推理小説読書日記(2004/02)
2004年2月1日
まぼろしの腕<高原弘吉>
野球のスカウトの話で「オール読物」新人賞(短編)受賞作者の長編第1作です。舞台も同じ 野球のスカウトの世界です。この世界も時代の影響はありますが、それは特に気にはなりませ ん。殺人事件とまぼろしの投手の謎がありますが、誰が捜査役かが不明確で迷います。工夫と もとれますが、とまどいの方が大きいです。結果的に最後がもの足りない気もします。
2004年2月4日
天使はモップを持って<近藤史恵>
色々なジャンルとキャラクターを書き分ける作者です。本書は短編集であり、謎としては「日 常の謎」です。探偵役は若い掃除婦です。事件は軽いものですが、事件が作品に占める割合は 大きく「日常の謎派」の定義によって、分類が変わります。私は殺人を扱わない純本格と感じ ました。探偵役の設定も奇を狙った訳でなく、テーマに合っていると感じます。読み出すと 一気に読ませてしまう、面白さと読みやすさがあります。
2004年2月7日
奥信濃鬼女伝説殺人事件<梶龍雄>
本格推理小説です。あまりにも本格推理すぎます。現在では珍しくなったのではないかと思い ます。複数のトリックがおしげもなく、投入されています。そして古き時代の約束事が守られ ています。逆にマニアならば、このような真相であるべきと期待してしまいます。そして、そ れが現実になります。勘で真相が予想できる推理小説なんて・・と言う方には納得がゆかない かも知れませんが、薄味の作品が多い現代に満足していない方にはお薦めです。
2004年2月9日
顔のない男<北森鴻>
非常に技巧的な、連作形式をもった本格推理長編です。謎の隠し方も凝っていますが、犯人の 隠し方も凝っています。記述人称者が一番真実を知らない設定に巧妙にすることで、読者に迄 二重に犯人を隠すことを可能にしています。当然に謎も同様です。 最近は一発ネタや、アンフェアなスタイルといわれかねない作品が見られますが、本作は計算 された技巧で本格推理小説が成立させられることをあらためて示しています。
2004年2月12日
逆転!一億円詐取<深谷忠記>
「ダンチェンコの罠」の改題です。作者路線変更の、銀行詐欺ものです。もともと本格推理の 作者だけに、裏の謎の部分の存在は評価します。しかし、長い本文の大部分を占める部分に、 内容・長さ等多くの不満があります。 詐欺は古くて新しいテーマですが、この作者に適しているかは疑問です。ただし、詐欺をテー マに擬装しただけの可能性もあります。
2004年2月16日
海の異教徒<山田克郎>
本作をミステリとするべきかどうかは問題がありますが、その要素がある事は事実です。五島 の大火と旅情・対馬と韓国の密輸・復讐と殺人などがあり、謎と過去のある登場人物と絡んで ミステリ要素を感じます。警察や海上保安庁からの捜査の視点もありますが、謎の人物の視点 が中心です。複数の要素があるのは、中途半端かも知れませんが書かれた時代も考慮すると、 まずまずの完成度とみたいと思います。
2004年2月18日
鶯はなぜ死んだか<西東登>
犯人を含む複数の視点で書かれています。どのようにまとまるかの謎はありますが、本格的な 要素は少ないです。私のように、戦争を知らない世代は戦争を動機に設定されると、妥当かど うかが分かりません。そしてそれが社会派的要素かどうかもです。個々の話は平凡ですし、特 に注目すべきトリックもありませんが、色々な要素をまとめあげたとはいえます。それが成功 かどうかは、戦争動機の理解度がないと分かりません。
2004年2月22日
仔羊の巣<坂木司>
「青空の卵」につぐ第2作(連作)です。引きこもりの名探偵と、お人よしの主人公を中心に 日常的な事件がおこり、解決によって関係者が成長してゆきます。ホームズとワトソンの性格 設定の特殊さから、かなり印象的な連作です。主人公は、探偵役の引きこもりが若干変化して くる事から卵から巣立ちと書いています。今回ではむしろ主人公自身に関わる事件が多く、む しろ主人公の成長記の感の方が強いです。これからが楽しみなシリーズです。
2004年2月23日
脳男<首藤瓜於>
2000年江戸川乱歩賞受賞作です。精神医学上の特殊な人間の謎と、その人物がヒーロー的 な活躍で想像外の事件を解決します。特殊能力を持つ人間は現在ははやりともいえます。ただ なぜ能力があるのかをあまり追求していません。その点では独自性があるともいえます。 その人物には特殊な事件が似合いますが、周囲が気がついていないため、謎が複雑になります。 推理小説の人工性をいかした作品です。
2004年2月25日
目黒の狂女<戸板康二>
歌舞伎役者「中村雅楽」物の短編集です。はじめて、このシリーズを読むと違和感を感じる人 も多いと思いますが、一度はまると本格味がどうかとか年齢がどうかとかは関係なくなります。 特殊な題材をそれに詳しい作者が独自のスタイルで書くと、どのようになるかと言う見本でし ょう。複数の作品は再読になりますがほとんど記憶に残っていない事に気づきました。舞台は 伝統芸の世界でも、このシリーズの独自性は受け継ぐ事はないでしょう。
2004年2月28日
白い兎が逃げる<有栖川有栖>
火村英生と推理作家の有栖川有栖のシリーズの中編集です。有栖川有栖が登場するシリーズに 学生時代と作家時代のふたつシリーズがあることはよく知られています。探偵役の設定上、火 村シリーズが数的に圧倒しています。中編という長さは、需要が多くないと思われますが、本 格推理小説との相性はかなり良いと思います。本集も4作が収録されていますが、それぞれが 長さをいかしており読み応えがあります。「賞味期限のある作品」との後書きはうけます。
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まぼろしの腕<高原弘吉>
