推理小説読書日記(2004/03)
2004年3月3日
本郷菊坂狙撃殺人<梶龍雄>
やや不思議な登場人物の設定に、かなり強引なトリックを掛け合わせて奇妙な本格推理小説に なっています。少し前に「本当は恐ろしいグリム童話」という本がありました。本書を読めば もっと恐ろしくなるかも知れません。強引な設定は、作りものの推理小説の醍醐味でもありま す。これに徹底した本作はまさしく、本格推理好きの読者のために書かれています。
2004年3月6日
被害者は誰?<貫井徳郎>
題名は、パット・マガー風の連作です。中身は、安楽椅子探偵風の本格推理小説です。題名か ら予想される様に、叙述トリックもふんだんに登場しますが全体には伝統的本格推理の趣があ ります。そもそも、探偵役の設定自体が伝統的名探偵と言えるでしょう。中身を分解していく と前例はあると思いますが、組み合わせと叙述により完成度の高さを感じさせます。
2004年3月8日
壺中の天国<倉知淳>
第1回本格ミステリ大賞受賞作です。この作者の他の作品と比べると、表向きはかなり印象が 異なります。読み終えると、これは変わりこの作者の世界であった事が分かります。テーマは ミッシングリンクと言っても安楽椅子探偵と言っても伏線と言っても視点の変化の構成と言っ ても良いでしょう。結局は合わせ技で推理小説ならではの人工の世界を築いています。
2004年3月10日
顔の中の落日<飛鳥高>
一般には戦後第一期の本格派と呼ばれている作者ですが、短編はそうであっても、長編に関し ては単純ではありません。長編を書いた時期が昭和30年台でもあり、どの作者も試行錯誤し ていました。この作者は、ほとんどの作品がサスペンスへの傾斜が強く、本格としての謎が中 心とは言えません。本作も登場人物の偽装と目的等の謎を複数の人間が追います。生活の中の 謎は人工性が薄くなるので本格味のみに拘ると不満が残る面もあります。
2004年3月13日
小説 ゴジラ<香山滋>
本格主体の戦後第1期のなかで、ジャンルにとらわれずに自由に異色の作品を発表していった 作者です。映画の原作を依頼され大ヒット後にジュニア向けに小説化されました。ロマンを主 体にした作品が多いなかで、本作は怪獣の発想と水爆の問題を繋げた所に、特徴があります。 このタイプは人間が被害者に設定されがちですが、それ自体を問題にしています。東京編と大 阪編がありますが、後者が北海道で決着するのはやや苦しいとみます。
2004年3月16日
ALONE TOGETHER<本多孝好>
推理小説と感性とは結び難いと思っていました。本作者についてはこの感性という表現がよく 使われます。テーマが現代的でつかみ難い所に、登場人物がやはり理解しがたい。これは、年 代差ではないかと感じます。推理小説では珍しい事です。新しい時代の作者が個々には特別で ないテーマを、現代的としか言いにくい方法で書くこと、これはやはり感性との表現しかない ようにも思います。
2004年3月19日
白夜行<東野圭吾>
いまや、オールラウンド推理作家です。本作は純本格ではありません。しかし、はじめから最 後まで流れる謎はその要素も持ちます。複雑なカットバックの作品が多い中で、場面転換は多 いですが、ゆっくりと時間が経過してゆきます。そこに存在する女性と影の人物、それに絡む 多くの人々を描き分けて、謎が次第に増えて行きます。ただ、全部を読み取る事は難しいとも 思います。事件を描かずに人物を時間に沿って描くと事件がついてくるというイメージです。
2004年3月21日
不屈の女神<菅浩江>
ゲームのノベライズではなく支援だそうです。SFとファンタジーと冒険小説を混ぜた感じで す。SFでもファンタジー系と技術系の双方の混合した作品を書く作者ですが、これはスター トからファンタジー系しかなりえない作品です。 不屈という言葉はぴったりの主人公ですが、女神という言葉がイメージ通りかどうかは読者次 第です。
2004年3月23日
失われた眠り<南部樹未子>
推理小説作家ですが、その作品に殺人をテーマに選ぶ事が多い事から書くことを進められた為 で、本格推理の見方で評価することは妥当ではありません。男女の心の謎から、次第に宗教の 影響が強くなります。本作は中間での殺人の謎よりも、ひとりの男のエゴに人生を狂った複数 の女性を描いています。動機がテーマというよりも自然に小説に混ざったと言えます。類似テ ーマを描かれることは多いですが、立体的な広がりを感じます。
