推理小説読書日記(2004/05)
2004年5月2日
四十一枚目の駒<藤沢桓夫>
叙情・人情的な作品の本作者は、推理小説にもいくつか作品を残しています。作品はトリック 物ではなく、論理的に謎を解いて行くタイプです。本作品集は広義の物も含めると全てミステ リと言えます。表題作は狭義の推理小説です。作者は後書きで他の推理作品にも触れています。 その主人公「康子」が誤植になっています。作者名「たけお」の漢字の間違いが多く、ネット で検索する時には悩みの種です。登録者がどの様な間違いをするかの推理が必要です。
2004年5月4日
まほろ市の殺人 秋<麻耶雄嵩>
定義のしにくい推理小説?を発表している作者です。中編での連続殺人、現実離れの登場人物 、意味は分かっても目的がいまひとつ曖昧にしたままのミッシングリンク。古い人間が勝手に 推理小説の枠を作っても、どうしてもはみ出してしまいます。この作者の行く先には壁がある のでしょうか、それとも未開の大地があるのでしょうか。その謎は、もう少し多く作品を発表 して欲しいと思います。
2004年5月6日
物狂い<土屋隆夫>
「処女作からはじまり処女作に戻った作品」作者。初長編「天狗の面」の土田巡査の子供の土 田警部が主人公の本格推理物です。次第に本格謎解きから離れた感のあった作者だけに、意外 な内容でした。主題は天狗ではなく「幽霊」です。トリック重視から、動機・人間性をも加味 した内容は単純に元に戻ったのではなく、集大成的な内容と言えます。信州・芝居・過去など 初長編だけに拘った内容ではありません。
2004年5月10日
殺人回廊<梶龍雄>
舞台は戦時中、空襲・反体制者・特高・公爵などの言葉があった時代です。とはいっても、旧 制高校シリーズ?のような青春小説ではありません。大量殺人が行われている時代の個人の殺 人というものは時として理解しにくくなる物です。この作者の小説は基本は本格物で代わりま せんが、同時に時代背景・風俗をも描くとされています。本作も同様ですが、大量殺人という 背景はかなり異なる印象を受けます。
2004年5月12日
陀吉尼の紡ぐ糸<藤木稟>
実ははじめて読む作家です。それだけに内容を理解するのが難しいです。時代背景が古い訳で はない。その世界も登場人物も、通常とは思われない。伝奇小説の面もあるが違う。SFという には中途半端である。パラレルワールド的だ無難な見方であるが、謎も解決も自由になってし まうので、歯止めが必要だが、なかなかわからない。1冊だけでは何とも理解しがたい事は確 しかと思いますが、続編を読む気になるには少し時間が必要と感じます。
2004年5月13日
黄金蝶ひとり<太田忠司>
ミステリーランドの1冊です。従ってノンシリーズものです。1種の2重構造の作品と言えま すが、中心の話しは本格推理面よりも冒険小説面が強いです。伏線はありますが、謎が全て解 明される形をとっていません。逆に、冒頭に提示された筆者捜しの謎は暗号やごろ合わせ捜し は別にしても、伏線がはられているので充分に物語を支える謎になっている。これが外側の部 分です。叙述だけでは子供向けでは無くなるので、ごろ合わせも加えたのでしょう。
2004年5月15日
松葉杖の音<大河内常平>
戦後直ぐの「宝石新人長編コンクール」候補作より。時代性が強く、トリックも今では古いで す。当時はどうだったかは不明です。ただ、時代性を含めてもやや、平凡ではないかの印象が 感じます。昭和20年代はまだ長編が多く書かれる前で多くは、枚数も制限されており語り不 足はやむをえません。実際は中編ぐらいの長さの作品です。
2004年5月17日
特命社員殺人事件<藤村正太>
最近では、特命・・とか特捜とかが主人公になるのは珍しくありません。本作の当時はそれ程 多く無かったようです。内容は正統な本格物でアリバイやその他トリックが組み合わさってい ます。勿論、現在でも有効かどうかは別です。海外と日本を結ぶ広い範囲での話しですが旅行 ではありません。でも内容には深く絡みます。
2004年5月21日
あやかし修学旅行<はやみねかおる>
児童向けの文庫に入っていても大人も読む「はやみね」作品、今回は夢水清志郎事件ノートで す。いつもより謎が豊富です。それに作者自身が楽しんでいます。キャラクターが増えても、 この異色の名探偵シリーズはファンは多いでしょう。手がかりが不充分な物もありますが、あ まり細部に拘らない構成ですので楽しんで読みましょう。
2004年5月24日
