月19日
C.H.E.<井上尚登>
広義のミステリーにも入るかどうかの感想です。いわゆるエンターメントです。南米のある架 空の国で、ゲバラと関係がありそうな設定の人物が登場します。物語としては別にして、推理 小説としては結局何もないように思います。あえて言えば、久生十蘭か生島治郎のスタイルを 感じますが、たぶん私だけでしょう。
2004年7月22日
カレイドスコープ島<霧舎巧>
あかずの扉研究会という変わった人間の集まりが探偵役で頭脳役も二人います。過去の名作の 設定に(本作は獄門島)に全く異なる新しさを加えた内容になっています。この部分が特徴で す。読む人にとって、長所とも短所とも言えると思います。もう少し長さがコンパクトにまと まっていたらとの思いはありますが、目が離せない作者でもあります。
2004年7月23日
仮題・中学殺人事件<辻真先>
本格の作風であるので言われる事はすくないが、奇想の持ち主です。経歴も推理小説をどの程 度の数を書いているかもなかなか掴みきれません。思いついたら直ぐに書いてしまうのは謎で す。本作は辻真先のペンネームを使いはじめた頃の作品ですが、既に特徴が出ています。有名 なポテト・スーパーのキャラクターが既に登場します。
2004年7月26日
こまち田沢湖殺人事件<中津文彦>
一見してトラベルミステリ風の題名に、歴史ミステリの作者名がアンバランスにも感じます。 内容は普通の本格風ミステリですが、事件や手がかりの出方がやや純本格よりは遅く感じます。 また、話しのそこかしこに秋田地方の歴史研究家の名前が出てくるのも、必然と言えるでしょ う。人が少ない地域での目撃の必然か偶然かの感じ方が微妙です。
2004年7月29日
「クロック城」殺人事件<北山猛邦>
作品は新しいですが、雰囲気は古風な感じがします。背景に流れる血や遺伝の問題も懐かしい です。トリックも機械的ですが、一度廃れたものが復活してきたのは興味があります。後半が 袋とじになっていますが、機械的解明の絵を隠す以外はあまり意味はありません。歴史は繰り 返すといいますが、この傾向の作品が今回はどの程度の期間書かれるのか興味があります。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。