推理小説読書日記(2003/12)
2003年12月3日
空中密室40mの謎<浅川純>
新人作家であり、探偵役を特殊な設定にしています。謎も密室状態で最初に提出されます。 かなり野心的な設定ですが、読むと無難に書きすぎているように感じました。欠点と言う べきでは無いでしょうが、探偵側に都合が良すぎて緊張感が欠けているようにも感じます。 トリックにしても、そして解決の長さも同様です。従って本来は意外性のある筈の終わりも 途中で予測出来てしまいます。無難な出来でしょう。
2003年12月7日
裏六甲異人館の惨劇<梶龍雄>
古典的に有名なミステリのトリックを、組み替えて新しい応用として使う。本書はその様な 作品です。本格に忠実なため、意味のなさそうな登場人物が早くに登場します。そして、応用 故のどんでんがえしが成立します。応用トリックと言っても、作者の工夫は評価するべきと 思います。双子の●●トリックも応用されています。それも複数です。 果たして、応用トリックに独創は使ってよいのでしょうか。
2003年12月10日
仇敵<池井戸潤>
銀行ミステリーの乱歩賞作家です。特殊な知識が必要なために、本格というよりは情報ミステリ と呼ばれる事が多いです。本格でのフェアはある程度の常識レベルでの知識を基本としています。 時代は進歩し、多岐にわたります。これにより専門化が発達します。この部門はまだまだ未開拓が 多いし、増加するでしょう。銀行を中心にしたマネーゲームは、昔からあることはありましたが、 専門的に特化した作品群、特にミステリに拘った小説は少ないないしは無かった。本作は、連作の 形式を取った長編です。今はやりの・・・、ではなくてはっきりとした、連続性があります。情報の の中でも発展性があると思われるマネーゲームの作家として期待は大きいです。
2003年12月12日
女警視<龍一京>
エンターメントではあるが、広義のミステリに入るかどうか疑問です。 司ありさ警視と女性白バイ隊の遭遇する事件を描きます。トリックはもとより、ストーリーにも謎の 部分が殆どなく、ミステリにはいるかどうか分かりません。設定が人工的であるし、警察小説とも 言い難いです。そもそも作者がミステリを意識しているとも思えないので、勝手に議論するのは 作者にとっても迷惑とも言えます。
2003年12月15日
虹果て村の秘密<有栖川有栖>
こどもも大人も読めるという、ミステリーランドの1冊です。従って手抜きはありません。 ロジックを第一に掲げる作者が、綺麗にまとめあげました。本格物では冒頭にヒント・伏線がある ことがしばしば好まれます。本作は1ページ目にヒントがありますから、充分です。 また会いたい主人公たちです。そして、名前だけ登場の、作家のミサト先生にも。
2003年12月18日
ぼくの好色天使たち<梶龍雄>
本著者は「透明な季節」で乱歩賞を受賞後しばらくは、旧制高校シリーズと本作のような戦争前後 を時代背景とした作品を書いた。小説は資料性を求めるものではないが、梶の作品群にたいし背景 がかなり正確に書き込まれているとの意見は多い。本作は作者の分身とも言える主人公が、闇市や 進駐軍相手の娼婦たちに出会い、そこで発生した事件を通じて密接になる。そして、事件の解決を期に 再び離れてゆく過程を描いている。小説ではあるが、作者の思い出のなかに引き込まれるようにも、 感じる。
2003年12月20日
京都貴船連続殺人<池田雄一>
処女作故の工夫と、バランスの悪さの両面が現れています。作風が定まらないのは魅力と不完成が 同居しています。複数の捜査陣、理解しにくい謎の構成など不慣れでしょう。 作者がどのようなスタイルを目指すのか、不明な作品ですがその後を期待するべきでしょう。
2003年12月22日
レオナルドのユダ<服部まゆみ>
帯に「壮大な歴史ミステリー」と書いてあるので素直に考えましょう。銅版画作家でもある作者が レオナルド・ダヴィンチとその周囲の人々をその時代を背景に書いています。作者の絵と人物への 興味がそのまま現れており、歴史ミステリ性は逆にほとんど感じません。「1998切り裂きジャック」 と同じような手法に感じますが、題材の関係で、より作者のいきごみを見れます。 個人的に惜しむらくは、著名な人物でありながら詳しくなく、ストーリーについてゆくのがせい一杯 だった事です。「最後の晩餐」に注目し、「モナリザ」は出番は少ないです。
2003年12月27日
密室の妻<島久平>
「硝子の家」のみ有名な幻の作家の一人です。短篇は多いですが、本格推理長編は少ないです。 本作も作者の言葉やカバー文からは、本格と思われますがやや肩すかしの感じがします。全体を支える 長編的なトリックがなく(実際はあるが、簡単すぎて支えていない)、複数の短篇的トリックを繋ぎ合わ せて構成しています。特に後半は、それも無くなり本格推理的でない犯人捜しに変わってゆきます。 作者が短篇向きの作家だったのか、後書きで書いているほどには拘りがなかったのか、やや残念です。
2003年12月30日
千年の黙 異本源氏物語<森谷明子>
第13回鮎川哲也賞受賞作です。探偵役は紫式部で、源氏物語成立の謎と猫の消失の謎が登場します。 舞台背景に詳しくない私が正確に理解したとは言えないが、当時の背景から生まれる謎として納得する 内容になっています。後半は源氏物語の本来あったとする第2帖が消えて無くなります。「かがやく日の 宮」と称する部分については、丁度丸谷才一氏が小説に書いたばかりです。丁度同時期に書かれた事に なります。推理小説的結末ですが、第2帖の消失の解釈はしめされており話題作と言えます。
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空中密室40mの謎<浅川純>