2004年3月24日
帰って来た男<大牟田次郎>
別冊宝石第8号より。雑誌1冊に5作の長編は多いです。昔の長編は枚数が少なかった事と活 字の大きさ等が理由です。現在でも知られているのは、「ペトロフ事件」と「硝子の家」ぐら いです。人物のなりすましは現在でも、しばしば使用されていますが、戦争前後の舞台では、 容易で説得性があります。逆に巧妙なイメージは薄れてしまいます。発表当時の時代背景で読 む事を心がけていますが、実際は難しいです。
2004年3月25日
女名刺殺人事件<梶龍雄>
三姉妹が探偵役の中編シリーズです。設定はよくあります。姉が安楽椅子探偵役で、ふたりの 妹と取り巻きが捜査担当になります。2時間ドラマ風の流れになりますが、本格推理の強さは 非常に拘りがあります。これが特徴です。このアンバランスを、どのように感じるかで読後感 が変わるでしょう。逆にバランスを取るために長編にはしにくいと感じます。
2004年3月29日
ラストドリーム<志水辰夫>
色々な書評やベストで評価の高い作家です。ただ私は苦手なタイプでほとんど読んでいません。 毎日新聞日曜版の連載が終了しました。やはりミステリが好きな私には合いにくい内容でした。 これは小説の好悪しではなく、単に相性と思います。決して本格ばかり読んでいる訳では無いの で、理由ははっきりしませんが今後の課題です。あえて言えば、遊びが少ない作品と感じます。
2004年3月31日
風化水脈<大沢在昌>
新宿鮫シリーズの第8作になります。シリーズはマンネリ化すれば親しめられるタイプと、飽き られるタイプがあります。このシリーズは作者が後者だと意識している様で、毎回新しい課題に 挑戦してゆきます。本作は「歴史」です、これにともなうのが「風化」です。しかしすべての人 に全ての事が消える訳ではありません。事件も人間も同じ事が言えるというのが、本作の流れの 中に感じます。人気シリーズでありながら、ゆっくりしたペースで書かれていくのは作者が新し 事を求めているからだと思います。
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本郷菊坂狙撃殺人<梶龍雄>
やや不思議な登場人物の設定に、かなり強引なトリックを掛け合わせて奇妙な本格推理小説に なっています。少し前に「本当は恐ろしいグリム童話」という本がありました。本書を読めば もっと恐ろしくなるかも知れません。強引な設定は、作りものの推理小説の醍醐味でもありま す。これに徹底した本作はまさしく、本格推理好きの読者のために書かれています。
2004年3月6日
被害者は誰?<貫井徳郎>
題名は、パット・マガー風の連作です。中身は、安楽椅子探偵風の本格推理小説です。題名か ら予想される様に、叙述トリックもふんだんに登場しますが全体には伝統的本格推理の趣があ ります。そもそも、探偵役の設定自体が伝統的名探偵と言えるでしょう。中身を分解していく と前例はあると思いますが、組み合わせと叙述により完成度の高さを感じさせます。
2004年3月8日
壺中の天国<倉知淳>
第1回本格ミステリ大賞受賞作です。この作者の他の作品と比べると、表向きはかなり印象が 異なります。読み終えると、これは変わりこの作者の世界であった事が分かります。テーマは ミッシングリンクと言っても安楽椅子探偵と言っても伏線と言っても視点の変化の構成と言っ ても良いでしょう。結局は合わせ技で推理小説ならではの人工の世界を築いています。
2004年3月10日
顔の中の落日<飛鳥高>
一般には戦後第一期の本格派と呼ばれている作者ですが、短編はそうであっても、長編に関し ては単純ではありません。長編を書いた時期が昭和30年台でもあり、どの作者も試行錯誤し ていました。この作者は、ほとんどの作品がサスペンスへの傾斜が強く、本格としての謎が中 心とは言えません。本作も登場人物の偽装と目的等の謎を複数の人間が追います。生活の中の 謎は人工性が薄くなるので本格味のみに拘ると不満が残る面もあります。
2004年3月13日
小説 ゴジラ<香山滋>
本格主体の戦後第1期のなかで、ジャンルにとらわれずに自由に異色の作品を発表していった 作者です。映画の原作を依頼され大ヒット後にジュニア向けに小説化されました。ロマンを主 体にした作品が多いなかで、本作は怪獣の発想と水爆の問題を繋げた所に、特徴があります。 このタイプは人間が被害者に設定されがちですが、それ自体を問題にしています。東京編と大 阪編がありますが、後者が北海道で決着するのはやや苦しいとみます。
