推理小説読書日記(2004/01)
2004年1月1日
奥秩父狐火殺人事件<梶龍雄>
五城監督の登場作品です。イメージは横溝正史の世界です。 背景・テーマ・人物・謎などがそのように感じさせます。細部に工夫が見られますが、全体的 には完成作ですが雰囲気で謎を読める人もいると思います。奇を目指さずに本格のスタイル に忠実な作品といえます。それが良いか、古く感じるかは個人で異なるでしょう。
2004年1月5日
石の下の記録<大下宇陀児>
幻影城のベストを書いていると、未読が10冊強あるようです。その半数くらいが所有している のに未読です。これらも少しずつ読んで行きたいと思います。 私の大下作品のイメージは初期の本格が強い作品は好きだが、中期以降の心理的・風俗的・非本格 的作品は好みに合わないです。この作品も初めて読みましたが、時代と共に一番変化している会話が 多く読み難くく感じました。登場人物を「君」つけで呼ぶ所など時代の変化の影響を受けやすい面が 強く、作者の責任ではないし時代性も考慮するべきと思っても、やや辛いです。
2004年1月7日
球形の季節<恩田陸>
恩田陸の作品はどのようなジャンルにいれるべきでしょうか。一人1ジャンルの作家でしょうか。 作者が「六番目の小夜子」をファンタジー大賞に応募したので、ファンタジーとしてしまうのが、 普通のようです。でも背後についてまわるホラー性・オカルト性は読んで強く感じます。 本作は舞台の街の雰囲気から民族性も感じます。横溝や柳田国男までゆかなくても、しばらくは 無理なジャンル分けをしない方が良い作者でしょう。
2004年1月8日
仮面<山田正紀>
SFもミステリも独創的な鬼才です。ただミステリはやや荒っぽい面はあります。しかし、面白い。 ミステリで登場人物が仮面を付けていたら、色々ありですが、ストーリー構成を複雑にすると、常識が 乱されて忘れそうになります。 手記と地の文の区別が付きにくいのは、計算なのかアンフェアなのか微妙です。力ずくの合わせ技と 感じます。
2004年1月11日
「長崎−東京」特急殺人<峰隆一郎>
時代小説と推理小説の双方を書く作者です。本作は秘密調査官薬丸峻シリーズの1作です。シリーズ作 の1作の感想はしばしば、はずれます。題名からはトラベルミステリかアリバイものに見えます。その 要素もあるのですが、ハードボイルド・官能・連続殺人とテーマが掴みにくいです。ただ犯人設定が かなりアンフェアと思えるので本格ミステリとは言いずらいです。どとらかというと、謎よりも主人公 のキャラクターで押してゆくタイプの小説に思います。
2004年1月13日
囁く百合<太田忠司>
富士見ファンタジー文庫の姉妹版の、ミステリー文庫が出来て、この作者の「レンテンローズ」シリーズ も誕生しました。ミステリを殆ど読んでいない読者層をターゲットにしていますが、「はやみねかおる」 作品と同様に、ミステリ通でも充分に楽しめます。探偵役が幻想の所からやってきた人物?ですが、謎を 含む部分は通常のミステリになっています。しかも、設定上この部分は毎回、舞台・人物が変わるので幅 が広くなり設定が良い方に生きています。
2004年1月14日
脱サラリーマン殺人事件<藤村正太>
やや面白味にかける題名ですが、内容はアリバイ崩しの本格推理小説です。これが書かれた昭和47年には 珍しい題名だったかも知れません。「脱・・」が小説のテーマです。トリックはしばしば使用され続けている (現在進行形です)類型の応用です。謎の解明の手がかりも同様です。細部は丁寧に書いてありますが、 メイントリックが目立つので、この部分で評価が決まってしまう可能性があります。
2004年1月18日
奥鬼怒密室村の惨劇<梶龍雄>
本格推理小説ですが、かなりの異色作かとも思います。舞台は戦中末期(本当に)で災害で閉ざされた村です。 そこに逃げ込んだ反体制組織メンバーとそれを追って来た憲兵も閉じこめられます。そこに疎開していた少年の 恋心が話の中心になります。一見すると「透明な季節」からの3部作の系統とも思えます。とにかく世間知らず の少年ですから全てが頼りにならないので読者はいらいらします。その影に隠れるように、全編がトリックの固 まりです。しかし、小説としてはそれらが影に隠れてしまっているようになっています。作者の計算か私の読み 方がおかしいのか?・・異色作と感じるゆえんです。
2004年1月21日
果つる底なき<池井戸潤>