新人作家であり、探偵役を特殊な設定にしています。謎も密室状態で最初に提出されます。 かなり野心的な設定ですが、読むと無難に書きすぎているように感じました。欠点と言う べきでは無いでしょうが、探偵側に都合が良すぎて緊張感が欠けているようにも感じます。 トリックにしても、そして解決の長さも同様です。従って本来は意外性のある筈の終わりも 途中で予測出来てしまいます。無難な出来でしょう。
2003年12月7日
裏六甲異人館の惨劇<梶龍雄>
古典的に有名なミステリのトリックを、組み替えて新しい応用として使う。本書はその様な 作品です。本格に忠実なため、意味のなさそうな登場人物が早くに登場します。そして、応用 故のどんでんがえしが成立します。応用トリックと言っても、作者の工夫は評価するべきと 思います。双子の●●トリックも応用されています。それも複数です。 果たして、応用トリックに独創は使ってよいのでしょうか。
2003年12月10日
仇敵<池井戸潤>
銀行ミステリーの乱歩賞作家です。特殊な知識が必要なために、本格というよりは情報ミステリ と呼ばれる事が多いです。本格でのフェアはある程度の常識レベルでの知識を基本としています。 時代は進歩し、多岐にわたります。これにより専門化が発達します。この部門はまだまだ未開拓が 多いし、増加するでしょう。銀行を中心にしたマネーゲームは、昔からあることはありましたが、 専門的に特化した作品群、特にミステリに拘った小説は少ないないしは無かった。本作は、連作の 形式を取った長編です。今はやりの・・・、ではなくてはっきりとした、連続性があります。情報の の中でも発展性があると思われるマネーゲームの作家として期待は大きいです。
2003年12月12日
女警視<龍一京>
エンターメントではあるが、広義のミステリに入るかどうか疑問です。 司ありさ警視と女性白バイ隊の遭遇する事件を描きます。トリックはもとより、ストーリーにも謎の 部分が殆どなく、ミステリにはいるかどうか分かりません。設定が人工的であるし、警察小説とも 言い難いです。そもそも作者がミステリを意識しているとも思えないので、勝手に議論するのは 作者にとっても迷惑とも言えます。
2003年12月15日
虹果て村の秘密<有栖川有栖>
こどもも大人も読めるという、ミステリーランドの1冊です。従って手抜きはありません。 ロジックを第一に掲げる作者が、綺麗にまとめあげました。本格物では冒頭にヒント・伏線がある ことがしばしば好まれます。本作は1ページ目にヒントがありますから、充分です。 また会いたい主人公たちです。そして、名前だけ登場の、作家のミサト先生にも。
2003年12月18日
ぼくの好色天使たち<梶龍雄>
本著者は「透明な季節」で乱歩賞を受賞後しばらくは、旧制高校シリーズと本作のような戦争前後 を時代背景とした作品を書いた。小説は資料性を求めるものではないが、梶の作品群にたいし背景 がかなり正確に書き込まれているとの意見は多い。本作は作者の分身とも言える主人公が、闇市や 進駐軍相手の娼婦たちに出会い、そこで発生した事件を通じて密接になる。そして、事件の解決を期に 再び離れてゆく過程を描いている。小説ではあるが、作者の思い出のなかに引き込まれるようにも、 感じる。
2003年12月20日
京都貴船連続殺人<池田雄一>
処女作故の工夫と、バランスの悪さの両面が現れています。作風が定まらないのは魅力と不完成が 同居しています。複数の捜査陣、理解しにくい謎の構成など不慣れでしょう。 作者がどのようなスタイルを目指すのか、不明な作品ですがその後を期待するべきでしょう。
2003年12月22日
レオナルドのユダ<服部まゆみ>
帯に「壮大な歴史ミステリー」と書いてあるので素直に考えましょう。銅版画作家でもある作者が レオナルド・ダヴィンチとその周囲の人々をその時代を背景に書いています。作者の絵と人物への 興味がそのまま現れており、歴史ミステリ性は逆にほとんど感じません。「1998切り裂きジャック」 と同じような手法に感じますが、題材の関係で、より作者のいきごみを見れます。 個人的に惜しむらくは、著名な人物でありながら詳しくなく、ストーリーについてゆくのがせい一杯 だった事です。「最後の晩餐」に注目し、「モナリザ」は出番は少ないです。
2003年12月27日
密室の妻<島久平>
「硝子の家」のみ有名な幻の作家の一人です。短篇は多いですが、本格推理長編は少ないです。 本作も作者の言葉やカバー文からは、本格と思われますがやや肩すかしの感じがします。全体を支える 長編的なトリックがなく(実際はあるが、簡単すぎて支えていない)、複数の短篇的トリックを繋ぎ合わ せて構成しています。特に後半は、それも無くなり本格推理的でない犯人捜しに変わってゆきます。 作者が短篇向きの作家だったのか、後書きで書いているほどには拘りがなかったのか、やや残念です。
2003年12月30日
千年の黙 異本源氏物語<森谷明子>
第13回鮎川哲也賞受賞作です。探偵役は紫式部で、源氏物語成立の謎と猫の消失の謎が登場します。 舞台背景に詳しくない私が正確に理解したとは言えないが、当時の背景から生まれる謎として納得する 内容になっています。後半は源氏物語の本来あったとする第2帖が消えて無くなります。「かがやく日の 宮」と称する部分については、丁度丸谷才一氏が小説に書いたばかりです。丁度同時期に書かれた事に なります。推理小説的結末ですが、第2帖の消失の解釈はしめされており話題作と言えます。
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年月別に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。