超・殺人事件<東野圭吾>
色々なジャンルを見事にこなす作者の、ギャグ・風刺を主体にした連作です。ただし本格的な 謎も含まれているのが見逃せません。一歩まちがえば、大失敗になりかねないジャンルを絶妙 なバランスで、読ませます。 広い幅と奥行きを持つ作者ですが、このジャンルも時々は期待したいです。
2004年5月25日
浅間山麓殺人推理<梶龍雄>
殺し屋が主人公?というサスペンスタッチの本格推理です。殺し屋に呼び出された依頼者たち。 しかし、殺し屋は実は・・・。そこで、犯人捜しになります。意味不明?・・読めば易しいで すがネタばれにならない為には説明が難しいです。展開・トリックもバランスがとれたなかな か凝った内容になっています。
2004年5月27日
シェルター<近藤史恵>
整体師の合田力シリーズの第3作です。謎の大きさよりも関係する人間の心の病がテーマにな っています。それは、主人公たちにとっても同様です。1作ごとに完結する謎と新たに広がる 謎が加わります。いまの所はどの作品から読んでも、極端に変わりませんが次第に発表順に読 む必要が出てくる様に思います。
2004年5月29日
カストロバルバ・エッシャー宇宙の探偵局<荒巻義雄>
SF作家が書いたSFミステリと言ってよいのでしょうか。何しろ夢の世界ですので、設定は好き に変えられます。謎と推理は有りますが、残念ながら真面目に考える気はしません。題材が魅 力的なだけに、逆にもてあまし気味で充分に活用できなかったように思います。特殊世界もの は歴史も古く、現在も多く書かれていますが成功例は少ないと思います。
2004年5月31日
加里岬の踊子<岡村雄輔>
「宝石新人長編コンクール」候補作より。280枚となっているので中編の枚数です。戦後直 ぐは余白が少ないので、現在の長編と同じボリュームはあります。秋水魚太郎と熊座警部の双 方が登場します。密室状況での事件ですがやや切迫感がなく、必然性にも欠ける様に感じます。 長さの制約もあるでしょうが探偵役を含めて人物がイメージされないです。戦後直ぐの時代の 探偵小説と言えます。それを理解したうえでは読める内容と思います。
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四十一枚目の駒<藤沢桓夫>
叙情・人情的な作品の本作者は、推理小説にもいくつか作品を残しています。作品はトリック 物ではなく、論理的に謎を解いて行くタイプです。本作品集は広義の物も含めると全てミステ リと言えます。表題作は狭義の推理小説です。作者は後書きで他の推理作品にも触れています。 その主人公「康子」が誤植になっています。作者名「たけお」の漢字の間違いが多く、ネット で検索する時には悩みの種です。登録者がどの様な間違いをするかの推理が必要です。
2004年5月4日
まほろ市の殺人 秋<麻耶雄嵩>
定義のしにくい推理小説?を発表している作者です。中編での連続殺人、現実離れの登場人物 、意味は分かっても目的がいまひとつ曖昧にしたままのミッシングリンク。古い人間が勝手に 推理小説の枠を作っても、どうしてもはみ出してしまいます。この作者の行く先には壁がある のでしょうか、それとも未開の大地があるのでしょうか。その謎は、もう少し多く作品を発表 して欲しいと思います。
2004年5月6日
物狂い<土屋隆夫>
「処女作からはじまり処女作に戻った作品」作者。初長編「天狗の面」の土田巡査の子供の土 田警部が主人公の本格推理物です。次第に本格謎解きから離れた感のあった作者だけに、意外 な内容でした。主題は天狗ではなく「幽霊」です。トリック重視から、動機・人間性をも加味 した内容は単純に元に戻ったのではなく、集大成的な内容と言えます。信州・芝居・過去など 初長編だけに拘った内容ではありません。
2004年5月10日
殺人回廊<梶龍雄>
舞台は戦時中、空襲・反体制者・特高・公爵などの言葉があった時代です。とはいっても、旧 制高校シリーズ?のような青春小説ではありません。大量殺人が行われている時代の個人の殺 人というものは時として理解しにくくなる物です。この作者の小説は基本は本格物で代わりま せんが、同時に時代背景・風俗をも描くとされています。本作も同様ですが、大量殺人という 背景はかなり異なる印象を受けます。
2004年5月12日
陀吉尼の紡ぐ糸<藤木稟>