本格推理小説に属すると思いますが、ジャンルとテーマが銀行・金融なのでその面が苦手な人には情報小説とな るかも知れません。このジャンルでは、多様な詐欺・知的犯罪が成立しますし、これに絡まる通常の事件も発生 します。また、動機面では金銭と地位が存在する事ははっきり分かります。 専門的に偏らず、または分かりやすく説明しながら、興味深くまた今日的な背景を描く事が出来ればかなり上質 の作品が期待出来ます。情報小説は読者により、受け取れる面白さが異なる事と思いますが、私は非常に面白く 読む事ができました。
2004年1月22日
影踏み<横山秀夫>
ノビ師を主人公にした連作長編です。主人公が死んだ双子と意識の中で会話するので、やや変則味もありますが 最近では珍しくは有りません。泥棒と警察とやくざの世界を繋げて、そこに謎を生み出し読み応えのある内容に なっています。 どこまでが、現実にありそうな事か、小説ではの内容か迷ってしまいますが、どちらであっても、作品の評価に は影響を与えるものではありません。警察小説からはあっさり、少し離れた内容です。設定自体はかならずしも 新しくはないですが、それでも引きつける面白さは、作者の筆力を感じます。
2004年1月24日
魚が死を誘う<西東登>
釣りテーマの長編である。作者によれば難しいが強い要請で書いたとの事です。そのせいか、釣りがテーマとは 言いにくい内容になっています。短篇の一部を取り込んだ所もあり残念でもあります。 テーマを離れて読むと、犯人も含めて複数の視点から並行して書いてゆく方法が、謎が浅い為に効果が不足なの が残念です。複数の事件が最後に繋がってゆく過程を描いていますが、事件が平等に描かれていないためこれも 効果が不充分です。時代を含めて、手法的にも過渡期の作品と言えるでしょう。
2004年1月29日
修羅の終わり<貫井徳郎>
警察公安を舞台にした小説です。年代も異なるものを含めて3つの話が並行して進みます。しかも最後に結論が 書いていない。推理小説では、仮面をかぶった(偽名)人物が登場するが、この本はそれの集まりみたいに思い ます。結論の推理は可能であるが、必ずしも自信はありません。まさか、誤植ということはないでしょうね。 サスペンスを組合すと本格になる、しかし作者は解決を示さない。理解が難しいです。だいたい、キャストと エキストラの区別がつきにくい。自分だけと思わずに、みんなで悩みましょう。
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奥秩父狐火殺人事件<梶龍雄>
五城監督の登場作品です。イメージは横溝正史の世界です。 背景・テーマ・人物・謎などがそのように感じさせます。細部に工夫が見られますが、全体的 には完成作ですが雰囲気で謎を読める人もいると思います。奇を目指さずに本格のスタイル に忠実な作品といえます。それが良いか、古く感じるかは個人で異なるでしょう。
2004年1月5日
石の下の記録<大下宇陀児>
幻影城のベストを書いていると、未読が10冊強あるようです。その半数くらいが所有している のに未読です。これらも少しずつ読んで行きたいと思います。 私の大下作品のイメージは初期の本格が強い作品は好きだが、中期以降の心理的・風俗的・非本格 的作品は好みに合わないです。この作品も初めて読みましたが、時代と共に一番変化している会話が 多く読み難くく感じました。登場人物を「君」つけで呼ぶ所など時代の変化の影響を受けやすい面が 強く、作者の責任ではないし時代性も考慮するべきと思っても、やや辛いです。
2004年1月7日
球形の季節<恩田陸>
恩田陸の作品はどのようなジャンルにいれるべきでしょうか。一人1ジャンルの作家でしょうか。 作者が「六番目の小夜子」をファンタジー大賞に応募したので、ファンタジーとしてしまうのが、 普通のようです。でも背後についてまわるホラー性・オカルト性は読んで強く感じます。 本作は舞台の街の雰囲気から民族性も感じます。横溝や柳田国男までゆかなくても、しばらくは 無理なジャンル分けをしない方が良い作者でしょう。
2004年1月8日
仮面<山田正紀>
SFもミステリも独創的な鬼才です。ただミステリはやや荒っぽい面はあります。しかし、面白い。 ミステリで登場人物が仮面を付けていたら、色々ありですが、ストーリー構成を複雑にすると、常識が 乱されて忘れそうになります。 手記と地の文の区別が付きにくいのは、計算なのかアンフェアなのか微妙です。力ずくの合わせ技と 感じます。
2004年1月11日
「長崎−東京」特急殺人<峰隆一郎>
時代小説と推理小説の双方を書く作者です。本作は秘密調査官薬丸峻シリーズの1作です。シリーズ作 の1作の感想はしばしば、はずれます。題名からはトラベルミステリかアリバイものに見えます。その 要素もあるのですが、ハードボイルド・官能・連続殺人とテーマが掴みにくいです。ただ犯人設定が かなりアンフェアと思えるので本格ミステリとは言いずらいです。どとらかというと、謎よりも主人公 のキャラクターで押してゆくタイプの小説に思います。
