推理小説読書日記(2004/06)
2004年6月2日
DZ<小笠原慧>
複数の顔を持つ作品です。医学ミステリ・近未来テーマミステリ・冒険ミステリ・ハードボイ ルドミステリ等です。最初の医学ミステリの部分がやや読者を選ぶかもしれません。ある程度 理解できるか、全く知らない人には問題ないでしょうが、やや知っている人には専門用語の、 連続はかなり苦しいでしょう。最後のまとめ方が意外にも、まとまっていることには関心しま した。話しの展開からは拡散してしまう危惧があったからです。
2004年6月3日
赤い塩殺人事件<新田司馬英>
戦後別冊宝石長編募集の候補作。280枚ですので現在では中編です。ただ読んだ感じは、今 でも中編に感じます。1人称の手記と、その後の3人称の解決編??の組み合わせは現在でも 見られます。ただ長さのバランスとやや不明確な終わり方が、中編のイメージになるのでしょ う。内容は当時はどのように評価されたか興味はあります。現在では、弱いでしょう。
2004年6月5日
『瑠璃城』殺人事件<北山猛邦>
帯に「快作」となっていますが、むしろ「怪作」ではないかと思います。生まれ変わりによる 犯罪の連鎖はなくても作品を成立することができたと思います。あえて加えた所に怪しさが、 あります。どこまで論理的に推理するかが乱されて幻想の世界に迷いこみますが、これを好ま ない人も多いのではないかと思います。私もそのひとりのようです。
2004年6月8日
八号古墳に消えて<黒川博行>
本格ー>ハードボイルドと変身を続ける作者の初期の本格物です。大阪を舞台に「黒まめ」 コンビが活躍します。大阪漫才と本格推理の結合かと思わされます。かなりのトリッキーな作 品ですが、ひょうきんコンビにつられている内に解決します。その作風は独特なもので、以降 にジャンルが変わっても持ち味は引き継がれます。
2004年6月10日
さよならの代わりに<貫井徳郎>
本格推理にSF的要素を加えた作品です。加えることが必要だったのかどうかは読む人により、 異なるでしょう。結果的に謎が増え、残ってしまう事になりました。本格としての謎が弱いだ けに他にも謎が増える事はあながち欠点ともいえません。この作者の作品としてはやや異なる 部分にテーマの比重を大きくしたと感じます。
2004年6月12日
銀座連続殺人手帖<梶龍雄>
高見・結城シリーズといってもマイナーだから、たぶんわからない。オーソドックスな本格推 理小説です。連続殺人の目的に少しひねりを加えていますが、強調するために本文中に連続殺 人の分類が出てきます。平均的な安心して?連続殺人を楽しめる??作品といえるでしょう。 現在でもこのような作品は存在しますが、特記されずに地味に読み継がれています。
2004年6月14日
渦潮<遠藤桂子>
戦後別冊宝石長編募集の候補作。藤雪夫が女性のペンネームで応募した作品です。後年に娘の 藤桂子との合作で「獅子座」になった原型です。中心トリックと菊地警部が同一です。従って 本作はトリックがメインの作品と言えます。展開がやや分かり難い点があり、「獅子座」の方 が優れていると思います。時代を考えれば当然です。当時としてはかなり考えられて作品です。
2004年6月16日
まほろ市の殺人 冬 蜃気楼に手を振る<有栖川有栖>
連作の3作目です。中編の長さですが倒叙形式で書かれています。落ちのある作品ですが、あ まり伏線的でないので推理小説としてはやや不満があります。論証を積み重ねて行く作者と、 倒叙形式とは相性が良くないのかも知れません。
2004年6月20日
星の牢獄<谺健二>
人間の持つ狂気と心の病を小説の背景に押しやって、奇想と本格推理を前面に押し出した作品 です。たぶん、小説をバラバラのパーツに分解すれば、ほとんどに前例はあると思いますが、 何重にも複雑に絡み合わせた構成は容易に真実にたどりつく事を拒みます。正確には最後まで 行っても解明されていないとも言えます。本の厚さだけ内容が濃いのは、この作者の作風の本 質のような気がしてきました。
2004年6月22日
スペース<加納朋子>
「スペース」と「バックスペース」の2中編からなる連作の形をとっています。スペースを読 んだのは2000年でした。この作者では珍しい中編であり、日常の謎派としては全編が謎に なっていました。過去の2作「ななつのこ」「魔法飛行」では主人公の入江駒子については詳 しいですが、謎を解く側の瀬尾さんについては直ぐに謎が解けても良いようなイメージで書か れています。遠距離恋愛のふたりのスペースとも相まって、やや不自然な謎解きも納得してし まう面がありました。今回の後半部に当たるバックスペースを読むと極端に言えば、別のカッ プルの恋愛物語であるとともに、全体がスペースの解決編です。長い長い解決編とともに、今 まで影のようだった瀬尾さんがようやく人間像をあらわします。