野球のスカウトの話で「オール読物」新人賞(短編)受賞作者の長編第1作です。舞台も同じ 野球のスカウトの世界です。この世界も時代の影響はありますが、それは特に気にはなりませ ん。殺人事件とまぼろしの投手の謎がありますが、誰が捜査役かが不明確で迷います。工夫と もとれますが、とまどいの方が大きいです。結果的に最後がもの足りない気もします。
2004年2月4日
天使はモップを持って<近藤史恵>
色々なジャンルとキャラクターを書き分ける作者です。本書は短編集であり、謎としては「日 常の謎」です。探偵役は若い掃除婦です。事件は軽いものですが、事件が作品に占める割合は 大きく「日常の謎派」の定義によって、分類が変わります。私は殺人を扱わない純本格と感じ ました。探偵役の設定も奇を狙った訳でなく、テーマに合っていると感じます。読み出すと 一気に読ませてしまう、面白さと読みやすさがあります。
2004年2月7日
奥信濃鬼女伝説殺人事件<梶龍雄>
本格推理小説です。あまりにも本格推理すぎます。現在では珍しくなったのではないかと思い ます。複数のトリックがおしげもなく、投入されています。そして古き時代の約束事が守られ ています。逆にマニアならば、このような真相であるべきと期待してしまいます。そして、そ れが現実になります。勘で真相が予想できる推理小説なんて・・と言う方には納得がゆかない かも知れませんが、薄味の作品が多い現代に満足していない方にはお薦めです。
2004年2月9日
顔のない男<北森鴻>
非常に技巧的な、連作形式をもった本格推理長編です。謎の隠し方も凝っていますが、犯人の 隠し方も凝っています。記述人称者が一番真実を知らない設定に巧妙にすることで、読者に迄 二重に犯人を隠すことを可能にしています。当然に謎も同様です。 最近は一発ネタや、アンフェアなスタイルといわれかねない作品が見られますが、本作は計算 された技巧で本格推理小説が成立させられることをあらためて示しています。
2004年2月12日
逆転!一億円詐取<深谷忠記>
「ダンチェンコの罠」の改題です。作者路線変更の、銀行詐欺ものです。もともと本格推理の 作者だけに、裏の謎の部分の存在は評価します。しかし、長い本文の大部分を占める部分に、 内容・長さ等多くの不満があります。 詐欺は古くて新しいテーマですが、この作者に適しているかは疑問です。ただし、詐欺をテー マに擬装しただけの可能性もあります。
2004年2月16日
海の異教徒<山田克郎>
本作をミステリとするべきかどうかは問題がありますが、その要素がある事は事実です。五島 の大火と旅情・対馬と韓国の密輸・復讐と殺人などがあり、謎と過去のある登場人物と絡んで ミステリ要素を感じます。警察や海上保安庁からの捜査の視点もありますが、謎の人物の視点 が中心です。複数の要素があるのは、中途半端かも知れませんが書かれた時代も考慮すると、 まずまずの完成度とみたいと思います。
2004年2月18日
鶯はなぜ死んだか<西東登>
犯人を含む複数の視点で書かれています。どのようにまとまるかの謎はありますが、本格的な 要素は少ないです。私のように、戦争を知らない世代は戦争を動機に設定されると、妥当かど うかが分かりません。そしてそれが社会派的要素かどうかもです。個々の話は平凡ですし、特 に注目すべきトリックもありませんが、色々な要素をまとめあげたとはいえます。それが成功 かどうかは、戦争動機の理解度がないと分かりません。
2004年2月22日
仔羊の巣<坂木司>
「青空の卵」につぐ第2作(連作)です。引きこもりの名探偵と、お人よしの主人公を中心に 日常的な事件がおこり、解決によって関係者が成長してゆきます。ホームズとワトソンの性格 設定の特殊さから、かなり印象的な連作です。主人公は、探偵役の引きこもりが若干変化して くる事から卵から巣立ちと書いています。今回ではむしろ主人公自身に関わる事件が多く、む しろ主人公の成長記の感の方が強いです。これからが楽しみなシリーズです。
2004年2月23日
脳男<首藤瓜於>
2000年江戸川乱歩賞受賞作です。精神医学上の特殊な人間の謎と、その人物がヒーロー的 な活躍で想像外の事件を解決します。特殊能力を持つ人間は現在ははやりともいえます。ただ なぜ能力があるのかをあまり追求していません。その点では独自性があるともいえます。 その人物には特殊な事件が似合いますが、周囲が気がついていないため、謎が複雑になります。 推理小説の人工性をいかした作品です。
2004年2月25日
目黒の狂女<戸板康二>
歌舞伎役者「中村雅楽」物の短編集です。はじめて、このシリーズを読むと違和感を感じる人 も多いと思いますが、一度はまると本格味がどうかとか年齢がどうかとかは関係なくなります。 特殊な題材をそれに詳しい作者が独自のスタイルで書くと、どのようになるかと言う見本でし ょう。複数の作品は再読になりますがほとんど記憶に残っていない事に気づきました。舞台は 伝統芸の世界でも、このシリーズの独自性は受け継ぐ事はないでしょう。
2004年2月28日
白い兎が逃げる<有栖川有栖>
火村英生と推理作家の有栖川有栖のシリーズの中編集です。有栖川有栖が登場するシリーズに 学生時代と作家時代のふたつシリーズがあることはよく知られています。探偵役の設定上、火 村シリーズが数的に圧倒しています。中編という長さは、需要が多くないと思われますが、本 格推理小説との相性はかなり良いと思います。本集も4作が収録されていますが、それぞれが 長さをいかしており読み応えがあります。「賞味期限のある作品」との後書きはうけます。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。