2004年1月13日
囁く百合<太田忠司>
富士見ファンタジー文庫の姉妹版の、ミステリー文庫が出来て、この作者の「レンテンローズ」シリーズ も誕生しました。ミステリを殆ど読んでいない読者層をターゲットにしていますが、「はやみねかおる」 作品と同様に、ミステリ通でも充分に楽しめます。探偵役が幻想の所からやってきた人物?ですが、謎を 含む部分は通常のミステリになっています。しかも、設定上この部分は毎回、舞台・人物が変わるので幅 が広くなり設定が良い方に生きています。
2004年1月14日
脱サラリーマン殺人事件<藤村正太>
やや面白味にかける題名ですが、内容はアリバイ崩しの本格推理小説です。これが書かれた昭和47年には 珍しい題名だったかも知れません。「脱・・」が小説のテーマです。トリックはしばしば使用され続けている (現在進行形です)類型の応用です。謎の解明の手がかりも同様です。細部は丁寧に書いてありますが、 メイントリックが目立つので、この部分で評価が決まってしまう可能性があります。
2004年1月18日
奥鬼怒密室村の惨劇<梶龍雄>
本格推理小説ですが、かなりの異色作かとも思います。舞台は戦中末期(本当に)で災害で閉ざされた村です。 そこに逃げ込んだ反体制組織メンバーとそれを追って来た憲兵も閉じこめられます。そこに疎開していた少年の 恋心が話の中心になります。一見すると「透明な季節」からの3部作の系統とも思えます。とにかく世間知らず の少年ですから全てが頼りにならないので読者はいらいらします。その影に隠れるように、全編がトリックの固 まりです。しかし、小説としてはそれらが影に隠れてしまっているようになっています。作者の計算か私の読み 方がおかしいのか?・・異色作と感じるゆえんです。
2004年1月21日
果つる底なき<池井戸潤>
本格推理小説に属すると思いますが、ジャンルとテーマが銀行・金融なのでその面が苦手な人には情報小説とな るかも知れません。このジャンルでは、多様な詐欺・知的犯罪が成立しますし、これに絡まる通常の事件も発生 します。また、動機面では金銭と地位が存在する事ははっきり分かります。 専門的に偏らず、または分かりやすく説明しながら、興味深くまた今日的な背景を描く事が出来ればかなり上質 の作品が期待出来ます。情報小説は読者により、受け取れる面白さが異なる事と思いますが、私は非常に面白く 読む事ができました。
2004年1月22日
影踏み<横山秀夫>
ノビ師を主人公にした連作長編です。主人公が死んだ双子と意識の中で会話するので、やや変則味もありますが 最近では珍しくは有りません。泥棒と警察とやくざの世界を繋げて、そこに謎を生み出し読み応えのある内容に なっています。 どこまでが、現実にありそうな事か、小説ではの内容か迷ってしまいますが、どちらであっても、作品の評価に は影響を与えるものではありません。警察小説からはあっさり、少し離れた内容です。設定自体はかならずしも 新しくはないですが、それでも引きつける面白さは、作者の筆力を感じます。
2004年1月24日
魚が死を誘う<西東登>
釣りテーマの長編である。作者によれば難しいが強い要請で書いたとの事です。そのせいか、釣りがテーマとは 言いにくい内容になっています。短篇の一部を取り込んだ所もあり残念でもあります。 テーマを離れて読むと、犯人も含めて複数の視点から並行して書いてゆく方法が、謎が浅い為に効果が不足なの が残念です。複数の事件が最後に繋がってゆく過程を描いていますが、事件が平等に描かれていないためこれも 効果が不充分です。時代を含めて、手法的にも過渡期の作品と言えるでしょう。
2004年1月29日
修羅の終わり<貫井徳郎>
警察公安を舞台にした小説です。年代も異なるものを含めて3つの話が並行して進みます。しかも最後に結論が 書いていない。推理小説では、仮面をかぶった(偽名)人物が登場するが、この本はそれの集まりみたいに思い ます。結論の推理は可能であるが、必ずしも自信はありません。まさか、誤植ということはないでしょうね。 サスペンスを組合すと本格になる、しかし作者は解決を示さない。理解が難しいです。だいたい、キャストと エキストラの区別がつきにくい。自分だけと思わずに、みんなで悩みましょう。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。