推理小説読書日記(2004/04)
2004年4月2日
アルファベット荘事件<北山猛邦>
推理小説の特殊性、あるいは遊びを理解している人は本作を楽しんで読む事が出来るでしょう。 もし現実性や社会性を求める人は縁がないでしょう。舞台は雪に閉ざされたアルファベットの オブジェが置かれた屋敷で、そこで謎の為の事件が起きます。当然、不可能犯罪で真相以外に も複数の謎解きがされて、否定されます。まさしく作られた謎と遊びです。本作を楽しめるか どうかは推理小説に何を求めているかで決まるでしょう。
2004年4月5日
レイン・レインボウ<加納朋子>
この作者おなじみの、連作が最後で長編になる作品集です。数編に登場する片桐陶子と1編に 登場する萩君、キャラクター別分類をしている人は頭をなやますでしょう。片桐陶子が高校時 代にキャプテンだったソフトボール部のメンバー9人の数年後の生き方が別々に、時々重なっ て描かれる日常の謎派の作品です。最近、他にも試みている人がいますが、推理小説的にみて 面白い手法です。
2004年4月7日
死の四暗刻<藤村正太>
麻雀推理小説となっており、長編1作と短編2作収録です。短編は推理小説とは言えない作品 もありますが、長編は本格推理です。40年前は麻雀ブームだったのかどうかは知りませんが 会社の接待や親睦全てが麻雀に設定されています。従って現在読むと、違和感はあります。 アリバイ崩しと犯人さがしですが、舞台設定を除けば典型的な推理小説の構成と言えます。
2004年4月9日
十五の喪章<浅黄斑>
謎の設定や解決は典型的な本格推理の構成をとっています。ただ、捜査側の探偵役が複数むし ろ団体的です。趣向と見る事も出来ますが、都合の良さもあり、あまり納得の行く設定とは言 えません。また設定上仕方がないのですが、謎の解決が早くから予想されるものでその証拠の 確認的になっています。一般には、謎か犯人かどちらかは終わりの方まで隠しておくので、現 実的ではあっても、若干最後が長すぎる結果になっています。
2004年4月12日
遠い殺意<幾瀬勝彬>
本には、はっきりと長編推理小説と書いてあるが、作者のあとがきには推理小説的手法を用い た一般小説・一般小説と推理小説とがないまぜになっていると記している。作者があいまいな 考え方で書いた作品であれば、推理小説としての感想などは述べようがありません。戦争の影 が重くのしかかるなかでのダイイングメッセージものであるが、作者が逃げていてはその内容 がどうこう言っても仕方がないです。当然ながら一般小説としては主題のバランスが偏りすぎ ています。
2004年4月16日
ラミア虐殺<飛鳥部勝則>
今まで絵画をモチーフにして、あるときは幻想的・変則的に本格推理小説を書いてきた作者で す。しかし本作については、見方が分かれるでしょう。SF的な要素に慣れた人・ホラー的要 素に慣れた人には個々に解釈があるでしょう。本格一筋の読者には、なかなか受け入れ難いと 思います。なぜなら本格推理の禁じ手のかたまりだからです。勿論作者も承知の上の事でしょ うから、一度の変化球か方向転換か、守備範囲の拡大かは今後の興味になります。謎の解決の 部分に直接絡まりますので作りものの世界とは簡単にはいえません。
2004年4月17日
殺しのメッセージ<梶龍雄>
3姉妹探偵シリーズの第2作品集です。元々、ヒーローに要求されている知性・活動性・性的 魅力をヒロインに置き換えると多少無理が生じるので、分担して3姉妹にした感じがします。 ヒーローの要素を名探偵が全て必要かどうかは意見が分かれると思います。ある程度は無いと 主人公には寂しいでしょう。ただ分担して3人になり、登場も平均させ、個性を強調すると本 格推理の部分が少なくなります。従って無駄のない3姉妹と感じるか、本格味が薄いと感じる かは人によって変わると思います。ただ私はこれよりも3人を関与させるためのご都合性が気 になります。
2004年4月20日
紅い頸巻<岡田鯱彦>
別冊宝石の長編コンクール候補作です。作者を思わせる人物が登場してきて、ある女性に誘わ れて雪の山荘に行き、そこで事件が起きます。手紙を多用していますが、慣れた読者ならば、 なんとなく仕掛けが分かるでしょう。最近は、これを逆手にとる作品もありますが昭和20年 台ですし、トリック派ではありませんので、裏の裏はありません。 古き時代の探偵小説として読むとまずまずと言えるでしょう。逆に言えば、古さを感じます。
2004年4月22日
ドッペルゲンガー宮<霧舎巧>