2004年3月16日
ALONE TOGETHER<本多孝好>
推理小説と感性とは結び難いと思っていました。本作者についてはこの感性という表現がよく 使われます。テーマが現代的でつかみ難い所に、登場人物がやはり理解しがたい。これは、年 代差ではないかと感じます。推理小説では珍しい事です。新しい時代の作者が個々には特別で ないテーマを、現代的としか言いにくい方法で書くこと、これはやはり感性との表現しかない ようにも思います。
2004年3月19日
白夜行<東野圭吾>
いまや、オールラウンド推理作家です。本作は純本格ではありません。しかし、はじめから最 後まで流れる謎はその要素も持ちます。複雑なカットバックの作品が多い中で、場面転換は多 いですが、ゆっくりと時間が経過してゆきます。そこに存在する女性と影の人物、それに絡む 多くの人々を描き分けて、謎が次第に増えて行きます。ただ、全部を読み取る事は難しいとも 思います。事件を描かずに人物を時間に沿って描くと事件がついてくるというイメージです。
2004年3月21日
不屈の女神<菅浩江>
ゲームのノベライズではなく支援だそうです。SFとファンタジーと冒険小説を混ぜた感じで す。SFでもファンタジー系と技術系の双方の混合した作品を書く作者ですが、これはスター トからファンタジー系しかなりえない作品です。 不屈という言葉はぴったりの主人公ですが、女神という言葉がイメージ通りかどうかは読者次 第です。
2004年3月23日
失われた眠り<南部樹未子>
推理小説作家ですが、その作品に殺人をテーマに選ぶ事が多い事から書くことを進められた為 で、本格推理の見方で評価することは妥当ではありません。男女の心の謎から、次第に宗教の 影響が強くなります。本作は中間での殺人の謎よりも、ひとりの男のエゴに人生を狂った複数 の女性を描いています。動機がテーマというよりも自然に小説に混ざったと言えます。類似テ ーマを描かれることは多いですが、立体的な広がりを感じます。
2004年3月24日
帰って来た男<大牟田次郎>
別冊宝石第8号より。雑誌1冊に5作の長編は多いです。昔の長編は枚数が少なかった事と活 字の大きさ等が理由です。現在でも知られているのは、「ペトロフ事件」と「硝子の家」ぐら いです。人物のなりすましは現在でも、しばしば使用されていますが、戦争前後の舞台では、 容易で説得性があります。逆に巧妙なイメージは薄れてしまいます。発表当時の時代背景で読 む事を心がけていますが、実際は難しいです。
2004年3月25日
女名刺殺人事件<梶龍雄>
三姉妹が探偵役の中編シリーズです。設定はよくあります。姉が安楽椅子探偵役で、ふたりの 妹と取り巻きが捜査担当になります。2時間ドラマ風の流れになりますが、本格推理の強さは 非常に拘りがあります。これが特徴です。このアンバランスを、どのように感じるかで読後感 が変わるでしょう。逆にバランスを取るために長編にはしにくいと感じます。
2004年3月29日
ラストドリーム<志水辰夫>
色々な書評やベストで評価の高い作家です。ただ私は苦手なタイプでほとんど読んでいません。 毎日新聞日曜版の連載が終了しました。やはりミステリが好きな私には合いにくい内容でした。 これは小説の好悪しではなく、単に相性と思います。決して本格ばかり読んでいる訳では無いの で、理由ははっきりしませんが今後の課題です。あえて言えば、遊びが少ない作品と感じます。
2004年3月31日
風化水脈<大沢在昌>
新宿鮫シリーズの第8作になります。シリーズはマンネリ化すれば親しめられるタイプと、飽き られるタイプがあります。このシリーズは作者が後者だと意識している様で、毎回新しい課題に 挑戦してゆきます。本作は「歴史」です、これにともなうのが「風化」です。しかしすべての人 に全ての事が消える訳ではありません。事件も人間も同じ事が言えるというのが、本作の流れの 中に感じます。人気シリーズでありながら、ゆっくりしたペースで書かれていくのは作者が新し 事を求めているからだと思います。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。