実ははじめて読む作家です。それだけに内容を理解するのが難しいです。時代背景が古い訳で はない。その世界も登場人物も、通常とは思われない。伝奇小説の面もあるが違う。SFという には中途半端である。パラレルワールド的だ無難な見方であるが、謎も解決も自由になってし まうので、歯止めが必要だが、なかなかわからない。1冊だけでは何とも理解しがたい事は確 しかと思いますが、続編を読む気になるには少し時間が必要と感じます。
2004年5月13日
黄金蝶ひとり<太田忠司>
ミステリーランドの1冊です。従ってノンシリーズものです。1種の2重構造の作品と言えま すが、中心の話しは本格推理面よりも冒険小説面が強いです。伏線はありますが、謎が全て解 明される形をとっていません。逆に、冒頭に提示された筆者捜しの謎は暗号やごろ合わせ捜し は別にしても、伏線がはられているので充分に物語を支える謎になっている。これが外側の部 分です。叙述だけでは子供向けでは無くなるので、ごろ合わせも加えたのでしょう。
2004年5月15日
松葉杖の音<大河内常平>
戦後直ぐの「宝石新人長編コンクール」候補作より。時代性が強く、トリックも今では古いで す。当時はどうだったかは不明です。ただ、時代性を含めてもやや、平凡ではないかの印象が 感じます。昭和20年代はまだ長編が多く書かれる前で多くは、枚数も制限されており語り不 足はやむをえません。実際は中編ぐらいの長さの作品です。
2004年5月17日
特命社員殺人事件<藤村正太>
最近では、特命・・とか特捜とかが主人公になるのは珍しくありません。本作の当時はそれ程 多く無かったようです。内容は正統な本格物でアリバイやその他トリックが組み合わさってい ます。勿論、現在でも有効かどうかは別です。海外と日本を結ぶ広い範囲での話しですが旅行 ではありません。でも内容には深く絡みます。
2004年5月21日
あやかし修学旅行<はやみねかおる>
児童向けの文庫に入っていても大人も読む「はやみね」作品、今回は夢水清志郎事件ノートで す。いつもより謎が豊富です。それに作者自身が楽しんでいます。キャラクターが増えても、 この異色の名探偵シリーズはファンは多いでしょう。手がかりが不充分な物もありますが、あ まり細部に拘らない構成ですので楽しんで読みましょう。
2004年5月24日
超・殺人事件<東野圭吾>
色々なジャンルを見事にこなす作者の、ギャグ・風刺を主体にした連作です。ただし本格的な 謎も含まれているのが見逃せません。一歩まちがえば、大失敗になりかねないジャンルを絶妙 なバランスで、読ませます。 広い幅と奥行きを持つ作者ですが、このジャンルも時々は期待したいです。
2004年5月25日
浅間山麓殺人推理<梶龍雄>
殺し屋が主人公?というサスペンスタッチの本格推理です。殺し屋に呼び出された依頼者たち。 しかし、殺し屋は実は・・・。そこで、犯人捜しになります。意味不明?・・読めば易しいで すがネタばれにならない為には説明が難しいです。展開・トリックもバランスがとれたなかな か凝った内容になっています。
2004年5月27日
シェルター<近藤史恵>
整体師の合田力シリーズの第3作です。謎の大きさよりも関係する人間の心の病がテーマにな っています。それは、主人公たちにとっても同様です。1作ごとに完結する謎と新たに広がる 謎が加わります。いまの所はどの作品から読んでも、極端に変わりませんが次第に発表順に読 む必要が出てくる様に思います。
2004年5月29日
カストロバルバ・エッシャー宇宙の探偵局<荒巻義雄>
SF作家が書いたSFミステリと言ってよいのでしょうか。何しろ夢の世界ですので、設定は好き に変えられます。謎と推理は有りますが、残念ながら真面目に考える気はしません。題材が魅 力的なだけに、逆にもてあまし気味で充分に活用できなかったように思います。特殊世界もの は歴史も古く、現在も多く書かれていますが成功例は少ないと思います。
2004年5月31日
加里岬の踊子<岡村雄輔>
「宝石新人長編コンクール」候補作より。280枚となっているので中編の枚数です。戦後直 ぐは余白が少ないので、現在の長編と同じボリュームはあります。秋水魚太郎と熊座警部の双 方が登場します。密室状況での事件ですがやや切迫感がなく、必然性にも欠ける様に感じます。 長さの制約もあるでしょうが探偵役を含めて人物がイメージされないです。戦後直ぐの時代の 探偵小説と言えます。それを理解したうえでは読める内容と思います。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。