昔からあるにも関わらず、いつからか「館もの」というジャンル?が言われるようになった様 です。理由としては、建築物の特殊性の増加・特殊性の積極的な本格推理への関与があると思 います。単に特殊性のみでは、怪人二十面相を代表として歴史は古く、SF・ホラー・幻想の世 界では、推理小説の世界を凌駕しているからです。なぜ凌駕できるかは、建造物の合理性・実 現性などの説明が必然ではないからです。本格推理ではこれらを省く事は、好ましくありませ ん。ただ、それらが不自然性を持っていてもそこから生じる謎と解決が面白ければ、優先度を 後者におこうと言う考えが認められる様に変わってきたためと理解します。本作もそれにあた ります。謎の面白さを優先させる人向きで、不自然性が気になる人には向いていないと思いま す。私の感想は作品が長すぎて伏線が生きてこなくて、謎の面白さが少なくなっているです。
2004年4月26日
葉桜の季節に君を想うということ<歌野晶午>
作品が好評で色々な書評欄で取り上げられる事は、作品にとっては恵まれているのであろう。 しかし、行き過ぎると中には推理小説のタブーを犯すまたは部分的に関わる評も出てきます。 本作は未読の推理小説中毒者には残念な作品となってしまいました。評だけで読書意欲が削が れ、実際に読んでも、仕掛けの部分は再読している様な錯覚を憶えるのです。感想としては、 あまりにも長すぎる、細部もかなり面白く書かれている、などです。いまさらですが、それ以 上は省略します。
2004年4月28日
まほろ市の殺人 夏 夏に散る花<我孫子武丸>
本は1冊でも中編です。別の作家による四季4部作です。内容はコンパクトにまとまって適度 と言えます。ただ、私が読む作品の順序が運が悪く(推理小説は内容がわからないで読むのが 普通だから)「葉桜の・・」のイメージとの重なりでまたしても、本来の楽しみを少なくして しまった感があります。中編4部作、楽しみでもあります。
2004年4月30日
株価暴落<池井戸潤>
銀行と、その取引先の古い経営者とそれぞれの会社内の対立と陰謀が描かれます。併行して、 強引な経営で成長しそして経営が悪化したスーパーへの放火テロ事件が起きます。専門的な金 融の世界と警察調査が描かれます。情報小説と推理小説との融合への試みと判断出来ます。犯 人設定の伏線の弱さと専門知識の必要性が純粋推理とは異なりますが、ご都合主義とは異なる ストーリーは充分に楽しむ事が出来ます。
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アルファベット荘事件<北山猛邦>
推理小説の特殊性、あるいは遊びを理解している人は本作を楽しんで読む事が出来るでしょう。 もし現実性や社会性を求める人は縁がないでしょう。舞台は雪に閉ざされたアルファベットの オブジェが置かれた屋敷で、そこで謎の為の事件が起きます。当然、不可能犯罪で真相以外に も複数の謎解きがされて、否定されます。まさしく作られた謎と遊びです。本作を楽しめるか どうかは推理小説に何を求めているかで決まるでしょう。
2004年4月5日
レイン・レインボウ<加納朋子>
この作者おなじみの、連作が最後で長編になる作品集です。数編に登場する片桐陶子と1編に 登場する萩君、キャラクター別分類をしている人は頭をなやますでしょう。片桐陶子が高校時 代にキャプテンだったソフトボール部のメンバー9人の数年後の生き方が別々に、時々重なっ て描かれる日常の謎派の作品です。最近、他にも試みている人がいますが、推理小説的にみて 面白い手法です。
2004年4月7日
死の四暗刻<藤村正太>
麻雀推理小説となっており、長編1作と短編2作収録です。短編は推理小説とは言えない作品 もありますが、長編は本格推理です。40年前は麻雀ブームだったのかどうかは知りませんが 会社の接待や親睦全てが麻雀に設定されています。従って現在読むと、違和感はあります。 アリバイ崩しと犯人さがしですが、舞台設定を除けば典型的な推理小説の構成と言えます。
2004年4月9日
十五の喪章<浅黄斑>
謎の設定や解決は典型的な本格推理の構成をとっています。ただ、捜査側の探偵役が複数むし ろ団体的です。趣向と見る事も出来ますが、都合の良さもあり、あまり納得の行く設定とは言 えません。また設定上仕方がないのですが、謎の解決が早くから予想されるものでその証拠の 確認的になっています。一般には、謎か犯人かどちらかは終わりの方まで隠しておくので、現 実的ではあっても、若干最後が長すぎる結果になっています。
2004年4月12日
遠い殺意<幾瀬勝彬>
本には、はっきりと長編推理小説と書いてあるが、作者のあとがきには推理小説的手法を用い た一般小説・一般小説と推理小説とがないまぜになっていると記している。作者があいまいな 考え方で書いた作品であれば、推理小説としての感想などは述べようがありません。戦争の影 が重くのしかかるなかでのダイイングメッセージものであるが、作者が逃げていてはその内容 がどうこう言っても仕方がないです。当然ながら一般小説としては主題のバランスが偏りすぎ ています。