2004年6月24日
最後から二番めの真実<氷川透>
小説のスタイル・内容共に、エラリークイーンーー>法月倫太郎を意識または流れをくむ作品 です。これは作者自身の意識として行っています。従って、論理的な謎解きと読者への挑戦に 相当するものがあります。この流れが持つ問題を意識として持ち、もうひとりの探偵役に美し い論理展開をさせ、小道具は新しいものを使用すると言う事で愛着と前進を試みています。 作者の挑戦も内容も面白いものです。心配点は、前者ふたりが実作的には、純粋論理での実作 期間が短く、本作者はどうかと言う点です。
2004年6月26日
まほろ市の殺人 春 無節操な死人<倉知淳>
中編というのは本格と相性は良いとおもいますが、現在の長編時代の作者にとっては必ずしも そうではないかもしれません。まほろ市の殺人 四季シリーズでは、やや中途半端な作品が有 るように思います。本作もまだ発展の余地と論証のみで終わっていますが、本格推理として見 れば一番まとまっているように思います。バラバラな事件を一つにまとめるのは常套手段で、 論証面ではそれが出来ているからです。
2004年6月28日
陽だまりの迷宮<青井夏海>
連作からデビューして、長編を書いた作者の連作であり全体で長編としての体裁もある連作で す。主人公は11人兄弟の末っ子の小学生で、いわゆる日常の謎に近いですが、謎的には少し 本格味が強いと感じます。魅力あるキャラクターを登場させる作者ですが、今回もやや不思議 な主人公で話しが進みます。
2004年6月30日
手のひらの蝶<小笠原慧>
精神科医師が特殊な病例を駆使して、書いたサスペンスと言っておくのが無難です。しかし、 なかなか検証が難しいが伏線を引いた本格推理としての読み方も出来ると思います。ストーリ ーの展開が特徴なだけにあらすじ自体がネタばらしに繋がる可能性があります。最後に結果を 整理すると伏線と論証は可能です。しかし特殊な舞台・事件だけに読者に要求するにはやや無 理ともいえます。サスペンスと言っておけば無難かもしれません。
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DZ<小笠原慧>
複数の顔を持つ作品です。医学ミステリ・近未来テーマミステリ・冒険ミステリ・ハードボイ ルドミステリ等です。最初の医学ミステリの部分がやや読者を選ぶかもしれません。ある程度 理解できるか、全く知らない人には問題ないでしょうが、やや知っている人には専門用語の、 連続はかなり苦しいでしょう。最後のまとめ方が意外にも、まとまっていることには関心しま した。話しの展開からは拡散してしまう危惧があったからです。
2004年6月3日
赤い塩殺人事件<新田司馬英>
戦後別冊宝石長編募集の候補作。280枚ですので現在では中編です。ただ読んだ感じは、今 でも中編に感じます。1人称の手記と、その後の3人称の解決編??の組み合わせは現在でも 見られます。ただ長さのバランスとやや不明確な終わり方が、中編のイメージになるのでしょ う。内容は当時はどのように評価されたか興味はあります。現在では、弱いでしょう。
2004年6月5日
『瑠璃城』殺人事件<北山猛邦>
帯に「快作」となっていますが、むしろ「怪作」ではないかと思います。生まれ変わりによる 犯罪の連鎖はなくても作品を成立することができたと思います。あえて加えた所に怪しさが、 あります。どこまで論理的に推理するかが乱されて幻想の世界に迷いこみますが、これを好ま ない人も多いのではないかと思います。私もそのひとりのようです。
2004年6月8日
八号古墳に消えて<黒川博行>
本格ー>ハードボイルドと変身を続ける作者の初期の本格物です。大阪を舞台に「黒まめ」 コンビが活躍します。大阪漫才と本格推理の結合かと思わされます。かなりのトリッキーな作 品ですが、ひょうきんコンビにつられている内に解決します。その作風は独特なもので、以降 にジャンルが変わっても持ち味は引き継がれます。
2004年6月10日
さよならの代わりに<貫井徳郎>
本格推理にSF的要素を加えた作品です。加えることが必要だったのかどうかは読む人により、 異なるでしょう。結果的に謎が増え、残ってしまう事になりました。本格としての謎が弱いだ けに他にも謎が増える事はあながち欠点ともいえません。この作者の作品としてはやや異なる 部分にテーマの比重を大きくしたと感じます。
2004年6月12日
銀座連続殺人手帖<梶龍雄>
高見・結城シリーズといってもマイナーだから、たぶんわからない。オーソドックスな本格推 理小説です。連続殺人の目的に少しひねりを加えていますが、強調するために本文中に連続殺 人の分類が出てきます。平均的な安心して?連続殺人を楽しめる??作品といえるでしょう。 現在でもこのような作品は存在しますが、特記されずに地味に読み継がれています。
2004年6月14日
渦潮<遠藤桂子>
戦後別冊宝石長編募集の候補作。藤雪夫が女性のペンネームで応募した作品です。後年に娘の 藤桂子との合作で「獅子座」になった原型です。中心トリックと菊地警部が同一です。従って 本作はトリックがメインの作品と言えます。展開がやや分かり難い点があり、「獅子座」の方 が優れていると思います。時代を考えれば当然です。当時としてはかなり考えられて作品です。
2004年6月16日
まほろ市の殺人 冬 蜃気楼に手を振る<有栖川有栖>
連作の3作目です。中編の長さですが倒叙形式で書かれています。落ちのある作品ですが、あ まり伏線的でないので推理小説としてはやや不満があります。論証を積み重ねて行く作者と、 倒叙形式とは相性が良くないのかも知れません。
2004年6月20日
星の牢獄<谺健二>
人間の持つ狂気と心の病を小説の背景に押しやって、奇想と本格推理を前面に押し出した作品 です。たぶん、小説をバラバラのパーツに分解すれば、ほとんどに前例はあると思いますが、 何重にも複雑に絡み合わせた構成は容易に真実にたどりつく事を拒みます。正確には最後まで 行っても解明されていないとも言えます。本の厚さだけ内容が濃いのは、この作者の作風の本 質のような気がしてきました。
2004年6月22日
スペース<加納朋子>
「スペース」と「バックスペース」の2中編からなる連作の形をとっています。スペースを読 んだのは2000年でした。この作者では珍しい中編であり、日常の謎派としては全編が謎に なっていました。過去の2作「ななつのこ」「魔法飛行」では主人公の入江駒子については詳 しいですが、謎を解く側の瀬尾さんについては直ぐに謎が解けても良いようなイメージで書か れています。遠距離恋愛のふたりのスペースとも相まって、やや不自然な謎解きも納得してし まう面がありました。今回の後半部に当たるバックスペースを読むと極端に言えば、別のカッ プルの恋愛物語であるとともに、全体がスペースの解決編です。長い長い解決編とともに、今 まで影のようだった瀬尾さんがようやく人間像をあらわします。
2004年6月24日
最後から二番めの真実<氷川透>
小説のスタイル・内容共に、エラリークイーンーー>法月倫太郎を意識または流れをくむ作品 です。これは作者自身の意識として行っています。従って、論理的な謎解きと読者への挑戦に 相当するものがあります。この流れが持つ問題を意識として持ち、もうひとりの探偵役に美し い論理展開をさせ、小道具は新しいものを使用すると言う事で愛着と前進を試みています。 作者の挑戦も内容も面白いものです。心配点は、前者ふたりが実作的には、純粋論理での実作 期間が短く、本作者はどうかと言う点です。
2004年6月26日
まほろ市の殺人 春 無節操な死人<倉知淳>
中編というのは本格と相性は良いとおもいますが、現在の長編時代の作者にとっては必ずしも そうではないかもしれません。まほろ市の殺人 四季シリーズでは、やや中途半端な作品が有 るように思います。本作もまだ発展の余地と論証のみで終わっていますが、本格推理として見 れば一番まとまっているように思います。バラバラな事件を一つにまとめるのは常套手段で、 論証面ではそれが出来ているからです。
2004年6月28日
陽だまりの迷宮<青井夏海>
連作からデビューして、長編を書いた作者の連作であり全体で長編としての体裁もある連作で す。主人公は11人兄弟の末っ子の小学生で、いわゆる日常の謎に近いですが、謎的には少し 本格味が強いと感じます。魅力あるキャラクターを登場させる作者ですが、今回もやや不思議 な主人公で話しが進みます。
2004年6月30日
手のひらの蝶<小笠原慧>
精神科医師が特殊な病例を駆使して、書いたサスペンスと言っておくのが無難です。しかし、 なかなか検証が難しいが伏線を引いた本格推理としての読み方も出来ると思います。ストーリ ーの展開が特徴なだけにあらすじ自体がネタばらしに繋がる可能性があります。最後に結果を 整理すると伏線と論証は可能です。しかし特殊な舞台・事件だけに読者に要求するにはやや無 理ともいえます。サスペンスと言っておけば無難かもしれません。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。