2004年4月16日
ラミア虐殺<飛鳥部勝則>
今まで絵画をモチーフにして、あるときは幻想的・変則的に本格推理小説を書いてきた作者で す。しかし本作については、見方が分かれるでしょう。SF的な要素に慣れた人・ホラー的要 素に慣れた人には個々に解釈があるでしょう。本格一筋の読者には、なかなか受け入れ難いと 思います。なぜなら本格推理の禁じ手のかたまりだからです。勿論作者も承知の上の事でしょ うから、一度の変化球か方向転換か、守備範囲の拡大かは今後の興味になります。謎の解決の 部分に直接絡まりますので作りものの世界とは簡単にはいえません。
2004年4月17日
殺しのメッセージ<梶龍雄>
3姉妹探偵シリーズの第2作品集です。元々、ヒーローに要求されている知性・活動性・性的 魅力をヒロインに置き換えると多少無理が生じるので、分担して3姉妹にした感じがします。 ヒーローの要素を名探偵が全て必要かどうかは意見が分かれると思います。ある程度は無いと 主人公には寂しいでしょう。ただ分担して3人になり、登場も平均させ、個性を強調すると本 格推理の部分が少なくなります。従って無駄のない3姉妹と感じるか、本格味が薄いと感じる かは人によって変わると思います。ただ私はこれよりも3人を関与させるためのご都合性が気 になります。
2004年4月20日
紅い頸巻<岡田鯱彦>
別冊宝石の長編コンクール候補作です。作者を思わせる人物が登場してきて、ある女性に誘わ れて雪の山荘に行き、そこで事件が起きます。手紙を多用していますが、慣れた読者ならば、 なんとなく仕掛けが分かるでしょう。最近は、これを逆手にとる作品もありますが昭和20年 台ですし、トリック派ではありませんので、裏の裏はありません。 古き時代の探偵小説として読むとまずまずと言えるでしょう。逆に言えば、古さを感じます。
2004年4月22日
ドッペルゲンガー宮<霧舎巧>
昔からあるにも関わらず、いつからか「館もの」というジャンル?が言われるようになった様 です。理由としては、建築物の特殊性の増加・特殊性の積極的な本格推理への関与があると思 います。単に特殊性のみでは、怪人二十面相を代表として歴史は古く、SF・ホラー・幻想の世 界では、推理小説の世界を凌駕しているからです。なぜ凌駕できるかは、建造物の合理性・実 現性などの説明が必然ではないからです。本格推理ではこれらを省く事は、好ましくありませ ん。ただ、それらが不自然性を持っていてもそこから生じる謎と解決が面白ければ、優先度を 後者におこうと言う考えが認められる様に変わってきたためと理解します。本作もそれにあた ります。謎の面白さを優先させる人向きで、不自然性が気になる人には向いていないと思いま す。私の感想は作品が長すぎて伏線が生きてこなくて、謎の面白さが少なくなっているです。
2004年4月26日
葉桜の季節に君を想うということ<歌野晶午>
作品が好評で色々な書評欄で取り上げられる事は、作品にとっては恵まれているのであろう。 しかし、行き過ぎると中には推理小説のタブーを犯すまたは部分的に関わる評も出てきます。 本作は未読の推理小説中毒者には残念な作品となってしまいました。評だけで読書意欲が削が れ、実際に読んでも、仕掛けの部分は再読している様な錯覚を憶えるのです。感想としては、 あまりにも長すぎる、細部もかなり面白く書かれている、などです。いまさらですが、それ以 上は省略します。
2004年4月28日
まほろ市の殺人 夏 夏に散る花<我孫子武丸>
本は1冊でも中編です。別の作家による四季4部作です。内容はコンパクトにまとまって適度 と言えます。ただ、私が読む作品の順序が運が悪く(推理小説は内容がわからないで読むのが 普通だから)「葉桜の・・」のイメージとの重なりでまたしても、本来の楽しみを少なくして しまった感があります。中編4部作、楽しみでもあります。
2004年4月30日
株価暴落<池井戸潤>
銀行と、その取引先の古い経営者とそれぞれの会社内の対立と陰謀が描かれます。併行して、 強引な経営で成長しそして経営が悪化したスーパーへの放火テロ事件が起きます。専門的な金 融の世界と警察調査が描かれます。情報小説と推理小説との融合への試みと判断出来ます。犯 人設定の伏線の弱さと専門知識の必要性が純粋推理とは異なりますが、ご都合主義とは異なる ストーリーは充分に楽しむ事が出来ます。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。